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「園で預かっているのは子どもの命」。バス置き去り死亡事故の衝撃から元幼稚園教諭が広める命のSOSとは?

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おしりでクラクションを鳴らし、助けを呼ぶことを伝えるステッカー。

保育園の送迎バスに置き去りにされた子どもが命を落とす――そんな痛ましい事故をきっかけに、命を守る方法を広めようと立ち上がった元幼稚園教諭がいます。2人の女の子の母親でもある古賀あさ美さん(46歳)です。現在古賀さんは、子どもでもおしりの力でクラクションを鳴らして助けを求められる「おしりでクラクション」の普及活動をボランティアで続けています。
全2回のインタビューの前編です。

涙が止まらなかった・・・バス置き去り事故の衝撃

ひと目で目に入るよう、ハンドルに貼ったステッカーです。

古賀さんは「おしりでクラクション」の普及活動を行っています。これはおしりの力でクラクションを鳴らし、閉じ込められた車内から助けを求めるという、実用的な方法です。

――この活動に取り組もうと思った理由を教えてください。

古賀さん(以下敬称略) 2021年7月、福岡県中間市で保育園の送迎バスに、男の子が取り残される事故がありました。記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。男の子は車内に9時間も取り残され、熱中症で亡くなってしまったんです。そのニュースを聞いたとき、とてもショックで・・・。

きっとご両親は、登園する男の子を「行ってらっしゃい。気をつけてね」と送り出したはずです。それが最後の別れになってしまうなんて、想像もしていなかったでしょう。私自身、小学5年生と2年生の子どもがいます。だから、事故にあったお子さんとご両親の苦しみを想像すると、いてもたってもいられませんでした。

――自身の保育現場勤務の経験が、今の活動に影響しているのでしょうか?

古賀 はい。私は短大卒業後、幼稚園で働き始めました。4年目のとき、新しい園長先生が異動してきました。その先生は、真剣に教育に向き合い、子どものことを考えている人で、その先生に言われた言葉が心に深く残っています。

ある日、送迎バスの中に子どもの水筒が置き忘れられていたことがあったんです。それを見つけた園長先生が、全職員に向けてこう言いました。
「もしこれが水筒じゃなくて、子どもだったらどうするつもりなの?」と。続けて、「あなたたちは保護者に『お子さんをお預かりします』と言っているけれど、何を預かっているのか、本当にわかっていますか?預かっているのは子どもたちの命です。そのことを絶対に忘れてはいけない」と強い口調で話されました。

――「命を預かる」という言葉の重みについて考えさせられます。

古賀 それまでも水筒だけじゃなくて、体操袋の置き忘れなどもあったんです。その当時は園バスでの送り迎えの方法や注意事項について先輩保育士から口頭で伝えられているような状況でした。
園長先生の「命を預かっている」の言葉にハッとさせられました。そしてその後、園全体でマニュアルを整備し、バスに乗った子どもの人数確認や、座席下までチェックする手順を定めました。今から20年ぐらい前のことです。そのころはほかの園も私が勤めていた園と同じようにマニュアルなどない状況だったのではないでしょうか。園長先生の真剣な姿勢は、今でも私の原点になっています。

活動を始めるも、門前払いの日々・・・

福岡県中間市で実際に訓練を行ったときの様子。市議会議員の立ち会いも。

――おしりでクラクションという考え方を知ったきっかけについて教えてください。

古賀 事故のニュースをきっかけに、子どもの命を守る方法がないかと考えるようになりました。幼稚園教諭として働いていたときの同僚と「何かできることはないかな」と相談していたんです。2023年から1年くらい、方法を模索し続けました。

あるとき「韓国では幼稚園でおしりでクラクションを鳴らす訓練をしている」というニュースを見かけました。この方法であれば、腕の力ではクラクションを鳴らせない小さな子どもでも、助けを呼ぶことができます。日本でも普及させたいと考えたんです。具体的に活動を始めたのは2024年のことでした。

――どのような活動を始めたのでしょうか?

古賀 最初は、幼稚園や保育園に「おしりでクラクション」の訓練を行ってもらおうと思いました。でも、なかなかうまくいきませんでした。
活動当初から現在にいたるまで変わらない思いですが、私はおしりでクラクションは実際に訓練することが大切だと考えています。というのも、子どもたちにとって、バスの運転席に入りクラクションを鳴らす行為はとてもハードルが高いからです。

子どもたちは送迎バスに乗るとき「運転席には絶対入ったらダメ」と言われていることが多いでしょう。みんな、約束を守ろうとする気持ちが強いから、一生懸命守ろうとするんです。たとえ車内に取り残され、命の危険がある状況におちいっていたとしてもです。
だから実際に幼稚園・保育園の送迎バスを使い、運転席に入ってクラクションを鳴らす経験をさせたいと考えていました。

――実際に訓練は行ったのでしょうか?

古賀 残念ながら、私が住んでいる地域の園にお願いに行っても「うちのバスには安全装置もついているし、先生たちもしっかりしているから、結構です」と断られてしまいました。

まずは知ってもらう。ゼロからのステッカー配布作戦

ステッカー作成費用はクラウドファンディングなどで集めました。

――おしりでクラクションが知られていない状態で、いきなり訓練をお願いしても、その重要度が理解してもらえなかったのかもしれません。

古賀 おそらくそれは大きいと思います。そして私自身も、何をどう伝えたらいいのかが整理しきれていなかったようにも感じます。活動当初は「車内置き去り事故を減らしたい」と、幼稚園・保育園に訴えていました。

でもこの伝え方では、私の思いがうまく伝わりませんでした。園側は「バス事故を起こす園は不適切な保育をしていたはずだ。あなたの園も管理不足なのでは?」と責められているように感じたのかもしれません。思いを伝える難しさを痛感しました。

――なかなか伝わらないのは、歯がゆかったと思います。

古賀 何カ所も回り、すべて断られたので、アプローチ方法を変えようと考えました。まずはおしりでクラクションについて知ってもらうことに注力することにしました。
子どもたちが当たり前のようにおしりでクラクションのことを知っていたら、訓練も当たり前の環境になるはずです。そこで「te to te」という市民団体を立ち上げ、ステッカーを配る活動を始めました。

さまざまな人と手をつなぎ、子どもたちの命を守りたい

訓練のため集まってくれた人たちの前で説明をする古賀さん(右)

――「te to te」という団体名にはどんな意味が込められていますか?

古賀 さまざまな「手と手」をつないでいきたいという思いがあります。いろんな人たちが手をつなぎ、子どもたちを守っていきたいという意味もあり、困ったときに手を差し伸べたら、だれかがつないでくれる社会であってほしいという思いもあります。
また、子どもと手をつないで登園し、帰宅時ももう一度手をつないでほしい。それが「今日もちゃんと帰ってきたよ」という安心の象徴であってほしいです。

――いろんな人とつながり、支え合って子どもの命を守りたいという思いが伝わります。

古賀 私は現在、運転席や車内の目につく場所に貼れるステッカーを自作し、無料で配布しています。このステッカーには2つの意味があります。
まず、子どもに向けて「車内に閉じ込められても、子ども自身が自分の命を守る方法があるんだよ」というメッセージを伝えたいです。
そしてもう1つは、大人への注意喚起です。「子どもを車から降ろすのは、大人の責任だよ」と目に見える形で伝えたくて。ステッカーが貼ってあれば、車を降りる際、ふと目に入って「あ、子どもが乗っているんだ」と思い出すきっかけになるかもしれません。
どんなに気をつけていても、人はうっかりしてしまうことがあります。だから、何かに気づかせてもらう工夫が必要なんだと思います。

ステッカーを配布していくうちに、少しずつ活動について知ってもらうことができました。以前、訓練をさせてもらおうとお願いしに行った幼稚園からも「ステッカーを配らせてください」と連絡がもらえました。
こうした活動はとても地道だし、決して影響力があるわけではありません。でも、コツコツと続けていればきっと、おしりでクラクションの重要性に気づいてくれる人が増えるのではないかと感じています。

お話・写真提供/古賀あさ美 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

「子どもが自分の力で命を守る方法を伝えたい」という一心で、積極的に活動を続ける古賀さん。そのひたむきな思いが、周囲も動かしているのでしょう。悲しい思いをする人が少しでも減るよう、おしりでクラクションがもっと認知されることを願っています。

インタビュー後編では、実際に訓練を行った様子などについても聞きます。

古賀あさ美さん

PROFILE
元幼稚園教諭。市民団体tetote代表。車内置き去り事故から子どもの命を守る【おしりでクラクション】を広めるため、ステッカーを無料配布している。

古賀あさ美さんのInstagram

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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