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「大きな青いあざやいびきは、病気の症状だった」台湾で生まれ、難病と診断された二女。毎週の点滴治療で命をつなぐ【ムコ多糖症】

更新

出産後、台湾の病院から自宅に戻るときの家族写真。

4歳の長女と2歳の二女を海外で育てている村木晴子さん。二女の美月(みつき)ちゃんは生後3カ月で「ムコ多糖症Ⅰ型」と診断されました。「ムコ多糖症」は乳児期から発達の遅れなどが現れ、成長とともに神経や臓器などに重い症状が現れる進行性の病気で、国の指定難病です。美月ちゃんの病気は、晴子さんが出産した台湾の病院で受けた新生児スクリーニング検査で見つかりました。
晴子さんに、出産から診断を受けたころのことについて聞きます。
全2回のインタビューの前編です。

新生児スクリーニング検査を受けた二女。ムコ多糖症の疑い

生後間もない美月ちゃん。晴子さんは、赤ちゃんの産声が聞けてほっとしたそうです。

晴子さんと夫の謙太郎さんは、2017年にお互い駐在員として赴任していた中国・天津で出会いました。故郷が北海道で、趣味がランニング、など共通点が多かった2人はすぐに意気投合。交際を経て2019年に結婚します。

「その後、夫の上海異動に伴い、私は休職して一緒に上海へ。上海で不妊治療を行って、コロナ禍の2021年に第1子の女の子を出産しました。上海で生活を送る中、再び不妊治療に取り組み、2023年春に第2子を妊娠。そのころ夫の台湾異動が決まり、一家で台湾へ引っ越しました。

第2子の妊婦健診も出産も台湾でした。妊娠経過は順調でしたが、さかごのため、予定帝王切開での出産に。実は中国や台湾では、帝王切開が結構ポピュラーなようです。縁起のいい日時に出産したいと、希望する人が多いそうなんです」(晴子さん)

そして2023年12月、二女の美月ちゃんが台湾の病院で誕生しました。

「看護師の方が病院内で長女の面倒を見てくださり、夫も帝王切開での出産に立ち会うことができました。無事に生まれて声が上がった瞬間は本当にホッとしました。夫も『よく頑張ったね』と声をかけてくれました。

美月は生まれてすぐに酸素投与が必要な状態だったらしいのですが、2日ほどで回復し、その後は母子同室で過ごせました」(晴子さん)

晴子さんは、入院時に有料の新生児スクリーニング検査を申し込んでいました。生後すぐの血液検査の結果が出たのは、美月ちゃんが生まれて7日目のことです。

「台湾では、帝王切開でも産後4日くらいで退院になります。娘と自宅で過ごしていたところ『検査の結果、ムコ多糖症Ⅰ型の疑いがあるから精密検査をしてください』と連絡がありました。

『ムコ多糖症』なんて初めて聞く病名です。『糖分が多い病気なのかな?』などと思いながら何が何だかよくわからないまま、病名をネットで検索してみると、成長とともに全身にいろいろな症状が起こることや、10歳で命を落としてしまう、など恐ろしい情報ばかりが見つかります。『まさか、うちの子に限って違うはず』『検査ミスじゃないか』と不安で、検索してはページを閉じることを繰り返していました」(晴子さん)

2024年2月、美月ちゃんは設備の整った病院で尿検査と血液検査を受けます。結果が出るまで病気ではない未来を想像して過ごした、という晴子さん。でも、美月ちゃんのお世話をする中で、気になる様子もありました。

「長女はよく寝るし、あまり困ったことがない子でした。でも美月は眠りが浅くてたて抱きしないと寝つかないし、ミルクが飲めずに母乳のみ。吸う力も弱く、私以外が抱っこするとすぐ泣くし・・・本当に大変でした。私も全然寝られずに育児ノイローゼになりそうなほどでした。

そして、背中とおしりに大きな青いあざがあることや、赤ちゃんなのに寝るといびきをかくことも、何かおかしい・・・と気になっていました。あとで調べると、大きな青いあざがあることやいびきをかきやすいのは、ムコ多糖症の症状と一致していました」(晴子さん)

治療法がない難病と診断され・・・

晴子さんは、美月ちゃんの背中にもおしりにも大きな青いあざがあることが気になっていました。

ムコ多糖症は、細胞内で不要になった「ムコ多糖」という物質を分解する酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞にムコ多糖がたまってしまう先天代謝異常症です。ムコ多糖症は7つの型に分類され、それぞれ症状が少しずつ異なります。年齢を重ね、ムコ多糖が全身の細胞に蓄積されると症状が進行し、10歳代までに歩けなくなる、自分で食事ができなくなる、自発呼吸が困難な状態になることもあります。

台湾の病院での精密検査の結果、美月ちゃんが「ムコ多糖症Ⅰ型」と正式に診断されたのは生後3カ月のことでした。

「医師からムコ多糖症のパンフレットを手渡され『ムコ多糖症Ⅰ型という代謝異常の難病で、非常に珍しい病気です』と検査結果を告げられました。医師の説明では、この病気を治す薬はないけれど、病気の進行を遅らせる方法が2つある、と。
1つは『酵素補充療法』といって、不足している酵素を補う薬を、点滴で毎週投与する治療で、これを一生続ける必要があるとのこと。
そしてもう1つは造血細胞移植。ドナー(提供者)の造血細胞を移植する方法です。移植した造血細胞が体に定着すれば、ムコ多糖を分解する酵素を持つ血球細胞を体内で作ることができるというもの。
医師からは『まずは酵素補充療法をなるべく早くから行いましょう』と話がありました」(晴子さん)

確定診断を受けた美月ちゃんは、生後5カ月から毎週、点滴治療を受けることになりましたが、この治療は母子にとって負担が大きいものでした。

「最初の1カ月は1泊2日の入院で、19時ごろから約4時間の点滴を行い、翌朝まで様子を見て問題なければ退院する、という生活を繰り返しました。

その後は日帰り入院となりましたが、ストレッチャーほどの狭いベッドで泣かないように母乳を与えつつ、4時間の点滴を受ける美月に付き添うのは、私の体力的にも負担が大きかったです。それに、赤ちゃんの細い血管に点滴の針を入れるのは難しく、足や腕など何度も刺し直しとなり、そのたびに泣く姿を見るのは本当に胸が痛むものでした。

さらに、治療時間が長いため長女の保育園のお迎え時間に間に合わないことも多くなってしまいました。夫と協力して対応しましたが、これを毎週、一生続けることの精神的・肉体的な負担の大きさを実感し、ほかの治療法や最新の研究について本格的に調べ始めました」(晴子さん)

家族会とつながり、日本で移植を決断

生後6カ月、酵素補充の点滴をする美月ちゃん。

点滴治療が始まる少し前、晴子さんは病気について調べる中で「日本ムコ多糖症患者家族の会」と出合います。さらに日本の家族会から台湾の家族会を紹介され、会員とつながることができました。

「台湾の家族会会長を紹介してもらい、メールで連絡をすると、なんと翌日に会いに来てくださったんです。娘の様子を見て『1歳前に造血細胞の移植を行えば発達の遅れを防げる可能性がある』と、治療についてのアドバイスもくれました。移植すると、その後、亡くなってしまうこともあると聞いて怖い気持ちがあったのですが、この言葉で移植の選択肢を考え始めました。

1度移植をすれば、自分の体でムコ多糖を代謝できるようになります。病気の完治は難しくても、進行を抑える手段として移植が有効なのではないかと考え、夫に相談すると彼も同じ意見でした。
家族4人が一緒に生活できる台湾での移植を考え医師に相談しましたが、適合するドナーが見つからず、私たちは日本で美月の造血細胞移植を受けることを決断しました」(晴子さん)

晴子さんは、美月ちゃんの治療を受ける場所として、当初は自分と夫の実家がある北海道を考えました。2024年7月、北海道の病院で移植の可能性について相談したところ、移植件数が多い東京の国立成育医療研究センターの受診をすすめられます。

「北海道の病院から紹介を受け、8月に国立成育医療研究センターを受診しました。台湾での血液検査結果を見せて適合するドナーを照合してもらったところ、複数名の適合者がいるとわかり、早ければ10月に入院可能との説明を受けました。

ただ問題だったのは、私の宿泊場所です。東京には身寄りもなく、美月が数カ月入院する間、どこに宿泊すればいいのか悩みました。すると担当医が『ここは敷地内にドナルド・マクドナルド・ハウスがあって、遠方の人はそこに滞在して治療していますよ』と教えてくれました。一筋の光が見えたようでした。滞在できる場所がすぐ近くにあるなら、ここで治療を受けさせよう、と決断できました」(晴子さん)

美月ちゃんが移植のため日本で入院する間、長女は父親の謙太郎さんと2人で台湾で過ごすことになりました。

「夫と話し合い、当時3歳だった長女が寂しい思いをしないように月に1回は日本に来ること、会えない間は毎日テレビ電話をするというしくみを考えました。

ドナルド・マクドナルド・ハウスは私以外の家族も滞在ができ、月に1回の来日では家族みんなでお世話になりました。きょうだいは入院中の子に面会できないので、夫が美月の面会へ行く間、私と長女は病院近くの公園でたっぷり遊ぶ時間が持てました」(晴子さん)

【坂口大俊先生より】新生児スクリーニングの重要性について

ムコ多糖症Ⅰ型は、生まれつき体内の特定の酵素が足りず、徐々に脳や全身の臓器に障害が進行していく難病です。初期には目立った症状がなく、発達の遅れなどの異変に気づいたときには、すでに後戻りできないダメージを受けていることが少なくありません。だからこそ、症状が出る前に病気を見つけ出す「新生児スクリーニング」が極めて重要です。生後すぐのわずかな血液から病気を早期発見できれば、症状が本格化する前に先回りして治療を開始でき、子どもたちの健やかな未来を守る大きな希望となります。

お話・写真提供/村木晴子さん 医療監修/坂口大俊先生 協力/公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

台湾の医師との会話では通訳がつくこともありますが、すべて中国語のため、晴子さんは聞きたいことを必ずメモして確認したのだそうです。外国での子育てや通院の大変さを聞くと、「台湾では入院や通院のとき、長女を預かってくれる友人がいたり公的な子育てサービスがあったりと、困ったときに手助けしてくれる人が多く、とても子育てしやすい環境です」と話してくれました。
後編では、美月ちゃんの日本での造血細胞移植と、その後について聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

坂口大俊先生(さかぐち ひろとし)

PROFILE
国立成育医療研究センター 小児がんセンター 移植・細胞治療科 診療部長。
2005年滋賀医科大学卒業。名古屋大学医学部附属病院小児科、名古屋第一赤十字病院小児医療センター勤務などを経て、2021年より現職。

ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや

病気と向き合う子どもとその家族を支える滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、全国に12施設あり、いずれも小児病院のすぐ近くに位置して無料で利用できます。運営はすべて寄付・募金とボランティアの活動によって支えられています。
国立成育医療研究センターに隣接するせたがやハウスは、増室工事をふくめた大規模改修のため2025年9月から2026年11月ごろまでの間は一時閉館し、近隣の代替施設で利用家族を受け入れています。また、大規模改修にあたり、募金委員会にて寄付を募っています。詳細は財団ホームページおよび募金委員会公式WEBページより確認できます。

公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの公式HP

ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがやの公式X

せたがやハウス25周年募金委員会 公式WEBページ(note)

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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