「育児にかける時間」夫婦格差は6倍以上!ワーク・ライフ・バランスの理想と現実
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仕事に追われ、家族や自分のための時間がとれずイライラ。そんなとき、夫婦で協力して時間を味方につけるためには、どうすればよいのでしょうか。約20年前に育休をとり、「20世紀のイクメン」と自称する目白大学メディア学部教授の安斎徹先生にお話いただきました。
そもそも「ワーク・ライフ・バランス」って何?
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉の本当の意味をご存知ですか? 字面からそのままイメージして、「仕事と家庭のバランス」と考える人がほとんどかもしれません。しかし実は、仕事と家庭にとどまらないさまざまな要素がこの言葉に含まれています。
例えば、複数の大人に「『ワーク』と『ライフ』の関係を絵に描いてください」と言うと、人によって表現の仕方が変わります。天秤の両側の皿にライフとワークがある絵だったり(天秤型)、ワークという土台の上にライフが乗って家のようになっていたり(基盤型)、趣味や健康、友人などが横に並んでいたり(並列型)。
この結果からわかるように、「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と家庭にとどまらない広い概念です。内閣府が発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」 にも、「地域生活」「自己啓発」「健康・休養」など、多くの要素が含まれています。
女性が育児や家事をしている時間は、男性の◯倍!
しかし、「ワーク・ライフ・バランス」の意味を理解できても、実際にバランスよく生活するのは至難の業。アンケート調査を行い、6歳児未満の子どもを持つ親の育児・家事関連時間の平均を調べると、女性は6.38時間、男性は1時間しかないことがわかりました。(※1)
海外に目を向けると、フランスの男性は2.3時間、イギリスの男性は2.56時間、アメリカの男性は3.26時間、スウェーデンの男性は3.21時間という結果に。日本人男性が突出して少ないことがわかります。(※1)
なぜ日本人男性は育児に参加できないのでしょうか。アンケート調査を行ったところ、7割以上の男性が「仕事に追われて育児をする時間がないから」と回答しました。また「育児参加を促すために必要なこと」を聞いた結果、「『育児に参加する』という気持ちを持つ」「労働時間の短縮など職場の環境を改善する」などの意見が上位に挙がりました(※2)
働き方改革により職場環境が変わりつつある今、男性の育児参加を推進するためには、男性自身が「育児に参加する」という気持ちを持つことが何よりも重要です。
家庭や自分にかける時間を長くするためには?
では、現在子育てをしている世代は、仕事や家庭生活、自分自身にどれくらいの時間をかけているのでしょうか。
「会社・家庭・社会・学習・自分」という5項目に分けて、理想と現実をそれぞれ聞いたところ、次のような結果になりました。(※3)
「会社生活」以外の4項目は、すべて理想を現実が下回っています。仕事に費やす時間が長くなってしまった分、家庭や自分にかける時間を減らして調整しているという事実が浮き彫りになりました。
このギャップを少しずつ減らして理想に近づいていくためには、どうすればよいのでしょうか。私は研究を進めていくなかで、次の5つのステップが大切だと考えるようになりました。
【理想のワーク・ライフ・バランスを実現するために】
1.理想をイメージして夫婦で共有する
2.課題を夫婦で認識する
3.阻害要因を除去する方策(課題をクリアする方法)を考える
4.「計画された偶発性」の可能性を増やす
(予想外の出来事が起きたときに良い結果を残せる状態にしておく)
5.常に現状を把握し、微修正を繰り返す
色分けした日記帳で「カラフルライフ」を
5つのステップを実践して、さらに余裕がある場合は、自分の現状を見直してみましょう。例えば私は、5色のペンで日記を書くことによって現状を把握しています。
手順はとても簡単です。1冊のノートを用意し、仕事は黒、家庭は赤、ボランティアは緑、勉強は紫、自分の趣味は青と色分けして書き込むだけ。この日記を一週間、もしくは月単位で読み返すと、バランスのとれた生活ができているかどうか確認することができます。
「ワーク・ライフ・バランス」とは、いわば、仕事や家庭にとどまらない多彩なライフスタイル。自分の可能性を広げるためにも、「ワーク・ライフ・バランス=カラフルライフ」と考えてみてはいかがでしょうか。現状と理想、その先にある未来の目標を常に意識していれば、きっと彩り豊かな人生を送れると私は考えています。
この記事は、2019年3月に開催されたイベント「たまひよカレッジ」で行われた安斎徹先生の「妻と夫のワーク・ライフ・バランス実践法」の内容を抜粋したものです。
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■講師/安斎徹先生
目白大学メディア学部 教授
1984年一橋大学法学部卒業。28年間にわたるサラリーマン生活では、営業・企画・事務・海外・秘書・人事・研修など幅広い業務を経験。2週間の育児休暇を取得し「20世紀のイクメン」を自認。働きながら大学院に通い、立教大学で修士、早稲田大学で博士の学位を取得。51歳の時に大学教員に転身、群馬県立女子大学教授などを経て2018年より現職。聖心女子大学非常勤講師。著書『企業人の社会貢献意識はどう変わったのか』(ミネルヴァ書房)、『女性の未来に大学ができること』(樹村房)。
●調査結果
(※1)内閣府男女共同参画局HP
(※2)中央調査社「父親の育児参加に関する世論調査(2012)」
(※3)安齋徹『企業人の社会貢献意識はどう変わったのか』(ミネルヴァ書房)