とくに大切なのは、おしっこを「出す」ことではなく「ためる」こと。排尿・蓄尿の発達から考えるトイレトレーニング【泌尿器科医】
今までおむつにおしっこをしていた赤ちゃんがトイレで排せつできるようになるためには、親の働きかけが必要です。東京都立小児総合医療センター泌尿器科部長の佐藤裕之先生は「トイレトレーニング(トイトレ)は『おしっこはトイレでする』という意識づけから始まるものです。トイトレは『トイレで排尿することのトレーニング』ではなく、『トイレで排尿をする準備のためのトレーニング』のことなんです」と話します。佐藤先生に、子どもの成長に合わせたトイトレの進め方について聞きました。
蓄尿・排尿機能って? トイレトレーニングでとくに大切なのは「おしっこをためる(蓄尿)機能」
――生まれたばかりの赤ちゃんはおしっこの回数が多いもの。それは膀胱(ぼうこう)のサイズが小さいからなんでしょうか?
佐藤先生(以下敬称略) 生まれたばかりの赤ちゃんは、膀胱が小さく、反射的に排尿しています。そのため、おしっこの回数は多く、1回の量は少なめです。成長とともに、おしっこの回数は減っていきます。
個人差もありますが、膀胱には年齢に応じた大きさがあり、成長とともに大きくなります。
――膀胱が大きくなって、おしっこを出す機能も発達することで、トイトレを始める準備が整ってくるのでしょうか?
佐藤 トイトレで重要なのは、実はおしっこを出す機能の発達よりおしっこをためるほうの「蓄尿(ちくにょう)機能」が成熟することです。
膀胱におしっこがたまると出口が反射的に開いておしっこを出すのですが、蓄尿機能が未熟なうちは、膀胱におしっこが入るとその出口が反射的に開いて、おしっこが出てしまうんです。けれども、発達が進むと骨盤の筋肉によって出口を閉めて、おしっこをある程度ためるといったコントロールができるようになります。それができるようになるのが、1歳6カ月ごろからといわれています。
膀胱にきちんとおしっこをためられるようになると、次のステップとしてトイレに行って出すことになります。
おしっこを出すこと(排尿)は、自律神経の働きによって自然に調節されるものです。おしっこは「よいしょっ」とおなかに力を入れて意識的に出すものではないのです。おしっこが膀胱にたまった状態で、トイレの補助便座やおまるに座って、「出してもいい状態」にし、待っていれば自然と出るものです。
トイレトレーニングは早く始めるのがいいわけではありません
――トイトレはいつごろから始めるのがいいのでしょうか。
佐藤 トイトレは早く始めるのがいいわけではありません。おしっこを膀胱にある程度ためるようになるのは1歳6カ月ごろからです。ただし、今までおむつにおしっこをするのが当たり前だった1歳代の子を急にトイレに連れて行くのは難しいでしょう。
1歳6カ月ごろから「おしっこやうんちはトイレでするんだよ」というイメージづくりを始める必要があると思います。たとえば、トイレがテーマの絵本やおもちゃなどを親子で一緒に楽しむのもいいでしょう。ただ、無理に教え込もうとせず、興味を示さなければ無理強いしないことが大切です。
――イメージづくりをしたら、次はトイレの補助便座やおまるに座らせるといいのでしょうか?
佐藤 おまるや補助便座で排せつを促し始めるタイミングは、子どものトイレへの興味の持ち方、声かけしたときの理解度などを注意深く観察して考えるといいでしょう。始めどきの目安は2~3歳代ですが、個人差があるので子ども主体で進めることが大切です。
一般的に蓄尿機能は2~3歳ごろからしっかりし、大人のような排尿になるのが3~4歳ごろ、遅くて5歳ごろといわれています。未熟なうちは排尿のとき、膀胱にたまっていたおしっこ全てを出し切ることができないことがありますが、4歳ぐらいになればそういった残尿はなくなってきます。
親ばかりがあせって『早く!』と急かしてもおむつが早くはずれるわけではありません。意外と親がゆったりしている方がスムーズにおむつがはずれるという海外のデータもあります。基本的に子どもの成長を待つ姿勢で臨むといいと思います。
強制的な排尿によって起こる問題には注意が必要
――補助便座やおまるに座って排せつを促すトイトレを始めたら、頻繁にトイレに誘うのがいいのでしょうか?
佐藤 生活の節目などにトイレに誘うのはいいでしょう。ただ、おまるや補助便座に座らせるのは、親が声がけして、子どもの気分がのったときだけで十分です。毎回座らせる必要はありません。
蓄尿機能が成熟してくると膀胱がおしっこでパンパンにたまっていなくても、おしっこを出せる子が出てきます。もちろんおしっこがゼロに近い場合は無理ですが、ある程度たまっていれば可能です。
実は膀胱におしっこをためるには、ある程度練習が必要なんです。トイトレ中はもちろんのこと、トイトレがある程度完了したあとにも、親がおもらしを心配するあまり、子どもを頻繁にトイレに行かせることで、膀胱におしっこをためられなくなる可能性があります。「膀胱におしっこをしっかりためる」という経験をしないと、膀胱が適切な大きさに成長しないこともあるんです。
病院でおもらしに悩む子を治療するとき、まずはおしっこをためる練習から始めることもあります。おしっこをためられるようになり、尿意をしっかり感じられるようになると、改善することも多いです。
――トイトレ中、いざ子どもをトイレの補助便座やおまるに座らせても、まったくおしっこが出ないこともよくあると聞きます。その場合、親はどうサポートするといいのでしょうか?
佐藤 出ないものは出ないのです。無理強いせずにすぐに切り上げましょう。排尿を強制されることで、のちのち問題が起こることがあります。
本来、排尿は便座に座れば自然と始まるもので、おなかに力を入れて無理に出すものではありません。女の子の場合、おなかに力を入れれば出せることがあるのですが、これは間違った方法です。このような排尿を続けていると、頻尿傾向になる可能性や、将来的な膀胱機能の問題が起こる可能性があり、注意が必要です。
――いつごろから「尿意」を感じられるようになるのでしょうか。
佐藤 尿意を感じられるようになる時期には個人差があります。尿意は、大人にとっても「必ずこの量までたまったら」というはっきりしたものでなく、「このたまり具合でそろそろトイレに行っておくか」という曖昧な感覚です。そのため、排尿時にものすごい量が出ることがあれば、少しの量しか出ないこともあるわけです。
また、大人に近づいて社会性が身につくことで変化もあります。いずれ『外出前だから、早めにトイレを済ませておこう』などの親の声かけにも応じられるようになるでしょう。
監修/佐藤裕之先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
おすわり、立っち、あんよ…と進む運動発達とは違い、トイトレはできたと思ったら後戻りするなど一進一退がつきものです。うまくいかないときは一度お休みするのも手。トイレで強制的に排せつを促すと子どもによってはおなかに力を入れて排尿するという間違った方法が身についてしまう心配もあります。今までおむつに排せつしていた子どもに、トレイでの排せつを習慣づけるには親の働きかけが欠かせませんが、子ども主体で、気長に進めるのがいいでしょう。
佐藤裕之先生(さとうひろゆき)
PROFILE
東京都立小児総合医療センター泌尿器科部長として日々「尿が持続的に漏れる」「昼間の尿失禁が治らない」「おしっこの出し方がおかしい(おかしくなった)」などの悩みを抱える小児の治療を行っている。日本泌尿器学会指導医・専門医、日本小児泌尿器科学会認定医。日本小児泌尿器科学会理事・評議員、日本小児腎不全学会評議員。
●記事の内容は2024年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。