「魚鱗癬はうつりません!」皮膚が魚の鱗のように剝がれる娘の病気…。偏見のない未来になるように~ネザートン症候群体験談~
今、約100万人に1人と言われる病気と闘っている赤ちゃんがいます。その病気とは、ネザートン症候群。あまり聞きなれないこの病気は、先天性魚鱗癬(せんてんせいぎょりんせん)と重度のアトピー性疾患、そして毛髪異常を伴うものです。愛知県に住むふゆきさんの娘さんは生後4カ月でこの病気であることが判明し、家族一丸となって、この病気に向き合う毎日を送っています。病気のことやお世話のこと、日々の暮らしでの苦労などについて聞きました。全2回インタビューの後編です。
「もう少しで命を落とすところだった」――。リスクを身近に感じた日
約100万人に1人と言われる病気「ネザートン症候群」であるふゆきさんの娘。この病気は、魚鱗癬という魚の鱗(うろこ)のようにかたく剝がれやすい皮膚に、重度のアトピー性疾患、そして毛髪の異常が特徴です。2~3時間ごとの頻回な保湿、朝夜の入浴が欠かせないなど毎日のケアだけでも相当な苦労がありますが、気温の高い夏や、乾燥しがちな冬はとくに気を遣うといいます。
「魚鱗癬だと、皮膚がすぐに乾燥するのでかゆみがあるのはもちろん、暑さに弱くて。汗をかけず、うまく体温調節ができないから、すぐに体温が上がって、熱中症も脱水症状も起こしやすい。また、皮膚のバリア機能もすごく低いので、感染症にも注意と言われています。
なので、夏はとくに体調を崩しやすい傾向があるし、汗をかけずに熱中症になるのが本当に怖くて、全然外に出られません。というのも、出かけた先が涼しくても、移動中が暑いだけで難しいんですよね。
車の場合、冷房で車内を冷やしておいても、10~15分ぐらいするとチャイルドシートに熱がこもっちゃうみたいで。娘は耳とかをかきむしっちゃって、血だらけになっちゃうほどなんです。だから、車には現状運転手と娘1人では乗れなくて、運転手とは別に大人が1人必要。そんなわけで、この子と2人でちょっと出かけるっていうのはまだできないですね。
冬は冬で、とても乾燥しているので、肌もすぐ乾いちゃうし、かゆみもでがちなので、室内では常に加湿器を使うなど気を使いますが、やっぱりいちばん大変なのは夏ですね」(ふゆきさん)
暑さや寒さといった季節の変化のほかにも、ふゆきさんが困っていることがあります。それは、娘さんの体のことでちょっと気になったことがあっても、近所の病院では、なかなか診てもらえないんです。
「ちょっと風邪かなと思っても、平熱が高くていつも熱があるみたいな状態なので、近所の病院だと発熱外来扱いになって診てもらえず、『大学病院に行ったほうが…』と言われて、どこにも受け入れてもらえないんですよね。
といっても、通っている大学病院は高速を使って車で1時間くらいかかるので、『ちょっと受診』ということがなかなかできないのが大変です。それに、さっきもお話ししたように、暑さから娘は車が苦手なので、毎月1~2回定期的に大学病院に通うときにも、夫に毎回仕事を休んでもらわなくちゃ行けない。気軽に受診できるところがあったらなと思います」(ふゆきさん)
赤ちゃんに気になる症状があったときに、すぐに医師に診てもらいたい、相談したいと思うのは、どのママ・パパも同じでしょう。ましてや、ただでさえリスクを抱えている赤ちゃん。いち早く誰かに相談したいと思うのは当然です。そして、ふゆきさんが不安な気持ちになってしまう理由はほかにもありました。
「実は、生後4カ月のころに、細菌感染をきっかけに脱水を起こし、高ナトリウム血症といって、体内のナトリウム濃度がすごく高い状態になってしまい、2カ月ほど入院したことがあったんです。入院前の2週間ほど、ミルクをすごく吐いていて心配で、週1で大学病院の小児科に連れて行っていたのですが、判明せずで…。
ある朝、ぐったりしていて38度以上の発熱もあったので、救急車を呼んだんです。そのとき、たまたま搬送された先が、PICU(小児集中治療室)のあるこども病院で、そこでの血液検査で高ナトリウム血症を起こしていることが判明。また、心内膜炎という心臓に細菌が感染している状態ということもわかりました。『もう少し遅かったら、命を落とすところだったよ』と言われ、本当に血の気が引く思いでした。
いつも診てもらっている大学病院ではなかなか血液検査をしないので、これ以来、小さなことでも血液検査をしてくれるようにお願いするようになりました。そうやって、私たちが積極的になってこの子を守っていかなくちゃいけないと感じたんです」(ふゆきさん)
娘の病気のことを1人でも多くの人に知ってほしい
何度かの入院、大学病院への通院を経て、今ふゆきさんの娘さんは1歳8カ月を迎えました。体は小さいですが、しっかりと歩けるようになり、今はお散歩するのが何よりも楽しいみたい、とふゆきさんは言います。成長がうれしい半面、成長することで心の問題が出てくることは、ふゆきさんが心配していることのひとつです。
「娘が大きくなって、自分の顔を認識するようになったら『どうして私だけ顔が赤いの?』と絶対に聞かれると思うんです。そのときはどうやって答えようかなと考えていますが、娘がどういう性格かにもよるので、まだうまくまとまっていないです。徐々に伝えてあげられればいいかな…。
魚鱗癬って、皮膚がちょっと違うだけで、ほかは普通の子と一緒なんです。でも、うつるんじゃないかと偏見を持っている人がたくさんいるんですよね。だから、いちばん伝えたいのは、魚鱗癬はうつりません!ということです。このことを1人でも多くの人が知ってくれたらと思います。
やっぱり、どこへ行ってもジロジロ見てくる人はいるんです。気になるのはわかるんですが、だったらジロジロ見るんじゃなくて、声をかけてくれればいいなと思うんです。
たまに「どうしたの?」とか「大丈夫?」「アトピーなの?」と声をかけてくださる方もいて、そうやって言ってくれれば病気のことも話せますし、うつる病気ではないことも伝えられるし。だから、あまりにもこちらを見てくる人に対しては、最近はこっちから『なんですか?』と話しかけて、『病気なんですよ』って伝えることもありますよ。親として、娘が生きていく未来が少しでも生きやすいといいなと思っていて…。
特別なことをするつもりはないですが、娘の病気を知ってもらうことが娘にとっていちばんなのかなと思い、今はブログで情報を発信しています。
ただ、本当にすごく目立つことでいい面もあって、たとえばお店の店員さんにとても覚えてもらえているんですね。お店に行くと「歩けるようになったんだね!」とか「すごく成長してるじゃん!」って店員さんによく声をかけてもらえていて。
そうやって、地域の人が娘のことをやさしく見守ってくださっているのを感じるし、地域の人とつながりができることは防犯にも役立つだろうし。そこはうれしいなと感じるところですね。
娘がもっと大きくなっていろいろとわかる年になったら、いろいろトラブルもあるかなとは思うので、そのときには私たちが娘やお友だちにきちんと教えてあげて、娘には、自分でもこういう病気なんだよってみんなに発信できる子になってほしいなとは思いますね」(ふゆきさん)
そう話すふゆきさん。実は今、身近な心配事が切迫しようとしています。それは保育園の問題。ふゆきさんは2026年春まで育休を取得予定で、2026年4月からは娘さんを保育園に入れて職場復帰をしたいと思っています。娘さんは、医療ケア児ではありませんが、日中の保湿ケアが欠かせないため、看護師のいる保育園がマスト。しかし、対応してくれる保育園がなかなかなさそうと言います。
「職場復帰をきっかけに引っ越しも考えているので、いい保育園があったら、その近くに引っ越してもいいと考えています。とにかく娘を預かってくれる保育園があるのかどうか、私たちが安心して預けられる保育園があるのかどうか、それが心配ですね。そのためにも、行政へのリサーチや相談は早めに動こうと思っています」(ふゆきさん)
また新たな一歩に向けて踏み出そうとしている、ふゆきさんファミリー。今後、娘さんに予定されている治療などはあるのでしょうか。
「魚鱗癬については、基本的に治療方法はなく、これからも対処療法である保湿を続けていくだけです。ただ、アトピー性疾患については、まだ治療を試すことができるかなと思っています。
少しでも症状が回復する見込みがあるなら、治験なども参加してみたいと思っています」(ふゆきさん)
1年8カ月前の出産まで、まさか娘が100万人に1人の病気だなんて、思いもしなかったはずのふゆきさん。今、妊娠中の方や育児中の方に伝えたいこととは――。
「妊娠中は身動きが取りづらかったり、つらかったりすることもあると思いますが、出産したらすごくかわいい子どもに会えるので、絶対に幸せな気持ちになれます!
そして、もしこの子みたいに病気の子が生まれてきたりしたら、最初はものすごくつらくて、本当にどうしようという気持ちになっちゃうと思うんですが、その子もいっぱい愛情をくれるので、大丈夫です!ただ、まわりのサポートはとても大事なので、いっぱい人に頼ってください。
そして、どんな病気でも患者会というのがあるはずなので、ぜひ参加してみてほしいです。私の場合、まだ子どもが話せないので、実際の患者さんに直接話を聞けたことですごく勇気をもらったし、本当に心が晴れました。病気のことを知らな過ぎて、途方に暮れていたところに、ちゃんと見通しが立った気がしたし、自分のしていることへの自信にもつながります。
だから近い将来、娘もきっともう少し肌の赤みはなくなってくるんだろうなと信じていますし、そのころには私ももう少しゆっくり寝られる日がくるといいなと思っています」(ふゆきさん)
お話・写真提供/ふゆきさん 取材・文/酒井有美、たまひよONLINE編集部
娘さんが少しでも生きやすい未来になってほしい、と願いつつ、そのためには自分で発信する力も持ってほしいと、娘さん自身にも未来を切り開くことを願っているふゆきさん。お話をしていると、若いけれどしっかりとしたお母さんであることを強く感じます。娘さんの病気で他人の冷たい目線を感じることを経験しながらも、娘さんを守るために自分の気持ちを鼓舞し、何よりも娘さんへの深い愛情を持って「お母さん」に成長されたからでしょう。眠れない日々も、大変なこともたくさんあったでしょうに、娘さんを見つめる優しい笑顔からは、それをみじんも感じませんでした。ふゆきさんファミリーの笑顔が続くような未来が待っていることを願うばかりです。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。
ふゆきさん
PROFILE
愛知県在住の1児の母で、現在、仕事は育休中。2023年生まれの娘が、魚鱗癬症候群の中の「ネザートン症候群」という、約100万人に1人と言われる難病を患っており、毎日むける皮膚と闘いながら育児に奮闘中。患者数も少ない病気のため、情報共有できればという思いでブログも執筆中。
参考文献
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年1月現在のものです。