MASAH&今宿麻美夫婦「息子がキャラものの服を選ぶのは有り、否定したくない」
1978年の早生まれでファッションモデルの今宿さんと、1977年生まれのスタイリストMASAHさん夫妻。同じ学年という夫妻は、男の子二人を育児中。
長くファッション業界に身を置いている夫妻が、子育てをして感じる「今の子ども服に足りない部分」を提案しているのがファミリーで楽しめるコンセプトショップ『IN THE HOUSE』です。
二人がディレクションをしている『IN THE HOUSE』のこと、子ども服のことを聞いていると、育児に対するポリシーが見えてきました。
今よりもファッションは細かくカテゴライズされていた
――お二人がファッションに興味を持ち始めた10代中盤〜20代は、1990年中盤〜2000年代初頭に当たります。当時はどんなファッションに身を包んでいたのでしょうか。
●MASAH
当時はカルチャーや音楽ありきで服だったから、今よりも細かくカテゴライズされていたよね。女性アーティストで一番ブームだったのは安室奈美恵さん。あーちゃん(今宿さんのこと)の成人式の時の写真を見ると、安室ちゃんだもん。
●今宿
つけ毛して、茶色い口紅を塗っていたからね。男性でメジャーなのは木村拓哉さんだったけど。
●MASAH
僕のまわりはヒップホップ好きなB-BOY、サーファー、スケーターが多かったかな。あの時代、裏原がすごく流行ってて、あーちゃんは裏原の女性モデルの代表みたいな存在だったけど、僕は裏原を全く通らなかったから。
――細分化されていても、大きくはストリート系にくくられるジャンルにいたお二人。ご夫婦でディレクションするアパレルブランド『IN THE HOUSE』にもストリートの感性が色濃く現れています。
今宿麻美さんは地元の宮崎県でスカウトされてモデルの道に
●MASAH
僕らは育児グッズでも黒を選ぶことが多いけれど、子ども服で黒ってあまりない。カラフルな子ども服は、僕らの感性にはちょっと合わないんですね。僕らと同じ感覚を持った親御さんにも納得してもらえるよう始めたのが『IN THE HOUSE』。
ベーシックカラー中心のラインナップで、大人の服作りのルールで子ども服を生産しているのもこだわりです。
●今宿
夫婦間で毎日子どものコーディネート考えるのも大変、っていう共通認識があって。コーディネートのしやすさも考えています。
●MASAH
Tシャツとパーカ、スウェットがあればコーディネートを考えなくていいので、それ中心のラインナップにして。
コーディネートを考えなくてよいよう、セットアップにして決まるIN THE HOUSEのウエア
●MASAH
海外ではよく見るけれど、日本ではあまりないスウェットやジャージのセットアップでの提案もしています。毎日の子どものコーディネートを考えるのは地味にストレスだし、『IN THE HOUSE』を通して親にラクしてほしい思いもあります。
――現在男の子2人を子育て中。スタイリストとファッションモデルのお子さんなら、さぞおしゃれなコーディネートをさせているはず。しかし意外な答えが。
●MASAH
キャラ物の音が鳴る靴とか、本人が好きなものを履かせていますよ。
●今宿
子どもが好きなキャラクターを与えないとか、それは止めようって言っています。
MASAH&今宿さん夫妻の長男、子どもの好きな気持ちを大切にしたい
●MASAH
「キャラ物を頭ごなしに否定しなくてもいいんじゃない?」って思いもあります。スニーカーだって、もともと運動靴。それをおしゃれにしたのがストリートの功績です。
僕らのようにファッションの仕事をしている人間が、子どもにキャラ物を着せていたら、見る人には「それもアリなんだ」って感じてもらえるかもしれない。
ただ息子が「ポケモンの服が着たい」ってなった時は、その中から僕らのセンスにフィットするものを選ぶようにしています。
10年後、ファッションをはじめ、息子くんを取り巻く環境はどう変わっている?
――日進月歩でテクノロジーが進化している今。10年後に息子くんたちはどんなファッションを楽しんでいるのか、お二人はどう考えているのでしょうか?
●MASAH
この10年でオンライン通販が登場して、服の買い方がずいぶん変わりました。僕らが子どもの頃って洋服を買うことって、もっと特別だったと思うんです。
でも今は洗う手間や電気代などを考えると、新しく買った方が手間もコストもかからないこともあるじゃないですか。使い捨ての意識がもっと進む気がします。
ファッションはライフスタイル。親のエゴではなく、子どもが好きな服を
●今宿
確かにお洋服の買い方は変わったね。
●MASAH
僕は昔、背伸びして渋谷に行っていたらおしゃれな先輩がいて、それがきっかけで服好きになりました。でも息子たちの世代はスマホの中で完結してしまう。
僕たちはファッション雑誌の発売日が近づくだけで興奮していましたが、今は、海外も身近になったから、僕らが感じた感動も少なくなるのかもしれないですね。
●今宿
何でもすぐ手に入るからね。
●MASAH
昔は何を着ているのか、っていう洋服自体のプライオリティが高かった。今は何を食べて、どこへ行ったのかっていうライフスタイル全体が重要になったのも変化ですよね。洋服だけがんばりすぎると、トゥーマッチになってしまう。
タピオカ持っている手首にロレックスだと嫌味じゃないですか(笑)。
地方にあるファッションコミュニティは、子育てにもいい影響を及ぼすはず
――MASAHさんは東京出身ですが、ルーツは青森、今宿さんは宮崎出身です。地方に縁のあるお二人から見て、地方に住む方たちのファッションはどのように映っているのでしょうか?
●今宿
地方の人の方がおしゃれだと思います。今みたいにネット環境も優れてなかったし、私も地元にいるときは雑誌みて、熊本や福岡に買物行ったりしてました。
身近ではない分、アンテナの張り方が素晴らしい。
●MASAH
地方の人はみんなおしゃれですよね。子どもたちにもおしゃれさせているけれど、自然体で素敵。
例えば仙台には東京でも知られている、有名なセレクトショップが昔からあります。そこに通っていた高校生が親になり、その子どもも通っています。ファッション好きになるには、僕が出会った先輩たちのグループのようにコミュニティが大事。
広島にはそんなコミュニティが残っていて、何代にも渡ってファッション好きを育てている。おのずといろんな服や文化に触れることができるので、子どもにとってもいいことだと思います。
●今宿
広島もそんな印象を受けたね。
●MASAH
できるだけたくさんのものを見る機会を与えて、自分で選べるようになってほしい。これは僕らの子育てにおいても意識している部分です。親が教えられることなんてごくわずかですもん。
●今宿
そうだね。「どういう風に育ってほしいですか」と聞かれても、わかんないもん、こればっかりは。だから私も決めつけない。
●MASAH
僕も悪いことをしていたけれど、これ以上したらまずいとか、判断できていた。
息子たちにも、自分で考えて判断できる力を養える環境を整えたいですね。
『IN THE HOUSE』の服を着こなすMASAH&今宿麻美さん家族
誰が着ても様になるデザインの『IN THE HOUSE』の服。
ファミリーで自由な組み合わせが楽しめます。おもしろく話してくれながらも、ファッションの核心を突く言葉を散りばめるMASAHさんと、彼に静かに同意する今宿さん。
そのバランスがとても素敵なインタビューとなりました。
・MASAHさん プロフィール
2003年にスタイリスト三田真一氏より独立。EXILEなどのスタイリングを手掛け、藤原ヒロシ氏による『the POOL aoyama』にてファミリー企画『IN THE HOUSE』をスタート。現在、伊勢丹新宿店のほか、EC、ZOZOTOWNで展開。妻でモデルの今宿麻美と『SEASONING』のブランディングディレクションも行っている
・今宿麻美さん プロフィール
1978年生まれ。1996年にモデルとしてデビューし、カジュアルファッション誌を中心に活躍。ストリートファッションのアイコン的存在で、現在もそのスタイルが同世代の女性から注目されている。2013年に結婚。2014年に第一子男児、2017年に第二子男児を出産。
■二人がディレクションする『IN THE HOUSE』公式サイト
https://inthe-house.com/
・撮影/柳原久子(water fish)
・取材/津島千佳
・ヘアメイク/加藤 恵[今宿さん分]
・撮影場所/ITH Gallery
・写真提供/IN THE HOUSE