春、子ども乗せ自転車デビューが増えるころ、あなたの乗り方大丈夫!?抱っこはNG、おんぶも注意が必要、事故事例に学ぼう【小児科医】
入園などに合わせて、春から子ども乗せ自転車に乗り始めるママ・パパもいるのではないでしょうか。子どもを自転車に乗せて移動するとき、実は子どもが事故に巻き込まれるケースは後を絶ちません。
子どもの事故に詳しい、小児科医 山中龍宏先生に子ども乗せ自転車の注意点を聞きました。
自転車用チャイルドシートは生後12カ月から。しっかり座れることも目安
子どもが1人の場合は、自転車の前に乗せるか、後ろに乗せるかで悩むと思いますが、前に取り付けるフロントチャイルドシートと後ろに取り付けるリヤチャイルドシートには、それぞれ特徴があります。
――まずは自転車用チャイルドシートの選び方を教えてください。
山中先生(以下敬称略) 自転車用チャイルドシートは、一般財団法人製品安全協会 自転車用幼児座席のSG基準で次のように決められています。
[前に取り付けるフロントチャイルドシート]
体重の上限 15kg以下
身長の目安 100cm以下
年齢 生後12カ月以上4歳未満
[後ろに取り付けるリヤチャイルドシート]
体重の上限 24kg以下
身長の目安 120cm以下
年齢 生後12カ月以上小学校就学の始期に達するまでの者(※)
ただし身長や体重だけで判断するのではなく
(1)1人でしっかり座れる
(2)ベルトをしても嫌がらない
といった点も確認してください。「ベルトをすると嫌がる」などの理由で、ベルトをしないで走行するのは絶対やめてください。
※小学校に入学する年齢に達していない子どものこと(満6歳の誕生日以後の3月31日まで)
赤ちゃんを抱っこして自転車に乗り、自転車と衝突。赤ちゃんは頭を強く打って集中治療室に入院
自転車用チャイルドシートの使用は、生後12カ月からです。「チャイルドシートにまだ座れないから」といっても、抱っこして自転車に乗るのは交通違反です。
――赤ちゃんを抱っこして自転車に乗るのは交通違反ですが、危険性について教えてください。
山中 以前、東京都立小児総合医療センター救命救急科の医師などと一緒に「保護者の自転車に子守帯を用いて同乗した乳児の外傷」(※1)について調査をしました。その調査では、抱っこで自転車に乗り事故が起きた中には右頭頂骨骨折などが判明し、集中治療室に入院したケースがありました。
事故事例は以下のとおりです。
ママが抱っこひもで、3カ月の赤ちゃんを抱っこし、自転車の前後にきょうだいを乗せて、右にゆるく傾斜がある道を走行していました。左前方から出てきた自転車と衝突し、ママの自転車が転倒。ママは転倒した際、とっさに右手で赤ちゃんの頭を守ろうとしたのですが間に合わず、縁石に右頭頂部を強くぶつけてしまいました。病院で検査をしたところ、意識ははっきりしているのですが、右頭頂骨骨折と軽度の右外傷性硬膜外血腫が認められました。集中治療室に入院し、3日間の経過観察後に、後遺症もなく退院できました。
こうした事故を受けて、抱っこ運転で自転車が転倒した瞬間、どのようなことが起きているのかを調べました。
赤ちゃんを抱っこして自転車に乗ったときの転倒の瞬間
写真は高速度カメラで、赤ちゃんを抱っこして自転車に乗車し、転倒した瞬間を撮影したものです。赤ちゃんは、転倒した瞬間、頭を打っていることがわかります。(実験は、ダミー人形を使用)
実験では、赤ちゃんが頭を打ったあと、親も頭を打つことに
実験では、赤ちゃんだけでなく、親も頭を打っていることがわかりました。
事故の状況によって、赤ちゃんのけがの程度は変わります。頭を打つだけでなく、赤ちゃんが大人のエアバッグ代わりになってしまうこともあるのです。
赤ちゃんをおんぶして自転車に乗り、車と接触。転倒して赤ちゃんが頭を強く打って亡くなってしまった事故も
自転車のおんぶ運転については、自転車の前後に子どもを1人ずつ乗せて、赤ちゃんをおんぶして走行することは交通違反になります。しかし赤ちゃんをおんぶひもなどでしっかりおんぶして、前か後ろに子どもを1人だけ乗せて走行することは、交通違反ではありません。
でもおんぶ運転は危険を伴うので十分注意が必要です。
――赤ちゃんをおんぶして自転車に乗るリスクを教えてください。
山中 2016年5月、東京で生後7カ月の男の子をおんぶして自転車に乗っていたママが、左から来た車と接触して転倒。赤ちゃんが頭を強く打って亡くなってしまう事故が起きています。報道によると、自転車が信号待ちをしていた車の間をすり抜けたそうです。
先ほど、赤ちゃんを抱っこして自転車に乗って転倒した際の調査結果について話しましたが、おんぶについても調査しています。赤ちゃんをおんぶした状態で自転車に乗って自転車ごと倒れたときに、赤ちゃんが頭にどれだけのけがを負うかを調べたところ、骨折するとされる衝撃の基準値の最大約17倍という結果でした(※2)。超危険レベルです。
※2 日本小児科学会雑誌123巻5号「保護者の自転車に子守帯を用いて同乗した乳児の外傷」より。
――それでは生後12カ月以上になり、自転車用のチャイルドシートに座っていれば安全なのでしょうか。
山中 いくら自転車用のチャイルドシートに座っていても、事故で亡くなる子はいます。2022年4月には、大阪で電動アシスト自転車の前に3歳の男の子を。後ろには5歳の男の子を乗せてママが運転していたところ転倒。転んだ拍子に3歳の男の子が道路に投げ出されて、後ろから来たトラックにはねられて亡くなってしまう事故が起きています。
子どもと自転車で移動するママ・パパには、こうした痛ましい事故が現実に起きていることをまずは知ってほしいです。そして交通量の多い道は避けるなど事故のリスクをなるべく減らす対策をとってほしいと思います。
電動アシスト自転車はバランスを崩すと支えづらい
子ども乗せ自転車は走行時だけでなく、子どもを乗せたり、降ろすときにも十分注意が必要です。
――ほかには自転車に子どもを乗せるとき、どのようなことを注意するといいでしょうか。
山中 とくに電動アシスト自転車は、自転車自体が重いのでバランスを崩すと立て直せず、思わぬけがにつながることもあります。走行時だけでなく、止めているときも注意が必要です。
たとえば自転車に子どもを2人乗せるときは、転倒しないように、後ろ→前の順に。降ろすときは前→後ろの順を守りましょう。子どもを乗せたまま荷物を積み下ろすのもやめましょう。
自転車を止めるときは、必ずハンドルのロックをかけてください。
子どもを自転車に乗せたまま、保護者が自転車から離れるのも危険なので絶対にやらないでください。目を離した瞬間、子どもが自転車から転落する事故も起きています。
自転車は必需品という保護者も多いので、とにかくスピードの出し過ぎなど無理な運転はやめて、安全運転を心がけてください。
お話・監修/山中龍宏先生 写真提供/東京工業大学 宮崎祐介先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
2024年11月1日から、自転車に関する法律が変わり、スマホを使用しながら自転車を運転したりする「ながら運転」や、自転車での酒気帯び運転が罰則の対象となりました。
また自転車でも信号無視、一時不停止、右側走行、傘さし運転などの交通違反に対して反則金を納付する、いわゆる「青切符」の導入も予定されています。大切な子どもを乗せているからこそ安全運転を心がけましょう。
●記事の内容は2025年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。