スウェーデンには「ママ友グループ」が存在しない!?
「ワンオペ」「孤育て」など育児の大変さを象徴する言葉が次々と生まれてしまう日本…どうすれば子育てしやすい環境を作ることができるのでしょうか?
そのヒントを手に入れるべく、子育てに優しい国として有名なスウェーデンへ家族で移住したのは、『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』の著者である久山葉子さん。
育児・共働きを経験して感じたことを、自身の言葉で綴ってもらいます。連載【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第四弾は、久山さんが考える「スウェーデンに『ママ友グループ』が存在しない理由」について。
スウェーデンに移住後、私の最大のミッションは…
スウェーデンに移住する前、9カ月間日本の区立保育園に子どもを通わせていました。当初は保育園の決まり事についていくのに必死で、クラスメートやその親の顔と名前もなかなか一致しないような状態。ところが、たまたまクラスに社交的で面倒見のよいママがいて、わたし他何人かに声をかけてくれ、あっという間にママ友グループができあがりました。
人生初めての子育てをしていたわたしたちは、一歳児を抱えて職場復帰したばかり。同じ境遇のママたちに気軽に相談ができるのは、とても安心感がありました。
その後、子どもが二歳を迎える直前にスウェーデンに移住して、3ヶ月後には保育園に入園、慣らし保育が始まりました。スウェーデンの慣らし保育は、一週間親も付き添って保育園に通います。同じ部屋の中に親がいて安心できることで、子どもは新しい冒険――つまり初めての場所や初めて会う先生・他の子どもたちを探検することができるのだそう。
親にとっても貴重な一週間でした。保育園の一日の流れを把握し、先生や他の親と知り合うことができたからです。どこのご家庭も、パパとママが交代で来ていました。両親とも、これからわが子が5年近く過ごす場所を知っておきたいのでしょう。
慣らし保育の一週間、わたしは自分にもうひとつのミッションを課していました。それはママ友を作り、ママ友グループに入れてもらうこと。学校時代の経験から、グループに入れてもらうには最初が肝心だとばかりに気合を入れていました。だから積極的に他のママに話しかけては、「家、どのへん?」なんて聞いてみたり。近ければ、「今度、保育園のあとに遊びにきなよ」という流れになるかな……と期待して。
しかし慣らし保育の一週間が終了したとき、わたしの携帯に新しい連絡先は増えていませんでした。優しいママばかりだったけど、なんだかみんなとても忙しそう。仕事もしているし、何よりも家族が優先。すっかり自分の生活ができあがっていて、友達を増やしたいという様子はありませんでした。
四年間その保育園に子どもを通わせ、子どもには親友が何人もできました。お誕生日パーティーにもしょっちゅう呼ばれます。そういうときの連絡は事務的にショートメール。LINEというものはそもそもなく、親の世代ではグループチャット自体が一般的ではないようです。今の小学生や若者たちは、Snapchatでつながっているようですが。
そして娘は保育園を卒園。はたと気づくと、結局ママ友グループには一度も属さずにきてしまいました。わたしが外国人だから、入れてもらえなかったのでしょうか。話していても面白くないから?
落ち込みつつもよく考えてみると、ママ友グループ自体がなかったような気がします。もちろんママ同士で意気投合して友達になり、保育園外で会うことはあったようです。ただ、それは基本的に一対一の関係。グループの存在を感じたことは一度もありませんでした。
スウェーデンで「ママ友グループ」が存在しないのはなぜか、考えてみた
ママ友グループが存在しないなんて! 日本ではこれだけ重要な役割を果たしているママ友グループが、スウェーデンでは自然発生しないのはどうしてなのでしょう?
よく考えてみると、わたし自身もその四年間、「ママ友グループに入れなくて心細い」と思ったことはありませんでした。子どものことで悩みがあれば、まずいちばんに相談したのは夫。自分以外にわが子のことをいちばんわかっているのは夫だから、それ以上にいい相談相手はいません。家では毎日ドタバタなので、そういう話をするのはたいてい平日のランチ。二人とも街で働いている日にレストランで落ち合ってランチをしていたのですが、話題はもっぱら子どものことばかり。子育てというプロジェクトを担う二人が、定期的にランチミーティングしているような状態でした。
こうやって夫になんでも相談できるのは、普段からパパも残業なく5時には帰宅し、家族と一緒にいられるという環境があるからだと思います。子どもが病気になったときはパパもあたりまえのようにVAB(子どもの看病のための休暇)をとっているし、多くのパパが少なくとも3ヵ月の育児休業を経験しています。スウェーデンの育児休業480日のうち、90日は片方の親しか取らないと消えてしまうからです。こうやってパパも育児にしっかり参加できる土壌があるからこそ、夫婦間で子どもの悩みを相談できるのかな、と思っています。
日本もパパの育児参加がどんどん進んでいるので、夫が最強のママ友になる日も近いかもしれませんね。
(文・久山葉子)
ママ友についての久山さんのお話、いかがでしたか?
日本では当たり前と思っていたママ友という考え方も、国が変われば大きく違ってくるのですね。
さて、【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第五弾は、「スウェーデン夫婦、離婚後も一緒に幸せな子育てを続ける秘訣とは 」について。どうぞお楽しみに!
(構成:たまひよONLINE編集部)
Profile●久山葉子(クヤマヨウコ)
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。スウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない(移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし)』を執筆、訳書にペーション『許されざる者』、マークルンド『ノーベルの遺志』、カッレントフト『冬の生贄』、ランプソス&スヴァンベリ『生き抜いた私 サダム・フセインに蹂躙され続けた30年間の告白』などがある。
●Twitter/@yokokuyama