低出生体重児、早産児の特徴は?どんなことに気をつけなければいけないの?
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体が小さく未発達なまま生まれてくるため、早産の低出生体重児はさまざまな点で未熟です。しかし、NICUで適切なケアや治療を行うことでしだいに成熟していきます。一方、正期産で生まれても胎児期の発育が抑制されて低出生体重児として生まれた赤ちゃんは、早産で小さく生まれた赤ちゃんとは異なる問題があります。
在胎週数によって備わる機能が異なる
ママのおなかの中にいる期間(在胎週数)が短いほど、体の機能が未発達なまま生まれてきます。
在胎期間1週間の違いが大きな差になることも
正期産児とは、37週~42週未満で生まれた赤ちゃんをいいます。新生児の合併症の発生が最も少ない時期です。在胎22週~37週未満の早産児であっても、在胎週数が長いほど、より成熟していきます。しかし36週で生まれても37週の赤ちゃんに比べれば未熟です。最近の研究では、正期産でさえも39~40週で生まれた赤ちゃんに比べて、37週、38週の赤ちゃんでは新生児期のトラブルが起こりやすいことが報告されています。
正期産で生まれた低出生体重児もリスクがある
何らかの原因でおなかの中で大きくなれず、小さいまま生まれてきた低出生体重児は、たとえ正期産であっても低血糖や多血症といった合併症を持つことがあります。
低出生体重児や早産児の赤ちゃんに必要なサポートとは
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低出生体重児や早産児の赤ちゃんが元気に育つためには、さまざまな治療やケアが必要です。これらを理解し、医療者とともに赤ちゃんを支援していきましょう。
呼吸や体温の調節を助け、黄疸を治療
●酸素投与をしたり、人工呼吸器を使うことがあります
32週より前に生まれた赤ちゃんは呼吸機能が未発達です。肺での酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する役割を持つ「肺胞」がつぶれしまうことを防ぐ、「肺表面活性物質(はいひょうめんかっせいぶっしつ)」(肺サーファクタントともいいいます)が完全にはつくられていないために起こる「呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)」や、胎児期に肺胞に充満している「肺水」という液体を、生まれたあとにスムーズに取りのぞけないために起こる「新生児一過性多呼吸(しんせいじいっかせいたこきゅう)」、脳での呼吸調節が未熟なために起こる「未熟児無呼吸発作(みじゅくじむこきゅうほっさ)」などを起こしやすくなります。そのほか、重篤な感染症や低血糖でも呼吸状態が不安定になります。このような場合に酸素投与や人工呼吸器による呼吸の補助が必要になることがあります。なお、未熟児無呼吸発作は、人工呼吸を行う前にカフェインや低濃度酸素投与で治療を行います。
●保育器で過ごします
早産児で在胎期間が短いほど皮膚が未熟で、皮下脂肪も薄くなります。さらに、早産児はエネルギーの備蓄も乏しいという特徴があります。そのため、通常の室内の温度や湿度環境のもとでは、未熟な皮膚からは大量の水分が失われ、体温も奪われます。体温の低下を防ごうと、赤ちゃんが体内でエネルギーを消費して熱を生み出しますが、その結果、乏しいエネルギー備蓄はすぐになくなってしまい、やがて低体温になってしまいます。保育器は、温度環境と湿度を提供する機器ですが、それは赤ちゃんのエネルギー消費量を最小限に保つために欠かすことができません。ただし、保育器の温度や湿度環境は常に一定というわけでなく、在胎週数や生後日数によって異なります。保育器を出る時期は、それぞれの赤ちゃんの状態によっても異なりますが、修正週数34週以後が1つの目安です。
●母乳やミルクをチューブで与えます
在胎34週未満の早産の赤ちゃんや、呼吸障害があり自力で飲めないか、あるいは口から授乳すると誤嚥(ごえん)の危険性がある場合には、鼻や口から胃にチューブを差し込んで栄養を与えます。これを経管栄養といいます。経管栄養が必要な赤ちゃんは、最初から十分な量の母乳やミルクを与えることが難しいので、点滴を併用して不足する水分や栄養を補います。母乳を介して免疫成分を与えることができるので、赤ちゃんを感染から防ぐため、できるだけ母乳を用いた経管栄養を行います。出生体重が1500g未満の赤ちゃんでは、1カ月もすると母乳単独ではたんぱく質やカルシウム、リンが明らかに不足するので、母乳強化物質を加えた強化母乳栄養を行います。赤ちゃんがNICUに入院した場合に、退院後ママは自宅で搾乳し冷凍庫で凍らせた母乳をNICUに持っていき、適宜解凍して与えます。
●黄疸を治療します
低出生体重児は肝機能が未発達なうえ、ビリルビンと結合するアルブミンという物質が少ないことで、結合できないビリルビンが脳内に侵入し、神経細胞の傷害を引き起こしやすいなどの理由で、正期産児より低い血中ビリルビンのレベルで光線療法による治療が必要になります。
●未熟児網膜症の検査が必要です
未熟児網膜症とは、網膜の血管が過剰に増加し、最悪の場合には網膜がはがれ、時に高度の視力低下や失明に至る病気です。在胎34週未満、または出生体重1800g未満の赤ちゃんは、必ず眼底検査を行います。それ以上の赤ちゃんでも酸素投与や人工呼吸器が必要であった場合は、眼底検査を行います。未熟児網膜症の多くが自然に治癒しますが、網膜の剝離を抑えるためにレーザーによる光凝固が必要になることがあります。
感染症への対策が必要
早産児はママから免疫物質を十分にもらう前に生まれます。そのうえ、自分自身で免疫物質をつくり出す力も弱く、病気と闘ってくれる白血球の働きも不十分で、さらには皮膚が未熟で細菌が容易に侵入しやすい状態です。また、人工呼吸器をつけていると空気の通り道である気道の病原体を排除する機能も低下します。そのため、細菌やウイルスに感染しやすく、また、感染すると重症になりやすい特徴があります。早く生まれるほどNICUを退院してもこの傾向がしばらく続くため、注意が必要です。
出生時の体重に戻るまで時間がかかる
正期産で生まれた赤ちゃんは、生まれたあと自然と体重が減ります(生理的体重減少)。減る量はおおよそ出生体重の10%未満です。赤ちゃんは細胞以外に含まれる水分量(細胞外液)が多く、これが減少した結果です。授乳量が増えていけば生後1~2週間までに生まれたときの体重に戻り、その後増加していきます。
早産児の赤ちゃんは、正期産児以上に細胞外液量が多いので、出生体重の10%以上の体重減少がしばしばみられます。しかし、体重の減りがあまりに多いときは、細胞外液の減少だけではなく、乏しい栄養素の蓄積も減っている可能性があります。そうなると出生体重に戻る期間が長くなり、その結果予定日あたりになっても正期産の新生児よりも小柄な状態が起こります。さらに、NICU退院後の成長や発達にも影響を及ぼす可能性が高くなります。このような状態は在胎週数が短い赤ちゃんほど、また胎児発育不全が高度なほどはっきり現れます。
健全な発育にディベロップメンタルケアが大事です
胎児は、子宮内で外界からのさまざまなストレスから守られて育ちますが、早産で生まれた赤ちゃんは未熟な上にさまざまな外界のストレスにさらされやすい環境で育てられる状態です。未熟なためにストレスに対応する能力が十分に備わっていないと、強いストレスを繰り返し受けることで、早産児や低出生体重児の赤ちゃんの成長や発達に影響することが知られています。そのため、NICUでは光や音、痛み、姿勢などに配慮してケアが行われています。これを「ディベロップメンタルケア」といいます。カンガルーケアや赤ちゃんへのタッチ、声かけなどは両親が参加できる重要なディベロップメンタルケアの一つです。
「NICUで赤ちゃんと対面したときに感じたこと」体験談
早産児や低出生体重児で生まれたわが子と、NICUで初めて対面したとき、ママやパパはどう感じたのでしょうか。実際に赤ちゃんがNICUの入院を経験したママにコメントをいただきました。
●この子のために強い母親になろう!と思いました
こんなに小さいのに一生懸命生きようと頑張ってくれている姿に励まされました。小さく産んでしまって申し訳ない…早くおっぱいをあげたいと思いました。「いつまでも悩んでいられない、この子のためにも強い母親にならなくては」とも思いました。(2才男の子、出生体重:1531g、在胎週数:34週0日)
●少し動くだけでうれしかったです
小さくてとてもかわいかったです。かわいいけれど、細くて小さすぎて涙が出ました。衛生的に涙や鼻水が出るとよくないと思いつつも、止められませんでした。少し動くだけでうれしくて、たくさん写真を撮りました。ただ、最初は人工呼吸器や両足、手に点滴をしていて体中が管だらけで、かわいそうと思ってしまいました。(1才男の子、出生体重:694g、在胎週数:28週2日)
●小さいながらも生きていると実感
手のひらに乗るくらいとても小さくて、肌が透き通っていました。さまざまなチューブにつながれていましたが、心臓がぴくぴくしていて小さいながらも生きているんだなと実感しました。最初は怖くて触れることができませんでした。(5才8カ月男の子、出生体重:905g、在胎週数26週3日)
●うれしさはあとからだんだんと感じるように
想像よりもはるかに小さかったために、うれしさよりも申し訳ない気持ちや心配になる気持ちのほうが強かったです。うれしさはあとからだんだん実感していきました。(2才2カ月女の子、出生体重:1708g、在胎週数:38週1日)
●顔を見てとにかくほっとしました
たくさんの管につながれている、なんて小さいのだろう、頑張って生きてる、保育器に入っていて外には出られない、いつ抱っこできるのかな、と思いました。出産後、数分抱っこしたらすぐに引き離されNICUに入ってしまったので、やっと落ち着いて顔を見たときは、とにかくほっとしました。(3才10カ月女の子、出生体重:2148g、在胎週数:35週5日)
医療的サポートが終了し、おうちに帰れる日を目標に、赤ちゃんは小さな体で頑張っています。NICUに入院している赤ちゃんのママやパパは、ぜひ赤ちゃんに積極的に触れ、声をかけ、応援してあげてくださいね。(取材・文/東 裕美、ひよこクラブ編集部)
監修
板橋家頭夫先生
昭和大学病院病院長。専門は、小児科学、新生児学。極低出生体重児の成長・栄養管理に詳しく、低出生体重児・早産児の生活習慣病リスクを研究。赤ちゃんや家族の幸せをモットーに診療をされています。