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生後3カ月で進行性の難病と診断された二女。「命を守りたい」と両親は造血細胞移植を決断し、1歳で“生まれ変わった”娘【ムコ多糖症】

更新

美月ちゃんは移植後、国立成育医療研究センターの無菌室で1歳の誕生日を迎えました。

4歳の長女・唯夏(ゆいか)ちゃんと2歳の二女・美月(みつき)ちゃんを育てる村木晴子さん。夫・謙太郎さんの駐在先である台湾で生まれた美月ちゃんは、生後3カ月で「ムコ多糖症Ⅰ型」と診断されました。「ムコ多糖症」は乳児期から発達の遅れなどが現れ、成長とともに神経や臓器などに重い症状が現れる進行性の指定難病です。晴子さんに、美月ちゃんが日本で造血細胞移植を受けるための入院中の様子、その後の成長などについて聞きました。
全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

移植のため免疫を落とし、やつれる娘の姿が苦しかった

美月ちゃんが入院する日。病院のロビーでお別れする前の笑顔の姉妹。

台湾で生まれた美月ちゃんは、生後すぐに新生児スクリーニング検査を受け、生後3カ月で「ムコ多糖症Ⅰ型」と診断されました。

「ムコ多糖は、本来体に必要な物質ですが、古くなったものは分解する必要があります。ムコ多糖症は、細胞内でのムコ多糖の分解に必要な酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞にムコ多糖がたまってしまう先天代謝異常症です。年齢を重ね、ムコ多糖が全身の細胞に蓄積されると症状が進行し、10歳代で歩けなくなる、自分で食事ができなくなる、自発呼吸が困難になる状態になることもあるそうです。

病気の進行を遅らせる方法として、点滴による酵素補充療法と、ドナー(提供者)の細胞を移植する造血細胞移植があります。細胞移植をすれば自分の体でムコ多糖を代謝できるようになります。美月は生後5カ月から症状の進行を抑える点滴治療を毎週受けていましたが、小さな美月の細い血管に点滴の針を何度も入れることはとても負担が大きく感じていました。そこで、私たち夫婦は、美月に日本で造血細胞移植の治療を受けさせる決断をしました」(晴子さん)

2024年10月、生後10カ月になった美月ちゃんは、移植の準備のため国立成育医療研究センターに入院します。準備、移植、移植後の管理と回復までを含め、約4カ月の入院になります。

「造血細胞移植は、移植前後の過程がとても重要です。まずは、移植直前に感染を防ぐために1カ月ほど前から入院します。次に、移植されたドナーの細胞を体が異物と認識して拒絶しないように、移植前は1週間程度で抗がん剤などを使用して、体の免疫を落とします。美月の免疫力が下がっているため、付き添う私も感染予防や衛生管理にかなり注意し、緊張して過ごしました。毎日血液検査で免疫が下がっているかを確認するのですが、日に日に美月の表情はやつれ、髪も減り、ぼんやりしたり眠ったりすることが多くなり、そんな姿を見るのはとてもつらかったです。

そして免疫がもっとも落ちた状態になった11月、ドナーの臍帯血(さいたいけつ)を脊髄に注射のように入れる移植を行いました。移植後約1カ月間は、無菌室で過ごします。美月は移植後、薬の影響でどんどん髪の毛が抜けてしまいました。高熱が下がらなかったり、嘔吐や下痢も続き、別人のようにげっそりとやつれてしまった姿は痛々しかったです。本当にこれで大丈夫なんだろうか、また笑顔が見られるのだろうかと、気の休まらない日々でした」(晴子さん)

1歳の誕生日翌日。移植した細胞が根づき、生まれ変わったわが子

入院後の美月ちゃん。病棟内はハロウィンのかわいい飾り付けが。

造血細胞移植からの1カ月、美月ちゃんの具合の悪さに不安な日々を過ごした晴子さんでしたが、同じ病棟で過ごすほかの子どもたちが元気になっていく姿を見て、心の支えにしていました。

「病院では移植をした子の家族の方と話す機会もあったので、『美月も必ずよくなる』と信じて乗り越えることができました。
移植後、「生着(せいちゃく)」といって移植した細胞が血液細胞の種として骨髄に根づいたことが確認できたのは、12月。偶然にも美月の誕生日の翌日のことです。美月は生まれ変わることができた、そんな気がしました。

また、美月に移植したのは北海道の男の子の臍帯血だったと聞きました。私と夫の地元、北海道の方の臍帯血を移植できたことも、なんだか不思議なご縁を感じてとてもうれしく思いました」(晴子さん)

移植した細胞の生着までは、食事をとることもできず点滴で栄養をとっていた美月ちゃんでしたが、生着が確認されて以降、少しずつ離乳食を食べられるようになり、元気を取り戻していきました。

「無菌室から一般病棟に移動してからは、体にいくつも入っていた点滴の管が1本ずつ抜けました。食事も食べられるようになり、そうするうちに病院食の幼児用おやつがなくなっているのに、袋に手を入れて食べようとするくらいに元気になりました。どんどん回復していく姿を見られて、心から安心しました。

そして、2025年2月、美月が1歳2カ月を迎えてから退院。すぐに家族が待つ台湾へ戻りました。私と美月が台北の空港に到着すると、夫と花束を持った長女が迎えてくれました。2人で花市場で選んでくれたんだそうです。すごく感動しましたし、また家族で暮らせる喜びを感じました」(晴子さん)

付き添う親の大きなサポートとなったドナルド・マクドナルド・ハウス

唯夏ちゃんは美月ちゃんの病棟に入室できないため、日本に来たときにはドナルド・マクドナルド・ハウスで過ごしました。

退院までの4カ月、晴子さんは毎日、面会時間の朝10時から夜9時までを美月ちゃんの病室で過ごしました。面会時間が終わり、すぐに敷地内にある「ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや(以下、ハウス)」へ帰れたことがとても助かったそうです。

「ハウスは病院の敷地内にあり、電車やバスのように不特定多数の人がいる中での移動がなかったので助かりましたし、ハウスに滞在中のほかのご家族もお互いに衛生面に気をつけているので、ずいぶん不安がやわらぎました。

それに、台湾での入院は24時間親が付き添うのが原則だったので、ハウスに帰ってしっかり睡眠がとれることもありがたかったです。

美月が無菌室にいる期間は、面会時は入室前に防護服を来て粘着テープでゴミを取り、靴も履き替え、マスクをつけて面会します。美月の衣類も私の服も必ず毎日洗濯しなくてはいけません。毎日の洗濯もハウスでできたので、とても助かりました。長期間の入院に付き添う親は、ハウスがあることでしっかり体調管理ができるんです。もし私が体調をくずしたら代わりはいませんから、4カ月間1度も風邪をひかずにすんだのは本当によかったです」(晴子さん)

娘の様子に、移植前とあきらかな違いが

生着が確認できたあと、少しずつ元気になり笑顔が戻った美月ちゃん。

移植後、元気になって台湾へ戻った美月ちゃんでしたが、日常生活では気をつけなければいけないことがたくさんありました。

「退院にあたり、医師からは免疫が完全でない美月の日常生活でのこまかな注意事項の説明を受けました。日差しの強い台湾では、日焼けで皮膚にGVHDという合併症(※)が起こる可能性があるため長袖・長ズボンを着ることや、部屋を清潔にすること、砂場遊びや水泳や温泉も禁止、など。

また、腸にGVHDが起こったり、感染によって下痢になったりするから、刺激物や生ものを食べるのは禁止、ほかの人の食べているものを共有してはいけないこと、食事は当日作ったものだけ与えること、といった注意も。さらに家族みんなで、手洗い・うがいと行った感染予防を徹底した生活を続けています。
生活で気をつけることはありましたが経過は順調で、移植後1年間、美月は1度も風邪をひかず元気に過ごしています」(晴子さん)

移植前と比べ、美月ちゃんの様子にはっきりとした変化も感じたと晴子さんは言います。

「いちばん気になっていたいびきがほとんどなくなったんです。また、ムコ多糖症の子は舌が大きく、口から舌を出すようなしぐさをすることがよくあったんですが、それもなくなりました。また以前は、細胞にムコ多糖がたまるために皮膚がかたくなってしまっていたのですが、今はかなりやわらかくなりました。

帰国後は台湾の病院でフォローアップを受けていて、血液検査の数値も改善しているようです。免疫がない体を守るための薬も飲ませていましたが、その薬の量もだんだん減って、2025年9月に飲み薬は終了することができました」(晴子さん)

※移植片対宿主病。移植されたドナーの細胞が、患者の体の細胞を攻撃する免疫反応のこと

症状は改善。でもこれからも、娘の病と向き合い続ける

5月、2歳半になった美月ちゃん。お姉ちゃんの登園前にママと3人でパチリ!

美月ちゃんは、移植によってムコ多糖を代謝できるようにはなりましたが、進行性の難病であるために、今後も通院して状態を見てもらう必要があります。

「美月のムコ多糖症の症状は、現在改善した状態を保っていますが、一方で、遠視・乱視や先天性股関節形成不全が見つかり、手術を受けるなど課題は続いています。造血細胞移植の手術を一度すればもう通院しなくてよくなるわけではなく、定期的にフォローアップを受ける必要がある点で、やはり難病の大変さはあると実感しています。

難病と診断され、進行性で命にかかわることもあると聞いた当初は大きな恐怖がありました。でも、移植が成功した今は、今後のことが不確かだからこそ希望を持って、なるべく普通の生活・・・ごはんを食べたり、友だちと遊んだり、走ったり、本を読んだりできるような環境で過ごさせてあげたいと思うんです。今できる最善の選択をしながら、これからも日々向き合い続けていくでしょう。日本の主治医とも定期的に連絡を取って状態を報告し、フォローしてもらっています」(晴子さん)

一方、美月ちゃんの姉・唯夏ちゃんの存在も心強い、と晴子さん。入院の4カ月間、母と離れ台湾で過ごし寂しい思いをさせているのではと心配した晴子さんでしたが、唯夏ちゃんはとても妹思いに育ってくれているそうです。

「台湾では年明けに台北101ビルで盛大な花火が上がるんですが、そのときに願いごとをするとかなうと幼稚園で聞いたそうです。夫と花火を見に行った唯夏に『何をお願いしたの?』と聞くと、『みっちゃん(美月)の病気が治るようにって』と言ってくれました。

北海道に帰省したときにも、神社で『美月の病気が早く治りますように』とお願いしてくれて・・・。妹の病気は治るものだと思っているので、いつもそうやってお願いしてくれるんです。幼いながらも妹を思う唯夏がいてくれるからこそ、私も未来を信じて前に進めています」(晴子さん)

美月ちゃんは、今、2歳半。晴子さんは、これから美月ちゃんに「力強く生きてほしい」と言います。

「生まれてからわずか2年で、美月はたくさんの困難を乗り越えてきました。美月のこの強い生命力で、力強くたくましく、自立して生きていける子になってほしいです。それは、病気がわかったときからずっと願い続けていることです」(晴子さん)

【坂口大俊先生より】ムコ多糖症のお子さんに対する1歳前後までの造血細胞移植の重要性について

ムコ多糖症Ⅰ型に対する根本的な治療の1つが、足りない酵素を作れる細胞を取り入れる「造血細胞移植(臍帯血移植など)」です。この治療は、脳への障害が本格化する前の「生後1歳前後まで」という極めて早い時期に行うことが成功の鍵を握ります。とくにⅠ型においては、早期介入できれば、病気の進行を食い止め、認知機能や身体機能をより良い状態で維持できる可能性が高まります。現在では小さな赤ちゃんの体への負担を抑えた安全な移植手法も進歩しており、早期発見から早期移植へと途切れずつなぐことが、子どもたちの良好な生活の質(QOL)の実現に直結します。

お話・写真提供/村木晴子さん 医療監修/坂口大俊先生 協力/公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部

晴子さんは「せたがやハウス25周年募金委員会」の委員を務めています。「ドナルド・マクドナルド・ハウスがあったからこそ日本での移植入院ができました。改修後は3室増えて26室になるそうです。自分と同じ境遇の人がより多く救われてほしい、恩返しがしたいという思いで手伝いに立候補しました」と話してくれました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

参考/JAMA Netw Open. 2026 May 1;9(5):e2610243. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2026.10243.

坂口大俊先生(さかぐち ひろとし)

PROFILE
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 移植・細胞治療科 診療部長。
2005年滋賀医科大学卒業。名古屋大学医学部附属病院小児科、名古屋第一赤十字病院小児医療センター勤務などを経て、2021年より現職。

ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや

病気と向き合う子どもとその家族を支える滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、全国に12施設あり、いずれも小児病院のすぐ近くに位置して無料で利用できます。運営はすべて寄付・募金とボランティアの活動によって支えられています。
国立成育医療研究センターに隣接するせたがやハウスは、増室工事をふくめた大規模改修のため2025年9月から2026年11月ごろまでの間は一時閉館し、近隣の代替施設で利用家族を受け入れています。また、大規模改修にあたり、募金委員会にて寄付を募っています。詳細は財団ホームページおよび募金委員会公式WEBページより確認できます。

公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの公式HP

ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがやの公式X

せたがやハウス25周年募金委員会 公式WEBページ(note)

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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