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ダウン症で1歳で旅立った息子との約束。ピアノを通して「障がいがあってもなくてもあなたはすてき」と伝える【体験談】

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一緒にピアノを弾く花崎望さんと長男・翠くん。花崎さんは、ダウン症で難聴の翠くんと一緒に、リトミック用のプログラム曲を作成しました。

ピアノ講師でOttO響育社(オットーキョウイクシャ)を主宰する花崎望さんは、「しょうがいがあってもなくても音楽たのしもう♪」という理念で、30年以上レッスンを続けています。そんな花崎さんが2009年に出産した翠(みどり)くんには、心臓病やダウン症候群(以下ダウン症)、手の指が6本ある多指症、難聴などの疾患がありました。生徒と一緒に翠くんを囲んだ日々や、障がいのある人もない人も区別なく指導する使命感について、花崎さんに聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

ピアノ教室を再開。まっすぐな生徒の心に癒やされた

生後8カ月の翠くんと花崎さん。翠くんは生後2カ月と6カ月に心臓手術を行い、自宅で療養していました。

――出産後、ピアノ教室を再開したのは、いつでしょうか?

花崎望さん(以下敬称略) 翠が生後8カ月のときです。息子は、2度の心臓手術を経て自宅療養中でした。翠を囲んでレッスンをすると、息子はニコニコうれしそう。レッスン終了後は、生徒と保護者の方は翠をあやしたり、ミルクをあげたり、寝かしつけをしたり、布おむつの洗濯をしてくれたこともありました。

何より私を癒やしてくれたのは、生徒たちの素直な言葉。翠の6本ある指を見て、「先生、翠くんのお指すごいね~」「6本あったほうが得するんじゃないかな」といった言葉が、すっと出てくるんです。この子たちは、息子のことを「ダウン症の子」「多指症の子」ではなく、1人の人間として見てくれているんだなと思えて、生徒たちのことがより愛おしくなりました。

――自宅療養をしていた翠くんの病状はどうだったのでしょうか?

花崎 心停止や心不全をたびたび起こして入退院を繰り返し、生後8カ月ごろからは、在宅時も24時間の酸素吸入が必要でした。

それでも、私は自宅での時間が幸せ。翠は抱っこしていないとすぐに泣く子でした。泣くと心不全になりやすく、常に抱っこして、ぴたーっと肌をくっつけて安心させていないといけません。手はかかるし、目も離せませんが、病院で管につながれて抱っこができない状態と比べれば、なんと幸せなことか! 息子は難聴もありましたが、ピアノを弾いて聴かせると、うっとりした表情に。毎日ベビーマッサージをして、絵本を読み、酸素ボンベを抱えて散歩をするのが日課でした。

そんななか、1歳を迎えた3日後のことでした。深夜0時に急変。病院に救急搬送され、そのまま息を引き取りました。最期の瞬間、夫は泣いていましたが、私の心は不思議なほど穏やかでした。夫と2人で息子をなでながら、笑顔で「ありがとう」とたくさん言いながらお別れすることができました。

「今度は私が子どもたちにお返しするんだ」と使命感に燃えた

花崎さんの、乳幼児向けリトミッククラスの風景。翠くんが亡くなった翌月に開講し、15年続いています。

――翠くんが亡くなった翌週にはレッスンを再開されました。何か思うところがあったのでしょうか?

花崎 はい。翠がいなくなって寂しくはありましたが、1年と3日、すてきな子育て、楽しい親業をさせてもらったという気持ちが大きくて、すぐに前を向くことできました。それに、私は使命感に燃えていました。

翠が病気を抱えて生まれてきて、私は、「障がいがあってもなくても、ありのままがすてきなんだ」と教えてもらいました。金には金のよさが、銀には銀のよさが、銅には銅のよさが、それぞれあるはず。このことを子どもたちや家族に伝えていこう。それが、これからの私の使命なんだ。息子の遺影にそう誓って、翌週にレッスンを再開し、翌月にはコンサートで演奏していました。

――翠くんを出産する前とあとで、レッスンに変化はありましたか? 

花崎 翠が亡くなった翌月に、赤ちゃんのためのリトミッククラスを開講しました。ダウン症など障がいがある子も、そうでない子も参加できるグループレッスン。実は、産後にレッスンが再開できなかった期間も、このリトミック用のプログラム曲を翠と作っていたんです。ダウン症で難聴の息子にピアノを弾いて聴かせ、目や体を動かしたら反応がいいと判断して、プログラム曲に採用していきました。このプログラム曲は、15年たった今も赤ちゃんたちを笑顔にしています。

また、出産後は、保護者への接し方も変わったと思います。親目線で保護者に寄り添うようになり、レッスン中に保護者とお茶を飲みながらお話を聞くことも。障がいのある子の親ならではのわが子への思い、悩みもありますから。

――翠くんと作ったリトミックプログラムが、今も受け継がれているんですね。リトミックも含めて、教室全般で工夫していることはありますか? 

花崎 教室内を、キラキラした空間にしています。生徒が教室のドアを開けると、まず、シャンデリアと、おしゃれなカウチが目に飛び込んできて、「キラキラ! ここは夢の国なの?」と喜んでくれます。そして、私自身も、キラキラ輝くアクセサリーを身につけるようにしています。

こういう工夫には理由があります。障がいや病気のある子どもが出入りする場所は、思わぬ行動で子どもが設備を壊したり、けがをしたりしないように、ものを排除して殺風景になりがちです。とても大事なことだと思います。でも、子どもたちはキラキラが大好き。私の教室では、わくわくするような時間を過ごしてほしい。その思いから、あえてそのまま設置し、積極的に触らせています。

――子どもたちが、けがをしそうになったり、設備を壊してしまうことはないですか? 

花崎 触り方が悪かったり危なかったりしたら注意します。言葉を話せず意思疎通が難しい生徒でも、私はダメなものはダメ、許さないよと、はっきり言います。すると、ものを丁寧に扱い、大切に手渡してくれるようになるし、「靴は並べようね」と言えば並べるようになるんですよ。言葉を話せない子でも、こちらの意思を感じることはできるんです。

ピアノを囲んで、障がいがある人もない人も暮らせる場所を作りたい

2022年、ピアノ教室の法人化に伴い、新規開校した教室。新しい教室にもシャンデリアを採用し、夢の国のようなキラキラ空間に。現在、生徒は100人以上。花崎さんの志を同じくする3人の講師も加わりました。

――現在、生徒は100人以上! 花崎さんの「しょうがいがあってもなくても音楽たのしもう♪」の輪は確実に広がっていますね。今後の夢を教えてください。

花崎 まずは、後進の育成です。現在、障がいがある人のレッスンを行う教室は、地域によっては少ない状況です。この状況を変えたくて、私は2022年に教室を法人化し、3人の先生とともに新教室を開きました。だれでも音楽が楽しめる環境を、もっと広めたいと思っています。

そして、もうひとつ。障がいがある人もない人も、みんなでグランドピアノを囲んで暮らしながら、仕事を生み出せる場所を作りたい。それは、グループホームでもない、就労支援施設でもない、みんなで助け合って暮らせる場所。たとえば、私の生徒に、将来パン屋さんになりたいと言っている子がいます。「それなら、うちの教室の裏でパン屋さんをしなさい」と、私は言ってるんです。その子は、パン屋さんをする日もあれば、みんなに囲まれてグランドピアノの演奏もするし、ピアノを教えたりもする。ほかの人も、たとえば陶芸をしたければ自由に作ればいいし、イライラしている人がいたら部屋を用意してあげて、その部屋でものを投げたり、怒りを発散したりしていい。だれもがピアノを中心に、のびのびと自由に過ごせる場所を作ることが、私の夢です。

お話・写真提供/花崎望さん 取材・文/大部陽子、たまひよONLINE編集部

今よりインクルーシブの概念がまだまだ一般的でなかった30年以上も前から、花崎さんは、あらゆる人が音楽を楽しめる環境を提供していました。そして、翠くんとのかけがえのない時間を経て花崎さんは使命に目ざめ、今も走り続けています。花崎さんの心温まるレッスンの様子や、精力的な活動は、HPやInstagramで知ることができます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

花崎望さん(はなさき のぞみ)

PROFILE
ピアノ講師。OttO響育社代表取締役。1997年福岡女子短期大学音楽科卒業。翌年同大学専攻科卒業。ソロ・室内楽・伴奏等で演奏活動を行う他、講演や施設等のボランティア演奏、後進の指導の他、コンサート、コンクール主催等行う。ベビーマッサージ協会認定講師。

花崎望さんのInstagram

花崎望さんのブログ

OttO響育社ホームページ

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年9月の情報で、現在と異なる場合があります。

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