生まれたばかりの赤ちゃんは、沐浴をしないのが正解!?胎脂を洗い流さないドライテクニックが、赤ちゃんの肌を守るという調査結果が【研究発表】

現在日本の産院では、生まれたばかりの赤ちゃんの顔や体を清潔にする際に、大きく分けて二つの方法がとられています。沐浴(もくよく)とドライテクニックです。。大分県立看護科学大学准教授の樋口幸先生たちは、それぞれの方法が赤ちゃんの皮膚に与える影響について、2015年2月~3月に調査。その結果をまとめた論文が2023年8月に、韓国の皮膚科学学会が発行する学術誌「Annals of dermatology」に掲載されました。この調査・研究からわかったこと、ママ・パパが知っておきたいことなどについて、樋口先生に聞きました。
ドライテクニックは赤ちゃんの皮膚を清潔にしつつ、胎脂を温存できる
――まず、沐浴とドライテクニックについて教えてください。
樋口先生(以下敬称略) 沐浴は、お湯をためたベビーバスなどに赤ちゃんを入れ、体を洗ってあげること。出産直後に行う沐浴は「産湯(うぶゆ)」と呼ばれますが、入院中に病院で行う沐浴と、退院後に家庭で行う沐浴は、基本的には同じです。
ドライテクニックは、出産時についた血液、羊水(ようすい)、胎便(たいべん)などの分泌物はふき取るけれど、胎脂はできるだけ残しておく方法です。「ドライケア」と呼ばれることもあります。
――胎脂とはどのようなものですか。
樋口 生まれたばかりの赤ちゃんの皮膚についている、白い脂(あぶら)のことです。ママのおなかの中にいるときから、赤ちゃんの肌はこの胎脂に守られています。ママのおなかから出てしばらくすると透明になり、肉眼では確認できなくなりますが、赤ちゃんを病原体や寒さなどから守るはたらきや、保湿剤のように赤ちゃんの皮膚を保護するはたらきがあります。
生まれてすぐの赤ちゃんの皮膚は、大人の3分の1ほどの厚みしかありません。角質層が成熟するまでに2日~3日必要です。そのような無防備な赤ちゃんの皮膚を守っているのが胎脂なのです。
生まれた直後に、お湯で体を洗って分娩時の出血や胎便などをきれいにする沐浴をすると、胎脂も洗い流されてしまいますが、ドライテクニックだと胎脂を残すことができるのです。
ドライテクニックのほうが、赤ちゃんの皮膚をいい状態に保てるという結果が
――樋口先生たちは、生まれてすぐに沐浴を行う群とドライテクニックを行う群で、皮膚のバリア機能や状態などを比較しました。
樋口 国内の2施設、産湯を含む沐浴を行う施設Aと、ドライテクニックを行う施設Bで、2015年2月~3月に生まれた、出産までの経過が正常な新生児80人(施設Aが36人、施設Bが44人)について、生後1日~5日の間、観察を行いました。
施設Aでは、生まれてすぐから石けんを使った沐浴を1日1回行い、施設Bでは、生後4日目までドライテクニックを続け、5日目に石けんを使った沐浴を行いました。2施設ともに同じ石けんを使い、沐浴後に保湿剤は使いませんでした。
皮膚のバリア機能の評価には、経表皮水分蒸散量(※1)と表皮pH(※2)を用いました。また、皮膚の状態の判断は、カメラで撮影した画像を見ながら、共同研究者の皮膚科医が行いました。
――調査の結果、わかったことを教えてください。
樋口 額、ほほ、胸部、腕、おしりの5つの部位を毎日比較したところ 、経表皮水分蒸散量については、すべての部位でドライテクニックのほうが沐浴よりも低い数値でした。つまり、ドライテクニックのほうがバリア機能が低下しなかったということになります。
また表皮pHについては、どちらの方法もすべての部位で生まれてすぐの値がいちばん高く、日を追うごとに数値が下がっていきました。そして、ドライテクニック群のほうが早く弱酸性になりました。
また、沐浴群は額、ほほ、胸部、腕の皮膚に炎症が見られましたが、ドライテクニック群はあまり見られませんでした。
今回の研究結果から考えると、生まれたばかりの赤ちゃんの皮膚は、沐浴をするよりドライテクニックによるケアのほうが、いい状態に保てたと言えます。
――ドライテクニックにデメリットはないのでしょうか。
樋口 これまでの研究で、胎脂の状態がみんな同じではないことがわかっています。色も違いますし、べたつき感もそれぞれです。胎脂には個人差があるんです。ごくまれですが、胎脂の状態によっては、長い間つけておかないほうがいいものがあることもわかっています。そうした胎脂の赤ちゃんでは、胎脂が原因の接触性皮膚炎を起こすケースがあります。胎脂中の不飽和脂肪酸が酸化してできる物質が皮膚を刺激し、炎症を起こすのだと考えられています。この場合は、沐浴を行う時期を早めるなどの対応を取る必要があるでしょう。
私は現在、胎脂の質についても研究を進めているのですが、ドライテクニックのほうがいい胎脂と、洗い流したほうがいい胎脂の区別ができる結果が出ればいいなと考えて取り組んでいます。
※1 経表皮水分蒸散量:皮膚の角質層を通じて体内から蒸発していく水分量のこと。数値が高いほど皮膚が乾燥しやすくなっていることを表す。
※2 表皮pH:基準値は5.0で、この前後の弱酸性だと抗菌性バリア機能が正常にはたらき、4.5以下だと皮脂過多(脂性肌)、6.5以上だと皮脂過少(乾燥肌)となり、どちらも抗菌性バリア機能が正常ではないことを意味する。
ガーゼの繊維はかたく、赤ちゃんの皮膚をはがしてしまう!!
――ドライテクニックから沐浴に切り替えるのは、生後何日目くらいが一般的でしょうか。
樋口 私たちが2013年~2014年に行った全国調査では、ドライテクニックを行っている施設の中で、出産当日はドライテクニックで、翌日から沐浴を開始する施設が6割程度ありました。ただし、沐浴開始時期は地域差が大きく、北海道、関東、近畿では生後3日~4日目までドライテクニックで顔や体をふくにとどめ、5日目に沐浴をしている施設もありました。
これ以降全国調査は行われていないので、正確なことはわかりませんが、今も傾向はあまり変わっていないのではないかと思います。
――ドライテクニックから沐浴に切り替えるときに注意することはありますか。
樋口 皮膚への配慮という面では、バリア機能を低下させないように、やさしく洗うことが重要です。私の最近の研究で、綿ガーゼを使って赤ちゃんの皮膚をこすると傷ついて、バリア機能が低下することがわかっています。
――赤ちゃんの体を洗う際に、ガーゼを使っていることは多いように思います。ガーゼは赤ちゃんの肌にやさしいイメージですが、そうではないのですね。
樋口 ガーゼはやわらかく赤ちゃんの肌にいいイメージを持っているとしたら、間違いです。マイクロファイバー、不織布、綿ガーゼ、ナイロンタオルの4種類の素材の蒸しタオルで、マウスの皮膚を1日1回ふくことを2週間続け、皮膚がどう変化するかを調べる研究を行ったんです。すると、素材がやわらかいほど皮膚へのダメージは小さかったです。私たちも驚いたのは、当たり前に使用していた綿ガーゼは、ナイロンタオルと同じくらい角質が傷ついたり、はがれたりしているという結果だったことです。綿ガーゼは糸が太く、しかも糸をねじりあわせているので、そのすき間に皮膚の組織がからめとられてしまったことが理由ではないかと考えています。
出産入院中の沐浴だけでなく、家庭に帰ってからも、食事やおむつ交換、沐浴のときにガーゼで赤ちゃんの顔や体をゴシゴシこすると、皮膚のバリア機能が低下してしまうので気をつけてください。最近、沐浴のときに顔をガーゼでふく指導をする施設は、少しずつですが減ってきているのではないかと思います。
綿ガーゼでこすった後のマウスの表皮
綿ガーゼで1日1回こすることを2週間続けた、マウスの皮膚の拡大写真。表皮がめくれてガサガサになっています。
何もしていないマウスの表皮
何も手を加えていないマウスの皮膚の拡大写真。きめがきれいに整っています。
ドライテクニックができなくても、退院後のスキンケアでフォローできる
――ドライテクニックを行っているかどうかは、産院選びのポイントにしてもいいかもしれません。沐浴とドライテクニックのどちらを行っているのか、産院に聞いてもいいものでしょうか。
樋口 お住まいの地域によっては、その地域に産院は1カ所だけで、産院を選ぶことができないことがあるかもしれません。でも、出産を予定している産院に、赤ちゃんを清潔にする方法について質問したら、答えてくれると思います。ドライテクニックを採用している場合は沐浴を行うのは何日目からなのか、沐浴には洗浄剤を使うのかといったことも聞いておくといいでしょう。
――自宅や実家の周辺にドライテクニックを行う産院がない場合、沐浴後に保湿をするなどして赤ちゃんの肌を保護することは有効でしょうか。
樋口 まずは、ドライテクニックをしてほしいと、相談してみてもいいかなと思います。
また、沐浴のあとに保湿ケアをしている施設はまだ少ないかもしれませんが、希望があれば対応してくれるかもしれません。そのことについても、ぜひご相談をしてみてはいかがでしょうか。
ママが自分で保湿剤を用意して沐浴後に赤ちゃんのスキンケアを行う場合は、できる限り赤ちゃんの肌にやさしく、肌状態に合ったものを選んでください。
生まれてすぐに沐浴をして胎脂を洗い流したとしても、やさしく洗うことやスキンケアによって、赤ちゃんの皮膚の健康を保つことができます。ドライテクニックをできなくてもそのことで引け目を感じることはないので、自信を持って赤ちゃんのお世話をしてほしいと思います。
お話・監修・画像提供/樋口幸先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
樋口先生の今回の研究では、生まれた直後にドライテクニックを行うことで、赤ちゃんの皮膚を守れることが示されました。こうした研究結果が広まり、どこの産院で出産しても、赤ちゃんの皮膚を守るケアをしてもらえるようになることを期待したいです。
●記事の内容は2023年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
樋口幸先生(ひぐちさち)
PROFILE
大分県立看護科学大学 専門看護学講座 助産学研究室 准教授。博士(健康科学)。同大学卒業後、大分県済生会日田病院で看護師として勤務。同大学大学院で助産師資格を取得し、葛飾赤十字産院で分娩室とNICUに勤務。現在は助産師としての週1度の臨床勤務での経験を生かしながら、教育・研究に励む。