転びやすくて、身長がなかなか伸びず、体重も増えない・・・。5歳直前、今は治療法がない「ミトコンドリア病」と判明。だからこそ家族の時間を大切にしたい【体験談・医師監修】
福岡県で中学1年生の長男、小学4年生の二男、夫の4人で暮らす小浦ゆきえさん(47歳)。長男が5歳になる少し前に、難病のミトコンドリア病と診断されています。
ミトコンドリア病は、細胞一つ一つの中に存在して、細胞に必要なエネルギーを作り出すミトコンドリアのはたらきに、何らかの原因で異常が生じ、細胞のはたらきが低下する病気です。発症すると、さまざまな症状を引き起こします。ミトコンドリア病にはいくつか病型がありますが、小浦さんの長男は2000年代に入ってから発見された、LBSL(白質脳症)の診断でした。診断がついてから、中学1年生の現在に至るまでのことを小浦ゆきえさんに聞きました。
長男がミトコンドリア病と判明し、夫婦で遺伝子検査を
小浦さんは長男の身長、体重の伸びが小さいことが生後3カ月ころから気になっていて、3歳児健診のあとに、病院で成長ホルモンの検査を受けました。そして成長ホルモン分泌不全と診断され、成長ホルモン補充療法の申請をするために脳のMRI検査をすることに。
すると脳に異常が見つかり、大学病院での検査の結果、ミトコンドリア病のLBSL(白質脳症)の疑いが持たれました。
「医師からは『おそらく両親から受け継いでいると思うので、確定診断のために両親も検査をしたほうがいいと思います』と言われて、夫婦で遺伝子検査をすることにしました。私も夫も『原因が知りたい』という思いが強かったので、遺伝子検査を受けることにちゅうちょはありませんでした。
長男は、2000年代に入ってから発見された、LBSL(白質脳症)というまれな病型で、当時は遺伝子検査を行える機関がなかったため、大学の研究室で調べてもらいました。
その結果、とてもまれなことなのですが私も夫も同じ番号の染色体に問題が生じていました。私たちのようなケースの場合は、子どもが病気をもつ確率は4分の1です。このことがわかったときはがく然としました」(小浦さん)
主な症状は発育不良と神経伝達不全。中学1年生の今は、身長130cm、体重24kg
ミトコンドリアは体中の細胞に存在しているため、体のさまざまなところに症状が現われ、病型によって症状が異なります。長男の主な症状は、発育不良と神経伝達不全です。
「長男は生後9カ月ごろからつかまり立ちを始めたのですが、そこから先に進みませんでした。歩き始めたのは1歳10カ月ごろでしたが、今にして思えばミトコンドリア病が原因だったのかもしれません。
その後も足の筋力が弱くて、転んだりすることが多かったです。保育園のころは水泳教室などにも参加できませんでした。
小学校からは特別支援学級の病弱クラスに在籍していますが、自分で荷物を持って歩くことが難しいので、登校時は夫が付き添い、下校時は放課後デイの職員さんに付き添ってもらっています。付き添う大人が荷物を持ち、ときには手をつないだりして長男の歩行をサポートしています。自立して行動していけるように、そろそろつえをついて歩く練習をしようと思っているところです。
生後3カ月ごろから、思うように体重が増えず、身長も伸びなかったのですが、成長ホルモン補充療法をしていて、中学1年生の今は、身長130cm、体重24kgになりました」(小浦さん)
この先、どうなるかわからないから、家族の時間を大切にしたい
ミトコンドリア病の治療の中心は対症療法です。
「今は、3カ月に一度通院をしています。半年に1回の血液検査、1年に1回、夏休みには脳のMRI検査もしています。
また家庭では1週間に1回、成長ホルモン補充療法の自己注射をしています。注射は私が打っているのですが、長男は打っているところを見るのがこわいと言って、おしりに打つことを希望します。よく頑張ってくれていると思います」(小浦さん)
長男の病状が、この先どのようになるかわからないため、小浦さんは家族の時間をできるだけ大切にしています。
「長男は脳に爆弾を抱えている状態です。半年後、1年後、2年後どのような状況になるかわかりません。長男が自分で歩けるうちに家族で旅行に行って、たくさんの思い出を作ろうと思っています。これまでも北海道や沖縄、屋久島、京都、大阪などに行きました。
またカメラマンの友人にお願いして、家族写真も撮ってもらっています。私たち夫婦にとっては、家族で過ごす1分1秒が大切な時間です」(小浦さん)
兄に体格が追いついてきた弟。成長とともに兄をいたわるように
小浦さんには男の子が2人いて、二男は2歳違い、小学4年生です。
「二男は、長男が病気をもっていることは知っています。大きな病気を抱えていても、二男にとっては普通のお兄ちゃんなんですよね。だから兄弟げんかが始まると、お互い本気で言い合ったりしています。
でも最近、弟のほうが体重が重くなってきて、長男に対して優しく接するようになってきました。私たちが長男が転ばないように手をつないで歩いたりすることもありますが、最近、二男が本当にさりげなく、自然に長男に寄り添って手をつないでいたので驚きました。兄弟で仲よく話したり、遊んだりしている姿を見るだけでいやされます。
また夫とは、二男には『お兄ちゃんがいるからガマンして』とはなるべく言わないようにしようと話し合っています。
外出先で、二男は興味があるところに走って行ってしまうことがありますが、長男はついていけません。そういうときは夫か私どちらかが二男に付き添うようにしています。二男がやりたいことは、できるだけやらせてあげたいです。夫婦で協力し合いながら、兄弟2人がいつまでも笑顔でいられるようにというのが、私たちの願いです」(小浦さん)
【山口先生から】ミトコンドリア病はさまざまな症状を引き起こし、視力低下などから発見されることも
ミトコンドリアは体にとって重要なはたらきをする心臓や脳、肝臓、目などの全身の細胞や臓器に存在しています。ミトコンドリア病は、ミトコンドリアが正常に機能しなくなるため、さまざまな症状を起こします。小浦さんの長男のように、低身長症が発見のきっかけになることもありますし、視力低下やけいれんを繰り返すことで診断に至ることもあります。
お話・写真提供/小浦ゆきえさん 監修/山口拓洋先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
ミトコンドリア病は、今のところ有効な治療法は確立されておらず、対症療法が中心です。しかし、さまざまな新薬が開発されている昨今、小浦さんは「きっといい薬が開発されるはず」と希望を抱いています。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
山口拓洋先生(やまぐちひろみ)
PROFILE
福岡大学医学部卒。2016年福岡大学医学部小児科に入局。小児科病棟での入院管理と専門外来の診療に従事している。専門は小児神経学。