10万人に1人の病気、白血病を患い長い入院生活。励みになったのは娘たちの存在と目標をもつこと【アナウンサー小澤由実の闘病体験】
元NHKキャスターで、現在はフリーのアナウンサー・キャスターとして活躍する小澤由実さん。高校生と小学生の娘さんを持つママですが、2022年に急性リンパ性白血病と診断され、長期入院による治療を経験しました。現在は経過観察中という小澤さんに、退院後の生活、子育てと仕事のこと、今後の目標などを聞きました。
半年以上入院していたので、退院後は筋力が戻るまで時間がかかった…
――現在は経過観察中ということですが、退院直後の生活はどんな感じでしたか? 大変だったことがあれば教えてください。
小澤さん(以下敬称略) 2022年の4月末、急性リンパ性白血病であることがわかり入院。1カ月間抗がん剤を投与し、1週間一時退院をするという治療を6回くり返し、12月に本退院となりました。
私の場合、抗がん剤がよく効いてくれて、退院のころには完全寛解(がんが見つからない状態のこと)。退院後しばらくは維持と予防のために、月に1回、定期的に通院し点滴での抗がん剤投与を続け、その後も2年ほど飲み薬の抗がん剤の服用を続けました。今では抗がん剤の服用も終わり、あと3年は、定期的に病院に行って経過観察のための血液検査をすることになっています。
退院時には血液検査の数値も安定していて、私自身とても元気でした。感染症には少し気をつけていましたが、とくに制限などはありませんでした。車の運転もできたので、自分で運転して通院していました。
でも、半年以上も入院していたので、筋力と体力はすっかり落ちていて。しばらくは階段を上ったり、走ったりすることはできませんでした。今は日常生活の動作は問題なくできるようになりましたが、普段の生活だけではなかなか落ちた筋力は戻ってこないことを実感しています。最近、やっと重い腰をあげてジムに通うことを決意したところ。
退院してからの生活ではとくに大変なことはありませんでした。子育てと一緒で大変なことやつらかったことはわりとすぐ忘れてしまうんですよね(笑)。少しずつできることが増えて、回復していく喜びのほうが大きかったです。小走りできるようになった、重いものが持てるようになった、スキップできるようになった、髪が生えてきた…など、うれしいことはたくさん覚えています。
食事は大事だと思っているので、食事づくりはそこそこ頑張っているかな…。でも、疲れちゃうから、特別なことはしていません。病気をしたから健康オタクになったということもなく、普通の生活をしています。
入院中に励みになったのは、目標を持つこと。娘たちの存在も大きかった!
――今、入院生活を振り返ると、思い出すことはありますか? 印象的だったできごとがあれば教えてください。
小澤 病気になったときに、看護師の友人から、「よく食べている人のほうが、元気になるのが早いことが多い」と聞いていたので、なるべく食べるようにしました。入院していた病院の看護師さんには「無理しないで、食べられるときに食べれば大丈夫」と言われていましたが、私自身、しばらく食べられないと気力も体力も弱くなっていくのを実感して。しんどいときでも、ゼリーだけは口にするようにしました。
食欲がなくてつらいときは、ドラマ「孤独のグルメ」を見て、食欲をかきたてていました。入院中、いちばんよく見ていたドラマかもしれません(笑)。
お米をおいしく食べられるように、ふりかけや個包装のお漬物、乾燥とろろなど、ごはんのお供を切らさないように。夫にもしょっちゅう、「牛丼食べたい!」などと差し入れをリクエストしていました。
その結果、退院して最初の1カ月はやせましたが、そのあとは入院前より少し太ったんですよ。
基本的には前を向いて、弱音を吐かないようにしていたけれど、初めて髄腔内注射をするときは、脊髄から注射をするのが怖くて、夫に電話をして泣きつきました。弱音を吐いたのは、その1回だったはず…。
入院中に励みになったことは、目標を持つこと。仕事先の方々に「待っているよ」と言われたときは、戻れる場所があるから、絶対に治して戻ろう!と思えました。元気になったら、この経験を発信して、少しでもだれかの役に立つことができれば…と思うことも、頑張る力に。自分が10万人に1人の病気になったことは、きっと意味があることなんだ…と前向きにとらえるようにしました。
娘たちのためにも元気になって戻らないと!と思いましたし、娘たちの存在はやはりいちばん大きかったですね。
二女は中学受験に向けて、今年の夏が勝負。ストレスをためないようにしたいけれど…
――退院後、お子さんたちとのかかわりで苦労したことはありますか? また、病気判明時から今まででの子育てのことで印象的だったことは?
小澤 ウィッグ生活ということもあり、娘たちの授業参観など、学校行事にはなかなか行く気になれませんでした。夫に代わりに行ってもらっていました。でも、退院後、娘たちとのかかわりで大変だったことはそのくらいだったと思います。
今、長女が高校2年生。二女は小学6年生。二女は中学受験をするから、今年の夏が勝負のとき。長女の中学受験のときは夏から冬にかけて本当に大変で、私の精神も崩壊していましたし、家族も崩壊寸前という感じでした。今回もそうなるとよくないな、ストレスには気をつけないと…と思っています。
二女の中学受験に関しては、私の病気がわかったとき、やめたほうがいいんじゃないかと悩みました。長女のときの経験から、親のサポートが必要で、私が半年以上入院して近くにいない状態では無理だと思ったから。病気がわかったときは塾に入ったばかりだったこともあり、夫に「やめたほうがいいかな?」と相談しました。そもそも、夫は、「中学受験って必要?」というタイプだったので、やめようと言われるかと思ったんです。でも、私の予想に反して「いや、やろう!」と。きっと、私の病気が原因で何かをあきらめるということをしたくなかったのだと思います。入院したときは、ニ女のピアノのコンクールも控えていたときでしたが、「コンクールも頑張ろう」と。
あきらめなかったおかげで、入院中、私はベッドの上の司令塔でした。娘たちには、「ピアノの練習した?」「塾の宿題した?」と確認し、夫には、「あれ、やらせた?」「忘れずに、よろしくね」と。離れていてもベッドの上から偉そうに指示を送っていました。
一時退院のときは、ピアノのコンクールの直前だったこともあり、1週間のこまかいタイムスケジュール表も作りました。病院に戻ってからも、「予定どおりやっている?」と確認をして。
当時、娘たちは、「大丈夫、やっているよ」と言っていたのですが、実はちゃんとやっていないときもあったようで、当時のテキストを見ると真っ白で、「あれ、やってなかったのね…」となりましたが(笑)。
まだ6年生なので、中学受験に関しては、結果は出ていないんですが、ピアノのコンクールに関しては、まわりの人たちにもサポートしてもらいながら、私が不在でもちゃんとやりきりました。
疲れてイライラしてしまうときは、娘たちに「ママは疲れています」と宣言するように
――退院後から現在まで、仕事や育児の両立で大変だったことはなかったですか?
小澤 体調もよく、これまで通りの生活を送れるようになっていますし、私の場合は、働き方がフリー。フルタイムで毎日通勤しているわけではないので、バランスよく両立ができています。
家事は頑張りすぎず、適当に。ストレスは万病のもとなので、なるべくためないようにしたいけれど、子育てをしているとストレスをためないほうが難しいんですよね。疲れてイライラしてしまうときなんかは、「ママは疲れています。ママはソファで横になります」と娘たちに宣言するように伝えています。無理はしないことが大事。
――今後の目標はありますか?
小澤 目標はたくさんありますが、まずは、家族みんなが健康でいられるように、ごはんをしっかり作ること。ときどき、手抜きはしながら(笑)。最近ジムに通い始めたので、本格的に筋力を鍛えたいです。
そして、この闘病体験を伝えることが、少しでもだれかの励みになり、お役に立てれば幸いです。今は2人に1人ががんになる時代といわれているので、がんを正しく知って、正しく恐れて、いざというときに備えるということが大事だと思うので、機会があれば、学校教育での「命の授業」をしてみたいです。
偶然にも、病気になる前の年に社会保険労務士の資格を取得できたので、がん治療と仕事の両立支援に取り組んでいきたいです。
――たまひよONLINEを読んでいる、全国のママ・パパに伝えたいことがあれば、メッセージをお願いします。
小澤 人生って、いつ何が起こるか本当にわからない。自分や身近な人につらいことがあったときに、どしっと受け止められるような気力と体力を備えておくことが大事なんじゃないかな…と思っています。子育てってすごく大変ですよね。成長とともにいろいろな大変さがあるけれど、振り返ると、「あのとき、もっとこんなふうにできればな…」と思うことがよくあります。だから、今、子育て中のママ・パパには、今というときを大事にしてほしいなぁと思います。
私は突然白血病になって、「死」というものを意識したことで、これまでの何気ない日常がいちばん幸せだったことに気づかされました。病気になったことは決してよかったとは言えないけれど、当たり前と思っていたことが実は当たり前ではないこと、生きているだけでもうけものということを知ることができました。闘病生活を経験したことで、家族や親、姉、まわりの人、医療スタッフの皆さん、私の闘病にかかわってくれたすべての人に感謝しかありません。私を支えてくれてありがとう。元気でいてくれてありがとう。生かしてくれてありがとう。生きていてくれてありがとう。感謝の気持ちを常に忘れないようにしたいと思いました。あ、ごめんなさい、メッセージというより、最後は自分自身への教訓みたいになってしまいましたね(笑)。
最後に、子育て中は忙しくてつい自分のことは後回しになりがちですが、体調面で異変を感じたときは、ちゃんと病院に行ってほしいです!
お話・写真提供/小澤由実さん 取材・文/渡辺有紀子、たまひよONLINE編集部
娘さんたちとのかかわりについて、飾らずにリアルに語ってくれた小澤さん。病気を経験したからわかったという、「今を大切に」「感謝の気持ちを忘れずに」という言葉が胸に響きますね。子育て中の皆さん、体のサインを見落とさないよう、自分のことも後回しにしないで大切にしましょう!
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
小澤由実さん
PROFILE
京都府出身。上智大学文学部英文学科卒業後、株式会社プリンスホテル入社。NHK京都放送局・さいたま放送局キャスターを経て、現在はフリーのキャスター・アナウンサーとして活躍中。高校1年生と小学6年生の2人の女の子のママ。闘病のことや日々の暮らしはオフィシャルブログでも発信中。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2024年8月現在のものです。