松岡修造、子どもは3人とも立ち会い出産で、妻を全力応援。でも「出産中に妻がぎゅっと握った手は、僕ではなく看護師さんの手だった!」
元プロテニスプレイヤーで、現在はスポーツキャスターの松岡修造さん。すでに子どもたちは成人していますが、一男二女の父です。今回たまひよONLINEではそんな松岡さんに奥さんの出産時のことを振り返ってもらいました。また、自身の子ども時代の話も。全2回インタビューの後編です。
それぞれドラマがあった3人の子の出産
――松岡さんは自身の子どもが生まれるときに、立ち会いをしましたか?
松岡さん(以下敬称略) 妻のたっての希望だったので、出産には立ち会いました。子どもは長女、長男、二女と3人いますが、3人とも立ち会えたものの、それぞれタイミングが大変でした。長女のときは、出産予定日がアメリカ出張の出発の時期と重なったので、なるべく早く生まれてほしいということで、夫婦2人で階段を上り下りしたり、歩いたり体を動かしたり。長女も僕たちの思いを感じたのか、どうにか出張前に生まれてきてくれました。
――2人目の出産時はどうでしたか?
松岡 2人目のときも、出産予定日が海外出張と重なっていました。ただ、今度は帰国する時期と重なっていたので、1人目とは逆に、ゆっくり生まれてきてくれれば立ち会えるかもしれない。ということで、僕がアメリカから帰ってくるまで、妻にはいっさい動かないでいてほしいと伝えていました。すると、僕が帰ってくるまで、長男は生まれてくるのを待ってくれて、帰国してから、また2人で階段の上り下りをしたりして、無事に出産を迎えることができました。
3人目は、出張と重なることはなかったので、万全の体制で臨みました。でも、出産時に妻を応援しすぎて、僕の定番の「できる!Tシャツ」を何枚も着替えることに。
ただ、妻からは「余計な声かけはしないで!」と言われていたので、なるべく黙って静かに応援していました(笑)。そして、いよいよ赤ちゃんが生まれてくるというときに、妻がぎゅっと握ったのは、僕ではなく…看護師さんの手でした。看護師さんは偉大です!
――3人の子どもの出産時、それぞれ大変だったわけですね。
松岡 とくに2人目の出産時が大変そうでした。あまり動かない状態で過ごしていたので、そこからの出産はかなりつらかったようで、妻も赤ちゃんも苦しかったと思います。
ただ、妻の「立ち会ってほしい」という言葉のおかげで、3人の子どもの出産に立ち会うことができました。貴重な体験をさせてくれた妻には感謝しています。
だれかを応援することで自分の価値観に変化が生まれる
――松岡さんの長女は、宝塚歌劇団で活躍中です。3人の子どもがそれぞれ夢に向かって歩んでいっていると思いますが、どのように応援、サポートしていたのでしょうか?
松岡 僕はラッキーなことに好きなように人生を歩んできました。とはいえ、プロテニスプレイヤー時代はけがに苦しんだり、成績が思うようにふるわなかったりと、つらく感じることもありました。でも今思えば、それもひとつの通過点でしかなかったように思います。その経験を踏まえて、子どもたちが苦しんでいるときこそ、よく声をかけるようにしています。
――どんなふうに声をかけますか?
松岡 「つらいよね。でもこれを乗り越えれば成長するから」や、「しんどいとは思うけれど、この困難にしっかり向き合って」というふうな感じですね。そして、子どもが明確な答えを探しているようであれば、もっと具体的なアドバイスもします。子どもが自らの力で答えを導くことができるように、紙とペンを用意して、話を聞きながら悩みの交通整理をしていきます。苦難に立ち向かっているときこそ人は成長します。できる、できないではなく、向き合うことの大切さを話すようにしていますね。
――松岡さんといえば、「コミュニケーション能力」、「元気」というイメージがあります。また、だれかを全力で応援する姿も印象的です。
松岡 現役時代は「頑張れ、修造!」と自分自身のことを常に応援し、勝負していました。でも現役を退いてからは、自分のことを奮い立たせる必要がなくなったので、そこからは、だれかを応援しようと思うようになりました。自分が応援したことで、少しでも相手の変化が見られると、自分の価値観もプラスされていくような感覚になり、今は応援することが生きがいになっています。
――仲間を応援する気持ちの大切さを今の子どもたちにどんなふうに教えていけばいいでしょうか?
松岡 子どもに対して「友だちを自分ごとのように応援しよう」と伝えてもなかなか難しいと思います。なぜなら、応援する気持ちは、自然とその人の心の中からわき出てくる感情なので、強制的に応援させるのは違うと思っています。
応援する意味を理解するには、自分が応援してもらったときがチャンスです。仲間に応援してもらってうれしい、頑張れた、という経験をすると、次は自分が応援しようと自然に感じるものです。仲間を応援する気持ちが芽生えると、自分の成長や力にもつながっていくと思いますね。
子どものころは先生に変わって授業をする「まわりとはちょっと違う子」だった
――松岡さん自身の子ども時代のことを教えてください。どんな性格の子どもでしたか?
松岡 今振り返ると、僕はまわりにいる子たちとはちょっと違う行動を取るような子どもでした。そして、いつも元気で明るい子どもだったので、学校の中ではいろんな意味で目立っていたと思います。そんな中、小学6年生のときに、ある女の子が「修造は太陽みたいだね」と言ってくれたんです。これほどうれしい言葉はありませんでした。「太陽のようにみんなを笑顔で照らしている」と前向きにとりました。だから、僕は太陽でい続けようと思えるようになったんです。
――「太陽みたいだね」なんてすてきな言葉ですね。
松岡 まわりの人から、見た目も中身も太陽のような人と思われていたかもしれませんが、実は、根はそうではありません。どちらかというと、中身のネガティブさを燃料にして、燃やしている状態でしたね。そういう経験をしたことで、弱さは強さなんだということにも気づきました。
とはいえ、授業中、先生がいるのに勝手に授業をしたり、目立った行動をしたりしていたので、先生からはウザがられていたと思います(笑)
「清く正しく美しく」そして「朗らかに」
――松岡さんの両親は、松岡さんにどのような子育てをしていましたか?
松岡 とにかく自由でした。高校のときにアメリカに行きたいと言えば、普通は「ちょっと待て」と言うと思います。でも父は、「そうか」とひと言だけ言って、あとは僕に任せてくれていました。自分も父親になって当時の父親のことを想像すると、子どもの自主性をとことん信じてくれていたんだと思います。
母は元タカラジェンヌなので、「清く正しく美しく」そして「朗らかに」という宝塚のモットーを大事にしている人でした。「清く正しく美しく」という言葉がよく知られていますが、小林一三先生は、その前に「朗らかに」をつけていたんです。母がとくに大切にしていたのも、この「朗らかに」だったので、子どもに対してガミガミ言うことはなく、常に朗らかでした。なので、母の口から「〇〇してはダメ」というような強い言葉は聞いたことがありません。
――自宅でしかられることはなかったのですか?
松岡 僕は学校で勝手なことをたくさんしていたので、母は学校に呼び出されることもあって大変だったと思います。他人に迷惑をかけてしまったときはしかられましたが、テストの点数が悪い、勉強をしない、テニスの試合で学校を休むことなどはしかることはなく「好きにしたらいいわよ」という感じだったので、しかられた記憶はほぼないですね。
――松岡さんは、子どもたちをしかることはありますか?
松岡 それはしっかりしかります(笑)。だから、僕が「親」に抱いているイメージと、僕の子どもたちが抱いている「親」の印象はまるで違うと思います。
なので、子どもたちには、僕が家でイライラしていたり、理不尽なしかり方をしていたら、そのときはしっかり僕に注意をしてほしいと伝えています。
修造流、家庭円満の秘訣は、家族を信じ、自分の機嫌は自分でとる
――松岡さん自身3人の子の父親でもありますが、最近の育休を取る男性(パパ育休)、社会の変化などについてどのようにとらえていらっしゃいますか?
松岡 僕の時代は、父親が育休を取ることは常識的になかなかありえなかったでしょう。だから時代が変わったなと感じています。選択肢が増えて、父親も育休を取れるようになってきたのはいい流れですね。ただ、家庭によって事情はいろいろあると思うので、その家庭で話し合って育休を取るかどうかを決めることが大事だと思います。
――4月には、ドジャースの大谷翔平選手が第1子の出産に立ち会うためにチームを一時的に離脱したことが報道されていました。
松岡 今の時代、影響力のある方が育休を取ると話題になります。社会的に取得しやすい流れになっているのはいいと思いますが、このときに気をつけたいのは、「〇〇が取ったから取る」、逆に「〇〇が取っていないから取らない」という考え方はしないほうがいいということ。あくまでも自分の家族ときちんと話し合い、家庭の状況を見て取得するかどうかを判断したほうがいいと思います。
――松岡さんの子どもが小さいころと今の育児を比べても、だいぶ変わったように感じますか?
松岡 育休の制度もそうですが、子どもとのかかわり方やしかり方なども大きく変わったと思います。
――多くのファミリーが笑顔で子育てすることができるようになるには、どんなことが大切だと考えますか?
松岡 家族みんながおたがいを信じる気持ちが大切だと思います。親は子どもに対して何があっても守るという気持ちを伝え、子どもは何かあれば親を頼っていいんだと思える。おたがいを信じる気持ちがあれば、その家族は笑顔で毎日を過ごしていけると思います。
しかし、目に見えない「信じる」という気持ちを継続するのはなかなか難しいものです。僕も家族に対して「どうしてこんな嫌みを言ってしまったんだろう」と後悔することもあります。そんなときは「自分の機嫌は自分でとる」ということに立ち返り、自分の気持ちをコントロールするようにしています。
さぁ、みなさんも自分の機嫌は自分でとりながら、家族を信じるという気持ちを大切に、毎日を笑顔で過ごしていきましょう。
お話・写真提供/松岡修造さん 取材・文/安田ナナ、たまひよONLINE編集部
どんな質問にも全力投球で答えてくれた松岡さん。家族への強い愛情を感じました。また、自分との向き合い方のヒントもたくさんいただきました。
松岡修造さん(まつおか しゅうぞう)
PROFILE
元プロテニス選手。 1967年11月生まれ。東京都出身。1995年のウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりとなるベスト8進出を果たすなど、日本を代表するプロテニスプレーヤーとして活躍。その後、男子ジュニア強化プロジェクト「修造チャレンジ」を立ち上げ、ジュニアの育成とテニス界の発展のために尽力する一方、メディアでも幅広く活躍している。
●記事の内容は2025年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『できるぞう できたぞう』
松岡修造さんの初の絵本。松岡さん自身の体験をもとに、子どもたちが成長する中でブルカるさまざまな「できない」ことを「できる!」にするヒントが詰まっている。子どもはもちろん子育てに悩む親世代にも。作・松岡修造 絵・ふくながじゅんぺい/1650円(文化工房)
絵本『できるぞう できたぞう』公式サイトhttps://dekiruzo.jp/