断水、泥水、母親へのストレス…。「液体ミルク」が災害時に果たすべき役割は?
熊本地震をきっかけに導入が検討され、ついに今年春に国産の乳児用液体ミルクが発売されました。乳児用液体ミルクのいちばんの特長はなんといっても調乳が不要という点。お湯が無くても、冷ます水が無くても、哺乳びんに移し替えるだけで赤ちゃんに飲ませることができます。今、全国の自治体でも備蓄が進められ、防災グッズとしても注目されています。たまひよONLINE連載「液体ミルクの今」第2回「液体ミルクが災害時に果たすべき役割は?」
ある開発者の話を紹介します。
災害時に間違いなく 安全に供給できるミルクを
2016年4月の熊本地震をきっかけに、急速に法整備が整い、今年発売された調乳の必要がない乳児用液体ミルク。実は乳児用液体ミルクの開発は10数年前からすでに始められていました。
「海外では30~40年前から液体ミルクがありましたし、母乳の代わりになるミルクとして液体ミルクの利便性は高い、ということは以前より疑うことなく感じていました」と答えるのは食品メーカー明治・マーケティング本部の田中伸一郎さん。入社以来約20年間ミルク事業に携わってきました。
液体ミルクの開発にあたっては、多くの課題を乗り越える必要があったとのこと。それでも研究・開発は粛々と続けてきたのだそう。
「お客様に『利便性』という価値を提供することで育児負担の軽減に貢献したいとの思いのもとでした」と田中さん。
さらに、乳児用液体ミルクの開発にあたっては、利便性だけでなく、災害備蓄用途に対応できることを目標としてきたといいます。
熊本地震の被災地訪問をしながら 開発を続けて
田中さんは熊本地震から半年後、乳児をもつ母親数名に話を聞くため現地を訪れています。
「災害時の授乳環境はどうだったのか、現場に行って話を聞くと自分たちが理解していたことはほんの一部だということがわかりました。熊本では台風の備えはするが、地震の対策はしていなかった家庭も多く、備蓄もほとんどしていなかったため、粉ミルクのストックもすぐなくなってしまったそうです」
なかには『清潔な水とお湯がない状況が4~5日続いた』、『蛇口をひねったら泥水が出て哺乳びんが洗えない』など粉ミルクを作る上で必須の水についての声もありました。実際、給水車がくるまでミルクを作れなかったという人も。
「日ごろ母乳メインで授乳しているお母さんの中には災害直後に母乳が十分に出なくなってしまったという方がいました。どんな状況であっても確実に赤ちゃんに授乳ができる液体ミルクの必要性を痛感しました。」
被災したことを想定して 開発者の考えが大きく変わったこと
田中さんたちが開発した乳児用液体ミルクは、240㎖入りのスチール缶タイプ。開発当初はスチール缶のほか、アルミパウチなども容器候補だったそう。
「熊本地震では家の中で物がたくさん倒れました。ペットボトルの水さえ破れてしまった。被災地でママたちの話を聞いたことにより、どんな過酷な状況で合っても中身のミルクを守ることができる頑丈な容器の選択が必須であると考えました」
日常使いを通して、 災害時の備えとなるように
2019年3月に行われた、明治の液体ミルク発売発表会では、ローリングストック方式をもちいた、液体ミルクの備蓄についての重要性についても触れていました。
ローリングストックとは、日常生活で消費しながら備蓄するという考え方で、消費と購入を繰り返すことで、備蓄品の鮮度を保ち、いざという時にも日常生活に近い食生活を送ることができるという考え方です。(参考:日本気象協会)
乳幼児のための液体ミルクは母乳の代替商品。栄養価が非常に高いため、どうしても消費期限は短めになってしまいます。
だけど普段使いで液体ミルクを取り入れながら使った分だけ買い足せば、消費期限は常に新しいものになります。
「災害時の授乳は本当に大変なので、日ごろからの備えが必要と啓発することをメーカー自らが発信していく必要があるとも考えています。そのためにも、普段から乳児用液体ミルクが必要になったときに購入できるという環境も必要です。コンビニや、高速道路のSA、空港や駅中売店など、行った先々で買うことができるようにしていきたいです」(田中さん)
災害でライフラインが途絶えてしまったときでも授乳ができる乳児用液体ミルク。備蓄しておくことがポイントです。ミルク育児ママ・混合育児ママだけでなく、母乳育児をしているママも、もしもの時に備えてローリングストックを考えるといいかもしれません。(取材・文/本間勇気、ひよこクラブ編集部)
普段の日はもちろん、備蓄用としても
「明治ほほえみらくらくミルク」
災害時の備蓄用という考えのもと、田中さんたちが最終的に選んだのが現在発売中のスチール缶という容器。「備蓄用としては長ければ長いほどいいので、賞味期限が1年にできる点が魅力でした。容量を240㎖にした理由の1つは3カ月ごろの赤ちゃんで全体の1~2割は1回の授乳で240㎖を飲むという調査結果があったため」(田中さん)