「核家族・共働き・共子育て」という、日本史上初めての事態
仕事をしながら子育てをしていると、「両立」というキーワードに悩まされたことのあるママやパパは多いのではないでしょうか。
そこで今回は、子育てを通じた人材育成事業を展開する、スリール株式会社の代表・堀江敦子さんに、「令和時代の仕事と育児」について話を聞きました。堀江さんの著書の『新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の内容も含めて、アドバイスをいただきました。
堀江さんが見た、多様化するワーママの働き方
-―1000以上の共働き家庭を見てきた堀江さんですが、ここ2〜3年で感じた働くママの変化はありますか?
堀江さん: 最近は多様な働き方が認められるようになってきたこともあり、それぞれの状況に合わせて働き方を柔軟に変化させながら、仕事を続けていく方が多い印象です。
-―具体的にどのような働き方でしょうか?
堀江さん:リモートワークが可能な会社へ転職したり、フリーランスになったり、起業したり、本当にさまざまです。
中でも、ある程度キャリアを積んだ方が働き方を変えようと転職するケースはとても多いですね。スキルのある優秀な人ほど、柔軟な働き方を選びやすいように思います。
-―企業としても、社員が働きやすい体制を整えようと努力しているところも増えてきていますよね。
堀江さん:一昔前まではリモートワークなどにすると給与が下がってしまうケースもありましたが、最近は給与もキープしたまま柔軟に働けるようになってきています。
固定概念にとらわれないで! 時代背景を理解して新しいスタイルをつくる
-―家事や育児を外注している家庭は多くなってきていますか?
堀江さん: 外注できる家庭とそうでない家庭がどんどん乖離(かいり)しているな、という印象です。
ここ5年くらい家事代行やベビーシッター、ファミサポ以外のサポートの種類も増えて、外に頼めることが増えてきました。
多様なサービスが増えることよって、ご自身の生活に合っていると感じる人はどんどんサービスを使えるようになっています。お金を払って受けるサービスだけでなく、ママ友や家族など身近な人にお願いすることも含めてです。
ただ一方で、子どもを預けることに対する罪悪感がある方は、サービスがあっても利用できない状況であると感じます。子どもを預ける罪悪感とは、「仕事と育児を完ぺきに両立しなければいけない」という両立神話、「子どもは3歳になるまで母親がみなければいけない」という3歳児神話です。とらわれてしまうと、自分で抱え込んでしまい、他者のサポートを得られにくくなってしまいます。
実際に、保育園以外の子育てサポートを「利用したい」と答えている人の中で、実際に利用している人は10%程度にとどまっているというデータもあります。その理由は、「心理的ハードル」が1位なのです。固定概念が精神的なハードルになってしまって、必要なサポートを受けられていないケースも多いんです。
-―やはり、意識的な部分を変えるのは難しいのですね。
堀江さん:そうですね。でも変えるという以前にまず知ってほしいのが、私たちは今「核家族・共働き・共子育て」という、日本の歴史上初めてのことを経験している、ということです。
-―日本の歴史上初、ですか…!
堀江さん:「みんなで働き、みんなで育てる」というスタイルだった戦前。
国力を上げるために男性が長時間外で働き、政府や企業が「男性が家事や育児に参加しなくても成り立つしくみ=専業主婦」という家庭モデルを推奨した高度経済成長期。
そして、この高度経済成長期に進んだ核家族化と、バブル崩壊による長い不況によって、「夫婦二人で働き、二人で子どもを育てる」という難題を突きつけられているのが現代です。
今の働くママたちを悩ませるのが、高度経済成長期の流れを継いだバブル期に子育てを始めた、自分たちの親世代から作られた“ちゃんとした母”のイメージです。
親世代の感覚は終わり、過酷な時代になったということをまずは認識してほしいと思います。
―-わが子には「自分たちが子どものころにやってもらったようにしたい」と思っても、時代が変化して難しくなってきているということですね。
堀江さん:ママとパパの二人だけでは難しいですよね。だからこそ、「仕事も育児も両立しなくちゃ!」と抱え込むのではなく、いろんな人たちの手を借りながら、自分たちなりのスタイルを確立していくことをおすすめします。
自分の状況を理解して自分らしさを見つけよう
-―現代の働くママたちにはどのような力が必要でしょうか?
堀江さん;情報を取捨選択できる力ですね。
「こんなふうに仕事をしていきたい」とか、「どんな子育てをしていきたい」とか、「どのようなサポートが受けられるか」ということはご家庭によって全然違います。
もちろん、子どもによっても、いろいろな子がいると思います。
だから、ほかの家庭と比べる必要はなく、「自分たちはこうだよね」というスタイルを見つけて、必要な情報を選びとっていくことが大事なんです。
-―まずはビジョンを明確にすることが必要そうですね。
堀江さん:そうですね。最近はSNSなどでいろんな情報が入ってくる時代なので、情報の渦にのまれることなく、自分の価値基準を持って判断することで、「自分らしい」スタイルが見えてくるのではないでしょうか。
働くママのお悩みにアドバイスをもらいました!
現役ワーキングマザーからのお悩みに、多くの働くママとかかわってきた堀江さんからアドバイスをいただきました!
Q
今月より仕事に復帰しました。フルタイム勤務です。復帰10日目にして娘発熱。インフルエンザに…。いろいろ流行る時期だし、体調不良はしかたないとわかっています。冬に預け始めたので体調を崩すのも想定の範囲内ではあります。しかし、仕事復帰したてでお休みを頂く申し訳なさと肩身の狭さ…何よりきついのは子どもなのに、お迎えコールにため息をつく自分にもうんざり。何とか気持ちを上向きにしたいのですが、子どもの前でもため息しか出ません。働くと決めたのは自分。やるしかないのですが、復帰1ヶ月もたたずに心が折れそうです…。
※このエピソードは口コミサイト「ウイメンズパーク」の投稿からの抜粋です
A
お子さんの体調不良とはいえ、仕事を休むのは心苦しいですよね。しかし、「発熱呼び出し」はいつまでも続くものではありません。大阪府吹田市が公表している乳幼児の病欠日数平均の調査によると、3歳ごろには年間10日前後と体調が安定してくることがわかっています。
頻繁な病欠は1〜2年だと割り切ることも必要です。そのうえで、子どもが病気になったときのママとパパの動き、病児保育・病児シッターなどの事前登録、ほかの家族に協力を頼めそうか?などを含めたフローをあらかじめ考えておくといいでしょう。そして、必要な情報は上司や同僚へも共有しておくのも忘れずに。
今、私たちが置かれている「核家族・共働き・共子育て」という状況は、前代未聞の挑戦でもあります。ロールモデルがいないからこそ、固定概念にとらわれることなく、「自分らしさ」を追求することで、より豊かな家庭を築いていけるのかもしれません。
(取材・文/大月真衣子、ひよこクラブ編集部)
■お話/堀江敦子さん
(スリール株式会社・代表取締役社長)
日本女子大学社会福祉学科を卒業後、大手IT企業勤務を経て、25歳で起業。
大学卒業までで200名以上のベビーシッターを経験したことがあり、女性活躍に向けた両立支援や意識改革を得意とし、企業の研修・コンサルティング、大学・行政に向けたライフキャリア教育を実施している。大学や専門機関などでの講演も多数。著書の「自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が好評発売中。