米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビュー「非認知能力は家庭でこそ育つ」
著書「『非認知能力の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』」が大ヒットとなった、ライフコーチ・ボーク重子さん。娘さんが「全米最優秀女子高生コンクール」で優勝したことでも話題に。
変化の激しいこれからの時代を生き抜くために、子どもたちの非認知能力をはぐくむことが大切だとのこと。
非認知能力とは、読み・書き・計算のような学力とは違う、心や社会性に関する力のこと。何かに熱中・集中して取り組める、気持ちをコントロールできる、人とコミュニケーションできる、自分を大事に思えるといった力のことで、後伸びする力ともいわれています。
たまひよONLINEでは、ボークさん流「家庭での非認知能力の育て方」についてインタビューしました。
他人のものさしをはずし、 子どものありのままを受け入れて
―― 2020年から始まる教育改革でも非認知能力が重要視されています。非認知能力をはぐくむために、家庭でできることは何かあるのでしょうか?
ボークさん 私は「非認知能力」は学校でも塾でもなく、家庭でこそ育つと思っています。それにはまず、何よりも子どもにとって安全な環境を家庭に作ることです。
ここでいう安全とは、心の安全を提供できているかどうかということ。子どもが「ダメッて言われないかな」「こんなこと言ったらおかしいかな」と考えずに親になんでも言える環境を家で整えることが、だれでも今すぐできる非認知教育の取り入れ方だと思います。そのためにはママ・パパが子どもをあるがままにその子として認め、個性を受け入れることが大切です。
―― 親が「子どものため」と思って言ってきたこと、してきたことが逆に心の安全によくないケースもあると考えますか?
ボークさん 残念ながら私たちが育った時代には非認知能力という言葉すらなく、重要性も問われず「いいか悪いか」「いわれたことをやる」「母親とはこういうもの」といった他人や社会のものさしの中で生きてきた世代です。
そのため、ついさまざまなシーンで「これをやりなさい」「こうしたほうがいい」と子どもに自分の思い込みを押しつけがちです。そうすると、子どもが自分で考え、試行錯誤し、時には失敗しながらもやり遂げるといった過程や経験を奪ってしまうことになります。
「あなたのことを思って」と先回りしたくなる気持ちは親ならだれもが持っているものだと思います。でも、子どもは親のコピーではありませんし、親が望むことをやるのがいい子どもでもないのです。
子どもが幸せを感じられる人生を歩める、心のスキルを身につけさせてあげるために、まずはママ・パパがそういった縛りをはずすことから始めるのが良いと思います。
子どもとの間に対話が生まれると 非認知能力がはぐくまれる
―― 他人や社会のものさし、縛りをはずすことでどうなるのでしょうか?
ボークさん 子どもの話で自分の都合のいいところだけを聞くのではなく、本当にその子の話に耳を傾けることができるようになることで、子どもは「自分は自分であっていい」と安心します。
そうすると家庭の中で「私(僕)は、こう思うんだ」「ママはこう思うんだけど、その考え方も面白いよね」といった対話が自然に生まれ、思考力や問題解決能力といった非認知能力がはぐくまれていきます。
2020年から始まる教育改革では、授業の内容は変わりませんが、ディスカッションやプレゼンテーションなどがより重視されるようになるでしょう。自然と対話ができる環境で過ごしていれば、授業で先生に「これについてどう思いますか?」といきなり聞かれた場合でも、自然と自分の考えを伝えられるようになるのではないかと思います。
非認知能力をはぐくむ育児をいち早く取り入れた家庭の子どもはもたつく教育改革で、またグローバル社会で一歩先を行くこととなるでしょう。
ママの心の安全が子どもの心を強くする
―― 非認知能力をはぐくむことが大切と頭ではわかっていても、日々の家事・育児・仕事に追われて、できる自信がないというママもいると思うのですが?
ボークさん 女性は結婚して働いて子どもを産もうと思った瞬間に、自分の時間が制限されます。子育て中は時間も大変ですが、奪われていくエネルギーも多い。私たちはそれを選んで、幸運にも奪われる存在が生まれてきてくれたというのがあるけれども、自分の時間やエネルギーをすべて明け渡してしまうと、どこかしらに不満が生じたり、イライラして余裕がなくなってしまう。
そんな状態でポジティブな思考で子どもと向き合うことはとても難しく、子どもができたことよりも、できないこと、やっていないことにばかり目がいってしまうようになります。
そうならないためにも、ママはまずは1日15分でいいから、自分の時間を必ず作ることを何よりも優先して、ママ自身の心を安全な環境にしてほしいです。1日15分の自分時間を続けていくことで、「自分の中で安全な環境ってこういうことか」「今の私の状態は自分の心の安全をおびやかしている」という気づきがあるはず。
その気づきは子どもの心の環境に対する見方、ママ自身の非認知能力をはぐくむことにも役立つと思います。
―― ママの心が安全だと、どのようないいことがあるのでしょうか?
ボークさん ありのままの自分を受け入れられている安心感をベースとし、くじけそうなときでも立て直せる子どもの心の強さが育ちます。また、ママ自身の心も強くなるでしょう。子どもはこれからの人生で必ず失敗するし、負けるときがあります。
たとえばスポーツをしていれば、勝てなかったり、レギュラーに選ばれずにベンチにずっといる子だっている。その子をそのまま受け入れるって親としてはなかなか難しいものです。「なんで?この子ダメなの?」って気持ちも出てきて…。
でも、ママの中で非認知能力をはぐくむ訓練をしていると、「これもこの子の個性だ」「試合に出られなくても腐ったりしていないのは、やっぱりこのスポーツが好きなのかな?」とか、「ほかにもっとやりたいことが見つかる手伝いをしてあげようか」とか、否定的に見るんじゃなくて問題解決をする心の余裕ができてくる。そういうのが本当の非認知能力をはぐくむ環境だと思っています。
他人や社会のものさしを基準とするのではなく、ありのままの子どもを受け入れ、子どもが安心する環境を作ることが、非認知能力をはぐくむ大切なベース。そして、ママが自分自身の心の安全はどんな状態かを知ることが気づきとなり、非認知能力をはぐくむ環境を作るのだと思いました。
(撮影/アベユキヘ 取材・文/本間勇気、ひよこクラブ編集部)
■プロフィール
ボーク重子さん
ロンドンの大学院で現代美術史の修士号を取得後、ワシントンDCに移住、出産。「自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に最高の子育て法を模索する。2015年よりライフコーチ業、執筆を開始。『~人生100年ずっと幸せの最強ルール~パッションの見つけ方(小学館)』が好評発売中。2020年4月よりオンラインで「非認知能力を育む子育てコーチング」を開始。