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3歳で家族に加わった里子の小春さん。たった3歳なのに遠慮して、大人を気づかう様子がせつなかった【里親体験談】

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直巨さんたちと暮らし始めて3年がたったころの小春さん。

親と子どもが幸せに育つ社会環境を創ることを目標に活動する一般社団法人グローハッピーの代表理事を務める齋藤直巨(なおみ)さん。直巨さんは、これまで長期や短期で7人の里子を迎えています。
現在直巨さんは、夫、2人の実の娘、そして3歳のときに里子として迎えた小賀坂小春さん(19歳)の5人暮らしです。
齋藤直巨さんと小賀坂小春さんに聞く全3回インタビューの2回目です。今回は直巨さんに、小春さんを迎えたときのことや小春さんの成長、グローハッピーの活動について聞きました。

▼<関連記事>第1回を読む

「いちばん好きな人は?」と聞いて、気をつかっていることがわかった

16歳のころの小春さん。

実母が病気のため、生まれてすぐに乳児院に預けられていた小春さん。直巨さんが、小春さんを里子として迎えたのは小春さんが3歳のときのことです。初めて迎えた女の子とお別れをした1年後のことでした。

「小春を里子に迎える前に、私はもちろん夫も2人の娘たちも何度も面会をしました。3カ月ぐらい私たちが施設に面会に行ったり、小春が私たちの家に来たりを繰り返しました。そして、小春がわが家に来たのは3歳のとき。一緒に生活を始めると、幼いのにいろいろなことに気をつかっていることがわかりました」(直巨さん)

直巨さんが自分たちの呼び方を小春さんに選んでもらったところ、小春さんは、直巨さんのことを“なおさん”、夫さんのことを“りょうさん”と呼びます。

「小春がうちに来て1カ月ぐらいたったときに “いちばん好きな人はだれ?”と聞いたら、“なおさん”と言ったことがありました。一緒に暮らし始めて、わずか1カ月しかたっていないのに、いちばん好きな人が私なのかな?と不思議に思いました。施設の先生が大好きだったことも知ってるので、もしかしたら、言いにくいのかもしれないなと思いました。
小春に “いちばんが私でなくてもいいんだよ!だってこの間から一緒に暮らし始めたばかりなんだから。小春がだれのことを好きだとしても、その気持ちもまるごと小春ってことだし、私はそのまんまの小春が好きなんだよ。それにうそをついたら自分が悲しくなっちゃうじゃないの?”と伝えながら、“好きな人はだれ?”ともう一度聞きました。すると小春は、“乳児院の担当の先生が世界でいちばん大好き”って教えてくれました。

3歳といえば、自由奔放でイヤイヤ期もありママ・パパが手をやくころでしょう。“長靴がいい”と言い出したら、雨が降っていなくても長靴をはいて外に出たりして、自分の思うままに生きる時期に、小春は気をつかいながら、自分を出さずに生きているんだ・・・と思うとせつなかったです。子どもが伸び伸び自由気ままに生きられる環境を作れていないんだなと思って、大人として、その責任を感じました」(直巨さん)

また、直巨さんが気づかなかった小春さんの食事の好き嫌いについては、二女が気づいてくれました。ここでも小春さんは気をつかっていました。

「小春は、食事のとき家族と同じように納豆を食べていたのですが、実は納豆が嫌いで、それを隠していたんです。小春は、そのことを一緒に保育園に通っていた二女に打ち明けたそうです。年齢が近い二女に初めに心を開いてくれたのかもしれません。
二女は、嫌いなものを無理して食べていることにびっくりして、小春に“母さんに言えばいいじゃん!”と言ったそうなのですが、小春は言わないでと頼んだようです。

でも二女は、そんなことでは母さんは怒らないと思ったようで、“母さん、小春、納豆が嫌いなんだって!”と私に教えてくれました。それを聞いて私が驚かないわけはありません。だってそれまでは大好きだと言っていたんですから・・・。

私は、納豆が嫌いならば、ほかの食べ物で栄養をとればいいと思っています。この出来事からも、小春の気持ちを考えさせられました」(直巨さん)

大人の顔色を見て、自分の本当の気持ちを隠す・・・。これらの行動への対応は、とても大変だったそうです。

小学校4年生で家を飛び出した小春さん

小春さんは、長女や二女が作るケーキが大好きだそう。

直巨さんは、小春さんが遠慮しないで本来の小春さんとして生きてほしいと常に思っていましたが、転機が訪れます。小春さんが小学4年生のときのことです。

「小春は、小学4年生のときに家出をしたことがあります。本当に自分はここにいていいのか、という命がけの勝負だったのかもしれません。

ある日、外でサッカーの練習をしているんだと思っていた小春に、“ごはんできたよ~”と声をかけたら、“は~い!”と言ったきり帰ってこないんです。“あれ!?”と思って、近所を探していたら、おばあちゃんが書き置きを見つけてあわてて呼びに来ました。
そこには“私はお金を取ってしまうという悪いことをしたから、警察に行きます。今まで育ててくれてありがとうございました”みたいなことが書いてありました。

小春は当時サッカーを習っていて、何かあったら使えるようにお金を持たせていました。そのお金を飲食に使ってしまっていてそれを内緒にしていたのです。“お金が無かったら、何かのときに帰って来られないよ。お金を使ったら報告しないとダメよ”と、少し強くしかっていました。家出をする1週間ぐらい前のことだったと思います。

家出の当日は二女にしかられたようで、それまでにたまったいろいろな気持ちが引き金となって家出をしたみたいです。後日、小春に理由を聞いたところ“衝動的に家を出た”と言っていました。

小春の姿が見えなくなったのが夜7時。すぐに近くの交番へ走って行くと、小春はお金を使ったことを相談に来たそうです。でも、警察は家に帰ってあやまりなさいと諭して、夜7時だったにもかかわらず子ども1人で帰してしまっていたのです。
その話を聞いたとき、思わず“何で引き止めなかったんですか!”と怒り、すぐに捜索をお願いしました。
保育園の先生や里親仲間も一緒に探してくれて、3時間小春を探し続けて、やっと見つけることができました。私は小春を探しながら、心配で涙が止まりませんでした。

小学4年生の小春からしたら“私、この家族の中に本当にいてもいいの?”と確かめる、命がけの勝負だったのかもしれません」(直巨さん)

いろいろあったけど、今では小春さんは最高の味方

小春さんは小学6年生のとき、制服自由化アクションを行い、中学の制服を自由に選べる提案をまとめ、区長へ提出。

小春さんの成長とともに、直巨さんと小春さんの関係は少しずつ変わり始めます。

「成長とともに、本来の小春の平和的な人柄に触れられるようになってから、私も幸せを感じる瞬間が増えました。
根気よくあきらめなければ、こんなにも愛情あふれる関係になることができるんだということを実感しています。

小春は、この春から大学1年生になりました。私が落ち込んだり、悩んでいると心配して話を聞いてくれたり、私の気持ちが上がるように、“小春スペシャル”という特製カフェオレを作ってくれるんです。それが最高においしいんです! 今小春は、私にとって最高の味方です!」(直巨さん)

里子殺害事件をきっかけに、里親を応援するグローハッピーを設立

2023年1月、グローハッピーのメンバーで、こども家庭庁を訪問。「里親家庭が特別視されない日本にしたい!!」という子どもの提案を、当時の小倉こども政策担当大臣に届けました。顔出しNGの子どもも、堂々と要望を伝えられるように、みんなで仮装して内閣府を練り歩きました。

直巨さんは、2016年2月に一般社団法人グローハッピーの前身として任意団体「チャレンジ中野!グローハッピー」を立ち上げました。
きっかけの1つには、2010年8月、東京都杉並区で起きた里子の虐待死事件があります。

「この事件の当事者とは、私は知り合いでした。私と同時期に里親の研修を受けていた人だったんです。

この報道を聞いたとき、目の前が真っ暗になるような衝撃を受けたのを覚えています。小春の子育てに悩んでいた私にとって、他人事とは思えない、もしかしたら私が当事者になっていたかもしれないと思う事件だったのです。
団体としての活動は、当時の苦しんでいる自分を救うために、また、同じ苦しさを感じている里親仲間、そして一番苦しんでいるであろう子どものために始めました。さまざまな情報をシェアし、横のつながりを深めるようなオンラインサロンや里親と養親向けの当事者研究(オンライン)、里親養育を学ぶ研修など、一歩一歩はゆっくりですが、里親子のニーズに合わせて次々と展開していきました」(直巨さん)

一般社団法人グローハッピーでは、「親と子どもの育ちをハッピーに!」という理念の元、親子が幸せに育つ社会環境を創ることを目標に、里親、里親家庭で育つ里子と実子、子育て中の親、研究者がコアメンバーとして活動しています。

「今秋からは、キリン福祉財団の助成を得て、里親の子育てスキルをデータベース化し、子育て伝承の場をオンライン上に創るプロジェクトに取り組んでいます。里親子の声を集め、記録し、成長とストーリーを紡ぐデジタルソリューションの提供を目指し、データベース開発は東京大学大学院 情報学環 澁谷研究室のご協力を得て進めています。
収集した養育データから、個人向けには『子育てのヒントと出会う場』、自治体向けには支援策を考える際のエビデンスとして提供を考えています。

団体の独自の活動としては、今年度から親子の“愛着をはぐくむこと”にフォーカスし、受講者とお子さん専用にカスタマイズされた子育てスキルを創るオンライン研修『グローハッピー12 Steps』の提供をスタートします。
人が子育てを学ぶのは、“自分の子ども時代”。自分がどんな育てられ方をしたのかがお手本となるので、子どもとして納得できなかった親のかかわり方も踏襲してしまうこともあります。
子育ての研究を進めていくと、子育てて自己嫌悪しないで済む、自分も子どもも『ナイス!』と思えるかかわり方を見つけるためには、だれかの成功例ではなく、自分と子どもの望む在り方に徹底的にこだわって見つけ出すことが近道だなとわかりました。
昨年度モデル研修に参加してくれた方からは大変好評を得て、家族と自分の関係が激変したという声も多数いただいています」(直巨さん)

直巨さんは、里親の子育てが進化することで、虐待死事件で亡くなってしまった子が、“もう1度、生まれてきてもいいな”と思えるような子育て環境を日本に創れたらと思い、活動を続けています。

「里子として出会った子どもたちは、本当は親の元で育ちたかったという思いをもっている子が多くいました。いずれは里親が必要のない社会になれたら・・・と、考えています」(直巨さん)

お話・写真提供/齋藤直巨さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>第3回

直巨さんは子育てについて「最高に楽しいこと。自分が守り育てているつもりが、いつしか自分のほうが守られ、親として育っていくのを根気強く待ってもらえるもの。そして、子どもと暮らすということは、世界一の味方を手に入れるようなもの」と話します。

インタビューの3回目は、小春さんに乳児院の思い出や里子になって思ったことなどを聞きました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

齋藤直巨さん(さいとう なおみ)

東京都生まれ。一般社団法人「グローハッピー」代表理事。2人の実子を育てながら、長期里親のほかに、短期里親、一時保護の子どもをこれまで7人受け入れている。

一般社団法人グローハッピーのHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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