「たまひよ1円募金」あなたの買った1冊が医療的ケアを必要とする子どもとその家族の支援活動に役立っています
妊娠・出産・育児情報誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」を1冊購入すると1円の募金につながる「たまひよ1円募金」。募金は、公益財団法人ベネッセこども基金を通じて、未来ある子どもたちへの支援活動に役立てられています。2023年度の「たまひよ1円募金」の寄付先の一つである団体の活動リポートをお届けします。
たまひよ1円募金とは?
「たまごクラブ」「ひよこクラブ」が行っている募金活動で、創刊20周年より、赤ちゃんの未来のためにスタートしました。1冊ご購入いただくたびに「1円」が、公益財団法人ベネッセこども基金を通じて、子どもを取り巻く社会課題の解決や被災地支援活動に取り組む団体への助成金として使われています(2023年度の「たまひよ1円募金」は、ベネッセこども基金の報告額の中に含まれます)。
ベネッセこども基金とは?
「未来ある子どもたちが安心して自らの可能性を広げられる社会の実現」を目的として、ベネッセグループによって設立されました。自主事業と助成事業を通して「子どもの安心・安全を守る活動」「病気・障がいを抱える子どもの学び支援」「経済的困難を抱える子どもの学び支援」「よりよい社会づくりにつながる学び支援」の4つのテーマに、緊急支援として「被災した子どもの学びや育ちの支援」を加えた5つのテーマを軸として、子ども支援に取り組んでいます。2023年度は、24団体に総額5303万3318円の助成を行いました。また、「令和6年能登半島地震で被災した子どもの学びや育ちの支援活動助成」も実施いたしました。
2023年度の寄付先の中から「一般社団法人Orange Kids’Care Lab.(福井県)」をリポートします!
福井県を拠点とする「一般社団法人Orange Kids’Care Lab.」は、医療的ケアが必要な子どもとその家族の支援を行うために、2012年に設立された団体です(2012年に株式会社として設立され、2015年に一般社団法人に変更)。医療的ケアが必要な子どもたちの地域の居場所となる施設運営や各種支援を行うほか、2023年度にはベネッセこども基金の助成事業として、医療的ケア等がある子どもと家族の災害学習キャンプを開催しました。同法人で代表理事を務める戸泉めぐみさん、事務局の宮武寛子さんに、Orange Kids’Care Lab.の事業内容や活動に込めた想いについて伺いました。
医療的ケアが必要な子どもと家族の自立をサポート
――Orange Kids’Care Lab.の事業内容について教えてください。
戸泉めぐみさん(以下、敬称略) 福井市内に拠点となる施設を持ち、医療的ケアを必要とする方々を対象とした生活介護、放課後等デイサービス、児童発達支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、相談支援などを実施しています。
これらのほかに、旅行や登山などの非日常的な体験をする機会の提供や、地域の園や学校に就園・就学するための支援にも取り組んでいます。3歳から30代までの約30人の方々が利用者登録をされていて、看護師や保育士、介護福祉士、リハビリスタッフ、児童指導員など、約20人のスタッフが支援を行っています。
病気や障がいがあっても“自分らしい選択”を可能にしたい
――どのような想いで、これらの事業に取り組まれているのでしょうか。
戸泉 Orange Kids’Care Lab.では、「こたえていく、かなえていく。」を合言葉に、どんな病気や障がいがあっても、子どもたちが“あたりまえに”“自分らしい選択”をできるようなサポートを目指しています。
医療的ケアを必要とするお子さんのサポートにあたっては、ご家族からお話を伺うだけではなく、お子さん自身がどんなことをやってみたいのかを理解しようとする姿勢が欠かせません。ブランコに乗る、芝生の上に座るといった日常の中で取り組めることに関しても、未経験のことに初めて挑戦してみる、つまりゼロをイチにする「0-1(ゼロイチ)体験」をサポートしていきたいので、病気や障がいを理由に「それはできません」と線引きすることはできるだけなくしたいと考えています。
また、医療的ケアを必要とするお子さんが地域の中で安心して過ごせるようにするには、そのような子どもたちの存在を知っている人を増やしていくことも重要です。そのため、私たちが実施する支援事業以外のサービスも積極的に活用しながら地域へ出て行き、いろいろな人とつながる機会をつくっていくことも大切にしています。
医療的ケアを必要とする子どもと家族の災害学習キャンプを開催
――ベネッセこども基金の助成事業である、医療的ケア等がある子どもと家族の災害学習キャンプの開催に取り組まれた経緯を教えてください。
戸泉 Orange Kids’Care Lab.では、医療的ケアを必要とする子どもたちにも「非日常の体験」に挑戦してほしいとの思いから、夏休みを軽井沢で過ごす滞在体験「軽井沢キッズケアラボ」を2015年より実施してきました(コロナ禍の2020年と2021年は一時休止)。
この取り組みの参加者を募る際、「バリアフリーが十分でないところに出かけるのは不安」「普段使っている備品が揃っていないなら行くのは怖い」といった声が少なからず寄せられました。不慣れな環境で生活せざるを得なくなる場面は、旅行だけではなく、災害時にも想定されます。そういった場合に備えて、いつもと違う環境でも医療的ケアを必要とするお子さんとご家族が自立して行動できるスキルを身に付ける機会が必要なのではないかと考えるようになりました。
また、Orange Kids’Care Lab.は、2016年の熊本地震の際に現地で医療的ケアを必要とする子どもたちの支援に携わったこともあり、「災害時に医療的ケアを必要とする子どもたちにはどんな支援が必要なのだろうか」「私たちの日頃の備えで十分なのだろうか」という問題意識を持っていました。災害時を想定した暮らしを実際に体験してみることで、必要な備えや支援の内容を改めて確認できるのではないかとの思いもあって企画したのが、今回の災害学習キャンプです。
電気と水道が使えない想定で、非常食を食べる体験も
――災害学習キャンプは具体的にどのように実施されたのでしょうか。
宮武寛子さん(以下、敬称略) Orange Kids’Care Lab.の施設で開催した第1回には2組、キャンプ場のコテージで開催した第2回には4組のご家族が参加し、それぞれ1泊2日で実施しました。
当日は、非常用バッテリー、ランタン、懐中電灯、非常食、飲料水、カセットコンロと交換用ガスボンベ、ハンドミキサーをはじめとする調理器具などを用意し、電気と水道は使えない想定で過ごしてみました。電源が必要な医療機器はバッテリーに接続して使うなど、災害時にはどういう対応をすることになるのかをリアルに体験してみるというのが、今回のキャンプで重視したポイントです。
参加者の方々が特に高い関心を寄せていたのが、お子さんに非常食を食べさせてみたり、非常食をハンドミキサーで混ぜて経管摂取ができる胃ろう食を作ったりするといった体験です。「子どもがどんなものなら食べられるのかが不安で、これまでは親とは別の食料をストックしていた。でも、このキャンプで非常食を食べられることが分かり、今後は保存期間の長い非常食を備蓄しておこうと考えが変わった」ということを話してくださった参加者の方もいらっしゃいました。
災害に備えて具体的に何をすべきかを考えるきっかけに
――今回の災害学習キャンプを通じて、どんな気づきが得られたのでしょうか。
戸泉 参加者の方々もスタッフも「災害時のための備えが大切」ということを頭では理解できていたのですが、今回のキャンプを実施したことで、日頃からどんなことに取り組んでおけばよいのか、何を備蓄しておけばよいのかという具体的にやるべきことが見えてきました。「災害時に慌てなくてすむように、普段から非常食も含めていろいろなものを食べさせておくことが大切だと分かった」という感想を寄せてくださった参加者の方もいらっしゃいました。
また、キャンプ当日には、ご家族とスタッフで災害時のマニュアルを確認し、避難時に必要な物品リストの作成を行いました。「断水時は吸引やおむつ交換の際に手洗いができないので、グローブ(手袋)をストックしておこう」「いざという時に備えて、吸入器に3日分の薬を入れておこう」というように、それぞれのご家族が「自分の家庭の場合は何がどれだけ必要なのだろう」ということを考えるきっかけになったように思います。
一般的には災害対策について考えようとすると深刻になりがちですが、災害学習キャンプでは皆で楽しみながら非常時のことを考えることができたのも良かったですね。やはり実際に体験してみたからこそ学べたことも多いので、このようなキャンプを実施できたことには大きな意味があったと言えるのではないでしょうか。
災害時対策マニュアルブックや備蓄物品などが分かる動画も作成
――今回の助成事業では、災害学習キャンプの開催のほかに、どのような取り組みをされたのでしょうか。
宮武 今回の事業では、「災害時等を想定して、不慣れな環境でも家族が自立して行動できるスキルを身に付けること」を目的に、勉強会と報告会の実施、災害時対策マニュアルブックと動画の作成にも取り組みました。
勉強会に関しては、全国の当事者とその家族、支援者を対象として医療的ケアが必要な子どもと家族に対する災害時の支援を学ぶオンライン講座と、ワークショップを実施しました。福井市は水害が多いので、ワークショップ形式の勉強会ではハザードマップを見ながら各自の自宅周辺の浸水被害の危険性を把握し、どのタイミングで避難を検討すべきかといったことなどを確認しました。
報告会はオンラインで実施し、1年間の活動報告を行うとともに、災害学習キャンプに参加した方々の座談会も実施し、キャンプでの気付きを共有しました。
災害時個別対応マニュアルに関しては、災害に備えて準備しておくもの、突然の災害が起こった場合に取るべき行動のフロー、連絡先リスト、患者情報などについて、それぞれのご家庭に合った内容を記入してカスタマイズできるPDFをOrange Kids’Care Lab.のホームページで公開しています。
動画については全部で9種類作成し、呼吸器が必要なお子さん、喀痰吸引が必要なお子さん、経管栄養が必要なお子さんといった、それぞれのケースに応じた備蓄物品や、非常食を使ったミキサー食の作り方などを紹介しています。
災害学習キャンプの経験が能登半島地震の際も役立った
――災害学習キャンプや勉強会などで学んだことは、2024年1月の能登半島地震の際にも活かされたのでしょうか。
戸泉 能登半島地震では、福井市でもかなり大きな揺れを感じました。災害学習キャンプや勉強会をきっかけに非常持ち出し品や備蓄を見直しておいたことで、「非常持ち出し品を玄関に全部出し、ヘッドライトを枕元に置いて、夜間でもすぐに避難できるように普段着を着て寝た」など、慌てずに対応できたご家庭が多かったようです。
また、利用者の方の中には、能登のご実家に帰省中に被災され、一晩中、車の中で過ごす経験をされたご家族もいらっしゃいました。その方は水の確保が難しくなる状況を経験され、医療的ケアを必要とするお子さんのお世話において清潔を保つためにも水は欠かせないものなので、備蓄用の水を買い足しておく必要があると感じたとお話しされていました。
能登半島地震の経験は、福井市で暮らす利用者の方々にとっても、災害を我が事として考えるきっかけになったように思います。
ケアが必要なお子さんこそ、外に出かけて存在を知ってもらうことが大切
――今後、力を入れていきたい取り組みや、医療的ケアを必要とするお子さんとご家族へのメッセージをお聞かせください。
戸泉 今後は利用者の方々とそのご家族との個別の話し合いを実施しながら、それぞれのご家庭の状況に合わせた災害対策マニュアルの作成を進めていきたいと考えています。利用する施設ごとにマニュアルが異なっていると、ご家族の負担が増えてしまうので、マニュアルを一本化できるように行政との連携も進めていきたいですね。
また、これまで実施してきた、戸外に出かけて非日常体験に挑戦できる機会もたくさん作っていきたいですし、災害学習キャンプも継続できるように調整を進めていければと考えています。
医療的ケアを必要とするお子さんがいるご家庭では、災害への備えをしておくことはもちろん重要なのですが、それと同じくらい、地域の人々に「ここには医療的ケアを必要としている子どもがいます」ということを知ってもらうことも重要です。いざというときに外に出て助けを求めたり、避難したりすることができる機動力を身に付けるためにも、普段からケアに必要な医療機器を携行しながら外出することに慣れていくという意識を持つことを心がけていただきたいと思います。
同じ地域に暮らす者同士というあたたかい眼差しで見守って
――地域の人々は、医療的ケアを必要とするお子さんやご家族にどのように接していけばよいのでしょうか。
戸泉 「被災時に医療的ケアを必要とする子どもを避難所に連れて行ったら、周囲の人々に気を遣わせてしまうのではないだろうか」という思いを抱いているご家族は少なからずいらっしゃいます。そのような思いから孤立しがちなご家族にとっては、声をかけていただけるだけでも安心感につながるので、無理のない範囲で「何かできることはありますか?」といった声かけをしていただけると有り難いです。
また、いざという時に地域とのつながりを持てるようにするためにも、医療的ケアを必要とするお子さんやそのご家族が安心して過ごせる場所を地域の中にもっと増やしていけたらと願っています。Orange Kids’Care Lab.では、地域の保育園や学校への就園・就学支援にも取り組んでいますが、どんな病気や障がいがある子も地域の方々に見守られながら安心して暮らせる地域をつくることは、災害時にも住民同士が支え合える強い地域づくりにつながっていきます。地域の方々は、同じ地域に暮らす者同士というあたたかい眼差しで、医療的ケアを必要とするお子さんやそのご家族を受け入れていただければと思います。
団体プロフィール
一般社団法人Orange Kids’Care Lab.
2012年に株式会社として設立、2015年に一般社団法人へ変更。
看護師や保育士、介護福祉士、リハビリスタッフ、児童指導員など、さまざまな専門性をもつスタッフによって運営されている。福井市内を拠点とし、医療的ケアを必要とする人を対象とした生活介護、放課後等デイサービス、児童発達支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、相談支援、就園・就学支援、旅行や登山などの非日常体験をする機会の提供などを行っている。
■取材・文/安永美穂
●記事の内容は2024年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。