松岡修造、「僕はいつも元気な人だと思われていますが、実はネガティブ」。家庭内では子どもたちから「前向き!前向き!」と声をかけられることも!?
いつも元気で明るいスポーツキャスターの松岡修造さん。どんなことにも全力投球で元気な印象です。そんな松岡さんが絵本『できるぞう できたぞう』を手がけました。なぜ松岡さんが絵本を手がけることになったのでしょうか? その経緯と思いを聞きました。
全2回インタビューの前編です。
主人公、オレンジのぞうにかける思い
――まずは絵本『できるぞう できたぞう』を手にして、今の率直な気持ちを聞かせてください。
松岡さん(以下敬称略) 企画が立ち上がったのは2年半前です。当初はさまざまな発想がありました。子どもたちに「できる」という思いをどういう形で伝えようか試行錯誤しました。今、絵本を手にして「やっとできたぞう」という思いでいっぱいです。
――主人公のオレンジのぞうにはどんな思いがありますか?
松岡 僕は常に元気な人だと思われていますが、実はネガティブなタイプなんです。でもオレンジ色を見ていると、前向きで元気になれるので、メンタルトレーニングのひとつとして、自身の生活の中にもオレンジ色を多く取り入れています。そして、ぞうは子どもたちが選ぶ好きな動物ランキングで必ず上位に入っています。僕の名前の中にも「ゾウ」が入っていることもあり、大好きな動物なので“オレンジのぞう”を主人公にしました。
――絵本を作るにあたってどんなところが大変でしたか?
松岡 日めくりカレンダーを作ったときも短い言葉でおもしろく、かつ印象に残る言葉選びに悩みました。絵本もシンプルな言葉でメッセージを伝えないといけませんが、僕はどうしても説明したくなってしまうので、そこのジレンマはありました。
――現在はSNSや動画でもメッセージを発信できる時代ですが、なぜ今、絵本を出版しようと思ったのでしょうか?
松岡 僕自身、3人の子どもがいますが、子どもたちを育てるうえで、絵本に助けられたという思いがあるからです。絵本を通して子どもたちと会話し、思いを共有できました。毎日、子どもたちに絵本を読んでほしいと言われ、僕も一所懸命読みました。そして、親子で笑顔になれたことが今も心の中に残っています。
読み聞かせの途中で、子どもたちからクレームが入ることも・・・。
――松岡さん流の読み聞かせのコツはありますか?
松岡 絵本には軸があります。その軸を子どもにどう伝えるかが大事だと思います。僕の場合、初めて読むときはそのまま読みますが、2回目、3回目はその軸はぶらさず、アレンジをしていました。たとえば主人公の名前を子どもの名前に変えたり、言葉を少し変えてみたり。そして、「ここを1番とらえてほしい」というところでは、とても小さな声でゆっくり話す。子どもはギャップに注目するので、声に抑揚をつけることを意識していました。
――アレンジを加えれば子どもたちも飽きることがなさそうです。
松岡 何回も読んでいくと、子どもたちも次の展開がわかっているので、逆に僕から「次はどうなる?」と質問したりしました。絵本を活用しながら、子どもたちの記憶力や想像力を引き出していくような感じです。「自分なりの絵本」にアレンジしながら子どもたちとの時間を楽しんでいました。ただ、クレームが入ることもありましたね。
――どんなクレームですか?
松岡 僕が読みながら寝てしまうんです(笑)。子どもたちは続きが気になるから、泣きながら「読んで!読んで!」と。その声で起きてまた読む・・・でも、疲れているのでまたウトウトしてしまう・・・なんてこともありました。
「自分ならできる」と前向きな感覚は、ほとんどない
――松岡さんの3人の子どもたちが幼少期のころ、どのような絵本を読んでいましたか?
松岡 妻が図書館で大量に絵本を借りてきてくれていたので、その中から選んで読んでいました。いちばん上と末っ子が5歳違うので、絵本を選ぶときは、今日は上の子の年齢に合ったものを、明日は下の子に・・・というふうに分けたり、2冊読んだり。たくさんの絵本を読みましたが、中でも世界的に有名な「にじいろのさかな」は印象に残っています。
――子どもから見た松岡さんはどんなお父さんなのでしょうか?
松岡 世間の方が持ってくれている僕のイメージは明るくて元気かもしれません。でも実は、家の中での僕はどちらかというと弱気でネガティブなタイプです。だから、今では子どもたちから「またネガティブぞうがはじまった」とか、「たんき、よわき、ネガティブぞう」なんて言われて、「前向き!前向き」と、ポジティブになるように声をかけてくれます。
今回の絵本発売記念イベントの前も、うまくできるかどうか不安で、家で読み聞かせの練習をしたり、声の調子を変えたシミュレーションを何度も何度も試していると、二女が励ましてくれました。
――幼いころから、どちらかというと後ろ向きだったんでしょうか?
松岡 そうですね、自信満々で「自分ならできる」という前向きな感覚はないに等しかったですね。でも「できない」と思う感覚や弱さは悪いことではないと思っています。「自分はなんでもできる」と思うよりも、できないからこそ頑張ろうというパワーがよりみなぎってくる。そして、ここぞという時に、もっと大きな力を発揮できると思っています。
今では子どもたちに背中を押してもらうことも
――松岡さんが、自身の子育てにおいて気をつけていたこと、心がけていたことについて教えてください。
松岡 親であっても、間違えたら「ごめんね」と謝ることは徹底していました。ちょっと強く言いすぎたなと思ったら謝ることも。当時は、子育て本をたくさん読んで勉強もしましたが、親としてちゃんとできていたかというと疑問が残ります。
――子育て関連の本を読んでいたんですね。
松岡 かなりの数の本を読みました。それでも本の中に書いてあるような行動ができたかというと、できていなかったように思います。家族だから気を許してしまい、甘えていた部分もありましたね。子どもたちにたくさん苦労をかけてきました。
――3人の子どもたちはどのように成長していますか。
松岡 相田みつをさんの言葉に「育てたように子は育つ」という言葉がありますが、この言葉が僕の心にいつも刺さっています。子どもたちは僕と妻の思いを自分なりに感じとってスクスクと育ってくれました。今では子どもたちに背中を押してもらうことのほうが多いので、頼もしい存在です。子育てを通して自分という人間も成長できたように感じています。
お話/松岡修造さん 取材・文/安田ナナ、たまひよONLINE編集部
自身の子育てについて熱心に語ってくれた松岡さん。子どもたちが小さいころは子育て関連の本をたくさん読んで学んでいたようです。「親であっても間違えたら『ごめんね』と謝る」という姿勢は大切なことではないでしょうか。
松岡修造さん(まつおか しゅうぞう)
PROFILE
元プロテニス選手。1967年11月生まれ。東京都出身。1995年のウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりとなるベスト8進出を果たすなど、日本を代表するプロテニスプレーヤーとして活躍。その後、男子ジュニア強化プロジェクト「修造チャレンジ」を立ち上げ、ジュニアの育成とテニス界の発展のために尽力する一方、メディアでも幅広く活躍している。
●記事の内容は2025年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『できるぞう できたぞう』
松岡修造さんの初の絵本。松岡さん自身の体験をもとに、子どもたちが成長する中でぶつかるさまざまな「できない」ことを「できる!」にするヒントが詰まっている。子どもはもちろん子育てに悩む親世代にも。作・松岡修造 絵・ふくながじゅんぺい/1650円(文化工房)
絵本『できるぞう できたぞう』公式サイトhttps://dekiruzo.jp/