【俳優・星田英利】ほっしゃん。から改名し俳優業に。なかなか会えない2人の子どもへの愛と、妻の壮絶な出産をふり返って・・・
2005年に「R-1ぐらんぷり」で優勝した「ほっしゃん。」さんは、現在は俳優・星田英利さんとして活躍中。そして今回、初の小説「くちを失くした蝶」(KADOKAWA)で小説家デビューをしました。2児の父親でもある星田さんに子どもの出産時の貴重な話から、両親から受け継いだ子育てで大事にしていることなど聞きました。
全2回インタビューの後編です。
ミスをしないのではなく、ミスからのリカバリーが大切
――星田さんは現在、15歳の息子さんと8歳の娘さんの父親でもありますが、それぞれどんな子どもですか?
星田さん(以下敬称略) 息子は今、思春期真っただ中ですが、すごく優しい子です。親からみてもいい子に育ってくれていると思います。娘は小さいころの僕に似ているのかもしれません。活発で明るくて、ちょっとわがままで。でも、2人ともここまでよく育ってくれました。
――子どもたちにはどんなふうに接して、どんな教育をめざしていますか?
星田 現在は単身赴任中なので普段は息子、娘は妻と3人で暮らしています。月に1回ぐらいは帰るようにしていますが、帰ったときにはもちろん、父親として子どもと接します。でも子どもたちの教育に関しては、あまり口出しはしないです。
僕の両親は、僕に対して間違いを起こさないように諭すのではなく、間違いを起こしたときのリカバリー方法を教えてくれたので、僕も同じように子どもたちに接しています。
――ここ最近のできごとで印象的なことはありますか?
星田 娘と散歩に出かけたときなどには、わざと道に迷うんです。「ここどこや? パパもわからへん」っていうふうに。すると娘がリカバリーしようと率先して、いろんなことを提案してくれるんですね。時間がかかることもありますが、来た道を引き返したり、逆に先の道を曲がってみたり、人に聞いたりと一生懸命なんですね。思ってもいなかったところに着いたとしても、そこで新たな発見があります。自分の人生でも迷ったり困ったことがあったりしても、動揺しないたくましく生きてほしい、人間力を養ってほしいと思っています。
――星田さんの両親の教えを、子どもたちにも受け継いでいるわけですね。
星田 両親は「人さまに迷惑かけるなよ」と頭ごなしに言うのではなく、「迷惑をかけたときはすなおに謝りなさい」と教えてくれました。たしかに人間、ミスをしないように生きることなんて無理なので、ミスしたときにどう行動するかということが大切なんだなとつくづく感じます。
1人目の出産で産後、意識不明だった妻
――息子さん、娘さんそれぞれの出産時の様子を聞かせてください。息子さんのときは15年前かと思いますが、どんな気持ちだったかなど覚えていますか?
星田 よく覚えています。生まれそうということで病院にかけつけましたが、なかなか生まれず・・・。そうこうしているうちにドラマの撮影が始まってしまったので現場に戻ったんです。そうしたら生まれたと連絡をもらいました。立ち会うことができなかったんですが、妻は息子が生まれる瞬間を自分の携帯で撮影してくれていました。
――奥さんは自分で自分の出産シーンを撮影していたんですか? それは驚きです。
星田 無事に誕生しましたし、撮影もできていたんです。でも、そのあとが大変でした。妻は息子を産んだあと、出血多量で意識を失ってしまい、意識が戻らなかったんです。僕も病院にかけつけましたが見守るしかなく、本当に驚きましたし、心配でたまりませんでした。15年前のことですが、今でもリアルに思い出せます。
へその緒を切ったり、胎盤を見せてもらったり、生命の誕生をまざまざと感じた長女の出産
――そんな大変なことがあったのに、2回目の出産は助産院だったと聞きました。
星田 僕は妻がまさか助産院で産みたいと思っているとは想像もしていなかったので本当にびっくりしました。心配だったので「ほんとうにええの?」と何度も何度も確認しました。でも妻の考えは強く、自宅のような畳の部屋で、天井からロープが垂れ下がっていたりする時代劇みたいな環境で出産に臨みました。娘は無事に誕生したのでよかったです。息子も妹の誕生に立ち会うことができて、へその緒を切ったり、胎盤を見せてもらったりと貴重な経験ができました。
――娘さんのときは立ち会うことができたんですね。
星田 陣痛が始まっていよいよ生まれるという時間が23時を過ぎて、0時になるところでした。こうなったら0時ちょうどに産もうということになって、妻の頑張りのおかげで娘は「0時0分」に誕生しました。
――星田さんは単身赴任ということですが、奥さんと子育てについてどんなふうに話し合われていますか?
星田 娘の出産のときもそうですが、妻は自分でスパッと決断するタイプなので子どもの教育に関しても「~しようと考えている」と、本人の中ではほぼ決まっていることの報告をしてくれます。それに対して僕は反論することはないですね。無責任にとらえられるかもしれませんが、子どもたちのことは妻のほうがよくわかっているので信頼をおいて任せています。月に1度のペースで家族には会えているので、そのときにいろんな話を聞くことが楽しみです。
――一緒にいる時間は少ないかもしれませんが、成長していく息子さん、娘さんをどんなふうに見ていますか?
星田 単身赴任中なので距離はあるかもしれません。娘も思春期を迎えればさらに間はあいてしまうかもしれないので、一緒にいれる時間は長くはないと思っています。だからこそ自宅に戻ったら子どもに嫌がられるまで一緒に遊んでいます。
子どもたち2人は、これから選択しなくてはならないことの連続だと思います。親の知らないところで泣いたり、笑ったり、悔しい思いをしたりと、さまざまなことを経験していくと思いますが、自分の人生を存分に楽しんでもらいたいなと思います。
――子どもが成人したときに、一緒にお酒を飲んだり語ったりすることなどを想像することはありますか?
星田 以前、阪南市観光大使を務めたときに浪速酒造さんとのコラボ商品で「浪花の星田」という日本酒を作ることになったんです。商品のラベルの文字は、当時6歳の息子が書かせてもらいました。だから息子が20歳になったらそのお酒を一緒に飲みたいなと、実はそのときからずっと思っています。今回出版した小説のタイトル文字は娘に書いてもらいました。
今の時代は動画や写真など、携帯でさっと保存できる時代ですが、小さいころに書いた文字は貴重ですよね。なんらかの形で残せてあげたことはよかったのかなって思います。
「本当に大丈夫か?」と、積極的に声をかけるのは大人の役目
――子どもができてから、社会の中の子育ての環境や課題が気になり始めたと聞きました。
星田 また、日本は諸外国に比べると裕福と思われがちですが、僕たちが思っている以上に子どもの貧困やひとり親の問題は深刻です。栄養バランスのとれた食事を食べることができるのは給食だけ、という子だったり、経済的な理由で進学をあきらめる子もいたりすると聞きます。また虐待やネグレクト、いじめも社会問題になっています。
「あなたの悩みを聞きます、お電話ください」と書いてあっても、なかなか電話はできないでしょうし、貧困や虐待もほかの家庭と自分の家庭、何が違うのかわからないと声に出せないと思います。
――たしかに日本は自己申告しないといけない雰囲気になっていますが、それではなかなか問題は解決しないように思います。
星田 だからこそ、少しでも異変に気がついたら僕たち大人が「大丈夫か? ほんまに大丈夫か?」と、積極的に声をかけたり、働きかけたりして介入していかないといけないと思います。
そして、いつ自分も当事者になるかはわかりません。明日はわが身だという意識も持っておいたほうがいいと思います。
――最後に「たまひよ」の読者にメッセージをお願いします。
星田 僕の経験からですが、子どもはさっきまでニコニコご機嫌に遊んでいたのに、ちょっとしたことで手がつけられないくらい泣いたり、怒ったり。子どものパワーはすさまじいものがあるので親が疲弊してしまうこともあると思います。そんなときは自分も子ども返りして、とことん向き合ってみるのもいいと思います。子育てに対して頑張らないといけないと力んでしまう親もいると思いますが、いい意味での「適当」も大事かなと思います。
「育てるのではなく、一緒に育っていこう」くらいの気持ちでいいんじゃないかな。
お話・写真提供/星田英利さん 取材・文/安田ナナ、たまひよONLINE編集部
星田さんの奥さんの2回の出産がどちらも壮絶で驚きました。きっと強くて頼りがいのある奥さんなんだろうな・・・と想像できました。息子さんと娘さんへの文字のプレゼントは粋でとてもすてきです。
星田英利さん(ほしだひでとし)
PROFILE
1971年生まれ、大阪府出身。「ほっしゃん。」として活動し、2005年に第3回R-1ぐらんぷりにて優勝。芸名から本名の星田英利に戻し、以降俳優としてドラマ、映画、舞台等、幅広い分野で活躍している。
『くちを失くした蝶』
俳優・星田英利の初小説。貧困、ネグレクト、いじめ…幼いころから心と体を削られ続け、それでも必死に生き抜いてきた女子高生・ミコトが主人公。ミコトはそれらからは逃れられない現実に絶望し、自らの命を断つことを決意する。星田英利著/1760円(KADOKAWA)