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「施設育ちの子どもって…」いまだにある社会の偏見をなくしたい。トラウマを抱えるある女の子との出会いから生まれたもの【佐東亜耶インタビュー】

更新

あるきっかけから、海外の子どもたちへの支援活動や、日本の児童養護施設へのボランティアを始めた佐東亜耶さん。自分にできることから始めたそうですが、今では児童養護施設出身の子どもたちや職員に美容院で無料施術をするプロジェクトなどを立ち上げ、乳児院や児童養護施設の子どもを週末や長期休暇期間に預かる東京都の制度「フレンドホーム」にも参加し、里親活動も行っています。多忙な夫(俳優の佐藤浩市さん)を支えながら、子どもたちへの支援も10年以上行ってきた佐東亜耶さんに、子どもたちとの出会いやかかわり、そして活動への思いなどを聞きました。全2回インタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

「自分で切っちゃった」トラウマを抱える女の子との出会いで生まれたもの

ある女の子の行動から、亜耶さんが立ち上げた美容院での無料施術プロジェクト。児童養護施設出身の子だけでなく、現役職員も対象だ

息子さんがきっかけでオーガニックを学びフェアトレードのアンダーウェアに出会えた縁で、海外の子どもたちの支援を始め、日本の児童養護施設でのボランティア活動や、乳児院や児童養護施設の子どもを週末や長期休暇期間に預かる東京都の制度「フレンドホーム」で里親活動をするなど、児童養護施設の子や施設出身の若者をサポートしてきた佐東亜耶さん。亜耶さんは2019年、児童養護施設の子へ美容院での無料施術プロジェクトを立ち上げますが、これもある女の子との出会いから始まったものでした。

「児童養護施設卒園の社会的養護の若者たちをサポートする『アフターケア相談所ゆずりは』での10名程の交流会で、1人の女の子に出会いました。

その子は、さまざまな虐待を受けていて、17歳くらいのときに自分で家から逃げ、保護されたという過去経験を持つ子でした。

ある日その子から『私、自分を変えたくて、亜耶さんみたいに髪の毛を切りました』とショートカットになった写真が送られてきたんですが、ちょっとアンバランスで『髪の毛、どうしたの!?』と聞いたら『自分で切った』と。それを聞いて、私は本当にびっくりして。

自分で切ったにしては上手だとは思ったんですが、その写真を私が通っていた美容室のスタッフに見せて『この子、自分で髪の毛をばっさり切っちゃったらしいんだけど、かわいくできる?』って聞いたら『できますよ。カットでもかわいくしてあげられるし、美容院まで来てくれたら、パーマをかけたり、カラーしたりできるから、もっとかわいくなります』って言ってくれて。

その美容院は神宮前の『TWIGGY.』というお店で、美容院がお休みの日には私がかかわっていた施設に行ってカットをするというボランティアを以前からしてくれていたので、社会的養護が必要な子たちを抵抗なく受け入れてくれるマインドを持っているスタッフがそろっていたんですよね。

ただ、髪を自分で切ってしまった子は、いきなり『美容院に来て』と言っても、1人で電車に乗ったり、外に出たりっていうことがなかなか難しかったんです。そこで、まずテストケースとして、ある児童養護施設の子たちに職員さんと一緒に美容院まで来てもらって、閉店後にカットしたり、カラーしたりっていうことを始めました。

その中で、Aちゃんという子が職員さんと一緒に来てくれたんですが、その職員さんは、休暇の日にわざわざAちゃんに付き添ってきてくださっていたんですね。

最初は、彼女だけ椅子に座っていたんですが、ある美容師さんが『よかったら、職員さんもAちゃんの隣に座って、何かやりませんか?』と言ったんですね。すると、Aちゃんの顔がぱっと明るくなって。

Aちゃんは、職員さんが休みの日に、自分のためにわざわざ美容院までつき合ってくれてずっとそばで寄り添ってくれていることに、ありがたくも申し訳ないと思っていたみたいで。だから、職員さんも一緒に横に座って並んで施術を受けるということになって、Aちゃんも職員さんもすごくうれしそうにしてくれたんです。

児童養護施設の職員さんって、24時間体制で子どもたちのケアをしていて、本当に大変で、過酷な労働環境なんですよね。掃除や洗濯、食事のしたくから報告書の記入などもあって、いろんな生育歴の子が次々と入ってきては、子どもたちでトラブルがあったりもする…。そんな過酷な中でも、すべての職員さんたちが子どもたちのために何とかしたいと思いながら働いていらっしゃるんですよ。

私は、“大人が笑顔で幸せでいることが子どもたちの幸福につながる”と思っています。だからこそ、こういった子どもに同行する場で、職員さんも一緒にリフレッシュできたら、お互いにとってとても幸せでいいなと感じて。そこからは、児童養護施設出身の子たちだけでなく、職員さんも美容院で無料施術を受けてもらえるようにしようということになったんです。

1人だと美容院に来ることに気後れしちゃうという子でも、信頼している職員さんとだったら一緒に行ってみようと心を開いてくれるし、忙しい職員さんと1対1で行動するということは普段の生活ではなかなかなかったりするので、その子にとってはすごく特別な時間にもなるんです。

それがすてきだなと思って、児童養護施設で過ごす子どもたち、社会的養護の若者たち、里親家庭、施設職員を対象にしてカット、カラー、パーマを無料で受けられる『BEAUDOUBLE』(ビューダブル)というプロジェクトを本格的にスタートさせました」(亜耶さん)

「施設の子どもたちって…」いまだある社会の偏見をなくしたい

「まなびのじかん」での風景。哲学を通して、自分の考えを言葉にして他者とコミュニケーションができることを目的にしているそう

そのほかにも、亜耶さんは、社会的養護の若者たちが社会で活躍できるようにと活動していることがあります。

「社会的養護の若者たちが社会に出やすいようにと始めたのが『まなびのじかん』という場。そこでは哲学をメインとして、講師の方々を迎えてクラスをしていただく時間を作っています。哲学って生きるとは何かとか、自分とは何かとかを、身近な問題を考えて解いていくものなので、哲学を通して、自分の中にある考えや気持ちを相手に伝わりやすく話せるようになればと思っています。

幼少期から家庭内でネグレクトがあったり、ヤングケアラーだったりして学校に行かせてもらえてなかったり、行けなかったりする子たちもいて、書くこと、文章にすること、コミュニケーションを取ることが苦手な子もいます。

私は元来『学校の勉強なんて、しなくたっていいよ』って思ってるタイプの人なんですけれど、学校に行けなかった子たちを見ていて思うのは、学校での生活の必要性ってこういう基本的な能力を自然と身につけられるところにあるんだなと、今、改めて感じているところです。

『まなびのじかん』には、施設出身ではない若者や大人たちも参加してもらっています。目的としては、社会的養護の若者たちに出会ってもらいたいからです。参加した大人たちがよく言うのは『施設の子たちって不良っぽくて、ちょっと斜に構えた感じかと思っていたけど、こんなに賢くて、こんなにいい子たちだとは思わなかった。びっくり!』っていうこと。社会でよく言われるような偏見を持たれる子たちばかりではないってことを、私は世の中に伝えたいと思っているんです。

児童養護施設出身の子たちと接していると、ほとんどの子たちがいじめにあった経験があると感じます。親がいないからとか、施設にいるからとか、税金で生活してとか、スマホみたいにみんなが持っているものや流行しているものを持っていないだとか、そういうところから、いじめにあっているんです。そんな状態が今の社会なんだなと思うと、彼らに対しての偏見や差別を取り除きたいと強く感じます。

彼らはたまたま実の親と暮らせなくて、施設で生活していますが、血がつながった親じゃなくても、あたたかい大人が世の中にはたくさんいます。そんな大人たちと出会うことで、彼らには自分の生きる道を探してもらいたいと思っているんです。

たとえば子どもが巣立って自分の時間を持て余している方がいたら、ぜひ彼らと触れ合ってほしいと思います。さまざまな個性のある子がやってきますから、暇なんて、全然なくなります(笑)。大人の愛情を求めている子どもたちは本当にたくさんいますからね」(亜耶さん)

自分の子を育て、そして国内外で養護が必要な子どもたちとたくさん触れ合ってきた亜耶さんが、今、伝えたいこととは――。

「私たち大人たちが幸せであること、それが子どもたちの幸せにつながるということです。子育て中であっても、自分を犠牲にすることばかりじゃなく、自分が幸せになること、自分がいつもご機嫌でいられることにも注力してほしいと思います。

自分が幸せであると、寛容に許せたりしますが、イライラしていると、同じ出来事があっても許せなくて、つい口調がきつくなったり、怒鳴ったりすることがありませんか?

子どもを傷つけようと思って言った言葉じゃなくても、トラウマに感じて、ずっと引きずってしまっている子たちをたくさん見てきました。私たち大人の言葉1つ1つが、彼らの未来を作っているんだなと感じますね。

どんなに虐待されても、けなげに『お母さん、こうしたら喜ぶかな…』とか、自分がこうしたいという気持ちよりもお母さんが喜ぶからと話す子どもたちはたくさんいて、本当にけなげなんです。親と一緒に幸せに暮らしたいという気持ちを持っているのに、かなわなかった。逆に言えば、彼らの親は、自分を幸せにするのが苦手だったのかもしれません。

なので、親が幸せであることは本当に大事。もちろん『自分の幸せのために子どもを放置しました』みたいなのは論外ですよ。彼らの生命を絶ってはいけないし、体も心も傷つけてはいけないけれど、それを守った上での自分の幸せを考えてほしいんです。ちょっとご褒美のスイーツを食べてみたり、お花を一輪自分にプレゼントしたり、好きなおしゃれをしてみたり、自分のしたい趣味に没頭する時間を作ってみたり。なんでもいいから“自分が幸せに感じる時間“を大切にしてほしい。

親が幸せであることは子どもの笑顔につながりますし、妻が、夫が、ハッピーでいることは夫婦間においてもいい影響になると思います。だから、スタートを“自分で自分を幸せにする”にしてほしいんです。

あとは、子育ては、親でも、おばあちゃん、おじいちゃんでも、ご近所さんでも、いろんな人たちを巻き込んで、社会で子育てできたらいいとも願っています。そうすれば、昔の日本のように、地域全体で子育てをするような社会になるんじゃないかと思うんですよね。

たとえば自分の親と上手くいかないけれど、隣のおばちゃんが、すごくやさしい言葉をかけてくれてあたたかい気持ちになった。そんな経験があると、苦しくなったときに、ふとおばちゃんの顔が浮かんで、勇気になったり力になって前を向けたり、助けてって言えたりするのでは、と思います。

私たち大人1人1人が、子どもたちの中でそういうあたたかな存在になれればいいと思うし、私もそういう存在でありたいと思って日々活動をしています。

そのためには社会が変わることも必要かと思いますが、いきなり社会は変えられないので、私は私にできることをしながら、残りの人生を若者たちに関わっていくつもりです」(亜耶さん)

お話/佐東亜耶さん 写真提供/一般社団法人泉鳳 取材・文/藤本有美、たまひよONLINE編集部

一般的に社会的養護が必要と言われる子どもたちや若者たちの存在は、ぼんやりとは認識していても、身近な問題としてはなかなか捉えづらいかもしれません。しかし、全国には607カ所の児童養護施設があり、約2万2200人の子どもが入所していて(※)、そこから自立できる子もいれば、いろいろな事情で自立できない子もいると考えると、未来にも引き継がれていく身近な社会問題として考えていかなければなりません。私たちにできることから始めるならば、まずは彼らに偏見を持たないこと、亜耶さんの言葉にもある「子どもを幸せにするために、まず親自身が自分を幸せにすること」を実現し近くの人から幸せにしていくこと、そしてその幸せを、亜耶さんのように少しでも外に向けられたら、未来を明るくできるのかもしれないと感じました。

※こども家庭庁「社会的養育の推進に向けて 2. 社会的養護の現状」

佐東亜耶さん(さとうあや)

PROFILE
一般社団法人泉鳳および一般社団法人BEAUDOUBLE代表理事。北海道札幌市出身。俳優座にて舞台俳優として活躍後、1993年俳優の佐藤浩市さんと結婚。俳優座退団後は専業主婦になり、1996年1男(俳優の寛一郎さん)を授かる。2012年フィリピンやインドの子どもたちの支援活動を通して、日本の児童養護施設の子どもたちの状況を知り、2013年より児童養護施設のボランティア活動を始める。2019年には、現在、社会的養護経験者および施設職員等を対象に行っている美容室での無料施術の提供のスタートとなるプロジェクトを開始。2020年には主に哲学をメインとした学びの居場所を提供。そのほか、さまざまなプロジェクトを進行中。プライベートでは、2018年より乳児院や児童養護施設の子どもを週末や長期休暇期間に預かる東京都の制度「フレンドホーム」で里親活動を行っている。

佐東亜耶さんのInstagram

「いつか」を「いま」に。いま、里親になろう!

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年5月現在のものです。

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