日本小児科学会が注意喚起!赤ちゃんを守るための「ベッドインベッド」で、赤ちゃんの窒息事故が発生
赤ちゃんが眠るスペース「ベッドインベッド」。大人が赤ちゃんに添い寝をする際に、赤ちゃんの安全を確保するための役割が期待されています。コンパクトで持ち運びがしやすく、親も安心して眠ることができるので「使っている!」というママ・パパも多いのではないでしょうか。
しかし、ベッドインベッドで寝ていた生後5カ月の赤ちゃんが窒息する事故が、2025年5月、日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)で報告されました。
ベッドインベッドの危険性について、子どもの事故に詳しい、小児科医 山中龍宏先生に聞きました。
軽量で持ち運びしやすい点などが人気
ベッドインベッドは、赤ちゃんのねんねスペースで、軽量で持ち運びしやすいのが特徴です。
――ママ・パパが、ベッドインベッドを使用する理由を教えてください。
山中先生(以下敬称略) いくつか理由はありますが、1つは狭い場所でも赤ちゃんの寝場所が確保できるためではないでしょうか。
また添い寝をすると、ママ・パパが寝返りをした拍子などに、赤ちゃんをつぶして窒息させてしまう危険があるので、ベッドインベッドを使って、ママ・パパのそばで寝かせている家庭もあるようです。
生後5カ月の赤ちゃんがベッドインベッドの下敷きに
便利なベッドインベッドですが、2024年7月、生後5カ月の赤ちゃんがベッドインベッドの下敷きになり窒息する事故が起きました。
――ベッドインベッドの窒息事故について教えてください。
山中 日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)で報告された事故です。事故の状況などは次のとおりです。
【ベッドインベッドの事故事例】
2024年7月、生後5カ月の赤ちゃんが、ベッドインベッドを使用して自宅の寝室で寝ていた。ベッドインベッドのサイズは、90×47×18cm。重さは2.1kg。ベッドインベッドは、新生児期から使用していた。
午後3時、母親が寝室でミルクを与えながら、ベッドインベッドで寝かしつけをした。ベッドインベッドは、フローリングの床に敷かれた厚さ30cmのクイーンサイズのマットレス(かため)の端に置かれていて、マットレスの横には厚さ20cmの 子ども用敷布団(かため)が3枚並べて敷かれていた。マットレスとの高低差は10cm程度。
ベッドインベッドは、傾斜が5~30度で調節でき、当時は傾斜を5度に設定して使用。赤ちゃんが寝たことを確認して、母親と長男はリビングにいた。物音などの異変には気づかなかった。
午後5時、父親と長女が帰宅。午後5時35分ごろ、父親が寝室に行くと、赤ちゃんがうつぶせになり、赤ちゃんの体全体が隠れるようにベッドインベッドが上にのっていた。
赤ちゃんの呼吸は停止しており、救急車を呼んだ。周囲に出血や嘔吐のあとはなかった。
父親の印象としては、寝返りをしようとしてベッドインベッドごと子ども用敷布団の上に転落し、ベッドインベッドの重さで体全体が布団に押し付けられているような状況だった。
母親は看護師で、救急車が到着する間、蘇生行為を行った。医療機関に到着する前に自己心拍の再開があった。赤ちゃんは、蘇生後、管理目的で高次医療機関へ転院。しかし意識は回復せず、安定した自発呼吸もないため、人工呼吸管理や経管栄養が必要な状態である。
――この事故が起きた原因はどのように考えられるでしょうか?
山中 子どもの就寝中の事故は、親も寝ていたり、親は別室にいるなどして目撃者がいないと、はっきりとした原因がわかりません。
この事故も、赤ちゃんがベッドインベッドから落ちる瞬間をだれも見ていません。
でも父親の説明からすると、赤ちゃんが寝返りをした拍子に、ベッドインベッドごと、横に敷いている子ども用敷布団に転落してしまったのでしょう。
生後9カ月ごろになれば、はいはいやずりばいができたりして、このような事故は起きにくくなりますが、それ以前だとうつぶせになると自分から移動できないために、このような事故は起きやすくなると考えられます。
――ベッドインベッドは、生後何カ月まで使えるのでしょうか。
山中 新生児から寝返りをするようになる生後4~6カ月ごろまでを推奨する商品が多いようですが、インターネットのショッピングサイトを見ると、対象月齢が記されていなかったり、1歳ごろまで使用できると記している商品もあります。
アメリカでは、ベッドインベッド使用中の窒息死亡事故が3件発生
ベッドインベッドの事故は、米国消費者製品安全委員会(CPSC)では報告されています。
――同じような事故は、ほかにも起きているのでしょうか。
山中 国内で同じような事故の報告は、とくに聞いていませんが、ヒヤリハットはあるのかもしれません。また日本では、ベッドインベッドに特化した安全基準は現在のところ設けられていません。
しかし今回の日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)によると、米国消費者製品安全委員会(CPSC)からは、次のような報告があります。
2019年1月1日から2020年12月31日までの期間に発生したベッドインベッドの事故は、
●ベッドインベッド使用中に窒息して死亡/3例
●ベッドインベッドから転落/10例(製品が適切に固定されていないなど)
●ベッドインベッドと親のベッドの間に挟まれる/件数不明
寝返りを始めると、寝ていても5時間で最大15m動く
山中先生は、赤ちゃんは寝ていてもよく動くと言います。
――赤ちゃんがぐっすり寝ていると安心して、別室に移動したりするママ・パパもいると思います。
山中 ママ・パパに覚えておいてほしいのは、赤ちゃんは寝ていてもよく動くということです。そのためママ・パパの目の届く範囲で、寝かせたほうが安心です。赤ちゃん1人を別室で寝かせるのは危険です。
東京都が2025年3月に発表した「科学で探る こどもの事故予防策―睡眠環境における事故―」では、18カ月未満の乳幼児がいる家庭を訪問して、子どもが寝ている様子を撮影。行動分析しています。
その結果、寝返りを習得する前の生後3カ月ごろの赤ちゃんは睡眠中、顔しか動かしません。しかし寝返りをするようになった生後7カ月ごろの赤ちゃんは、寝ていても活発に動き、ひと晩(5時間)で、移動した距離の合計は最大15mでした。
【寝返り習得前・生後3カ月ごろ】
グリーンの点は移動を示しています。生後3カ月ごろは、寝ているとき顔の動きのみということがわかります。
【寝返り習得後・生後7カ月ごろ】
寝返りができるようになると動きが活発に。この調査結果を踏まえ、東京都の「科学で探る こどもの事故予防策」では「落ちない場所で寝かせる」ことを提言しています。
報告された事故のようにベッドなどの上にベッドインベッドを置いて使用すると、赤ちゃんが動いた拍子に転落して、大きな事故につながる危険性があることをママ・パパには知ってほしいと思います。
お話・監修/山中龍宏先生 協力/公益社団法人 日本小児科学会、東京都 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
2025年3月、東京都が発表した「令和6年度セーフティ・レビュー事業報告書~睡眠環境における事故の実態と想定される事故予防策に関する提言~」によると、6歳以下の未就学児と同居する保護者5189名のうち、「子どもの睡眠中の事故経験があった(ヒヤリハット含む)」と答えたのは1588名(約30.6%)にのぼります。
子どもの睡眠中の事故を、けしてひとごととは思わないでください。
●記事の内容は2025年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。