【歯科医が注意喚起!】乳幼児のむし歯が減っている一方で、「あごが小さい」子が増える異常事態になっている!?

赤ちゃんの口の中に小さくてかわいい歯が生え始めると、成長を感じませんか。でも、「むし歯は?」「歯並びは大丈夫?」と、心配事もつきないものです。
愛知県刈谷市のやまむら総合歯科で院長を務める山村昌弘先生は、2003年のクリニック開業以来、多くの子どもの口を診察しています。山村先生は「子どもたちの多くに口腔機能の発育不全があるのがとても心配だ」と話します。
山村先生に、今子育てに向き合っているママ・パパたちに知っておいてほしい子どもの口まわりや歯の健康について聞きました。『子どもをぽかん口にさせないために』を全6回シリーズでお届けします。今回は1回目です。
子どもたちのむし歯は減っていても、あごが育っていない子が増えている

――「たまひよ」は今年創刊30周年ですが、読者のママ・パパたちは早期から歯のケアに熱心で、赤ちゃん・子どもをむし歯にさせないようにしています。
山村先生(以下敬称略) 私はこれまで乳幼児健診で多くの赤ちゃんや子どもの歯を診てきました。ママ・パパのケアが行き届いているのでしょう、近年はむし歯のある子はとても少なく、見つけたときには掘り出し物、という感触すらあります。
これはもちろん、とてもいいことだと思います。
しかしその一方で増えているのが、あごの発育が未熟な子たちです。「あごが小さい」と聞くと見た目の問題だけかと思われるかもしれませんが、それは違います。
あごが小さいということはあごが育っていない、つまりは口腔機能の発育が不全で未熟状態ということです。
毎日診察しているなかで、口腔機能が未熟、またはそれに近い子は全体の8割くらいいるのではないかと感じています。これはまさに”緊急異常事態”だと思うんです。
――口腔機能とは具体的にはどのような機能のことでしょうか。
山村 口腔機能とは、食べ物を口に取り込む、かむ、口の中で移動させる、飲み込む、声を発するといった口の機能であり、味覚や触覚、唾液の分泌にもかかわります。生きていく上でとても大切な必要不可欠な機能です。
これらの機能は本来、年齢とともに習得されるべきものです。しかし現在、年齢に合った口腔機能が備わっていない、うまく成長できていない子たちが増えています。そのような症状を「口腔機能発達不全症」と呼んでいます。
口腔機能は、ただ食事をとれば成長するわけではありません。上手に舌を使えるようにしなければいけないのです。
――上手に舌を使えずに、あごが成長していない子が増えているということなのですね。
山村 そのような子どもたちが増えてきたのは、戦後に欧米の食文化が入ってきたことが大きいと考えられています。口をたくさん動かしてよくかんで食べるメニューが多い和食に比べて、パンやパスタ、カレーやハンバーグといった料理はあまりかまなくても食べられてしまいます。
昔は「30回しっかりかんで食べなさい」などと言ったものです。それは、30回かまないと食べられない食材や調理法だったということもありますが、そのおかげで口腔機能が発達していたからです。
でも、近年ではかまずに食べられるメニューや食生活の傾向がどんどんエスカレートしています。プリンやヨーグルト、アイスクリームといったおやつはほとんどかまずに食べられます。
年齢に合った口腔機能は習得するためには、このような食習慣を見直さなくてはなりません。
口腔機能は、10歳でほぼ完成する

――乳歯はいつごろ生えそろうのでしょうか?
山村 生後5~6カ月ごろから生え始める乳歯は、3歳ごろにはすべて生えそろいます。このとき大事なのは、乳歯20本のかみ合わせが正しい状態にあるかどうかということ。かみ合わせとは、前から見てわかる前歯などの歯並びではなく、上下の奥歯が正しく接触していることです。
乳歯のかみ合わせが正しくないと、その後生えてくる6歳臼歯も正しい位置に生えなくなり、奥歯のかみ合わせもずれてしまいます。6歳臼歯とは乳歯の奥に生える、初めての永久歯です。
6歳臼歯がずれると、その後生え変わる永久歯にも影響を与えてしまいます。
3歳までの乳歯のかみ合わせから始まり、6歳臼歯の位置、永久歯までのかみ合わせまでは切っても切れない関係です。
――6歳以降、歯や口の中はどのように成長するのでしょうか。
山村 6歳臼歯が生えてからは、少しずつ乳歯が抜けて永久歯に生え変わっていきます。
そして肝心の口腔機能は、10歳までに85~90%の成長が完了します。あごの成長は10歳で止まるのです。ですから、正しいかみ合わせを意識した親のかかわりは早ければ早いほどいいことになります。
具体的には、たとえば授乳を例にあげると、口腔機能を鍛えるには母乳育児が理想的です。母乳は舌やあごの筋肉を使わないと上手に吸えません。母乳育児ができない場合も、哺乳びん選びには気をつけてください。少し吸うだけでごくごくと飲めてしまう乳首ではなく、咬合型乳首と呼ばれる、ニップルの穴が小さくて一生懸命吸わないと出ないタイプがおすすめです。
口腔機能が整えば学力、スポーツ、笑顔に自信が持てる

――口腔機能がきちんと成長すると子どもにはどんないい影響があるのでしょうか。
山村 口の機能をたくさん使うことで脳内の血流がよくなり、脳が活性化することがわかっています。脳が機能することで思考力や記憶力、忍耐力などが向上します。また、奥歯がしっかりかみ合うことで力が入りやすく、瞬発力も出しやすくなります。
口腔機能が整っていることは学習面だけでなくスポーツ、芸術面などにもいい影響を及ぼすのです。そして歯並びもよくなるので、人前で思いきり笑うことができます。いろいろなことがうまくいくようになると、自分に自信もつくでしょう。
実際に私のクリニックでは口腔機能の治療を行うことで、自分に自信を持つようになった子どもたちを何人も見てきました。
口腔機能が未発達なばかりに口呼吸で睡眠不足だった子が、治療によって授業に集中できるようになったり、自分から習い事を始めたいと言うようになったり、姿勢がよくなり、顔立ちも整って積極的になった子などがいます。
わが子にどんな大人になってほしいか、ということは親であれば一度は考える命題です。私なら“健康に成長し、自分に自信をもてる大人になってほしい”と答えます。
――口腔機能は子どもの成長に大きくかかわるのですね。
山村 そうです。口腔機能は健康面だけでなく心の面にも大きく影響するんです。口腔機能は10歳ごろまでにその成長はほぼ完了してしまいます。ですから、それまでの親のかかわりが非常に重要であることを知ってほしいと思います。
監修/山村昌弘先生 取材・文/岩﨑緑、たまひよONLINE編集部
あごが小さいことが「小顔」ともてはやされる時期もありましたが、今や「口腔機能発達不全症」という疾患として問題視されているということです。それは「口腔機能発達不全症」が、2018年に保険診療になったことからもわかります。山村先生は口腔機能の重要性への意識をもっと高める必要があると話します。
山村昌弘先生(やまむらまさひろ)
PROFILE
歯科医。医療法人志朋会やまむら総合歯科・矯正歯科理事長・院長。大型歯科医院を経て、愛知県刈谷市で開業。2023年に日本口育協会歯科医院認定。一女一男のパパ。
●記事の内容は2023年12月の情報で、現在と異なる場合があります。
『自信のある子を育てるお口のトレーニング』
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