目の位置が変?これって斜視!?気づいてあげることが大切【ママ眼科医】
「子どもの目の病気について正しい情報を」と活動するママ眼科医の先生たちのリレーコラムをお届けします。
5回目となる今回は、「子どもの斜視」についてです。斜視の専門医で神奈川歯科大学附属横浜クリニックなどに勤務する國見敬子先生による、弱視や両眼視不良予防のために、気づくべき斜視のポイントと成長過程で発症しうる斜視についての解説です。
斜視ってどんな状態?気づいてあげよう
斜視とは「左右の目の位置(眼位)が同じ方向を向いていないため、右目と左目が同じものをみていない(見たい物に対する両眼の視線が一致していない)状態のこと」です。
見た目に目立つことが多く、大きく分けて、眼位が外側にずれる外斜視、内側にずれる内斜視、上下、とくに横に視線をずらしたときに目立つことの多い上下斜視があります。
なぜ視線がずれているとよくないかというと、視力や両眼視(ものを立体的に見る力)の発達の妨げになる可能性があるためです。
赤ちゃんの視力は生まれたときには光がわかる程度で、8歳から10歳までに視力が1.0まで徐々に育ち、3歳までに両眼視が育ってきますが、その発達には感受性期(刺激に反応し、能力を高めることのできる期間)があり、発達力は時期によってその感度が異なります(※1/※2)。
この時期以降、視力や両眼視は成長を止めてしまうので、逆に言えばこの期間でしか、視力と両眼視は基本的に発達しません。
一番の問題は、小児の斜視はほとんどが本人からの訴えがない点です。弱視や両眼視不良でも片目でものを見ることができてしまうからです。にもかかわらず、感受性期を過ぎてしまうと一生弱視や両眼視不良が残ることに。どうすればいいのでしょうか?保護者が気づいてあげることです。子どもの目を見て、しっかり見つめ合ってみましょう。
斜視のチェックポイントについて
「うちの子斜視かも?」そう思ったときのチェックポイントを説明します。
【チェックポイント1】生まれつき?いつから?
大きく分けて生まれつきの斜視と視力が育ってくる過程で出てくる斜視があります。生まれつきのものは治療しない限り治らない可能性が高いため、早急に眼科受診が必要です。成長の過程で出現する斜視もその時期によって、原因や緊急度が異なり、治療の必要性について判断が必要です。
【チェックポイント2】急に?徐々に?たまに?
「〇月〇日から」等はっきりといつから斜視になったといわれるような「急な」斜視は脳腫瘍のような頭蓋内疾患の可能性があるので、早急に眼科を受診しましょう。徐々に発症、時々発症するような斜視はその時点での治療の必要性について判断をしたほうがいいので、急ぎではないものの、眼科を受診が必要です。
【チェックポイント3】フラッシュつきで写真を撮って
自宅で斜視に気づいた際にはスマホ等でフラッシュを使用して顔写真を撮影しましょう。斜視になるタイミングは常にではなく、時々斜視になる場合もあり、病院で斜視の状態を観察できないことも少なくありません。フラッシュを使用するのは角膜(目の表面の黒目の部分)の反射をみることで斜視の性状を確認できるためです。
年代別の斜視診断のポイントについて
時期によって斜視の原因は変化してくるので、各成長過程別に起こりえる斜視疾患について解説します。
出生直後で注意する斜視は?
出生直後より明らかな斜視は眼科受診が必要な可能性があります。しかし、生まれたては開瞼もままなりませんので、無理に目を開けて観察する必要はまったくなく、目が自然と開くようになってから斜視に気づいた際にはまず小児科の先生に報告し、眼科受診の必要性について相談しましょう。
先天斜視
生まれつきの斜視のうち、「先天内斜視」は要注意です。人間の目の位置は正常でも若干外向きで、生理的に眼位をまっすぐに保つため、小角度の外斜視で生まれてくる可能性はありますが、はっきりと目立つ内斜視の場合、とくに生来のものであれば治療が早急に必要となります。
日本人の場合、赤ちゃんの目頭の皮膚が厚いので鼻側の白目の面積が小さく見え、内斜視のように見える「偽内斜視」という正常な状態もありますので、正常か異常かを判断するためにも、生まれつきの内斜視に気づいた場合には早期に眼科を受診しましょう。またまれですが目立つ外斜視も眼科受診が必要です。
【まとめ】生まれつきのはっきりとした斜視は早急に眼科受診をしましょう。
生後6カ月未満で注意する斜視は?
はっきりとは見えていないものの、物を追ってみることができるようになり、生後より少しずつ視力が発達してくる段階で、この時期の視力は0.1程度です。また、両眼視の発達は生後4カ月程度から始まります。視機能が向上することで、実は生まれつき持っていた斜視が出現する可能性のある時期です。
先天内斜視
先に述べた生まれつきの斜視である「先天内斜視」が、徐々に出現してくることがあります。この場合でも治療しない限り視力、両眼視の成長の妨げになるので、早急に眼科の受診が必要で、場合によっては手術となることがあります。
そのほかの生まれつきの斜視で、上斜筋という外眼筋(目のまわりの筋肉)の一部が生まれつき動きが悪いため、上下ずれの斜視の状態となる「上斜筋麻痺」をはじめ、外眼筋の生まれつきの発育不良が原因で起こる上下、左右の斜視もあります。上斜筋麻痺の場合、下斜筋過動という、真正面では正常に見えるものの、右を見たとき左眼が上転、左を見たとき右眼が上転して見えることがあります。この場合にも治療の必要性について判断するために、眼科を受診しましょう。
デュアン候群等の脳神経の伝達障害
こちらも生まれつきの斜視で、ある方向を見たときに脳から発信される信号が外眼筋にうまく伝達できないために起こる斜視です。正面では正常ですが、左右、上下をみると目の位置がずれる状態となります。
【まとめ】6カ月未満の赤ちゃんの目は、正面はもちろんのこと、左右上下を見たときに眼位が大きくずれていないか確認しましょう。
生後6カ月以上3歳未満で注意する斜視は?
この時期の視力の成長は著しく、3歳ごろには0.8まで視力が育ってきます。物がはっきりみえるようになると見たい物を注視(集中してみる)ことができるようになるので、視力の成長刺激になります。しかし、何らかの視機能のアンバランスがあると斜視が出現することがあり、治療が必要な場合があります。
調節性内斜視
この時期の視力の成長は著しく、3歳ごろには0.8まで視力が育ってきます。物がはっきりみえるようになると見たい物を注視(集中してみる)ことができるようになるので、視力の成長刺激になります。しかし、何らかの視機能のアンバランスがあると斜視が出現することがあり、治療が必要な場合があります。
調節性内斜視
強い遠視(ピントが眼の中のどの位置にもあっていない状態)があると、ピント調整をしようと目の中の筋肉が頑張ってピント調整をして、ものをはっきりみようとすることがあります。頑張ったピント調整は同時に眼位調整に働く筋肉も頑張らせてしまうので、「ピント調整を頑張りすぎた内斜視」である「調節性内斜視」が出現することがあります。この場合、ピント調整を頑張らせないよう眼鏡が必要となることもあるので、徐々に出現した内斜視は眼科を受診するようにしましょう。
間欠性外斜視
人間の眼の位置は正常でも若干外向きであると述べましたが、その角度が大きすぎると、自分の力でまっすぐに眼位を保てないことがあります。普段は頑張って眼位をまっすぐにしているのですが(外斜位)、ボーッとしたり、疲れたときなど、眼位をまっすぐにできない瞬間があり(外斜視)、「時々外斜視に戻る」斜視を「間欠性外斜視」と呼びます。
間欠性=ときどきに起こる斜視なので、基本的には両目でものを見ている時間があるため、視力、両眼視はそのままでも成長できます。しかし、外斜視の時間が長くなってくると視力や両眼視への刺激が弱くなり、弱視や両眼視不良の原因となることがあります。
私の勤める病院では国際分類に基づき、1日半分以上外斜視の状態が続いていると注意信号のサインとしています。また、見た目が目立つ場合には、とくに小学校入学以降に友だちから指摘され、心の成長の妨げになってしまうことがあります(※3)。間欠性外斜視は、現在治療が必要でなくても、そのあとの経過観察や生活の中で子どもの行動やまわりへの配慮が必要となることがあるので、外斜視に気づいた場合には眼科を受診し、診断をつけることも重要です。
上斜筋麻痺やデュアン症候群
生まれつきの斜視で上斜筋麻痺やデュアン症候群について述べましたが、生まれたときは何とか眼位を保っていた、あるいは気づかないくらい小さなずれだった場合、視力が発達し、ものをしっかり見ようとする過程で、目立ってくる場合があります。上斜筋麻痺ではより一つにはっきり見ようとして首を傾けたり、顔を回すことで一つに見えやすい位置に上下ずれを補正しようとすることがあります。デュアン症候群では左右に視線を向けることが増えてきたためにある方向での上下ずれが目立ったり、上斜筋麻痺と同様顔の位置を調整するようになることがあります。視力、両眼視は正常に発達することが多いのですが、顔の位置を生理的に調整しますので、骨格の発達異常やお顔立ちの左右差につながることがあります。程度や身体の発育状況にもよりますが、場合によっては手術が必要となることがあるので、この場合も眼科を受診しましょう。
【まとめ】徐々に出現する内斜視・外斜視は治療が必要なので眼科受診をしましょう。見る位置によって出現する上下斜視も骨格やお顔立ちの成長の妨げの予防のために眼科受診が必要です。
3歳以降10歳ごろまでで注意する斜視は?
この時期の視力は0.8以上ですが、なんらかの異常により、視機能の妨げがあると、せっかく成長した視力や両眼視が低下することがあるので、目の環境を整えることが重要です。
視力低下や屈折異常(近視や遠視等の目の度数の異常)
近視、遠視、乱視があるとぼやけて見えるため、視力の成長の妨げになるだけでなく、斜視の悪化につながることがあります。斜視の予防はまず視力を正常にすることが第一なので、斜視の有無にもかかわらず、視力低下や屈折異常の指摘があれば眼科を受診しましょう。
後天共同性内斜視
スマートフォンをはじめとするデジタルデバイスが普及している昨今、とくに若年者において生まれつきではない、麻痺ではない内斜視の報告が急増しています。「後天共同性内斜視」と呼ばれますが、2023年の日本からの全国調査の結果ではとくに12歳以下は最低1日2.5時間の使用でも発症するリスクがあると報告されています(※4)。はじめは間欠的に内斜視になりますが、放置しておくと、元に戻らなくなり、複視(ものが2個に見える)となります。視機能低下のみでなく、整容面でも目立つため、手術が必要になることがあります。
間欠性外斜視
生後6カ月以上3歳未満での解説と同様、現在治療が必要なくとも、日常生活で気をつけることがあるため、眼科を受診しましょう。とくに近視等で裸眼視力が低下している場合、斜視が悪化することがあるので、まずは眼鏡が必要かの判断を含め、斜視ではなく、必ず視力検査も意識しましょう。
【まとめ】学校健診で視力低下や斜視の指摘があれば必ず眼科を受診しましょう。斜視が時々出現するときであっても眼科の受診をおすすめします。
斜視に気づいたら眼科を受診。急ぎか否かは、発症の時期と急性発症かが大事
基本的に視力、両眼視、斜視は関連しているので、そのどれかの異常に気づいた場合には眼科受診が必要ですが、重要なのは早急に受診が必要かの判断です。働いている保護者も多いので、急いで受診することが難しい場合も考えられます。明日受診したほうがいいのか、予約受診でいいのか、みなさまの判断の一助になればと思います。また、斜視は見た目も目立つことが多く、周囲からの指摘などで、お子さまの心の成長の妨げになることも少なくありません。論文の結果では、斜視治療を行ったことにより、見た目が改善し「学校へ行くのが楽しくなった!」と子どもたちのQOLの改善につながる重要な疾患であることが報告されています(※5)。
育児は不安が絶えません。しかし、少しでも楽しく、そして安心した子育てとなるよう、お力添えできればと考えています。
監修・文/國見敬子先生 構成/たまひよONLINE編集部
子どもは自分から斜視を訴えられないので、保護者が気づいてあげること大切だとのこと。子どもの目を見て、しっかり見つめ合ってみましょう。
※ 1 Fawcett, S. L., Wang, Y.-Z. & Birch, E. E. The Critical Period for Susceptibility of Human Stereopsis. Investigative Ophthalmology & Visual Science 46, 521-525, doi:10.1167/iovs.04-0175 (2005)
※2 粟屋 忍. 形態覚遮断弱視. 日本眼科学会雑誌 91, 519-544 (1987)
※3 Lukman, H. et al. Strabismus-related prejudice in 5-6-year-old children. Br J Ophthalmol 94, 1348-1351, doi:10.1136/bjo.2009.173526 (2010)
※4 Iimori, H. et al. Clinical presentations of acquired comitant esotropia in 5–35 years old Japanese and digital device usage: a multicenter registry data analysis study. Japanese Journal of Ophthalmology, doi:10.1007/s10384-023-01023-5 (2023)
※5 Morita Y, et al. Influence of intermittent exotropia surgery on general health-related quality of life: different perception by children and parents. Jpn J Ophthalmol. 65, 326-330. doi:10.1007/s10384-020-00811-7 (2021)
國見敬子先生(くにみけいこ)
PROFILE
眼科医。神奈川歯科大学附属横浜クリニック勤務。東京医科大学卒業、同病院眼科に入局。斜視専門医を希望し、国際医療福祉大学熱海病院で斜視のフェローの第1期生として国内留学後、現職に至る。小児のみならず、成人の斜視も専門としており、斜視と娘を愛してやまない1児の母。