低出生体重児、早産児とは? どんなリスクがあるの?
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低出生体重児や早産児には、どのようなリスクがあるのかを理解し、適切なケアを行うことが、赤ちゃんの健やかな成長を促します。
低出生体重児とは?
「低出生体重児」あるいは「早産児」は、どのようにわけられているのでしょうか。
「低出生体重児」は生まれたときの体重によって区分する呼び方
低出生体重児とは、生まれるまでの妊娠期間にかかわらず出生体重が2500g未満の新生児のことを指します。何らかの事情で出産が早まり、早産(妊娠22週目以降37週未満)で生まれた場合や、妊娠期間が37週以上であっても子宮内での発育が抑制された場合に低出生体重児となります。
<出生体重による区分>
・出生時の体重が2500g未満の赤ちゃん:低出生体重児
・出生時の体重が1500g未満の赤ちゃん:極低出生体重児
・出生時の体重が1000g未満の赤ちゃん:超低出生体重児
周産期医療の進歩によって、1500g~2500gで生まれた赤ちゃんの多くが、正期産(※)で生まれた赤ちゃんと同じように育ちます。また、医療の進歩によって500g程度で生まれた赤ちゃんも育つようになりました。
※正期産とは:出産予定日前後の妊娠37週0日〜妊娠41週6日までの間の出産。この時期に生まれた赤ちゃんは、普通、体の機能も十分に成熟しています。
「早産児」は在胎週数による呼び方
赤ちゃんが子宮内にいた期間(週数)を在胎といい、通常、週数で表します。在胎週数は、出生体重より生まれてきた赤ちゃんの成熟度(あるいは未熟性)と強く関連します。予定日の在胎週数は40週0日となります。
「早産児」は、赤ちゃんが22週0日以上37週0日未満(=36週6日まで)の間おなかの中にいて、生まれたことを意味します。早産で生まれても、出生体重が2500gを越えていることもあります。なお、22週未満は生存の可能性が極めて低いために、早産とはいわずに「流産」と定義されています。
<出産の時期による区分>
22週~37週未満:早産児
22~28週未満:超早産児
28~34週未満:極早産児
28~37週未満:後期早産児
37週~42週未満:正期産児
42週以降:過期産児
在胎期間と出生体重の区分を併用して用いると、生まれたときの赤ちゃんの状態がわかりやすくなります。たとえば、在胎が34週で、出生体重が1800gであれば、早産低出生体重児といい、在胎が38週で出生体重が2400gの場合には正期産低出生体重児といいます。
※一般に、体の機能が子宮外で生活できるほどに成熟した在胎週数37週以降に生まれ、出生体重が2500g以上の赤ちゃんのことを「成熟児」ということもあります。成熟児と相対する言葉が未熟児です。未熟児とは文字通り未熟な赤ちゃんのことですが、実は生まれたときの体重が多少小さいからといっても、必ずしも未熟とは限らず、体の機能が成熟している場合もあります。そのため、医学用語ではなく、慣用語として用いられています。成熟児も同様に慣用語として用いられています。
日本の低出生体重児の出生率は、先進国中トップクラスの高さ
日本では、1980年代以後「低出生体重児」「早産児」ともに年々増加し、2000年代になって横ばいとなりました。2015年の国内の低出生体重児の割合は9.5%、早産児は5.6%となっています。開発途上国では経済状態や衛生状態の影響で低出生体重児の出生率が高く、乳児死亡率も高いのですが、日本の低出生体重児の出生率の高さは先進国の中で突出して高いにもかかわらず乳児死亡率が極めて低いという特異な状況です。なぜ日本で低出生体重児の出生率が高いのか明らかにはされていませんが、女性のやせや高齢出産が多いこと、受動喫煙を含めたたばこの影響によって子宮内の発育が抑制されていることなどが推測されています。
低出生体重児や早産児になる原因は?
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近年、低出生体重や早産で生まれてくる赤ちゃんが増えています。どのような原因で、赤ちゃんが小さく生まれてくるのでしょうか。
早産はさまざまな理由で起こります
早産には自然に起きるものと、医学的な理由で人為的に起こされるものがあります。
●自然早産と関連する要因
①家族歴や生活習慣、社会的背景
母や姉妹の早産歴、若年・高齢妊娠、貧困、低学歴、飲酒・喫煙、長時間・過重労働、やせ、ストレス、うつなど
②妊娠中の要因
絨毛膜羊膜炎、細菌性腟症、感染症(歯周病、クラミジア、尿路感染症、肺炎など)、子宮の形態異常、多胎、羊水過多症、子宮頸管無力症、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、生殖補助医療による妊娠など
③既往妊娠・分娩歴
早産・流産・死産の既往、短い妊娠間隔(過去の妊娠終了から6カ月未満)など
●人工的に早産が選択される状況
①母体のトラブルにより、妊娠の継続が妊婦さんの命に危険を及ぼす場合
・妊娠によるトラブル(妊娠高血圧症候群、前置胎盤、常位胎盤早期剝離など)
・母体合併症(妊婦さんにもともと心疾患、腎疾患などの持病がある場合)
・多胎妊娠
②子宮内での胎児の状況が悪化し、妊娠を継続するより、早めに出産して新生児治療を行ったほうがいい場合
・母体感染、母体疲労
低出生体重児は、早く生まれる場合と子宮内での発育が制限された場合が
低出生体重児は、早産によって体重が少なく生まれてくる場合と、何らかの原因によっておなかの中で大きく育たなかった場合(胎児発育遅延)があります。後者では、正期産で生まれても出生体重が小さい場合があります。
<胎児発育遅延が原因>
●母体側の原因
妊娠高血圧症候群などの疾患、喫煙・飲酒、栄養不良や極度の疲労 など
●胎児側の原因
染色体異常、遺伝性疾患、子宮内感染 など
●胎児の成長をサポートする器官の原因
胎盤位置のトラブル、胎盤機能のトラブル、臍帯のトラブル など
妊娠中の喫煙と低出生体重児との間には、明らかに関係があることがわかっています。妊婦さんがたばこを吸うと、母体の血管が収縮し、胎児に十分な血液がいかなくなり、発育に大きな影響がでてきます。血液の流れが悪くなるので、脳の発育にも影響します。また、喫煙は早産の原因となる前置胎盤、常位胎盤早期剝離、前期破水を起こす可能性も高くなります。
1人目が低出生体重児だと、2人目も?
2人目の赤ちゃんが低出生体重児になる可能性があるかどうかは、1人目の赤ちゃんの低出生体重だった理由によって違います。ママに合併症がある場合は、その可能性も出てきます。妊娠高血圧症候群が強くて、ママの具合が悪い場合は、赤ちゃんが子宮内で発育しにくい状況になることもあります。
また、原因がわからないまま流産を繰り返す「習慣性流産」の場合もあり、母体に染色体異常が隠れている場合もあります。そのため、どうしても避けられないようなケースもありますが、2人目は正期産で体重も2500g以上という場合もたくさんあります。
低出生体重児のリスクとは?
早産児や低出生体重児にはどのようなリスクがあるのか理解し、弱い部分を守ってあげることが大切です。
在胎週数が少ないほど、より体の機能が未熟です
胎児は子宮内で育ちますが、その途中で生まれた早産児の赤ちゃんは、体の機能が未熟な状態です。また、早産児でも在胎期間が短いほど、より体の機能は未熟です。母体からの主要な栄養は妊娠32~34週以後に急速に胎児に移行するので、それより早く生まれると赤ちゃんの体に蓄積される栄養量が不十分なままです。正期産に近い早産児(後期早産児)であっても、脳の重量は34週では40週の赤ちゃんの約70%です。早産の赤ちゃんには以下のようなリスクが考えられます。
●呼吸機能が未発達
呼吸機能が子宮外の生活に適応できるのは、おおよそ32週以降ですが、それでも未熟性は持続します。在胎32週未満の赤ちゃんでは、肺表面活性物質(肺胞がつぶれるのを防ぐ物質で、「肺サーファクタント」ともいいます)の不足による呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)や、呼吸中枢が未発達なことで起こる無呼吸発作をしばしば発症します。
●免疫機能が未発達で感染症にかかりやすくなる
早く生まれてきた赤ちゃんはママからもらう免疫物質が少なく、生後、自分で免疫物質をつくり出す力も弱いため、病原体に感染しやすくなります。母乳は病原体から早産の赤ちゃんを守るために重要な働きを担っています。
●皮膚が薄く、体温を保持しにくい
人間の皮膚は5層になっていますが、早産児は5層までできあがるより前に生まれてきます。とくに在胎28週の未満の赤ちゃんでは皮膚が薄く、透き通って見えます。またちょっとした刺激で皮膚が傷つき、はがれやすいという特徴もあります。このような皮膚の状態は、皮膚からの水分喪失と体温低下を招きます。早産の赤ちゃんは、皮膚構造が未熟なうえに、皮下脂肪が少なく、体の表面から熱が逃げやすい状態です。さらに早産で生まれたことでエネルギーの備蓄が少ないため、環境温度が低いと、すぐにエネルギー源を消費し備蓄がなくなってしまいます。そこで、エネルギー消費量を最小限にしながら体温を保つことを主な目的として、保育器内でケアを受けます。
●黄疸の治療が必要となることが多い
生理的黄疸はどの赤ちゃんにも見られますが、早産児は肝臓機能が未発達な状態で生まれ、さらに未熟性のために黄疸の色素(ビリルビン)が脳内に移行して神経細胞を傷つけやすい状況にあるために、しばしば黄疸の治療を必要とします。また、黄疸が長引きやすいという特徴があります。
●体重減少の回復に時間がかかる
正期産児の赤ちゃんは生まれたあと最大10%程度体重が減り(生理的体重減少)、通常は1~2週間までには生まれたときの体重に戻ります。しかし、低出生体重児、早産児では体重の減少率が正期産児より大きく、また生まれた体重に戻るまでに、より日数がかかります。
●頭蓋内出血を起こしやすい
在胎32週ごろまでに生まれた赤ちゃん特有の脳の血管の構造と、血圧の変動に対して脳の血流の調節機能が未発達なことで、出生後、早期に脳出血(ほとんどは脳室内出血)を発症するリスクが高いことが知られています。
●授乳が進みにくい
在胎34週未満で生まれた赤ちゃんは、乳房や哺乳びんから直接授乳することは困難です。そのため胃にチューブを入れて乳汁を注入する経管栄養が必要になります。また、消化管の機能が未熟なため注入された乳汁が胃から小腸へと送られにくく、胃内に残りやすいという問題点もあります。さらに最初から十分な量の授乳を与えることが難しいので、点滴を併用する必要もあります。
正期産児でも胎児発育不全があると合併症に注意が必要です
●低血糖になりやすい
在胎37週以上で生まれても、胎児発育不全によって低出生体重児になると、低血糖が起こりやすくなります。そのため、生後数時間以後は定期的に血糖値の測定が必要になります。
●多血症になりやすい
ママに妊娠高血圧症候群があると胎盤の循環が悪く、胎児は慢性的な低酸素状態にさらされます。これに対して胎児はエリスロポエチンという赤血球を産生するホルモンを増加させ、赤血球を多くつくって少しでも低酸素状態を回避しようとします。その結果、赤血球が過剰につくられることになります。過剰な赤血球はブドウ糖の消費が多く、低血糖のリスクが高くなります。また、血液が流れにくくなり心臓への負担も増します。また黄疸も強く出やすくなります。
何才くらいで、正期産の赤ちゃんに発達は追いつくの?
新生児集中治療室(NICU)に入院する必要がなかった早産児や低出生体重児の赤ちゃんのほとんどは、生後数カ月のうちに成長や発達は追いつきます。NICUに入院しなければならなかった赤ちゃんでは、予定日周辺の成長が正期産で生まれた新生児相当であれば、その後は修正月齢*(予定日からの月齢)相当の成長や発達が期待できます。
(*)たとえば在胎28週、1100gで生まれたとすると、生後12週(生後3カ月)が予定日です。修正月齢は実際の月齢から予定日までの月数を差し引いた月齢なので、生後6カ月は修正月齢では3カ月にあたります。
早産児や低出生体重児の赤ちゃんが、予定日あたりになっても正期産で生まれた新生児に追いついていない場合を「子宮外発育不全」といいます。この状態は正期産で生まれた胎児発育不全による低出生体重児の赤ちゃんと類似しているので、このように呼ばれます。ほとんどの場合、子宮外発育不全は体重と身長だけにみられ、頭囲は追いついています。
子宮外発育不全の赤ちゃんでは、修正月齢で評価してもNICU退院後の成長や発達は遅くなる傾向があります。成長や発達が修正月齢相当に追いつかなくても、3才までには成長や発達が追いつく可能性があります。主治医と相談しながら、あせることなく、成長や発達を見守っていきましょう。
小さく生まれた赤ちゃんに対応した「母子手帳アプリ」も!
修正月齢をもとに赤ちゃんの身長体重を記録するのに、アプリを使用する方法があります。特定非営利活動法人ひまわりの会と、株式会社NTTドコモ提供の「母子健康手帳アプリ」には、「修正月齢に対応できる身長・体重のグラフ」と「低出生体重児向け子育てQ&A」が掲載されています。
「修正月齢のグラフ」は、出産予定日より早く産まれた赤ちゃんが実際に生まれた日ではなく、出産 予定日を基準に発育・発達状況の目安を確認することができるグラフです。また、「低出生体重児向け子育てQ&A」は、小さく生まれた赤ちゃんのママやパパによくある子育ての不安や悩みに対して、専門家が回答しています。
紙の母子手帳にはないアプリならではの便利さがあります。上手に活用して不安な日々の支えにしてみるのもよいでしょう。
https://www.boshi-techo.com/service/
「赤ちゃんがNICUに入院すると決まったときに心配だったこと」体験談
わが子が、早産児や低出生体重児で生まれることになり、NICUに入院が決まったとき、ママやパパはどんなことが心配だったでしょうか。実際に赤ちゃんがNICUの入院を経験したママにコメントをいただきました。
●いちばん心配だったのは「命が助かるのか!?」
とにかく小さく生まれたので、まずは命が助かるのかということがいちばん心配でした。呼吸器をつけていたので、呼吸が乱れるたびにアラームが鳴って、最初のころはNICUに行くのも怖かったです。(2才男の子 出生体重:1085g、在胎週数:27週2日)
●心配ごとがわからないくらい、全部が不安
離れて過ごすこと、保育器に入っていること、人工呼吸器をつけていること、病気のこと、いつ退院できるのか…何を心配していいのかわからないくらい、全部が不安でした。また、面会時間が限られていたので、あまり会えないことも不安でした。(1才男の子、出生体重:694g、在胎週数:28週2日)
●早産やNICUのことを知らず、ひどく不安に
早産に対するリスクや不安要素についてわからなかったうえに、NICUのことをあまり知らなかったこともあり、非常に不安だったのを覚えています。入院後、親として何ができるのかまったくわからないことも心配でした。(8カ月男の子、出生体重:1603g、在胎週数:30週6日)
●突然の緊急帝王切開で混乱状態に
子宮内胎児発育遅延と診断され、大きな病院を紹介してもらい、そのまま緊急帝王切開に。初めはなにが何だかわかりませんでした。パパは出産後、NICUの先生からの説明で、「赤ちゃんの死にかかわることもあるかもしれない」と聞かされ、とてもびっくりしたそうです。(2才1カ月女の子、出生体重:1310g、在胎週数:33週0日)
●NICUの説明を受けていたので、不安はとくになく…
不安なことはとくにありませんでした。理由は、緊急帝王切開となった前の日、たまたま看護師さんからNICUの説明を受けており、「こちらの病院のNICUは医師も看護師もとても優秀なんですよ」と聞いていたので。(1才11カ月男の子、出生体重:1226g、在胎週数:30週1日)
さまざまな理由で赤ちゃんが小さく生まれてくることがあり、小さな赤ちゃんは弱い部分もあります。けれども、多くの場合はしだいに成長や発達は追いついていきます。適切なケアを行いつつ、赤ちゃんの成長する力をサポートしてあげたいですね。(取材・文/東 裕美、ひよこクラブ編集部)
監修
板橋家頭夫先生
昭和大学病院病院長。専門は、小児科学、新生児学。極低出生体重児の成長・栄養管理に詳しく、低出生体重児・早産児の生活習慣病リスクを研究。赤ちゃんや家族の幸せをモットーに診療をされています。