「薬が効かないこともある?!」薬剤師が薬のメカニズムとやってはいけない服用の注意点を解説
冬になると寒くなり、体調をくずしやすくなります。病院を受診して薬をもらったものの、すぐに効果を感じられなかったり、なぜ症状が治っても飲み続けないといけないのか、疑問に思ったりすることはありませんか? そこで今回は、薬のメカニズムややってはいけない服用方法を、薬剤師が解説します。
薬の豆知識 Q&A
薬はどうやって効いているのか、なぜ薬の形状にはさまざまな種類があるのか、症状が治ったら薬を飲むのはやめていいのかなど、気になったことはありませんか? 薬は体調が悪いときにしか飲まないため、いざ服薬するときに疑問が湧いてくることもあるでしょう。ここでは、飲み薬が効くメカニズムや形状など、誰もが一度は気になったことがあるような知識を紹介します。
飲み薬が効くメカニズムとは?
薬は、病気の治療や予防に使われることを目的とするものです。薬が効く仕組みはいくつかありますが、多くの薬は血液とともに患部に運ばれ、病気と関連する細胞や物質に働きかけることで効果を発揮します。
からだの中で情報を伝えるには、ホルモンや神経伝達物質(指令役)と細胞の受容体(受け手)の働きが重要です。たとえるなら、ホルモンや神経伝達物質が鍵、受容体が鍵穴のようなイメージです。指令役がぴったり形の合う受容体に結合したとき、必要な情報が細胞内に伝えられます。
薬は、指令役の代わりに受容体と結合することで効果を発揮するのです。薬には、大きく分けて作動薬と拮抗薬があります。作動薬は、相手の受容体を刺激し、細胞の活動を活発にする反応を誘発します。反対に、拮抗薬は、ホルモンや神経伝達物質が受容体に結合するのを阻止して、細胞の反応を妨げたり減らしたりする作用があります。(※1)
服用後は小腸で吸収され、肝臓を通り血流にのって全身を循環し患部に届けられます。
薬の形状はなぜ異なるの?
薬は、飲みやすさのためや、症状に対して薬の働く場所や時間などを適正化するために、飲み薬や外用薬、注射剤などさまざまな形状をしています。そのなかでも種類が多い飲み薬の形状には、それぞれ以下のような目的があります。
<飲み薬の形状と目的(※2)>
・糖衣錠(とういじょう):苦い味を隠すコーティング
・腸溶錠(ちょうようじょう):表面だけが胃で溶けて、中心部は腸で溶けるようにコーティング
・徐放錠(じょほうじょう):薬がゆっくり溶けるようにし、効果を持続させる
・口腔内崩壊錠(こうくうないほうかいじょう):口腔内で溶けるように細かい穴をあける
噛んだり砕いたりしてはいけない薬もあるため、勝手に形を変えて服用しないようにしましょう。この他にも、早い効果が期待できる散剤(粉薬)や薬の匂いや味を押さえたカプセル、糖類や甘味料を加えて甘みをつけたシロップ剤などがあります。薬が飲みにくい場合には、医師や薬剤師に相談してください。
薬は最後どうなるの?
飲み薬の場合、最終的に尿や便、汗などと一緒に体外へ排出されます。排出するまでの過程で、とくに重要な働きをするのが肝臓です。
飲み薬を服用すると、食べ物と同様に、胃から腸へ行き吸収されて、さらに肝臓へ運ばれます。そのほとんどは、そのまま血液中に入り、血管を通って病気のある部位へ届けられます。肝臓には薬を代謝する機能があり、多くの薬は肝臓での代謝によって形が変わり作用を失います。
肝臓で代謝され、作用を失った薬は、最後には尿や便、汗などと一緒に体外に排泄されます。(※3)
薬が効かないこともあるの?
薬が効かない場合もあります。薬が効かない理由は、以下のようなものが考えられます。
<薬が効かない理由の例(※4)>
・間違った飲み方:薬を飲む時間や用量を守っていない
・原因の菌の薬剤耐性:薬剤に対して耐性を持っている菌の場合、薬が効かないことがある
・個人差:代謝能力や排泄のされ方などが異なるため、人によっては効果が得にくい場合がある
・血行不良:血行不良が起きていると、薬が血液にのって循環しにくくなる
薬の効果を感じられない場合には、医師や薬剤師に相談しましょう。
薬の注意点①:薬物アレルギー
食べ物と同じように、人によっては薬もアレルギーの原因となることがあります。主な症状は以下の通りです。
<薬物アレルギーの症状の例>
・発疹
・皮膚や目のかゆみ
アレルギー検査の結果、肝障害や血液障害、気管支喘息が発見される場合もあります。最も重度な症状として、血圧が低下して意識の低下や脱力をきたす「アナフィラキシーショック」を起こす場合もあるため、注意しなければいけません。(※5)
上記のような薬物アレルギーが疑われる症状が出た場合は、その薬の服用を中止し、すぐに担当の医師や薬剤師に相談してください。薬の種類を変えるなど、対策をとってくれるでしょう。
薬の注意点②:副作用
薬を服用すると、副作用が出る場合があります。薬は、細胞の中で受容体と呼ばれる物質に結びつき、効果を発揮します。しかし、薬が結びつく受容体は、同じ形のものが他の部位にも存在する場合があります。
治療したい患部とは異なる部位の受容体と薬が結びつくことが、副作用が起きる原因のひとつです。(※6)他にも、副作用にはさまざまな原因があり、薬の性質によるもの、薬を飲む時間や量などの間違い、他の薬との飲み合わせ、生活習慣、患者本人の体質などがあります。
副作用の症状には、以下のようなものがあります。
<薬の種類と副作用の例>
・鎮痛剤:胃腸障害、腎障害、肝障害、アレルギーなど
・胃腸薬:眠気、のどの渇きなど
・抗ヒスタミン剤:眠気、発疹など
副作用が疑われる場合は、すぐに服用を中断して医師や薬剤師に相談してください。重篤な副作用が出た場合は、医療費や年金などの給付を行う公的な制度「医薬品副作用被害救済制度」を活用できる場合があります。(※7)
薬の注意点③:妊娠・授乳中の服薬
妊娠中や授乳中の服薬には、注意が必要です。妊娠中は、胎盤を通して母親から胎児に酸素や栄養が送られ、授乳中は、血液から作られる母乳を通して赤ちゃんに栄養が送られます。
妊娠のごく初期は、気づかずに薬を飲んでしまうこともあるようですが、ほとんどの薬は、この時期に使用しても胎児に影響を及ぼすことはないとされています。ただ、妊娠中はもちろんのこと、妊娠の可能性のある女性は、日頃から薬には十分に注意しておくことがとても大切です。
妊娠中の場合、妊娠4〜7週前後は神経や心臓・消化器官など重要な器官が作られる時期のため、とくに注意が必要です。(※8)授乳に関しては、出生後28日以内の新生児は、代謝機能が未熟なため、体内の薬物濃度が高くなる可能性があり要注意です。(※9)
また、上記以外の時期であっても、妊娠、授乳中の服薬は薬の種類によっては胎児や赤ちゃんに影響を与える可能性があります。自己判断せず、市販薬も含めて医師や薬剤師に必ず確認してください。
薬の注意点④:薬のリバウンド現象
症状がよくなったからといって、勝手に服用をやめてはいけません。薬の種類によってはリバウンド現象が起こる可能性があります。薬のリバウンド現象とは、薬をやめると反動からかえって症状が悪化することです。
とくに、睡眠薬やステロイド剤などはリバウンド現象を起こすことがあります。このような薬は、症状が改善してもすぐに服用を中止せず、薬の量を減らしたり、弱い薬に変えたりなどして、徐々にやめていきます。(※10)
下痢止めや、咳止め、鼻水止めのような風邪薬など、症状が治ったら服用をやめていい薬もあるため、自己判断で薬をやめず、医師や薬剤師の指示に従って正しく服用することが重要です。
薬は医師の指示通り正しく服用しよう
薬の形状や服用量、期間にはすべて理由があります。自己判断で飲み方を変えてしまうと、副作用が出たり、治ったと思った症状がぶり返してしまったりするかもしれません。
一方で、薬物アレルギーや体質に合わないなどによって不調が出る場合もあります。その場合には、すぐに薬の服用を中止し、医師や薬剤師に相談しましょう。
<参考文献>
※1 日本製薬工業協会「くすりの情報Q&A Q7.くすりはどのようにして効くのですか。」
※2 静岡県立心の医療センター「くすりのカタチ」
※3 中外製薬「くすりが患部に届くまで」
※4 一般社団法人宮崎県薬剤師会「薬の効く人、効かない人」
※5 アレルギーポータル「アナフィラキシー」
※6 住友ファーマ株式会社「薬が作用する仕組み。受容体とは。 薬が作用する仕組み Vol.1」
※7 医薬品副作用被害救済制度「制度の概要」
※8 中外製薬「妊婦さんに知ってほしい話」
※9 中外製薬「母乳を与えている時は……」
※10 総合南東北病院「薬のリバウンド現象」
PROFILE
あんしん漢方薬剤師
山形 ゆかり
薬剤師・薬膳アドバイザー・フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ入り、牛角・吉野家他薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘルス-Youtubeチャンネルで簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」でも薬剤師としてサポートを行う。
●あんしん漢方(オンラインAI漢方):https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/?tag=211332f2tmhy00010053
●Medical Health CH::https://www.youtube.com/playlist?list=PLha9jt4tT7-xa-y83vBY8Ir-1-FqAYyWj