原因は? 完治はするの? 赤ちゃん・子どもの「斜視」
「斜視(しゃし)」は右眼と左眼が違う方向に向いている状態。赤ちゃんは鼻が低いため、実際には問題ないのに目頭の皮膚によって内側の白目が隠されて目が内側に寄っているように見える場合がよくあります。しかし中には本当に斜視である場合も。斜視の原因やチェック方法、治療法について、前橋ミナミ眼科副院長の板倉 麻理子先生にお話を伺いました。
「斜視」は子どもの2%にみられる目の病気です
生まれたばかりの赤ちゃんは、目の位置が安定していないのが普通です。生後2~3ヶ月くらいになると少しずつ目の位置が安定してきます。
通常、物を見るときは両方の目が、見ようとする物の方向に向いています。斜視とは、片目は正面を向いていても、もう片目が違う方向を向いてしまっている状態です。
斜視は子どもの約2%にみられます。
小児期は視覚が発達する大切な時期にあり、この時期に斜視があると両眼で物を見る機能が育たなかったり、弱視になったりします。時々視線が外れることがある程度であれば、眼の機能の発達にそれほど影響しないこともありますが、問題のない斜視かどうかはママやパパでは判断できません。放っておくと見た目の問題だけでなく、視覚にも悪影響を与えるので注意が必要です。
斜視は視線のズレの方向によって、下のように「内斜視(ないしゃし)」「外斜視(がいしゃし)」「上下斜視」「偽内斜視(ぎないしゃし)」に分けられます。それぞれ特徴を知っておきましょう。
内斜視(ないしゃし)
右眼か左眼どちらかの視線が内側に向かっている状態です。両眼が外に動くことができない場合には、両眼が内側に寄り、顔をどちらかに回して片方の眼で見ます。
生後6ヶ月以内に発症した内斜視は「乳児内斜視」(先天内斜視)と言います。原因は遺伝、筋肉の異常、神経系の異常など諸説ありますが、はっきりとしていません。
対して、生後6ヶ月以降に発症した内斜視を「後天内斜視」と言い、遠視が原因の「調節性内斜視」、眼の位置が良い日と悪い日が1日ごとや2日ごとに繰り返す「周期内斜視」などがあります。
外斜視(がいしゃし)
右眼か左眼どちらかの視線が外側に向かっている状態です。いつも外斜視の状態にあるものを「恒常性(こうじょうせい)外斜視」、外斜視の時と両眼の視線が目標に正しく向く時がある「間欠性(かんけつせい)外斜視」があります。
上下斜視
右眼か左眼どちらかの視線が上下にずれた状態で、上にずれたものを「上斜視」、下にずれたものを「下斜視」と言います。
赤ちゃんに多い「偽内斜視(ぎないしゃし)」って?
見かけ上は視線がそれていて斜視のように見えるけれど、実際には両眼の視線がそろっている状態を「偽斜視」と言います。
特に赤ちゃんは鼻の根元の骨が低くて内側のまぶたの皮膚が張り出しているため、内側の白目部分が見えなくなり、内斜視のように見えることがあります。これを「偽内斜視」と言い、成長して鼻の根元の骨が高くなると目立たなくなるので心配いりません。
フラッシュありでカメラ目線の写真を撮り、両眼の黒目の同じ位置にフラッシュの反射光があれば視線はそろっています。
ただし、内斜視か偽内斜視かの判断はママやパパにはむずかしいもの。気になるときは眼科で、眼の位置のずれなどを調べる「眼位検査」を受けたほうが安心です。
病院は「小児眼科」専門でなくても、視能訓練士が在籍している眼科なら対応可能なことがほとんどです。視能訓練士がいなくても受け入れ可能な眼科もありますので、事前に電話などで問い合わせるとよいでしょう。
斜視になる「原因」とは?
斜視になる原因としては、主に次の2つがあります。
眼を動かす筋肉や神経などの異常
眼球を動かす筋肉や神経に病気や異常があると、眼球が動かなくなって目の位置がずれ、斜視になります。
遠視
ごく軽度の遠視では、眼のピント合わせ機能により遠方も近方もはっきり見えますが、ある程度以上になると遠近ともはっきり見えません。すると目は強くピント合わせをしないといけないため、それに伴って両目の眼球がかなり内側に寄ってしまい、内斜視になる場合があります。
上記2つが主な原因ですが、この他、稀ですが脳の病気や目の病気が原因で斜視になる場合もあります。なかで「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」、「先天白内障(せんてんはくないしょう)」「発達緑内障(はったつりょくないしょう)」は一刻も早く見つけて治療することが必要な病気です。
子どもが斜視かどうか見極める方法
斜視になった場合、視線がずれている方の目は物を見ていない状態になり、視力が発達しにくくなることがあります。家では以下の方法でチェックすることができます。子どもが斜視ではないかと思ったときは、できるだけ早く眼科を受診しましよう。
■ 家での斜視のチェック方法
スマホでフラッシュを使って子どもの顔を正面から撮ります。撮った写真を見ながら、子どもの黒目のフラッシュの反射光の位置を確認しましょう。左右の反射光の位置がズレている場合は、眼科を受診しましょう。受診する際には、斜視の状態を撮影した写真を持参し医師に見てもらいましょう。
家でもある程度のチェックはできますが、確実な判断と原因の特定は、眼科でしっかりした検査を受けないとできません。
検査では、視力検査・屈折検査(近視、遠視、乱視などがないかの検査)・両眼視機能検査(両眼を使ったときの視覚の状態をチェック)・眼位検査(両眼の位置のズレをチェック)などを行います。斜視の原因を探るために、全身検査を行ったりMRIなどの検査を行ったりすることもあります。
斜視の治療法
斜視の治療は大きく分けると、「手術以外の方法」と「手術による方法」とがあります。どの方法が良いかは斜視の種類や年齢に応じて異なります。
手術以外の方法
遠視が原因の内斜視の場合には通常、遠視を矯正するメガネをかけて矯正し、両眼で正常に見えるようにすると斜視も改善します。
遠視の矯正だけでは斜視が残ってしまう場合や屈折(遠視、近視、乱視)とは関係がない斜視は、プリズムを入れて光を屈折させた「プリズムメガネ」をかける方法もあります。この場合は斜視そのものは治りませんが、プリズムメガネにより両眼視機能を確保しやすい状況を作ります。
斜視弱視の場合は視力が良い方の目をおおいなどでさえぎり、弱視の目を使う訓練をすることがあります。
また、外斜視では眼を寄せる訓練をしたり、両目で見る働きが悪い場合は両眼を使ってものを見るトレーニングをしたりします。
手術による方法
大人の斜視の場合、多くの手術は局所麻酔で行います。しかし、小さい子どもは全身麻酔で手術します。
一般的に目を動かす筋肉(外眼筋)の付いている位置を手術でずらすことで、眼の位置を改善しますが、斜視の種類によってどのような手術を行うかなどが異なります。
一般的な手術時間は30分~1時間程度です。片眼だけ手術することが多いですが、斜視のタイプやずれている角度の大きさによっては両眼の手術をする場合もあります。
小さい子どもは見えないという症状を自分から訴えることはほとんどありません。日頃から子どもの視線や様子をよくチェックすることが重要です。何か気になる症状があった時には、必ず眼科を受診しましょう。(取材・文/かきの木のりみ イラスト/くにともゆかり)
たまひよでは「ストップ弱視見逃し」記事をシリーズで掲載していきます。
●この記事は、再監修のうえ、内容を一部更新しました(2022年11月)