AI時代を生きていく子どもたち。「好きと得意」を伸ばす「認知特性」もヒントに子育てを【小児科医】
小児科専門医の本田真美先生は、生まれ持った思考の好みや、やりやすさである「認知特性」を研究していて、「認知特性は私の子育ての道しるべ」だと話します。
全4回のインタビューの4回目は、2人の子の母親でもある本田先生に、自身の子育てを踏まえて、子どものやる気を育てるかかわり方について聞きました。
「失敗してもいいんだ」と思えることが次の力につながっていく
――「子どものやる気を育てたいけど、どうすればいいのかわからない」。そんな悩みを持つママ・パパは多そうです。子どもの認知特性によって、やる気の育て方に違いはありますか。
本田 子どもの認知特性がどのタイプであっても、やる気を育てる最大の特効薬は、「楽しい」という感情だと私は考えています。その子が「やりたい」と思うことを、自由にのびのびやらせてあげる。これにつきると思います。
――「できた」という成功体験が必要ということでしょうか。
本田 もちろん「うまくでできた!」という成功体験は、子どものやる気を育て、自己肯定感を高めます。でも、それよりも「達成体験」が大切だと考えています。
達成体験とは、何かに集中して一生懸命やる、そのこと自体を指します。成功体験と違うところは、結果がうまくいったかどうかは問わないこと。達成体験は「やりとげた」という充実感を味わうことに重点を置いています。
――最後までできなかったとしても、また、最後までやったけれどうまくできなかったとしても、そこまでやりとげたことを認めてあげる、ということですか。
本田 そうです。できなくて困ってたら、ちょっと手助けをしてあげてもいいと思いますが、手伝う前に「ここまで自分でできたんだね、すごいね」と一緒に喜んであげましょう。また、最後までできなかったとしても、子どもがそれでいいと思っていたら、それはそれで認めてあげてください。
できなくてもママ・パパが応援してくれる。失敗してもいいんだって感じられることは、次への力につながります。
――「楽しい」と感じるとき、子どもの脳内ではどのようなことが起きているのでしょう。
本田 「楽しい」「うれしい」など心地よい気持ちになると、脳内にドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。すると、思考や記憶、運動をつかさどる脳の部位が活発に働くようになるので、「もっとやってみよう」とやる気が高まります。これは子どもだけでなく、大人も同じです。
「自分はかけがえのない存在」と感じられると、子どもは積極的になれる
――子どものやる気を高めるために、親にできることはほかにもありますか。
本田 初めてのことに興味を示し、確かめながら知ろうとする「探索行動」も、子どもの意欲を育むのに欠かせません。これも認知特性のタイプによらず共通です。
子どもが探索行動に出るためには、「何かあったら守ってもらえる」という安心感が必要。ママ・パパは安全基地になり、子どもが外に出て行こうとする意欲や好奇心を応援してあげましょう。
――子どもの安全基地になるために必要なことは何ですか。
本田 スキンシップをたくさんしてあげることです。ギュッと抱きしめたり、触れ合ったりするだけで、子どもは安心できます。安心できると子どもの脳内では、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンという神経伝達物質が分泌されます。オキシトシンには安心感や信頼感に加えて、ありのままの自分を認める「自己肯定感」を高める作用もあるので、子どもが「自分はかけがえのない存在だ」と感じることができます。
それは子どもの中で自信となり、いろいろなことに積極的に取り組くむ力になります。
得意そうに思えることでも、子どもが興味を持たなければ、その力は伸びない
――子どもの認知特性から考えたら、ちょっと苦手なんじゃないかなと思うようなことでも、子どもが頑張って取り組んでいたり、楽しくやっていたりする場合は、見守ることが大切でしょうか。
本田 子どもの能力のすべてを認知特性で判断できるわけではないですし、「好き」と感じることであれば、努力するのは嫌ではないはず。コツコツとその能力を積み上げていくでしょう。ママ・パパは見守り、応援してあげてほしいです。
逆に、認知特性のタイプで見たら得意そうに思えることでも、興味を持てないことを強制的にやらせたら、子どものモチベーションは上がりません。いくらお金や時間をかけても、その力は伸びていかないでしょう。
子どもがそのことに取り組んでいるとき、本当に楽しそうな顔をしているか、目をキラキラと輝かせて挑戦しているか、よく観察してほしいなと思います。
好きなことに向かっていくエネルギーにも個人差が。その子に合った対応が必要
――「これ」という目標に向かってどんどん突き進んでいく子もいれば、いろいろなことを試しながら自分の道を探していく子もいます。
本田 うちの子どもたちは、まさにその両方の見本のようです。
息子は「三つ子の魂百まで」のことわざどおり。小さいころから好きで得意だった洋服のデザインをずっと続けていて、今はベルギーにあるデザインの大学に行くために勉強中です。彼は常に一つの道を進んでいて迷いがない。とても認知特性に合った道を進んでいると感じます。やりたいことがはっきりしているから、親としても応援しやすかったんですよね。
娘の場合は、息子のように「ものすごくこれが好き!」がないまま成長しています。子どものころにもっと「一芸」を見つけてあげたらよかったかなと、今になって思います。だから今、娘の「やりたいこと探し」を応援しているところです。
子どもが「好き」に向かっていくエネルギーにも大小があるんだなって、息子と娘を見て思います。息子は好きなことにものすごいエネルギーを持って向かっていくタイプで、娘はそのエネルギーが小さいタイプです。
――その子の持つエネルギーに合わせてかかわっていくことも大切、ということでしょうか。
本田 そう思います。いつ、どこで子どもの力が開花するかわからないし、エネルギーが小さめだと思っていた子も、何かのきっかけでエネルギーがすごく大きくなるかもしれない。娘にも「英語が好き」という「好き」があるので、それを生かせる進路を考えています。
子どもの持つエネルギーの大きさも含め、ありのままの子どもの姿を認め、子どもが自ら道を選んで進むのを手伝う。それが親にできるすべてではないかなと思います。
幼児期に好きだったことが、そのまま将来の道につながらないかもしれない。 でも、今何かに打ちこんでいる、一生懸命やっているという経験は、必ず子どもの力になります。
今の子どもたちは、AIがものすごい勢いで進化していく時代を生きていきます。そんな中で子どもたちを助けてくれるのは、「好きなこと」「得意なこと」だと思うんです。認知特性をヒントに、子どもが好きなこと、得意なことを見つけるのを手伝いつつ、子どもが「やりたい!」「これが好き!」と感じたことは、どんなことであってもママ・パパは応援してあげてほしいです。
「楽しい」と思えることを、思う存分やらせてあげ、たとえうまくできなくても、一生懸命取り組んだこと自体を認める。さらに、認知特性も参考にして、子どもが好きなこと、得意なことを見つけるのをサポートする。子どものやる気を育てるには、これらのことが大切なようです。
本田真美先生(ほんだまなみ)
PROFILE
医学博士、小児科専門医、小児神経専門医。あのねコドモくりにっく院長。東京慈恵会医科大学卒業。国立小児病院にて研修後、国立成育医療センター、都立多摩療育園、都立東武療育センターなどを経て、2016年みくりキッズくりにっくを開院。2024年8月より現職。2022年に認知特性に関する研究を行う「本田式認知特性研究所LLP」を設立。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『子どもの「ほんとうの才能」を最大限に伸ばす方法』
絵を描くのが得意、歌や演奏が上手、絵本を読むのが好き・・・などなど、子どもの好きなこと、得意なことと関係している 「認知特性」。認知特性を知ると、子どもへの理解が深まり、また、ママ・パパ自身の認知特性を知ることは、夫婦間のコミュニケーション力アップにもつながる。本田真美著/1650円(河出書房新社)