「こんなはずじゃなかった」をサポート!豪州発・育児支援プログラムが日本上陸!?
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赤ちゃんが誕生して喜びがいっぱいの一方で、初めての育児に戸惑うママも少なくありません。慣れない育児に不安やストレスを抱えていても、パパが仕事で帰りが遅かったり、両親が高齢でサポートを頼めなかったりなど、周囲に頼れないケースも。
産後はホルモンの影響もあり、精神的な不調を感じやすいですが、ママがひとりで育児や不安を抱え込んでしまうと、産後うつを引き起こすことにも。産後ママのメンタルケアやパートナーも含めた子育て支援の重要性は、産婦人科医や精神科医、助産師、保健師といった専門家の方たちの間でも考えられています。
そのなかで、オーストラリアの育児支援プログラム(What were we thinking! : WWWT)の日本語版が開発され、本格的導入に向けての研究がスタートされました。
どのようなプログラムなのか、オーストラリアでの育児支援の取り組みはどのようなものかなど、順天堂大学で開催されたシンポジウムの内容とあわせて紹介します。
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パートナーと受ける専門家によるワークショップ「WWWT」
「WWWT(ダブルダブルダブルティー)」とは、オーストラリアで行われている育児支援で、初めての育児に戸惑うママ、パパの気持ち「What were we thinking!」(育児って、こんなはずじゃなかった!)の頭文字から名づけられました。
オーストラリアでも、以前から産後のママに対する体と心のケアがされてきましたが、特定の人に限られてしまったり、育児が困難と感じるタイミングに適切なケアが受けられなかったりという問題があったため、すべての女性、両親に対してサポートできるようにとWWWTが開発されました。
WWWTは、わかりやすくいうと、「産後両親学級」。6カ月未満の初めての赤ちゃんがいるママ、パパに対して、トレーニングを受けた専門職であるファシリテーターがワークショップを行います。
5、6組のママ、パパ、赤ちゃんが参加して、ワークブックを活用しながら赤ちゃんのこと、カップル同士のコミュニケーションについて、話し合いながら学びます。また、赤ちゃんの実際のお世話についても、ファシリテーターが助言し、
「赤ちゃんがなかなか泣き止まない…」
「ぐずって寝てくれない」など、
ママとパパが困ったと感じがちなお世話についても具体的な対処方法を学ぶことができます。まさに、育児が始まってからの「こんなはずじゃなかった!」について解決できる場なんですね。
そして、ワークショップが終了してからも自宅で学べるように、テキストも用意されているのだとか。
夫婦関係の状態についても着目
プログラムの開発者ジェーン・フィッシャー先生(豪州モナッシュ大学 公衆衛生・予防医学部 教授)によると、産後の不安障害やうつを引き起こす要因のなかに「夫婦、パートナーの関係が良好ではない」ことも考えられるそう。そしてこの問題も専門家が介入することで改善されるのではないか、との考えから、WWWTでは「夫婦のコミュニケーションスキル」についてもサポート。ママとパパが一緒に参加するのも、その意味があり、パートナーシップや周囲とのサポートづくりについて一緒に考えることができます。
WWWTはママ、家族にメリットが多い
同じくプログラムの開発者ヘザー・ロウさん(豪州ジーンへイルズ研究所 上級研究員)は、フィッシャー先生と一緒に、WWWTが産後ママや家族にどれほどメリットがあるかを、6つの地方自治体で調査しました。その結果、WWWTを受けたママは、受けていないママと比べ、「産後の不安」が50%程度少なく、「パートナー関係を良好」と答えた人は2倍だったそうです。パパも参加して、実際のわが子のお世話について相談できたり、夫婦関係について話し合えたりすることが、ママの安心につながっているんですね。
日本でも産後うつの予防、早期発見の取り組みが
シンポジウムでは、日本の産後ママのメンタルケアについても話し合われました。竹田省先生(順天堂大学医学研究科 産婦人科講座特任教授)は、
「2000年ごろから、産後女性へのメンタルサポートの必要性は産婦人科医、小児科医、助産師のなかでも言われてきたが、なかなか行政と連携して、すべての女性に行き届くまでいたっていない。
ようやく2017年に周産期メンタルヘルスのガイドラインができ、これを周知徹底し、産後うつを予防、早期発見する取り組みが行われています。国も、平成32年までに子育て支援センターを各自治体に設置しようと動き出しました」
と、産婦人科で行われている産後女性へのメンタルケアの現状と今後について報告されました。
また、精神科医の加茂登志子先生(若松こころとひふのクリニック PCIT研修センターセンター長)も、竹田先生と同じく
「日本でも産後メンタルヘルスの研究がされてきました。精神科医、産婦人科医、小児科医、日本の医療全体で、しっかりと取り組んでいかなければいけない問題だと思っています。日本はジェンダーギャップ(男女平等の度合い指数化したもの)や男女の所得格差が大きい国です。これらも産後うつに関係していると考えられるのでは」
と、日本の男性、女性の役割の考え方が、産後女性のメンタルヘルスにも影響している点に触れられました。
WWWT日本版が誕生!新しい産後ケアに
日本のさまざまな育児支援、産後女性へのメンタルケアの取り組みのなかで、高橋眞理先生(順天堂大学大学院医療看護学研究科 教授)を中心に、WWWTの日本語版の開発、研究、普及が進められています。
「日本は家事、育児は女性がするものという固定概念がまだまだ強い国。女性の社会進出や核家族化、少子化などを背景にして、女性は育児に対して新たな困難、不安を感じているのでは。女性だけでなく、家族への支援が必要であると考えます。WWWTはたとえば、
・赤ちゃんが誕生して得たもの失ったもの
・毎日の家事、育児時間
などを夫婦で別々に記入して、お互いの負担を話し合うきっかけになるワークもあり、これからの日本の育児支援に必要な要素が含まれています。文化や育児環境は違いますが、役に立つ部分を日本語版として取り入れていきたい」(高橋眞理先生)
WWWTを行う専門家の養成も進められていて、実際の展開までもうすくだそうです。
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初めての育児はわからないことだらけ。また出産を機にママとパパの関係も変わります。産後間もない時期にサポートしてくれるWWWTのようなシステムがあったら心強いですね。ぜひ妊娠中に、自分の住む地域にどんな育児支援サポートがあるのか調べて、活用してみましょう。(文・たまごクラブ編集部、茂木奈穂子)
■取材協力:順天堂大学 医療看護部 大学院医療看護学研究科
教授 高橋眞理先生
准教授 大田康江先生