ママ泌尿科医・岡田百合香、おしゃぶり使う?性器のケアは?…答えのわからない悩みに主体的にかかわる「父親」の増加から感じること
7歳の男の子と4歳の女の子の母であり、泌尿器科医である岡田百合香先生の連載。総合病院の泌尿器科に勤務しながら、乳幼児の保護者を対象にした講座や思春期の生徒向けに性に関する授業なども行っている岡田先生ですが、周囲の男性医師や、講座に参加する父親たちに変化を感じているそうです。「お母さん・お父さんのためのおちんちん講座」連載の最終回です。
毎日の育児の中で、判断に悩む・迷うことはさまざまある
「先生のお子さんはおしゃぶりは使っていましたか?最近、わが家の赤ちゃんの口の乾燥や指しゃぶりが気になっていて検討しているのですが・・・、メリット・デメリットどちらもあるみたいで悩んでいます。」
休憩時間中、最近父親になった後輩医師が話しかけてきました。
「うちは2人とも1回も使わなかったんだよね。といっても、検討を重ねた上で『使わない』という判断をしたわけではなくて、とくに必要性を感じなかったというか。『おしゃぶり』というトピックに引っかからないまま来てしまったというか」と、パッとしない回答になってしまったことに気まずさを感じ、早速検索。
小児科医が発信している記事を読んでみると、私の知らないおしゃぶりのメリット・デメリットがずらり。なかでも「SIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクを軽減する可能性がある」というのには驚きました。というのも、私はSIDSが怖すぎて、産前・産後にかなりの時間とエネルギーを使って勉強と対策をしていたのです。
当時勤務していた総合病院に、乳幼児突然死症候群で亡くなった生後6カ月の女の子が運ばれてきたことがあります。元気だった赤ちゃんが突然何の前触れもなく亡くなってしまうなど、親にとって地獄以外の何ものでもなく、両親の悲痛の言葉は忘れられません。
それが自分たちの身に起こらないことをだれも保証してくれない現実が恐ろしく、さまざまな論文を読み、呼吸監視モニターもベッド用、外出用と複数台用意し全力で対策をしたものです。
当時、SIDSのリスク低減におしゃぶりが有効という情報には触れられず、一切使用を考慮しなかったのですが、知っていたら使っていたかもしれません。
「おしゃぶり」ひとつとっても、人によってさまざまな理由で使う・使わないの判断をしているし、私のように「まったく考えていなかった」という人もいるでしょう。
父親が育児に主体的にかかわるようになってきた
このように、専門家でも「ぜひとも使うべき」または「使う必要はない」と断言できない選択は育児において無数に存在します。
今回冒頭の彼に相談されて感じたのは、おしゃぶりのような「答えのわからない育児の悩み」に父親が主体的にかかわっているという事実への驚きと喜びです。
私がこれまで「おちんちん講座」でたくさんの母親から話を聞いてきた中で「父親がなかなか、かかわってくれない」ことに起因する苦しみは少なくありませんでした。
子どもの性器をどのようにケアすべきか。包皮は幼少期に保護者がむくべきなのか、放置でいいのか。そもそもわが子の今の性器の状態は正常なのか。子どもに対していつ何をどのように伝えればいいのか、など悩みはつきません。
おしゃぶり以上に情報が乏しく相談のハードルも高いことに加え、女性には存在しない器官に関する適切な対応を求めることは、あまりに難易度が高いでしょう。
男性器については少なくとも女性より詳しいはずなのに、育児に関する責任を母親に丸投げする父親たちに当初は怒りを感じていました。
しかし、「おちんちん講座」に参加する男性が徐々に増え、彼らの話を直接聞くようになると「そもそも男性も知らないのだ」「男性ならではの男性器に関する葛藤や苦しみがあるのだ」ということもわかるようになりました。
女性も男性も互いの身体や健康について学び、理解を深めること。育児について答えのない、またはすぐにはわからないテーマは互いに意見や情報を伝え合い、責任もシェアすること。
今は関心がない人たちも、いつかどこかで気になったとき、知りたいと思ったときに、その時点での最適な情報に簡単にアクセスできること。
私が今まで活動してきた中で大切だと思うのはこれらのことです。
私の講座自体は限られた範囲の人々にしか届けることができませんが、こうして「たまひよ」に記事を書かせてもらうことで、「育児×おちんちん」で悩んだ人がインターネット検索をするだけで情報を見つけてもらえるようになりました。
私の連載は今回でいったん終了となります。今まで長い間、私が伝えたいことを自由に書かせてくださったたまひよには感謝しかありません。
「頭蓋骨を矯正するヘルメット治療はやったほうがいいのだろうか…」「子どもの予防接種に同行するため、休みをどう取るか思案中です」と主体的に悩む若い男性医師の姿に、社会が確実に変化していることを感じています。
文・監修/岡田百合香先生 構成/たまひよONLINE編集部
2020年にスタートした岡田百合香先生の連載、第61回の今回でいったん終了となります。日々の診療の中で感じられたこと、性教育の大切さやジェンダー問題などについて発信してくださいました。過去の記事もぜひ読んでみてください。
●記事の内容は2025年12月の情報で、現在と異なる場合があります。


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