体にできたカフェ・オ・レ斑を「こげているよ」といわれたことも・・・。娘の病気に向き合うママが5人のきょうだいたちに伝え続ける言葉【レックリングハウゼン病体験談】
6人の子どもがいる大河原和泉さん(45歳)。小学2年生の末っ子、紬乃(ゆの)ちゃんは、生後3カ月のときに神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病/NF1 以下レックリングハウゼン病)と診断されました。診断の決め手となったのは、体中にできた茶色いシミのようなカフェ・オ・レ斑です。レックリングハウゼン病は成長するに従って、さまざまな症状が現れます。
大河原和泉さんに、紬乃ちゃんの就学と、紬乃ちゃん自身やきょうだいたちに病気のことをどのように伝えているのか聞きました。
全3回インタビューの3回目です。
4歳ごろにレックリングハウゼン病の症状の一つ、発達障害と診断
レックリングハウゼン病は成長に従ってさまざまな症状が見られますが、その一つが発達障害です。幼児期から特性が見られるようになる子が多いようです。
「紬乃は幼児期に、数をあまり数えることができませんでした。紬乃には1歳上の兄がいます。息子は夫とおふろに入って数をスラスラ数えられたのですが、紬乃はあまり数えられません。発達障害と診断される前は、夫も『なんで?』と不思議がっていました。
また0歳から保育園に通っていたのですが、人見知りをしないのも私は気になっていました。
慣れない場所だと多動も目立ちます。4歳ごろになり、受診のついでに医師に相談したところ、紬乃の動き回る様子を見てすぐに『レックリングハウゼン病からくる発達障害・ADHD(注意欠如・多動症)だね』と言われました。医師から療育をすすめられて、現在も月1回療育に通っています」(和泉さん)
紬乃ちゃんは、発達検査で目で見て理解するのは苦手だけれど、言語理解はできていることがわかりました。検査の結果などを踏まえて、和泉さんは紬乃ちゃんの就学を考えたと言います。
「言葉でのやりとりは問題がないので小学校は通常の学級でもよかったのですが、目で見て理解することが苦手なため、勉強についていけずに学校嫌いになってしまってはいけないと思い、小学校1年生のときから特別支援学級に通わせることにしました。
入学当初は、ひらがなが書けなかったのですが、紬乃のペースで教えてくれるので、だんだんひらがなが書けるようになり、現在は小学2年生ですが、2年生の漢字ドリルを使って勉強しています。
紬乃は個性的な子です。以前、家でバスのおもちゃに年子の兄が小さな人形を乗せて遊んでいたところ、それを見てまねした紬乃は、バスの座席に色を塗った小さい紙を貼っているんです。『紬乃、これは何?』と聞いたら『色を乗せているの~』と言っていました。色を乗せるという発想が、紬乃らしいな~と感心しました。
また、ある日は『ママ、地球って何色だと思う?』と聞かれて『青』と答えたら、『違うよ! 虹色だよ』と言われました。紬乃が感じている世界は、色にあふれているんです。ぬりえもカラフルに色を塗ります。
小学校では図工と音楽の授業が大好きで、毎日、登校するのが楽しいようです」(和泉さん)
カフェ・オ・レ斑を見た、クラスの子に『こげてる』と言われたことも
レックリングハウゼン病はカフェ・オ・レ斑や神経線維腫など、ひと見でわかる症状もあります。
「レックリングハウゼン病は、外見の症状からときにはいじめにあったり、心ないことを言われたりすることもあるんです。
紬乃も保育園のとき、クラスの子がカフェ・オ・レ斑を見て『こげてる』と言ってきたことがありました。紬乃は家に帰って来て『これって取れるかな?』と気にしていたのですが、こういうことは避けては通れない道です。私は幼いうちから、からかいなどを解決する力を少しずつ身につけて欲しいと思っています。
紬乃には『もし次、こげてるとか言われたら“多様性って知らないの? ナンセンスね”って言ってみなさい』と伝えました」(和泉さん)
「子どもたちを守るのはママの役目! 何かあったら言って」と伝えている
天真らんまんな性格の紬乃ちゃんには、1歳上の兄がいます。兄は小学3年生で、紬乃ちゃんと同じ小学校の通常の学級に通っています。
和泉さんは、友だち関係などを心配するのは、紬乃ちゃんではなく1歳上の兄のほうだと言います。
「息子は、繊細な性格です。以前『特別支援学級なんて行きたくないよね~』と言った子がいたのですが、紬乃はそのことを耳にして『おかしいよね~。あんなに楽しいのに! みんな知らないのかな?』と言っていましたが、もし息子が同じことを言われたら傷ついてしまう感じです。
年子ですから紬乃と一番近く、一番長い時間を過ごすのが息子です。しかし紬乃を守るにはまだ幼く、あまりにも負担が大きいので、私は息子に『もし紬乃のことで、からかわれたりしたら、必ずママに言ってね。もし目の前で紬乃が、からかわれたりしていたら、つらいだろうけど〇〇(息子の名前)は紬乃のことをかばったりしなくていいよ。その代わり、ママにすぐに言ってね。〇〇のことも紬乃のことも守るのはママの役目だから! 〇〇は頑張らなくていいんだよ』と伝えています」(和泉さん)
普段の会話の中で紬乃ちゃんの病気の話を。家族の中で秘密はない
子どもがレックリングハウゼン病の場合、ママ・パパはいつ、どんなふうにその子やきょうだいに伝えるか悩むと言います。
「わが家の場合は、普段の家族の会話の中で普通に紬乃の病気のことを話しています。だからいつ、どんなふうに本人やきょうだいに伝えるかということで悩んだことはありません。
紬乃が3歳のときにカフェ・オ・レ斑を見て『これって何?』と聞いてきたことがあります。これはいい機会だな。ウソをついてごまかしてはいけないと思い『これは紬乃のバースマークだよ。実は紬乃は一つ大きな病気を持っているんだよ』と話しました。そして『紬乃は大きな病気を持っているけれど、心は健康だよ』と伝えました」(和泉さん)
現在の紬乃ちゃんの主な症状はカフェ・オ・レ斑と発達障害です。この先、ほかにどのような症状が出るかはわかりません。
「子どもたちにはレックリングハウゼン病の写真を見せて、紬乃が大きくなったときの話もしています。大きなこぶができたりすることもあるという話をしたら、年子の息子は絶句していました。
でも中学2年生の三女は、小学生のとき、夏休みの自由研究でレックリングハウゼン病のことを調べてまとめていました。紬乃の病気に関しては、家族の中で隠しごとはありません」(和泉さん)
【佐谷先生から】適切に診断と診療を受けて、萎縮せずに子育てを
レックリングハウゼン病はカフェ・オ・レ斑や皮膚の神経線維腫以外の症状は患者さんによって異なり、将来どの症状が出てくるかは明確ではありません。しかし、まだ出現していない症状のことを悩んで将来を悲観するのは、お子さんにも心理的な悪影響を与えることになります。適切に診断と診療を受けることで、普通に生活することができますので、けして委縮することなくお子さんを育てることが重要と考えます。私が知っているレックリングハウゼン病の患者さんたちは、皆さん自分の病気のことを知ったうえで、とても明るく元気に生活しておられ、彼ら彼女らと会うと私のほうが元気づけられます。
監修/佐谷秀行先生 お話・写真提供/大河原和泉さん 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
和泉さんは、紬乃ちゃんがレックリングハウゼン病とわかってから間もなく、患者・家族会“To smile”を立ち上げて代表を務め、精力的に活動しています。「私は将来、紬乃が悩んだときに、親として何もしてあげられなかったと悔やみたくないんです。紬乃を含めたレックリングハウゼン病の患者さんたちが、生きやすい社会になるためにこれからも活動を続けたい」と言います。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
大河原和泉さん(おおかわらいずみ)
PROFILE
1男5女のママ。末っ子紬乃ちゃんが、レックリングハウゼン病と診断されたことをきっかけに患者・家族会「To smile」を立ち上げ、代表を務める。レックリングハウゼン病の医療セミナーを開催するなどして、患者さん・家族に最新の正しい情報を伝えるために活動を行う。
佐谷秀行先生(さやひでゆき)
PROFILE
神戸大学医学部卒。藤田医科大学腫瘍医学研究センター センター長。医学博士。熊本大学医学部腫瘍医学講座教授、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所教授などを経て現職。専門は腫瘍生物学 。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。