「便秘症」は治療が必要な病気。子どもの便秘が慢性化するのを防ぐために、正しい知識を身につけて【専門医】
「うちの子、便秘かな?」と感じたことがあるママ・パパは多いと思います。でも、慢性化してしまった便秘は、治療しないと治らないことを知っているママ・パパは、少ないのではないでしょうか。子どもを慢性便秘症にさせないために必要なことは何でしょう。大阪母子医療センター消化器・内分泌科副部長の萩原真一郎先生に聞きました。
全2回のインタビューの前編です。
1カ月以上うんちが週2回以下しか出ないときは便秘と考えて
――そもそも「便秘」とはどのような状態をいうのでしょうか。
萩原先生(以下敬称略) 何らかの原因でうんちの回数やうんちの量が減った状態のことです。
1カ月以上うんちの回数が週2回以下だったり、うんちを出すときに痛がる・泣くなどの様子が見られたりしたら、便秘と考えてください。また、トイレが詰まるほど大きなうんちが出るときも、便秘を疑いましょう。
――「便秘症」という言葉も聞きます。便秘とは違うのでしょうか。
萩原 便秘の中で治療が必要な状態が「便秘症」です。便秘症には2種類あります。
器質性便秘症:何らかの病気がもともとあり、それが原因で便秘になっている状態のこと。原因となっている病気が治らないと便秘も解消されません。
機能性便秘症:大腸などに病気はないのに起こる便秘のこと。体質や生活習慣、ストレスなどさまざまなことが原因として考えられます。
――器質性便秘症と機能性便秘症は、なりやすい月齢・年齢がありますか。
萩原 離乳食開始前(~生後6カ月)の赤ちゃんの便秘は器質性便秘症、それ以降は機能性便秘症のことが多いです。
器質的便秘症の原因となる病気はたくさんあり、そのほとんどがまれな病気ですが、比較的多いのは、ヒルシュスプルング病と直腸肛門奇形です。
ヒルシュスプルング病は、腸を動かす腸管神経節細胞が先天的にないために、腸のぜんどう運動がうまくいかず、うんちが出せない、あるいは出しにくくなります。5000人に1人の赤ちゃんが発症するといわれています。
直腸肛門奇形は、生まれつき肛門がうまく作られていない病気で、消化管の先天的異常の中で最も多いもの。数千人に1人程度の割合で発生します。
生後6カ月以下の赤ちゃんで、うんちがあまり出ていなくて、おなかがふくれている、吐くことが多い、体重が増えないなどの症状が見られる場合は、できるだけ早く小児科で診てもらってください。
便秘症をほうっておくと悪化し、長期の治療が必要になることも
――子どもが機能性便秘症になった場合、食事や運動など生活習慣の改善だけでは治せませんか。
萩原 悪い生活習慣を改めることは、便秘の改善に有効と報告されていますが、それだけで機能性便秘症を完治させるのは難しいでしょう。
機能性便秘症が1カ月以上続くと、「小児慢性機能性便秘症」と診断されます。こうなると簡単に治すことが難しくなり、患者さんによっては、年単位の治療が必要になることがあります。だから、便秘は慢性化させないことがとても大切なんです。
――慢性便秘症になるのを防ぐために必要なことを、月齢・年齢別に教えてください。
萩原 まずどの時期も、「便秘かな」と思ったらほうっておかないこと。これが、慢性便秘症の予防には欠かせません。
離乳食開始前(~生後6カ月)は、器質性便秘症ではないことをまず確認します。器質性便秘症ではない場合、この時期のうんちはやわらかいことが多く、かたくて出せないことはまれです。
腹圧をうまくかけられず、また、肛門を上手にゆるめることができなくて、便秘になっていることがあるので、必要に応じて綿棒浣腸を行うと、少しずつ自力でうんちを出せるようになっていきます。
離乳食開始後(生後6カ月~12カ月)はうんちがかたくなり、出すのに苦労することがあります。うんちがなかなか出なくて子どもが苦労しているときは、かかりつけの小児科でうんちをやわらかくする薬を処方してもらうといいと思います。
トイレトレーニング中(2歳~3歳)に便秘になる原因としては、かたいうんちを出すときに肛門が切れて痛い思いをしたことで、うんちを出すのが怖くなり、がまんするようになることが挙げられます。この場合も、うんちをやわらかくする薬を飲むことが改善策となります。
また、トイレトレーニングに失敗しても怒らず、応援してあげる姿勢も大事です。
4歳以降になると、羞恥心が芽生え、 保育園・幼稚園など自宅以外の場所でうんちを出すのをがまんして、便秘になることがあります。でも、自宅外での排便を強制すると、かえって便秘が悪化することがあるので要注意です。便意がなくても朝食後に短時間トイレに座ることを習慣にすると、朝食後に排便するサイクルが徐々にできあがり、便秘の解消につながることがあります。
――1歳~2歳の便秘対策はどうしたらいいでしょうか。
萩原 離乳食開始後~トイレトレーニング開始の間の年齢なので、子どもの発育・発達やうんちの様子を見ながら、両方の対策をしてみてください。
綿棒浣腸をルーティンにすると、自分でうんちを出せなくなる!?
――たまひよアプリのユーザーに便秘対策で行っていることを聞いたところ(※)、「綿棒浣腸」「おなかのマッサージ」「体操」「市販の浣腸薬」が挙がりました。これらの効果を教えてください。まず、綿棒浣腸について。
萩原 綿棒浣腸の有効性については、実は専門医の間でも意見が分かれているのですが、生後1歳未満の赤ちゃんで、効果を実感できるなら、やってもいいと私は考えています。
私が勤務する大阪母子医療センターでは、綿棒の先にワセリンやオリーブオイルをつけ、片方の手で両足を持ち上げ、もう一方の手で綿棒の先(頭の部分)を肛門の中にゆっくりと入れ、肛門を外側に少し広げるように、綿棒をゆっくり円を描くようにして刺激すると、うんちが出ることが多いです。
――綿棒浣腸はクセにならないから毎日しても大丈夫、と考えているママ・パパもいます。
萩原 綿棒浣腸をお世話の一環のようにルーティンで行うと、その刺激がないとうんちを出せなくなる可能性が指摘されています。「便秘になるのが心配だから綿棒浣腸をする」というケアは避け、行うのは便秘のときだけにしてください。
――赤ちゃんがうんちをするとき、いきんで泣くのは便秘だからですか。綿棒浣腸は必要でしょうか。
萩原 それは「乳児排便困難症」だと考えられます。腹圧をかけることと、骨盤底筋群をゆるめることの協調がまだできないことで起こるとされるものです。生後9カ月未満の赤ちゃんで、うんちを出す前に10分程度いきんで泣くけれど、出るうんちはやわらかくて、ほかに健康上の問題がない場合は、赤ちゃんが排便のトレーニングをしていると考えてください。乳児排便困難症は便秘ではないので、綿棒浣腸は不要です。
――次に、おなかのマッサージと体操について。
萩原 乳児のマッサージの研究をたくさん集めて解析した研究では、マッサージが乳児の便秘に有効である可能性があると報告されています。ただし、どのような方法が便秘に効果的なのかは、まだわかっていないんです。今後研究が進めば、マッサージも立派な治療の1つになるかもしれません。
体操を含めた運動が、便秘に有効であるかはわかっていません。でも、体を動かすことが子どもの健康に欠かせないのは、言うまでもありません。
――市販の浣腸薬を使うことについてはどうなのしょうか。
萩原 市販の浣腸薬と医師が処方する浣腸薬は、同じ成分のグリセリンが入っています。市販薬は手軽に購入できて便利ですが、年齢で量が決められているので、体格によっては量が少ないことも。医師が処方する浣腸薬は、体重から換算した投与量を使うことができるので、効果を得られやすいかもしれません。
浣腸薬を使うときも、綿棒浣腸と同様、浣腸薬の先端にワセリンなどを塗ってすべりをよくすると、子どもに不快感を与えにくくなります。
――2013年に「小児慢性機能性便秘症ガイドライン」が出てから10年以上がたっています。ガイドラインが改定される予定はありますか。
萩原 現在、信州大学の中山佳子先生を作成委員長として改定が進められていて、2025年春か遅くとも夏には、新しいガイドラインが出る予定です。今回の改定では、乳児や重症心身障害児、神経発達症児の便秘にフォーカスした項目も含まれる予定です。
便秘が悪化すると子どもの生活の質が低下してしまいます。新しいガイドラインができることで、そうした理解を広めることができたら・・・と期待しています。
お話・監修・図版提供/萩原真一郎先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
便秘が慢性化すると、長期にわたって子どもにつらい思いをさせてしまうことになります。便秘が長引く場合は治療が必要になるということを、忘れないようにしましょう。
※調査は2024年9月実施の「まいにちのたまひよ」アプリユーザーに実施ししたものです(有効回答数171人)
萩原真一郎先生(はぎわらしんいちろう)
PROFILE
大阪母子医療センター消化器・内分泌科 副部長。2004年東京慈恵会医科大学卒業。2010年埼玉県立小児医療センター総合診療科、2016年UCSF research fellow、2018年大阪母子医療センター消化器・内分泌科医長を経て、 2020年より現職。専門領域は 小児消化器・肝臓・栄養、炎症性腸疾患、消化管内視鏡。3人の子の父親。
●記事の内容は2024年10月の情報であり、現在と異なる場合があります。