体験したママたちの声 イギリス発の手づかみ食べ離乳法BLW
BLW (Baby-Led Weaning)とは、今、注目されているイギリス発の手づかみ食べ離乳法で、世界では関連書籍も多数出版されています。
日本では、2019年11月に邦訳版『“自分で食べる!”が食べる力を育てる 赤ちゃん主導の離乳(BLW)入門』(原書房)が発売されました。それを記念して、著者のジル・ラプレイさん(助産師、保健師)、トレーシー・マーケットさん(ライター、ジャーナリスト、母乳育児相談員)が来日し、一般公開講座が開かれました。
当日は、日本でBLWを実践しているママやパパも参加していました。前回の記事「イギリス発の手づかみ食べ離乳法「BLW」が話題に。いったいどんなもの?」では具体的な方法について伝えましたが、今回は体験者の声を聞きました。
そもそもBLWって何? どんなふうに進めるといいの?
ジルさんたちが提唱するBLWとは、赤ちゃんの自発性を尊重して進める手づかみ食べ離乳食のこと。開始時期は、日本の離乳食のように月齢を目安とする考え方とは異なります。①赤ちゃんが食べ物に興味を示す、②支えれば座れる、③手に持ったものを口に運ぶことなどの様子があったらスタートし、赤ちゃんが自分の手で徐々に食べられるようになっていくのを見守る考え方です。
またBLWは、以下の4つが基本的な考え方です。
1
赤ちゃんの機嫌がいいときに、家族と一緒にテーブルを囲んで、家族と同じものを食べる。減塩でバランスのいい食事を大人も赤ちゃんも食べることが望ましい。
2
赤ちゃんがつかみやすい大きさ・形のメニューをテーブルに2~3種類置き、手づかみで自由に食べさせる。
3
食べる量や速さなどは、赤ちゃんのペースを尊重して。ママやパパが食べさせるのはBLWではNG。
4
赤ちゃんが欲しがる間は、授乳(母乳やミルク)を続ける。
著者のトレーシーさんによると、BLWを取り入れると①家族みんなで楽しく食事ができる、②手づかみ食べは視覚、触覚、嗅覚(きゅうかく)などをフルに使って自分で食べるので、食への興味が広がる、③手づかみ食べを繰り返すことで、目と手の協調運動が発達して、手指の使い方が上達する、④「せっかく作ったのに食べてくれない」など、ママやパパのイライラや落ち込みを防ぐ――などのメリットがあるといいます。
もちろん、窒息のリスクなどを考えて必ず目を離さないで行うことが基本です。
日本でもBLWはじわじわと浸透中。ママたちの体験談を紹介
「BLWって初めて聞いた!」というママやパパもいるかもしれませんが、日本で既に取り入れているママ・パパたちがいます。その1人が日本BLW協会を立ち上げた尾形夏実さんです。そこで尾形さんをはじめ、講座に参加していたママたちに、BLWの体験を聞きました。
BLWを始めてから食べ方がぐんぐん上手に
離乳食が始まるころ、まわりのママたちから「離乳食作りって大変だよね?」「せっかく作っても食べてくれないでしょ?」という話をよく聞きました。また離乳食講習でも管理栄養士さんに「離乳食の時期は、振り返ればあっという間なので、頑張って耐えましょうね」と言われて解せない気分になったんです。
私としては、あっという間に過ぎてしまう離乳期だとしても、もっとポジティブに向き合いたくて。
ちょうどそのころ、離乳食で使うブレンダーが壊れてしまい「ほかに離乳食を作れる方法はないかな?」とインターネットで調べていて偶然、BLWを発見。「食べるのが大好きな娘にピッタリかも!」と思って取り入れたのが始まりです。
わが家は、6カ月からBLWをやっていますが、よかったのは離乳食をわざわざ作る手間が必要ないということ! 大人の食事と一緒に手づかみ食べできる野菜などをゆでるなどして準備をするだけなので、時間に余裕ができて、子どもと遊ぶ時間が増えました。
またBLWを始めてから、「どんなふうに食べているんだろう?」と娘のそしゃくや食べ物をつかむときの様子をよく見るようなったのですが、日々、食べ方が上手になっていくのがわかります。一生懸命、自分で食べている姿って、ホントにかわいいです(一般社団法人 日本BLW協会 代表理事 尾形夏実さん)
代表理事 尾形夏実さん
ななちゃん(11カ月) 野菜も魚も手づかみ
スプーンで離乳食を食べなくて、BLWにチェンジ
初めはスプーンで離乳食を与えていたのですが、スプーンを手ではねのけたり、口を閉じて食べてくれなかったりしたので困ってしまって…。また親主導で食べさせる、離乳食の与え方にも疑問を感じていました。
そんななかで、いろいろ調べているうちにBLWを取り入れているママのブログに出合い、「私もやってみようかな!?」と思ったのが始まりです。
うちは6カ月からBLWで食べさせていますが、BLWにしたらあんなに嫌がっていたのがウソみたいに、スムーズに食べてくれようになりました。(8カ月の男の子のママ)
まだ始めたばかりで、スプーンで与えるのと併用中
かかりつけの小児科の医師にすすめられて、BLWに興味を持つようになり、今回の講座に参加しました。うちは、まだBLWを始めたばかりで、スプーンで離乳食を与えるのと併用中ですが、テーブルに握りやすいように切ったりんごやにんじんなどを置いて進めています。
(7カ月の女の子のママ)
むし歯予防や歯並びなどの口腔(こうくう)機能の発達の面から、歯科医師も注目
BLWは、食べる力を育てるだけでなく、歯並びやむし歯予防など口腔機能でも注目されています。BLWの普及に取り組んでいる日本BLW協会の理事で、歯科医師である山田翔先生に聞きました。
「“食べ方”と歯並びには深い関係性があり、質の高いエビデンスはまだ得られていませんが、口腔機能をはぐくむにはBLWはとてもいい選択肢だと思っています」(山田先生)
さらに「現状の日本の離乳食の考え方は、大人が主導になりすぎていて赤ちゃんの口の動きの発達に合わせた離乳を進められていないのではないかと懸念しています。しかしBLWは、とくに手先の器用さが育つので、赤ちゃんの気持ちや口・手の発達に合わせて離乳が進められます」とのこと。
また、BLW提唱者であるジルさんたちは、従来の離乳食の進め方とBLWは両立すべきではない、と考えていますが、山田先生は日本の食文化に合わせて、両方に取り組みながらでもいいのでは、と話してくれました。
BLWは、赤ちゃん主導で進める離乳法なので、赤ちゃん自身が「スプーンを使いたい!」「フォークを使いたい!」と言うならば、手づかみ食べにこだわらなくてもOKだそう。ただしスプーンで食べさせるときも、手づかみ食べでも窒息に注意を。
“自ら楽しく生きていくための栄養を得る”という大切なことのために、BLWの考え方を少しだけでも取り入れていってもいいのかもしれません。
(写真提供/尾形夏実さん 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部)
■取材協力/日本BLW協会