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まさか娘が…約50万人に1人の希少疾患「メープルシロップ尿症」。患者会を立ち上げた母の思いとは【体験談】

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カンボジア旅行

「メープルシロップ尿症」という名前を知っていますか? 日本では約50万人に1人の疾患で、現在の患者数は全国で100人ほどと推定されています。

今回お話を聞いたのは、「日本メープルシロップ尿症の会」の代表を務める、東京都在住の藤原和子さん。藤原さんご自身も、長女のかなこさんが生後18日目のときにメープルシロップ尿症と診断を受けた、当事者の1人です。

そんな中、藤原さんはかなこさんが20代と大人に成長してから、日本メープルシロップ尿症の会を立ち上げました。今回は、日本メープルシロップ尿症の会を立ち上げたきっかけやタイミングについて、また活動内容について聞きしました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

同じように食事療法を必要とする患者家族と出会い、孤独から救われた

PKU親の会の勉強会資料
PKU親の会の勉強会資料

メープルシロップ尿症(MSUD)は、タンパク質に含まれるアミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)を分解できない先天性疾患です。かなこさんは生後18日でメープルシロップ尿症と診断を受け、その後一生続く食事療法を続けています。

かなこさんが幼いころは、育児の大変さをわかち合える存在がいないことで、孤独を感じていたという藤原さん。そんな中、1つの出会いが藤原さんの気持ちに変化をもたらしました。

「娘が3歳ごろのこと。主治医に『同じようにタンパク制限やミルクで食事療法をしている人たちの会があるので来てみますか』と言われて行ってみることに。それは、PKU(フェニルケトン尿症)という病気を抱えの方たちの患者会『PKU親の会(当時の名称。現在はPKU親の会連絡協議会)』でした。

PKUの集まりでは、同じような食事療法をしている同世代の方々がたくさんいました。そこで初めて、同様に苦労をしているお母さん方と話すことができて。そのとき『あぁ、この人たちに出会えてよかった』と、娘が生まれてから初めて孤独が解消された実感がありました。『このつながりを残したい』と強く思ったのもそのときです。

その後、PKU親の会に入れていただいて、顔見知りになって、月に1回ほど日にちを合わせて病院に行ったり、情報を交換したり。そこでつながったみなさんとは今も大切な友だちです。

『メープルシロップ尿症の家族会もあった方がいいかな』という思いも心の中にずっと持っていましたが、ただこのまま『同じように食事療法をしているPKUの方々と一緒に活動できれば十分』という思いもあり、とくにメープルシロップ尿症の家族会を設立するために行動はしていませんでした。

娘もPKUのみんなと合宿に行ったり、お肉を食べないバーベキュー大会に参加したりと一緒に活動していました。娘もその中でたくさん友だちができて、私たち家族にとって大切な場所となりました」(藤原さん)

さまざまな症状を持つメープルシロップ尿症の方々をフォローしたい!

日本メープルシロップ尿症の会の設立総会の様子
日本メープルシロップ尿症の会の設立総会の様子

それから約20年、PKU親の会で活動を続けていた藤原さん。ところが、とある家族との出会いで、メープルシロップ尿症の家族会の立ち上げを決断することに。

「13年前のこと。PKUの集まりで『メープルシロップ尿症の人いらっしゃいませんか』と声をかけてくれたご家族がいました。そのご家族は、娘さんがメープルシロップ尿症の方で。のちにメープルシロップ尿症で日本で初めて生体肝移植をした患者さんでした。

肝臓移植は、メープルシロップ尿症の根治治療ではありませんが、軽減治療となるため、タンパク摂取制限の緩和や、感染症による体調の悪化のスピードが緩やかになっていくことが見込まれ、日々の生活にゆとりをもつことができるようになると期待されている治療法。

でもPKU患者には当てはまらない治療法のため、PKUの活動の中では移植した人をフォローしていく手だてがないと感じました。

そのとき、メープルシロップ尿症にも、食事以外はふつうに育っている人、知的障害のある人、生体肝移植をして育っている人、いろいろなケースが出てくることにあらためて気づき、その方々をフォローしたいと思ったんです。

そこで、そのご家族とともに、私の知っているメープルシロップ尿症の患者さんにも声をかけ、主治医にも協力をしていただいて、『日本メープルシロップ尿症の会』を立ち上げることに。最初にみんなと設立総会を開催し、ホームページの作成、リーフレットの作成などから開始しました」(藤原さん)

家族会の立ち上げから今年で10周年。これからもっと活動を広げたい

2024年日本代謝異常症学会に患者会ブースを出展
2024年日本代謝異常症学会に患者会ブースを出展

今年10周年を迎える日本メープルシロップ尿症の会。これまでの活動と、今後の展望について藤原さんに聞きました。

「実はこの10年、日本メープルシロップ尿症の会は、PKU親の会の一部のような形で活動していたんです。しっかりと総会を開くという感じではなく、ホームページの維持・更新、あとは2年に1回ほどのペースで学会に行って患者会ブースを出したり、またお声がけいただいた大学で講演したり…ほそぼそと続けてきました。

でも今年10周年という節目で、『もっと外に向かって活動を広げてみよう』という気持ちを持っています。

そのきっかけとしては、一昨年、メープルシロップ尿症の治療に不可欠な治療用特殊ミルクが、医薬品からはずれて登録品になってしまうという、私たちにとっては大きな事件が起こったこと。その際、メーカーからいち早く家族会に連絡をいただき、会員患者に説明をすることができました。その後医薬品としての提供が再開されましたが、今後も安定的に作られていく保証はありません。だからこそ、やはり家族会をとおして実際に患者家族と直接つながっておく必要があると実感しました。

また、一緒に活動をしてきたPKUに関しては、近年になって新たな治療法ができ、ここ2年ほどで急速に食事療法が軽くなっている患者さんも出てきています。娘はその話を聞くと『こっちはまだ治療法ができていないのに…』と少し憂鬱(ゆううつ)になって…。

新しい治療法の研究が進むためには、やはり潜在的な患者とつながって登録患者数が増えること、そして世の中にこの病気を知ってもらうことが大事です。娘が病気とわかったとき『30年後は治療法があるかもしれない』と言われましたが、30年以上たっても何も進んでいないもどかしさがある。これから治療が続く、まだ小さなお子さんの患者家族にはそのような思いをしてほしくないです。

だから、これからもっと世の中の人にメープルシロップ尿症という病気があるということだけでも知ってほしいですし、同じ病気で悩んでいる方とつながれたらうれしい」(藤原さん)

多様な人が埋もれない社会を願って

カンボジア旅行でのかなこさん。国内旅行よりタンパク質の少ない食事で安心でした
カンボジア旅行でのかなこさん。国内旅行よりタンパク質の少ない食事で安心でした

30年以上に渡って娘さんと治療を続けてきた藤原さん。娘さんが独り立ちして手が離れた今だからこそ、日本メープルシロップ尿症の会への活動へ向けるまなざしが印象的でした。

最後に、たまひよ読者やお子さんを育てるママ・パパたちに伝えたいことを聞きました。

「私たち家族は世間一般で見るとマイノリティーな生活をしてきたと思います。そんな中でも心開けるママ友ができたり、娘にも友だちができたりして、楽しく過ごせてきたんです。だからこそ、『多様な人が埋もれないでちゃんと存在している』ということを、もっと社会で広く理解していただけたら。それが今いちばんの願いです。

また、これからママ・パパになるという方は、おそらく赤ちゃんが生まれてから5日目ころに新生児マススクリーニングを受けると思うんです。でも、もしそこで何かにひっかかったとしても、今は医療の力で、発症せずに過ごせたり、発症しても食事療法や服薬などでふつうに育つことができる病気が増えています。だから、ショックを受けたりただ否定したりするのではなく、情報をうまく使いながら共感し合える人とつながってほしいです。助けてくれる人は必ずいます。どんなことがあっても『大丈夫、育てられるよ』と伝えたいです」(藤原さん)

お話・写真提供/藤原和子さん 取材・文/安田萌、たまひよONLINE編集部

新しい患者家族との出会いで「日本メープルシロップ尿症の会」を立ち上げた藤原さん。これまで活動にあまり変化がなかったからこそ、設立10周年の今、より積極的に活動をしようという熱意が伝わってきました。私たちが少しでも関心を持ち、この病気を知ることだけでも、今後の研究の進展につながる大切な一歩になるはずです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

藤原和子さん

PROFILE
長女は希少疾患「メープルシロップ尿症」。長年に渡る自身の治療・育児経験から、「日本メープルシロップ尿症の会」を設立。代表を務める。

日本メープルシロップ尿症の会のHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年10月の情報で、現在と異なる場合があります。

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