救急医療の現場から#3〜忙しい日に限って!ガスコンロの魚焼きグリルでのやけど
ronstik/gettyimages
年度初めの4月はいろいろな行事があったりして、気忙しいもの。そういう雰囲気は赤ちゃんや子どもに伝わりやすく、ひいては事故が起こりやすくなる傾向があるようです。ここでは、忙しくしていたママにまとわりついてきた2歳の子が魚焼きグリルに触って腕にやけどを負った症例を、北九州八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長である市川光太郎先生に、紹介いただきました。
関連:救急医療の現場から#2〜コードにつまずき電気ケトルを倒してやけど!
左腕の手首〜ひじ付近がやけどで水疱が破けた状態に
「2歳の男の子で、前腕外側を熱傷し、母親の話からは水疱(すいほう)が破けていて、Ⅱ度熱傷(表皮や角質を越えた熱傷)のようです。搬送していいですか?」とホットラインからの連絡があった。冷やしながらすぐに搬送するように指示して待つことにした。
「どうしてやけどしたのだろうか? 成傷器(せいしょうき・熱源器)はなんだろうか?」と考えている間に救急車が到着した。ちょっと落ち着きのない感じの男の子が、キョロキョロしながら、母親と一緒に救急車から降りてきた。
すぐに救急室で診察すると、確かに左前腕外側部がひじの下のほうから手首近くまでやけどしていた。やけどの程度はまばらではなく、どちらかと言えば全体的に同程度だが、境界は不明瞭だった。すぐに熱傷面を消毒して、治療用の保護材の使用を指示したが、念のために形成外科医に連絡をとり、助言をもらうように研修医に告げ、母親から話を聞くことにした」
調理中の母親にまとわりつき、熱いグリルの窓に腕が!
「今日は地域の文化活動会があったので、昼のお弁当を作ったり、いつもと違って朝からバタバタしている感じがありました。この子もいつもと違うのがわかってか、落ち着かない感じで興奮していて“危ない!“などと何度も言い聞かせないといけない様子があり、困ったな〜と思っていました。
お弁当のおかずに魚をガスコンロのグリルで焼いていたときでした。とうとう、危ないという制止を振りきって、私にまとわりついてきたんです。本人が甘えて私に手を伸ばした高さにちょうどグリルのガラス窓があって、危ないと思う間もなく、腕がガラス窓に触れて、やけどしました。腕がグリルから吸いついて離れない感じで、一定の時間、ガラスと接触したままになってしまった気がします。あわてて離すと、水疱になっていて、水疱はすぐに破れてしまいました。急いで流水で冷やし救急車を呼びました。グリルのガラス窓があんなに熱くなるとはまったく知りませんでした。
日ごろから危ないと注意して、キッチンには入らないように言い聞かせていたのですが…」母親は、後悔をにじませながら語った。
形成外科医からも「消毒と被覆材(ひふくざい・傷口を保護し治癒力を高めるために覆うもの) 塗布(とふ)で外来通院治療でいいでしょう」と助言をもらい、母親には、毎日、包帯交換に来てもらうことをお願いし、納得してもらった。
処置が終了し、母親がほっとしたところで、やけどやけがが起こりやすい状況について、母親と確認し合った。
日ごろと違う行事の日など、保護者の注意も散漫となり、子ども自身も興奮していることが多く、家庭内事故(予防可能な傷害)が起こりやすい。また、祖父母宅など環境が違っても、けがが起こりやすい。見た目は熱くなっているように見えないグリルのガラス窓でのやけども、少なくない。制止の言葉かけばかりで対応していると、子どもが我慢できなくなって、逆に親にまとわりつきやすくなる。そんなときにはいったん家事を中断して、台所から離れてひと呼吸おき、抱き締めながら、危ないこと、もう少し待つこと、離れたところで遊ぶことなどを言い聞かせる必要がある。
母親は、神妙な顔つきで、今後は気をつけることを約束してくれた。
やけどの応急処置は?
魚焼きグリルは、子どもがやけどをしやすい場所です。
魚焼きグリルのガラス窓は子どもがちょうど手をつきやすい高さで、やけどをしやすい場所。また、見た目に熱さを感じにくく、熱さを本能的に避ける行動をとりにくくなり、接触時間が長く、症状がひどくなりやすい傾向も。台所はやけどが大変起こりやすいので、4~5歳までは不用意に入れないことが大原則です。
1. 熱傷は軽症に見えてもほうっておくと悪化しやすいもの。必ず冷やし、すぐに受診しましょう。
2. やけどを負った部位を心臓より高く上げると痛みが軽減します。やけどは痛みが強いので、痛みを軽減させて受診しましょう。
3. 水疱は破らないこと。自己判断での民間療法は厳禁。関節部のやけどや広範囲にやけどした場合は、救急車を呼びましょう。
関連:【専門家に聞く】低月齢時期に起こりがちな室内事故から、赤ちゃんを守るには?
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
※監修者情報を補足・修正しました。(2021/11/10)