0〜5歳児にきものを着せるコツ
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洋服にも礼装・おしゃれ着・普段着と格があるようにきものにも同様の格があります
子どものきものでも同じですが、現代ではおしゃれ着として子どもにきものを着せお出かけする、というご家庭はあまりないかもしれません。
自分できものを着ることができないママたちにとっては、たとえ自分のお子さんでも、子どもにきものを着せるというのはコツのいることです。
今回は、現代の子どもがよく着るきものとして皆さんがイメージしやすい「七五三の祝着」や、すっかり夏の風物詩として定着している「浴衣」について着付けのコツや注意点などを、きものコンシェルジュの田村祐子さんに伺いました。
※着付けの手順を記しているものではありませんのでご注意ください。
田村 祐子
きものコンシェルジュ・きもの講師
小さいころからきものに親しみ、きもの好きが高じてきもの講師に。2009年より着付け教室を経営しているほか、講演やワークショップを行い、きものの啓蒙活動をしている。
幼い子どもにきものを着つけるには?
幼い子どもの場合、特に0〜5歳児となると活発で着付けの間じっとしているお子さんはなかなかいないかもしれません。そこで着付けに時間をかけない工夫が必要です。
以下4点を参考になさってください。
1 着付けに必要なものをすべてひとまとめにして、着る順番と反対にして準備します。
つまり、最後に着るものが一番下に、最初に着るものが一番上になるように積み重ねるのです。
2 子ども用のきものは大きめのサイズに仕立ててあり、肩上げ・腰上げをして調整し着用することで長く着られるようになっています。あらかじめ、この肩上げ・腰上げを子どもの体格に合わせしておきましょう。
3 身体への圧迫感を軽くするため、紐数が少なく済むよう、きもの・長襦袢(ながじゅばん)・浴衣につけ紐(注)をします。こうすることで、着付けの際にママたちも楽になります。
4 祝着の長襦袢には半衿(はんえり)を縫い付けておきましょう。当日慌てないためです。
(注)「つけ紐」
大人の着付けには通常の紐を使いますが、子どもの場合には少しでも身体への負担を減らすため、着崩れしにくくするために、きものや長襦袢に直接紐を縫い付けて使います。これがつけ紐です。
付ける場所は女児の場合、身八つ口止まりを水平に延長したえり付けのところ、男児は袴で隠れる位置につけるのでもう少し下になります。
通常成人男性用のものにはこの身八つ口は開いていませんが男児のきものは女性と同じようにこの身八つ口があるので、それを目安に図ります。きものや長襦袢の上前、下前両方につけます。着付ける際は、上前の紐をモデル(着付けられている人)の右側から、下前の紐は左側の身八つ口から通して後ろに回し2本の紐を背中で交差させて前に回し、前で結びます。結ぶ時も締め付けすぎないようにします。
紐はモスリン(ウール)の紐をおすすめします。大人の紐の長さを切って使用し、余り部分がおおくならないよう工夫しましょう。
余談ですが、いくら着せやすいからといっても、大人の着付けには使わないほうが良いでしょう。
お宮参りの着付け・赤ちゃんとママのきもの
お宮参りは、氏神に子どもの誕生を報告し子どもの幸せを祈願する行事で、赤ちゃんにとっては初めての大きな外出です。妊婦の忌明けの祝いや、古くは氏子として参入する儀式でもありました。長時間になると赤ちゃんにも負担です。大人たちにとっては嬉しい行事ですので、あれやこれやとしたくなりますが、主役の赤ちゃんが疲れてしまっては可哀想です。その辺りはよく考えておきましょう。
1 赤ちゃんは抱っこしてから掛着をかけ、着いている紐を抱っこしている人の後ろに回して蝶結びにします。
2 昔は抱き着として赤ちゃん用に新しいきものを作りましたが、現代ではベビードレスで代用できます。
3 掛着の上によだれ掛け、頭にはフードをつけます。
4 赤ちゃんを抱く人、つまり掛着を掛けてもらう人は大抵父方の母親、何方かの祖母という場合が多いのですが、その方たちの着るきものは、紋付色無地・付下げ・訪問着などがふさわしいでしょう。
5 掛着を掛けない場合、ママたちのきものは訪問着・付下げなどですが、紋の付いていない色無地も可能です。母乳の場合はお乳が染み出してきものや長襦袢がシミになってしまう事があります。あらかじめ搾乳をしておく、市販のパッドを使用する、などの工夫をしましょう。
男児・女児に浴衣を着せるコツ
浴衣は着付けに慣れないママたちにとっても比較的簡単に着せる事ができるかもしれません。
お祭りや花火大会で浴衣を着ている小さい子どもを見ると微笑ましく、また浴衣の柄も子どもらしい楽しいものが多いため、周りの大人たちもウキウキする事でしょう。
ただ、どうしても着崩れやすいのですが、いかに子どものものと言っても、だらしなく見えるのは嫌ですよね。
ここでは子どもが楽でしかも着崩れしにくく着付けるママたちも楽になるようにポイントをいくつか紹介します。
1 浴衣は体格に合わせて肩上げ・腰上げをします。肩上げは、肩の中央を折り山として裄丈がちょうど良くなるように浴衣をつまみ縫います。折山は外側に倒します。腰上げは着丈を足の甲すれすれ、または少し短めに決め腰のあたりで上げをし、縫います。この時、上げの縫い山が着丈の2分の1くらいの位置になるとバランス良く見えます。くれぐれも裾で上げないようにして下さい。この肩上げ・腰上げは3歳女児・5歳男児の祝着のきもの・長襦袢(男児の場合は羽織にも)にも同じ要領で施します。
2 つけ紐をします。上前、下前とも身八つ口と同じ位置に付けます。
3 子どもといえども浴衣の下はパンツだけ、というのははだけた時に見苦しいものです。男女とも和装用の肌襦袢・裾除けをつけてほしいですが、女児はスリップ、男児はタンクトップにステテコ、七分パンツでも代用できます。
4 浴衣のえりは喉のくぼみの下あたりで交差するように深めに合わせます。これが浅くVネックになってしまうとだらしなく見えます。これは大人の浴衣にも言える事です。子どもの場合はたとえ女児でも衣紋は抜きません。首の後ろもピッタリ沿うように着付けます。
5 背中の縫い目が背中の中心に来るようにします。これがずれると全体がずれてしまいます。肝心なところです
6 帯は男女ともへこ帯(三尺)で蝶結びにします。男児の場合は片結びなどでも良いでしょう。
7 下駄を履かせます。現代ではなかなか下駄が履けない子どもが多いですが、小さい子の下駄も可愛いものです。
3歳女児の祝着の着付け
昨今のお子さんはおしゃれをすることやハロウィンの仮装などに慣れていて昔ほど着付けるのに苦労をしないかもしれません。美容院で祝着を着付けてもらい口紅の色を自分で指定している3歳女児に驚いたことがあります。しかし、ヘアとメイクで時間がかかっていると思われるので着付けは手早く済ませたいものです。また、きものの上に被布を着せるので帯は浴衣と同様のへこ帯を蝶結びにするのでも良く、ママたちも楽にできるかもしれません。
1 先にヘアとメイクを済ませます。
2 足袋は行程の最初にはかせておきます。
3 下着は必要で和装用の肌襦袢・裾除けが望ましいものの、えりぐりの大きいメリヤス肌着に裾除け、どうしてもない場合はスリップを使用しましょう。
4 長襦袢・きものには肩上げ・腰上げをします。浴衣と同じ要領です。
5 つけ紐をきもの・長襦袢につけておきます。
6 着付けのコツとしては長襦袢・きものとも紐は身体に沿わせるように巻き締めすぎないようにすることが大切です。紐の結び目は作らず左右の紐を交差して反対側にねじり余った分は巻いた紐に挟むようにすると身体に結び目が当たらず楽に過ごせます。
7 3歳ですから長襦袢・きものとも衣紋は抜かず、胸元は深めに合わせます。Vネックにならないように注意します。
8 背縫いの線が必ず身体の中央に来るようにします。
9 帯はへこ帯でも良いですが、半幅帯を文庫結びにすると本格的になります。
5歳男児の祝着
古くは幼児が初めて袴をつける際に儀式を行っていました。袴着の祝と呼ばれ男女の区別なく3〜7歳の間に行われていたそうです。それが近世以降旧暦の11月15日に行われるようになり、次第に七五三として定着しました。皇室では「着袴の儀」と呼ばれ、最近では愛子さま、悠仁さまがそれぞれ臨まれました。
一般では5歳のお祝いは男児のみですが、羽織袴の礼装姿は子どもでもキリッとカッコ良いものです。これをママたちが自分で着せてあげることができたらどんなに素敵なことでしょう。しかし、実際には袴の着付けは大変難しく、ましてや相手は5歳の男の子、動きも激しくきものにも興味があるとは思えません。ここでは自分でできる祝着の一般的な注意点を述べ、実際の着付けはプロを頼む事とし、その際の注意点を幾つか挙げてみます。
まず祝着に自分でできる処置はしておきましょう。
1 下着は前述の通りですが、袴をつけるので長襦袢の代わりに半襦袢とステテコ、または薄手の7分パンツで代用することが出来ます
2 肩上げ・腰上げをきもの・長襦袢・羽織にも施します。長襦袢の丈は短めに膝下くらいに、きものも袴から出ないように長襦袢よりやや長目の丈になるようにします。
3 きもの・長襦袢につけ紐をしますが、きものにつけるつけ紐が袴より上に出ないように確認しておきます。
4 羽織の紐は結んだ状態で市販されていることが多いのですが、結び目が解けてしまった場合結び直せればもちろんそれに越したことはありません。しかしこの羽織紐がまた厄介なのです。蝶結び、というわけにはいきません。結んだ状態のまま、後側で目立たないように軽く縫い付けて、解けにくくしておくと安心です。
次に、プロを頼む際の注意点です。男児の場合はとにかく時間との闘いですから、事前に評判を聞いておき、ベテランを頼むことが大事です。振袖や7歳女児の祝着などを着付ける機会は多いので着付け師さんは慣れていることが多いのですが、5歳男児の袴となると成人男性の袴の着付け以上に大変かもしれず、中には苦手意識のある方もいます。
頼む相手が決まったら必要な持ち物を問い合わせ、できれば事前に祝着を持って打ち合わせをした方が良いでしょう。着付け師さんによって着付けに必要なものが若干違うこともあります。
きものが日常的に着られていた時代と違い、今ではきものが特別なものになってしまいました。インターネットなどには「このVTRを見れば簡単にきものが着られる」、「これを使えば簡単に着付けができる」、「これさえ押さえればきものが着られる」などの文字が躍っていますが、実際にはそう簡単にはいかないものです。私がおすすめするのはズバリきちんと習うことですが、道は遠い、とお感じなるかもしれません。しかし、世界中できものを着るのは私たち日本人だけです。これは大きなチャームポイントだと思いませんか。
今まで関心のなかった方も、この記事を読んで少しでもきものに興味を持っていただければ幸いです。