子育て世代がたよる新時代の「ご家庭サポートサービス ”東京かあさん”」、他人だから正直に話せることも
2019年にスタートして、東京都と神奈川県・千葉県の一部で展開されている「ご家庭サポートサービス"東京かあさん"」。従来の家事支援サービスやベビーシッターと違うのは、登録している60才以上の「お母さん」が家庭を訪問し、料理、掃除、洗濯などの家事、育児のほか、話し相手やペットのケアなど「やってほしいこと」に柔軟に対応してくれるというもの。最初にマッチングされた「お母さん」が毎回やってきてくれて、来訪時以外も、お母さんとLINEでやりとりするという点も人気です。たまひよ編集部は、お母さんと利用者がこのサービスをとおして「家族」のような関係になっていく、ということに着目しました。前回のインタビューに引き続き、今回は「お母さん」によって生まれる「新たな家族のスタイル」について、創業者の小日向えりさんに聞きました。
「お母さん」と一緒に家事をすることで、利用者も家事が楽しくできるように
――一お母さんと一緒に家事をすることもある、というのがおもしろいですね。
はい。『東京かあさん』はお客様と「お母さん」のコミュニケーションの深さがひとつの特徴なので、自分が在宅しているときにお母さんに来てもらうお客様も多いです。ひとりではなかなかやる気にならない家事もお母さんと一緒にやることでモチベーションが上がるという声も聞きます。お母さんがいないときもLINEを使った気軽なコミュニケーションをとおしてお客様をサポートできます。
――働くママのなかには夫との家事分担がうまくいかず、余計に孤独を感じるという人もいます。
そうですよね。夫の場合、妻が一からやり方を教えないといけなかったり、多少失敗してもほめないとすねてしまったりするのもよく聞きます。「お母さん」だとそれがなく、家事スキルが高くてかゆいところに手が届くので、本当の意味で家事の分担ができます。私自身も毎週お母さんに来てもらっていますが、食器洗いや洗濯をお母さんにやってもらうことで、自分は片づけに専念できるんです。
――ほかの家事を任せて、自分はやりたい家事に没頭できるということですね。夫も妻の実母が定期的に家に来るよりも、他人である「お母さん」のほうが気をつかわないのかもしれません。
そうかもしれませんね。夫にとっては姑が来るとそれだけで自分の行動をすべてチェックされているような気がして落ち着かないとい人も多いと思います。その点、うちのサービスの「お母さん」なら気楽でいられるかと!
「お母さん」だけど「他人」だから話せることもある
――家族の事情をちょっとだけ知っていて定期的に家にきてくれる、他人でもある「お母さん」の距離感はちょうどいいのかもしれないですね。
実の親には心配かけてしまうからと、話せないような悩みも、「お母さん」には話せるところもあって。お母さんも定期的に家に来ているので、隠しているつもりでも何か変化があるとバレるんですよ! 夫婦げんかのときこそお母さんに来てもらいたいというお客様もいます。
そして、育児の悩みについても、同じ世代の子を持つママ友だと共感は得られるものの「どうしたらいいんだろう?」と答えが出ないときもありますよね。育児経験者で孫のお世話もしている「お母さん」なら「うちの子もそういうことがあったけど、立派に成長したよ!」と経験を語ってくれます。時には「そんなことしちゃダメじゃない!」とお母さんに叱られることもありますが、親身になってくれているのがわかるので素直に聞けるという声もあります。
――今の日本では、共働きだと子どもの急病など予想外のアクシデントで立ち行かなくなることもあると感じます。実家に頼ってなんとか回している人もいますが、実家を頼れない状況にある人もいますよね。そのような家庭にとって『東京かあさん』はとても心強いサービスではないでしょうか。
私も姉2人の子育てをみていると夫婦2人だけでの子育ては難しいと感じます。「2人目が生まれたら離婚しちゃうかも」と言っていた友達もいますし、育児をするうえで誰かのサポートは欠かせないですよね。切迫早産になって、旦那さんも出張が多かったことから利用を始めたお客様がいたのですが、結局「お母さん」が出産に立ち会って、上のお子さんの面倒もみたことがありました。お母さん自身も切迫早産の経験者で、駆けつけずにいられなかったそうで。
――新型コロナウイルス感染拡大防止から、学校が休校になったりリモートワークが増えたりと生活が一変した人が多いですが、何か影響はありましたか?
全国の小中高に休校要請が出された後はお問い合わせが増えました。「自宅で自分の子どもときょうだいの子どもを預かって面倒をみているので、全員の食事を作ってほしい」など、料理をしてほしいという依頼が多かったです。緊急事態宣言が発令されてからも、サポートが必要な家庭もありますし、「お母さん」の生活の不安もありますので、双方が合意すれば訪問を継続する形にしました。直接の訪問は難しい場合でも、LINE上でお客様とお母さんがお互いを心配しあい、お母さんが「こんなものを買いそろえておくといい」というアドバイスをするなど、今までになかったやりとりも生じています。
実際の利用者の声は
半年ほど前に、第2子の出産後に利用したというIさんに感想を聞いてみました。
「産後の肥立ちが悪くて、上の子のお世話と赤ちゃんのお世話が大変になり申し込みました。来てくださったNさんをわたしは「Nママ」と呼んでいるのですが、豊富な経験からの的確なアドバイスにとても心が軽くなりました。サポートしながら聞かせてもらう話もとても面白くて、たくさん笑っています。どんなときもエネルギッシュなNママは、相談やお手伝い、さりげないサポートだけでなく、子どもにも遊びを通じて大事なことを教えてくれるわが家の強い味方です!」
Iさん一家にとって、Nママが欠かせない存在であることが伝わってきます。「家族」ではない第二の「お母さん」が家に来てくれることで、家事育児の負担が減るだけでなく、家族の風通しがよくなり、夫婦仲や親子関係も円滑になるのかもしれません。夫婦ともに実家から離れた都心で子育てをするファミリーにとって、第二のお母さんを迎えることは、新しい子育ての方法のひとつなのかもしれません。
(文・古川はる香)
●Profile
小日向えり
歴ドル(歴史好きアイドル)として信州上田観光大使、会津親善大使、関ヶ原観光大使も務める一方、2017年に起業し、株式会社ぴんぴんころりの代表に。シニア世代の健康と生きがいの創造を目的に、シニア世代の就労支援サービスの開発と運営などを行う。