「島の子は宝、島で育てる」。2児の母であり、沖縄の離島で働く唯一の医師に聞く、“離島の出産・育児”とは?
沖縄北部からフェリーで約1時間20分のところにある離島・伊平屋島。島で唯一の医師として働く真栄田この実先生は、2020年に島出身の男性と結婚し、2022年に第1子、2024年に第2子を出産しています。人口約1200人の島の人たちの健康を守りながら、子育てしている真栄田先生に、離島での結婚、出産、育児について聞きました。
全2回のインタビューの後編です。
島の人と交際が始まり、半年で結婚
――真栄田先生は2020年、28歳のときに伊平屋島診療所に赴任しています。夫さんとの出会いについて教えてください。
真栄田先生(以下敬称略) 夫は役所の職員として働いています。介護保険などを担当していたから、島の人たちの健康を守る私の仕事との内容も近く、打ち合わせなどでかかわることが多くありました。
また夫は、三線が得意で、地域で教えたり島のイベントの際は弾いたりしていました。横浜に住む私の母も、以前から三線にはまり、人に教えるほどの腕前でした。せっかく島に来たんだから、習ってみようかなと思って夫が教えている三線教室に入ったんです。それで仲よくなりました。
交際開始から半年後には結婚しました。島の人たちは、私のことを「島で唯一の医師」だと知っていて。だから、ダラダラとつき合うのはよくないかなという気持ちもお互いにありました。
――周囲の反応はいかがでしたか?
真栄田 患者のおじい、おばあたちは私が島の人と結婚するのを、わがことのように喜んでくれました。私の両親は、最初に報告したときは離島で暮らすことになることにびっくりしていました。でも、父が鹿児島出身で、わりと南国の離島が身近だったみたいです。結果的に喜んでくれました。
離島診療の医師派遣のスケジュールや、保育士不足のため育休を2年半取得
――2022年5月には第1子を出産されています。離島の妊婦さんはどのような生活になるのでしょうか?
真栄田 はい。第1子を妊娠中はそれまでと同じように島医師として勤務していました。そして妊婦健診は沖縄本島の病院までフェリーで通いました。医師として離島の妊婦生活を経験できたことは、今では診療に役に立っていると思っています。
伊平島を出る方法はフェリーのみで、沖縄本島へのフェリーは朝と夕方の1日2便しかありません。
妊婦健診のために沖縄本島に行くとなると、朝のフェリーで向かい、帰りのフェリーは夕方なので1日がかりです。ときには1泊して帰ることもありました。
島では分娩ができないので、妊娠後期には沖縄本島に行って生活をすることもあります。私の場合は妊娠34週まで働き、その後は実家のある横浜に戻り、里帰り出産をしました。
出産後は、2カ月くらいまでは実家にいて、その後島に戻りました。育休は当初は1年間の取得の予定で、代診医師が診療所に来てくれていました。
ただ、島の保育士がたりず、育休が明けても私の復職のめどが立ちそうもありませんでした。「体制が整っていないから育休を2年間取得してほしい」ということになり・・・。それならと夫婦で相談し、育休中に2人目を産んで体制が整ってから復職するのがいのではないかと計画しました。妊娠し、2024年2月、第2子を出産しました。2024年9月に復職し、育休は2年半取得したことになります。
――第2子妊娠中も島で暮らしていましたか?
真栄田 そうです。第1子妊娠中と同じように妊婦健診はフェリーに乗って沖縄本島で受けました。子どもを連れてフェリーで移動というのが結構大変で。つわりもあるし、でも子どもも1時間20分フェリーに乗っていると飽きてくるから抱っこして・・・と、バタバタしていました。でも、2年半育休を取得している間は、「島のお医者さん」ではなく、ママなので、ほかのママとも仲よくなれて、とても貴重な時間だったと思います。
――島では保育士がたりていないのでしょうか?
真栄田 島には保育園、小学校、中学校が各1校ずつあります。
子どもの数は1学年10人くらいなのですが、保育士の数がたりません。
島では夫婦共働きが基本です。ママたちもみんな保育園に預けて働くことを希望しています。保育士の移住者を募ることもしているのですが、ギリギリの状態です。
育児と仕事の両立に奮闘する毎日
――真栄田先生は、どのように仕事と育児を両立していますか?
真栄田 基本的に8時半から17時まで仕事をしています。午前中は一般外来、午後は訪問診療をしています。医師が1人なので、子どもが風邪をひいたら、午後は予定を調整できるのですが、午前中は休むのが難しくて。近くに義母が住んでいるのでお世話をお願いすることになります。とはいえ、義実家は民宿を経営していて、義母もお客様の食事を作るなどしているので、忙しくて。夫や義家族みんなに協力してもらっています。
――夫さんとは育児の分担をしていますか?
真栄田 夫とも分担はしているのですが、どうしても負担は私のほうにかかりがちです。
夫は島の外に出張することもあって。島外では1日だけ仕事という場合も移動時間を考えると2泊3日になることも少なくありません。そうするとワンオペになってしまいます。
とはいえ、島の人たちは「子どもは島の宝」と考えていて。子どもにすごく優しいです。子連れだとみんな声をかけてくれるし、知り合いばかりだから安心して子育てができます。うわさがまわるのが早く、ちょっとしたこともいつの間にかみんな知っているということもあります(笑)。人との距離が近い部分もありますが、その分、みんながあたたかく子どもも親も見守ってくれている感じがします。
娘たちには、島でのびのびと育ってほしいと思っています。
――娘さんたちは、先生の医師の仕事について理解していますか?
真栄田 はい。とくに上の子は理解しています。小さいときから、「病院の携帯電話が鳴ったら、緊急の患者さんがいるということだよ。遊ぶのを中断して病院に行くよ」と言い聞かせていました。ワンオペのときは、娘たちを診療所に連れていかざるを得ないのですが、周囲も子どもが診療所にいても「いい子だね」と見守ってくれています。
――島の子どもたちの健康診断も先生がしているのでしょうか?
真栄田 はい。私がしています。娘たちがいる保育園の園医も私です。ただ、自分の子どもへの予防接種は研修医や看護師にお願いすることが多いです。
島に医師が1人だから、予防接種や健康診断、子どもが風邪をひいたときなどに、島のママ、パパたちとはしょっちゅう会うんです。そうすると、子どもはもちろん親の様子もわかります。調子が悪そうなママやパパには、子どもの診察の合間に話を聞いたり、場合によっては役場の保健師とつないだり、沖縄本島の病院を紹介したりすることもあります。
子どもだけでなく家族まるごと診ることができるのは総合診療医だからこそではないかと感じます。
移動時間はかかるけれど、豊かな自然を実感する日々
――島の生活で大変なことはありますか?
真栄田 横浜に帰省するにしても、沖縄本島に用事があるにしても、移動時間がかかるのが大変です。
あとは、欲しいものがすぐ手に入らないというのはあります。基本的なものはスーパーで売っているのですが、子どもの下痢が続いたときにちょっと特殊な粉ミルクが欲しいと思っても、ネットで注文してから届くまでに2~3日かかり苦労しました。台風が来ると、1日2便のフェリーが欠航するので、物流もストップします。だから台風の予報が出るとみんなたくさん買い物をして備えています。
とはいえ、自然に恵まれている伊平島なので、ふだんの食事はすごくおいしいです。旬の野菜や魚などはおすそわけし合うなども日常茶飯事。元気になった患者さんから「ありがとう」と野菜をもらうこともあります。元気に野菜づくりができるまで回復したことをとてもうれしく思い、ありがたくいただいています。
1人で島の人たちの健康を守る責任と向き合って
――島の医師として、母親として、毎日忙しいと思います。
真栄田 島の人たちの健康を守る責任の重さを感じる毎日です。だからまずは、しっかり体調管理をしないといけないと思います。私が急に休むとなると、代わりがいないので・・・。
もちろん、有給休暇は取れるのですが、数カ月前から申請して本島の病院の先生に代診に来てもらう必要があります。休めるときはしっかり休み、メリハリをつけています。
――真栄田先生のこの先の目標について教えてください。
真栄田 島の医師として、総合診療医として頑張っていきたいです。この先、離島でも私のように育児をしながら働くなど、いろんな働き方が選択できるといいなと思います。そのために、遠隔医療なども取り入れることで、より働きやすい環境にできたらいいなと感じています。
お話・写真提供/真栄田この実 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部
「どんな状況になっても、ずっと医療に携わっていきたい」と真栄田先生は話します。子育てと仕事の両立に奮闘しながら、島の未来も見すえる先生は、約1200人の島の人たちの健康と命を守る責任感にあふれていました。
真栄田この実先生
PROFILE
神奈川県出身。日本大学医学部卒業後、沖縄県立中部病院のプライマリケアコースにて初期研修。その後、沖縄県立中部病院の総合診療専門医研修プログラムの専攻医。2020年4月より、沖縄県立北部病院附属伊平屋診療所に赴任。伊平屋島で夫と出会い2020年11月に結婚。2児の母。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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