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2歳のとき、日本に150人しかいない希少疾患ゴーシェ病と診断。聞いたこともない難病に、絶望と希望が交互にやってくる日々【体験談】

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2歳7カ月のとき。自宅近くの総合病院で酵素補充療法の点滴治療を受けているところ。

田口暁子さん(仮名・37歳)の長男、あきとくん(仮名・4歳)は、1歳過ぎから食べ物がのどによく詰まるなど、さまざまな症状が現れるように。原因となる病気がわからないままでしたが、地元の小児科クリニックの先生に「ゴーシェ病」の可能性を指摘され、事態が一転します。
全3回のインタビューの2回目は、ゴーシェ病と診断されたときのことや、治療のことなどについて聞きました。

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2歳3カ月のときゴーシェ病と確定診断。悲しみと安堵感と後悔がないまぜに

2歳6カ月のあきとくん。ゴーシェ病の確定診断が下りてから3カ月くらいたったころです。

あきとくんは2歳のとき、風邪で受診した近所の小児科クリニックの先生に、「ゴーシェ病かもしれない」と言われました。

ゴーシェ病とは、先天代謝異常症のうち、ライソゾーム病に分類される病気です。糖脂質を分解する酵素の機能が悪く、肝臓、脾臓、骨髄などの細胞にグルコセレブロシドという糖脂質がたまることで、肝臓や脾臓が腫れて大きくなる、貧血、血が止まりにくい、あざができやすい、骨が痛む、けいれんなどの症状が現われます。

ライソゾーム病とは、細胞内にあるライゾームという器官にある酵素の働きが悪く、分解されない物質がたまってしまう病気で、現在、約60種類が知られています。

「小児科クリニックからゴーシェ病のスクリーニング検査ができる熊本の検査機関に血液が送られた1カ月後、『ゴーシェ病の可能性が高い』という結果が届きました。それを見た当時の私は、毎日あきとの寝顔を見ながら涙を流さずにはいられませんでした。

ただ、これはスクリーニング検査で、病気が確定したわけではありません。確定診断に必要な検査ができる大学病院が、自宅から車で2時間の場所にあるというので、小児科クリニックの先生に紹介してもらい、検査を受けに行きました。
このときはまだ『何かの間違いかもしれない』という淡い期待もあったんです。しかしそれもむなしく、2カ月後に検査の結果が出て、ゴーシェ病と確定診断されました。2歳3カ月のときでした」(暁子さん)

病気が確定したとき、悲しくて泣かずにはいられなかったという暁子さん。でも「病気がわかってよかった」という気持ちもあったと言います。

「あきとが日本に150人程度しかない難病で、人によってはどんどん症状が進んでいくこともある病気を患っているという事実は、私を打ちのめしました。
でも、なんの病気なのかわからない状態が続いたら、もっとつらいことになり、もっともっとたくさん泣いていたでしょう。だから病気がわかってよかったという気持ちも大きかったんです。

その一方で、脾臓と肝臓が大きいことがわかった1歳6カ月のときに病気に気づけていたら、もっと早く治療を始められたかもしれない。その後悔も大きかったです」(暁子さん)

「何歳まで生きられるかわからない」。医師の口から非常にシビアな言葉が・・・

3歳のお誕生日のお祝い。「笑顔で1つ年を重ねられたことがすごくうれしかった」と暁子さん。

ゴーシェ病の確定診断を受けた病院で、暁子さん夫婦はたくさんの説明を受けました。

「ゴーシェ病にはⅠ型(非神経型)、Ⅱ型(急性神経型)、Ⅲ型(亜急性神経型)があり、あきとは発症年齢が低いことから、Ⅱ型とⅢ型の中間くらいにあたること。進行性の病気なので、いろいろな症状が出てくるかもしれないし、できたことができなくなる『退行』も始まること。たりない酵素を補充する酵素補充療法を行えば、肝臓と脾臓の腫れはよくなるけれど、神経症状を改善する治療法はなく、進行は止められないと聞きました」(暁子さん)

ゴーシェ病はとても珍しい病気なので、指定難病を診療している病院まで行き着かないと、ゴーシェ病とわからないことが多いという説明も受けました。

「個人の小児科クリニックでは、ゴーシェ病の検査の採血をするというようなことはまずないそうです。風邪で受診しただけでしたが、あきとの病気を見つけてくれた先生には、どんなに感謝してもたりません。

非常にシビアな説明もありました。『病気が進行するスピードは人それぞれで、何歳まで生きられるかはわからない』と。心臓が止まるほどの絶望を感じました」(暁子さん)

長男の病気を知ったショックもあったのか、二男を早産

ゴーシェ病の確定診断の説明を受けるために病院に行ったとき、暁子さんは2人目を妊娠中。しかも臨月直前でした。

「この病院は自宅から2時間かかる場所にあるので、病院に向かう途中や説明を受けている最中などに、万一破水したり、陣痛が来たりした場合、あきとを任せて私はすぐに産院に向かえるよう、両親も一緒に来てくれました。
幸いこのときは何も起こらなかったのですが、大きなおなかを抱えて動きまわったことや、ゴーシェ病と診断されたショックが大きすぎたことが影響したのか、説明を聞いた翌週に出血して入院に。36週0日の早産で二男は生まれました。

酸素投与が必要だったため、またもや母子同室の夢はかないませんでした。でも、あきとのときと違って同じ病院にいるので、入院中も会いに行けたし、二男の健康状態は良好。私が退院した10日後には、家に迎えることができました」(暁子さん)

ゴーシェ病は遺伝性の病気のため、二男も退院後、大学病院で血液検査を受けました。

「ゴーシェ病の可能性は低く、精密検査は受けなくていいとのこと。当時はあきとの病気がわかったばかりだったので、下の子もゴーシェ病だったら2人の看病をできるのかと、結果が出るまで不安でした。ゴーシェ病ではないとわかったときはほっとしました」(暁子さん)

一方、あきとくんは、ゴーシェ病の診断を受けた病院で、酵素補充療法の点滴治療が始まりました。

「点滴を受けるために、2週間に1度、車で往復4時間かけて通院。あきとの小さな体に点滴の針が刺されるのを見るたびに、つらい気持ちになりましたが、あきとは暴れることも泣きわめくこともなく、まるで自分が置かれた状況を受け入れているようでした」(暁子さん)

治験には参加できないと言われる。何か方法はないかと県外の大学病院へ相談に

家族みんなで旅行した3歳8カ月のとき。旅館のプレイルームで遊んでいる様子。

ゴーシェ病の確定診断の説明を受けたとき、神経症状の治療について、暁子さん夫婦は希望が見える話を聞きました

「神経系に効果のある『シャペロン療法』の治験が始まっているというのです。『治験に参加させてください!』とお願いしました。
でも、あきとのゴーシェ病は、同じタイプがほかに2人しかいない特殊な遺伝子タイプのものでした。皮膚を採取して培養し、このシャペロン療法というもので効果が見込めることを確かめてからでないと、治験に参加できないという説明でした。
同じ遺伝子タイプのほかの2人のうち1人の子は効果があり、もう1人の子は効果がないと判断されたとか。確率は50%です。でも、できることはなんでもやりたい。治験の申請を出し、皮膚の採取を行うことになりました。

皮膚の採取は通っている大学病院で行い、採取した皮膚は県外の別の大学病院に送られ、そこで培養したのちに結果が出るとのことでした」(暁子さん)

しかし、皮膚採取のために大学病院へ行く日の前日、暁子さんはとても悲しい連絡を受けます。

「採取してくれるはずの大学病院から電話があり、『治験の承認が下りませんでした』と。新規の治験の受け入れが、急きょ中止になったというのです。

でもここであきらめたら、事態は何も変わりません。私と夫は、皮膚の培養をしてくれる予定だった県外の大学病院の先生に直接連絡し、あきとを連れて相談に行きました。ゴーシェ病の研究と治療の最前線にいる先生です」(暁子さん)

先生はとても親身になってくれ、3時間も時間を取って説明してくれました。

「今できることは2つあり、1つ目は自費での治療。年間数十万円が必要になるそうです。2つ目は別の大学で研究チームを作ってもらい治験を始めること。2つとも申請などにすごく時間がかかり、すぐに始められるわけでないそうです。

いずれにしろ、シャペロン療法の効果があることを確認できないと始められないので、後日、通っている大学病院で皮膚を採取して送り、検査してもらえることになりました。結果が出るまでに数カ月かかりますが、とにかく待つしかありませんでした」(暁子さん)

身長・体重が増して、40歩くらい歩けるように。成長を感じて喜びにひたる

1日2回飲んでいる経腸栄養剤「エネーボ」。そのおかげで摂取カロリーをぐっと増やせるように。

希望と絶望が交互にやってくる日々の中、とてもうれしいこともありました。2歳4カ月ごろから、あきとくんの身長が伸び、体重が増え始めたのです。

「酵素補充療法を始めたころ、食べ物が詰まりやすくて、食べる量が増えないことを先生に相談したら、『エネーボ』という経腸栄養剤を処方してくれました。経腸剤ですが、口から飲んでもいいそう。バニラ味であきとは大好きに!1缶300kcalで1日2缶飲むことで、ぐんと摂取カロリーが増え、体重が増え始めました」(暁子さん)

あきとくんが食べ物を詰まらせることが多いのは、ゴーシェ病の影響のようです。

「ゴーシェ病はえん下障害を起こすことがあります。あきとは、えん下検査では異常なしだったのですが、神経症状の影響なのか、飲み込むタイミングが取りにくいようです。
もっといろいろなものを食べてほしいけれど、誤えん性肺炎や窒息のリスクを考えて、無理なく食べられるペースト食が食事のメインになりました」(暁子さん)

酵素補充療法を始めて3カ月が過ぎた2歳6カ月ごろ、自宅近くの総合病院で治療を受けられることになりました。

「治療を始めた当初は、副反応で毎回発熱していましたが、あきとの体が酵素補充療法に慣れ、熱を出さなくなったので、総合病院で対応してくれることに。車で30分かからないから、通院がすごく楽になりました。
酵素補充療法の効果なのかはわかりませんが、このころ40歩くらい1人でゆっくり歩けるようになったんです!!ヨタヨタしながら私に向かって歩いてくるあきとを見るたびに、涙があふれました。

ゴーシェ病は発達の遅れが出ることがあり、あきとの発達もだいぶ遅め。でも、あきとのペースで少しずつ成長しているのを感じました。ゆっくりと、でも順調に進んでいると、喜びを感じ始めていました。
でもそれはほんのつかの間のこと。1カ月後、あきとは激しいけいれんを起こし、その日から悪夢のような日々が始まったんです」(暁子さん)

【井田先生より】ゴーシェ病にはいろいろな治療法がある。神経症状の有無、遺伝子型、年齢、社会的状況を考慮して治療法を選択

幼稚園の入園式当日。あきとくんは3歳5カ月です。

ゴーシェ病に対する治療法としては、酵素補充療法・造血幹細胞移植・基質合成抑制療法の3つが、わが国では健康保険適用とされています。酵素補充療法はすべての患者さんに適応があり、安全性が高いので、ゴーシェ病に対する治療の第1選択です。ただし、2週間に1回の点滴治療が必要です。
造血幹細胞移植はドナーを探す必要があることや、治療にリスクを伴うことから、限られた患者さんに行われます。基質合成抑制療法は16歳以上の神経症状を伴わない患者さんが原則、適応になります。経口薬なので利便性が高いです。
現在、わが国では神経型ゴーシェ病に対する基質合成抑制療法薬、小児に対する基質合成抑制療法の適応拡大、シャペロン療法の3つの治験が進行中です。

お話・写真提供/田口暁子さん 取材協力/日本ゴーシェ病の会 監修/井田博幸先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>第3回

ゴーシェ病と確定診断され、酵素を補充する点滴治療を始めたあきとくん。栄養剤の効果もあり、あきとくんのペースで大きくなっていることを感じられるようになりました。でもその後、あきとくんと暁子さんにとって、つらい日々が始まってしまいます。

インタビューの3回目は、けいれんを起こして入院したことや、水頭症の手術、現在の生活などについて聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

あきとくんのInstagram

日本ゴーシェ病の会のHP

井田博幸先生(いだひろゆき)

PROFILE
東京慈恵会医科大学 特命教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業。同大学小児科学講座助手を経て、米国ジョージタウン大学小児科へ留学。2008年、東京慈恵会医科大学小児科学講座主任教授に就任。2019年より病院長を務め、2022年より現職。専門分野である先天代謝異常症の診療・研究に従事し、とくにゴーシェ病を専門として世界的に活動している。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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