異国の地で一人で5歳の娘の子育てに翻弄され…。怒ってばかりだった育児がガラリと変わったきっかけ「NVC」とは【体験談】
“NVC(Nonviolent Communication)”をご存じですか? 1970年代にアメリカの臨床心理士・マーシャル・ローゼンバーグ氏が提唱したコミュニケーション方法で、直訳すると「非暴力コミュニケーション」、ほかにも「だれのせいにもしない共感的なコミュニケーション」とも言われています。実はこれが悩める子育ての大きな助けとなるメソッドなんだとか! 今回は日本初のNVCと子育てに関するガイドブック『親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVCコミュニケーションワークブック』を出版したkoko(丹羽順子)さんに、“NVC”を使った子育ての具体的な方法とご自身の体験談を聞きました。
自分は暴力的なコミュニケーションと無関係? 実は気がついていないだけかも…
――kokoさんは“NVC”を用いた子育てを紹介していて、書籍も出版されていますね。まずはNVCがどのようなものか、教えてください。
kokoさん(以下敬称略) “NVC”とはコミュニケーションの方法の一つです。英語の“Nonviolent Communication”の頭文字をとっており、日本語では“非暴力コミュニケーション”と訳されます。“非暴力”と言うと、一般的にはとっつきにくい、自分に関係ない言葉といった印象があるようで、私が「“NVC 非暴力コミュニケーション”を子育てで活用していて、人に教えてもいるんです」と話すと、たいがい「私には必要ないですね。子どもに暴力的な言葉づかいなんてしていませんから」と言われることが多いんです。
でもいざNVCに取り組んでみると、自分がいかに暴力的なコミュニケーションを繰り返していたか、気づくと思います。たとえば、子どもが一生懸命話かけているのに、忙しさのあまり子どもの話をちゃんと聞かなかったり、知らず知らずのうちに思い込みや決めつけで話を進めていたり…。NVCを提唱したマーシャルはこれらのコミュニケーションをすべて“暴力的”と指摘しました。
――耳が痛い話ですね。
koko そうですよね。実は私も子どもに対してこうした暴力的なコミュニケーションをしていた一人です。私は娘が4歳のときに当時の夫と違う道を進むことを決め、異国の地に引っ越し、一人で娘を育ててきました。これが大変で…。そのストレスもあり、当時からことあるごとに思い通りに動いてくれない娘に「何回言ったらわかるの?」「どうしてダメなことばっかりするの?」「またこれしたらデザートはないからね」なんて、上から目線で批判し、懲罰を与える意図の言葉をよく伝えていたんです。また逆に娘が寝たあとは「あんなに怒ることなかったのに…」と自分を責めて、落ち込んで…。
――言いたくない言葉が出てしまうのも、あとから自分を責めてしまう感じも、親としてはとてもよくわかります。
koko そうですよね。みんな同じような状況を経験したことがあると思うんですが、決して好きで怒っているわけではないですよね。実際、どんどん疲れてきちゃうんですよ。怒ったからといって、子どもの行動が変化するわけでもないですから。私自身、本当にどうしたらいいんだろうと八方ふさがりのときにNVCってのが子育てにいいらしいぞ、今度ワークショップがあるよという情報を知ったんです。それで藁(わら)にもすがるような思いで、講座を受けに行きました。
――それがNVCとkokoさんの初めての出会いだったわけですね。
koko はい。娘が5歳のときでしたね。
NVCは①観察②感情③ニーズ④リクエストの4つの要素から成り立つ
――NVCって具体的にどのようなことをするのでしょうか?
koko NVCは4つの要素から成り立ちます。4つとは①観察②感情③ニーズ④リクエスト。これらを意識しながら、相手とコミュニケーションをとります。
まず①観察ですね。自分と相手との間に何かが起きたときに、NVCではその事実をニュートラルに観察することをすすめています。注意をしたいのは「ここがいい」「ここがダメ」といった評価ではなく、あくまで事実を観察するということです。
次に ②の感情です。そのことが起きたときに自分が何を感じたか、気持ちにフォーカスします。
そして③のニーズ。これはわき起こった感情の大本には必ずニーズ=自分が大事にしたい価値観やかなえたいことが隠れているはずなので、それが何であるのかに注目。
そして最後に④のリクエスト。自分の中にあるニーズを強要とか命令の形ではなくて、あくまでも「〜してくれるかな?」「してもらえるとうれしいな」とお願いの形で相手に伝えます。
知ったばかりのNVCのメソッドを試してみると、驚くべき展開が!
――実際、娘さんとのコミュニケーションで、NVCを試されたんですか?
koko はい。機会はすぐ訪れました。ワークショップから帰宅すると、娘が部屋をものすごく散らかしていたんです。子育てをしていると、よくあるシーンではありませんか?
いつもの私なら「ちゃんと片づけなさい!」とか「もう何回言ったらわかるの!」とか「片づけなかったらごはんないからね」と怒っていたと思うんです。だけど、そのときは文句を言いたいのをぐっと堪えて、大きく深呼吸。せっかくNVCを習ったんだから、ここで使ってみようと考えました。
まずは①の観察をしてみたんですね。あくまで中立的な目線を意識して「床におもちゃが3つ転がっている、 椅子が机の下ではなく、こっちに出ているね。パンツが4枚落ちているわ」と目に見える状況を落ち着いて声に出してみました。すると、娘も怒られているわけではなく、ただ指摘されただけなので、いつもなら反抗するところを「そうだよね」と素直に受け入れたんです。
次に自分の②感情を見つめてみると、 私(ママ)はもうめちゃくちゃ今怒っている。悲しい。ムカつく。そんな気持ちが出てくることに気づきました。では、感情のもとにある私が満たしたい③ニーズは何だろう?と考えると「きれいなところに住みたい」「それには娘の協力が必要」「娘にもそのことを理解してほしい」といったニーズが自分の中にあるとわかったんです。なので、正直に娘に伝えました。「お部屋がきれいに片づいていないと、ママはイライラしてしまうし、悲しいんだ。ママは整理整頓された状態が好きだからね。お部屋をきれいにするにはあなたの協力が必要よ」といったように。
その上で娘に対して「あなたはこの話を聞いて、どう思うか教えてくれる?」と④リクエストをしてみました。このとき、自分の中でいつもとまったく違う言い方で自分の言いたいことを言えた!という感覚がありました。
また、これまでの娘の場合、私に片づけのことを指摘されると「片づければいいんでしょ」や「もう片づいてるもん」といった反抗的な言葉が出ていたんですが、このときは思いがけない言葉が返ってきました。「私もね、片づけたいんだけど、どんなふうに片づけたらいいかわかんないの」って。その言葉は大人の私にとってまったく想像していない言葉でした。これまで私は娘のことを怠慢だとかママを困らせる子だとか思っていたわけですけど、全然違って、彼女は彼女でサポートが必要だったのです。そこで箱をいくつか用意して、「下着」とか「おもちゃ」などのラベルを貼って、ここに片づけるんだよと片づけ方を教えました。そうしたことで、片づけ問題は一件落着。これが私とNVCの衝撃的な出会い。初めての成功体験です。
お話/kokoさん 取材・文/江原恵美、たまひよONLINE編集部
NVCを使って初めて娘さんと深い心の奥でつながった感じがしたと話をしてくれたkokoさん。それは本当にうれしい経験だったそう。子育てに悩む皆さんもぜひ、4つの要素を意識してお子さんとかかわってみては?
NVCに関する後編の記事では、この記事を執筆するライターがNVCを試してみた体験談も掲載しているので、ぜひチェックしてみてください。
koko(丹羽順子 にわじゅんこ)
1973年、東京都生まれ。2017年、アメリカ最大のNVCの団体、BayNVC主宰の年間リーダーシッププログラムを修了。対面とオンラインで、NVC講座を開催。月刊幼稚園(小学館)で2019年〜2022年にかけてNVCに関する連載を掲載。連載をベースに、大幅加筆した「『親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVC非暴力コミュニケーションワークブック』(小学館)が好評発売中。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
◾️親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVC非暴力コミュニケーションワークブック
1970年代にアメリカの臨床心理士マーシャル・ローゼンバーグ氏が開発した、誰のせいにもしない共感的なコミュニケーションの方法であるNVCを、子育てに活用する日本初のガイドブック。初心者もNVCの知識が身につきやすいワークブック形式です。