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【サヘル・ローズ】「自分を愛していい」「幸せになっていい」。自分を愛せず苦しんできた私が伝えたいこと

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本の中で読者と一対一の関係を築きたいと話すサヘル・ローズさん。

今年もまもなく人権週間が始まります。戦時下のイランに生まれ、孤児院で育ったサヘル・ローズさん。7歳のとき、養母フローラさんと共に来日。しかし想像を絶する貧困やいじめ、ときに人としての尊厳、人権を傷つけられるような出来事が次々と彼女を襲いました。そして今、サヘルさんは、これまでの経験や内に秘めてきた思いを『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと 自分を愛し、困難を乗りこえる力』(童心社)で明らかにしました。彼女自身の心の叫びともいえるさまざまな出来事は、読むすべての人の心を揺さぶります。

前編では、サヘルさんが今、本を書こうと思った理由、読者に伝えたかったことを中心に話を聞きました。

心の奥底にため込んできた幼少期の記憶を明らかに。同じ経験をした人と一対一の関係を築きたい

生活が困窮していても、いつも笑っていた小学生のころ。

―― どうして今、『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと 自分を愛し、困難を乗りこえる力』(童心社)を書こうと思ったのでしょうか?

サヘル・ローズさん(以下敬称略、サヘル) この2年で見聞きしたさまざまなこと。たとえば、内面的にさまざまな問題を抱えている人だったり、テレビなどのニュースで流れる世界情勢だったり、アフリカに旅したときに感じたことだったり・・・。今、伝えなければ埋もれてしまうのではないかと考えたからです。
私のこれまでの人生には、経験しなくてもよかったのではないかと思えるような出来事もあれば、経験せざるを得ない状況もありました。とくに幼少期の経験はずっと心に閉じ込めてきましたが、やっぱり苦しくて。それを解消するためにも、私の「内」にため込んできた記憶を、一度外に出す必要があると思いました。

日本という国で長く生活してきたなかで起きた多くのことを、これまで私は自分1人で抱え、自分のせいにしてきました。だから、もし私と同じような経験をしてきた人がいるなら、この本を読んで「自分1人じゃない」ことに気づいてほしい、本の中で私と読者が一対一の関係を築けたらいいなと考えました。

今でも解決策が見つからない。世界中に助けられない子どもがたくさんいる

シリアの子どもたちから託された手紙。

――今回の本の中では、サヘルさんが支援する世界の貧困地域の子どもたちのことにも触れています。

サヘル この本を書いたもう1つの理由は、旅先や支援先の子どもたちの「私たちを忘れないでいてくれてありがとう」という言葉に、「どうせいつか自分たちは忘れさられるでしょ」というニュアンスを感じたことです。

インタビューなどで彼らのことを伝えたつもりでいても、それは彼らの生活のほんのかけらにすぎません。だからこそ、実際に彼ら、彼女らに会って感じたこと、受け取ったことを私がしっかり残さなければいけないと思うようになりました。

これまでもさまざまな支援をしてきましたが、明確な解決策は得られてはいないし、今でも助けられない子どもが山ほどいるという葛藤も抱えています。

このように、これまで記録してこなかった、できなかった出来事や思いを、改めてしっかり記録したいと思って書いたのが、『これから大人になるアナタへ伝えたい10のこと』です。そして、この本は私の出発点にもなりました。

――この本は、ある意味、サヘルさんの新たな自伝とも感じられました。

サヘル 確かに新たな私の自伝になるかもしれません。だからどんなに大変でも、すべてをゼロから見直し、自分の記憶、思いを整理しようと思いました。ある意味、この本は、サヘル・ローズのインナーチャイルドが書いた本というほうが正しいかもしれません。

また、それをしないと母親ともこのまま一生向き合えないと思いました。私と母は血のつながりがありませんから、これまで実にたくさんの葛藤がありました。伝えないという方法もあるでしょうが、私の感情を明らかにすることで、この本を読んだ人が自分の親との葛藤やこれまで言えなかった負の感情を外に出せるようになればいいなと思っています。そのプロセスがとても大事なんですね。

自分自身にちゃんと向き合えているか、愛せているかを振り返る

勇気をもってお母さんに向き合ったサヘルさん。

――自分にも、親にも、子どもにも「向き合う」のはとてもしんどい作業ではないでしょうか。

サヘル 自分自身と向き合えない人は、他者とも向き合えません。だからと言って、無理に向き合ったり、頑張って変わろうとしたりする必要ははないということも伝えたかったんです。

私の経験を読んで、「こんなことに力む必要はなかった」「頑張る必要はなかった」ということにも気づいてくれればいいなって思います。

また、私自身が「若いうちにやっておけばよかった」「もっと早く気づいていればよかった」と思うこともたくさんあります。でもそれって、私たちの世代だけでなく、親世代にも同じように自分の本当の気持ちを抑えて我慢してきた人がいるのではないでしょうか。


――「たまひよ」を読んでいるママ、パパに、この本でいちばん伝えたいことはなんですか?

サヘル 元々は親も子どもも赤ちゃんだったわけですから、子どもが0歳なら親も0歳、子どもを育てながら、親も子も、1歳、2歳・・・と、1つずつ歳を重ねていくものではないでしょうか。

だから、いったん親とか妻とかという役割を全部忘れて、あなたが自分自身にちゃんと向き合えているか、愛せているかを振り返ることが何より大切なのだと思います。私自身は自分を愛することができず苦しんできたので、この本を通じて、「自分を愛していい」「幸せになっていい」ということを伝えられたらいいなと思っています。

お話・写真提供/サヘル・ローズさん 協力/童心社 取材・文 /米谷美恵、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

今回の著書は「ここまで話してしまっていいの?」というくらい、ある意味、生々しく、残酷ともいえるサヘル・ローズさんの経験や思いがつづられています。「そうしなければ先に進めなかった」と言いますが、同時に彼女と同じような経験をした人に対する「1人じゃない」というメッセージでもあります。彼女の思いが1人でも多くの人に届きますように。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

サヘル・ローズさん

PROFILE
1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母フローラと来日。主演映画『冷たい床』で、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。国内外問わず、個人で支援活動を続け、2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞する。著作に『 言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』(講談社)などがある。2024年、初監督作品『花束』を公開。

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サヘル・ローズさんのFacebook

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと』

「つらく苦しい半生があったからこそ、他者に共感し手をさしのべることができている。自分の不完全さを愛し受け入れること、そこから人としての本当の強さ、優しさは生まれるのだと、サヘルさんに気づかされた。紛争や貧しさがまん延し、難民となってしまう人が増え続けている今の時代に、その共感と優しさは、最も大切な感性かもしれません」と、童心社 担当編集 中山佳織さんは話す。サヘル・ローズ著/1650円(童心社)

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