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声かけや部屋の音。おなかの中の赤ちゃんにはどう聞こえている?

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美しい妊娠中の女性、自宅。
NataliaDeriabina/gettyimages

赤ちゃんはママのおなかの中にいるときから、まわりの音が聞こえているといわれます。最近は胎内教育(胎教)として、話しかけたり音楽を聴かせたりするママ・パパも増えていますが、実際のところ、その音は赤ちゃんの耳にちゃんと届いているのでしょうか。子どもの言語獲得を研究する、東京大学大学院教育学研究科教授の針生悦子先生に聞きました。

言葉としては届きにくいがリズムは伝わっている

――赤ちゃんはママのおなかの中にいるときから、まわりの音が聞こえているといわれますが、いつごろから聞こえているのでしょうか?

針生先生(以下敬称略)外部の音に対して、おなかの中の赤ちゃんがまばたきをするかどうかを超音波で見る調査で、早くて妊娠24週目ごろから反応があることがわかっています。ただし、あくまで聴覚的な刺激に対する反応があるという話なので、大人と同じように聞こえているわけではありません。羊水に浮かんでいる胎内の赤ちゃんは、私たち大人とは環境そのものが違うからです。

――たしかに、空気を伝わる音と水中を伝わる音は聞こえ方が違いますね。
針生 羊水に浮かんでいるだけでなく、お母さんの心臓音や血流音などが絶えず聞こえているような状態なので、外の音はなおさら聞こえにくいでしょう。また、羊水のまわりの膜や脂肪などに音が吸収されてしまうので、赤ちゃんの耳に届く音そのものも小さくなっています。子宮や胎内に小さなマイクを入れて、外部の音がどのくらい音が届いているかといった研究でも、音は小さくなって届いていることがわかっています。


――ママやパパの声かけが、おなかの中の赤ちゃんにちゃんと届いているのか、少し心配になりました・・・。

針生 もちろん、お母さんの声などは“音の大きさ”からすれば、赤ちゃんに十分に聞こえています。問題は音の大きさというより“聞こえ方”です。プールに潜って,、外のアナウンスの音がどんなふうに聞こえるか試してみてください。何か言っているというのはわかっても、何を言っているのかわからないような音になっているはずです。

――そうなると、声かけをしても、伝わる情報はかなり限られてしまいますね。

針生 言語のリズムとしては伝わっていると思われます。実は言語のリズムというのは、私たちが言葉を聞き取る際に重要な手がかりとなっていて、生まれたばかりの赤ちゃんも、リズムの違いでお母さんの話す言語と外国語と聞き分けられることが研究でわかっています。電車など騒がしい中で聞こえてくるまわりの人の声が、言葉として聞き取れなくても日本語かどうかは何となくリズムでわかりますよね。それと同じようなことです。

――胎教として、声かけの効果はあるのでしょうか?

針生 お母さんの脈拍や血圧の変化など、声かけ以外にもさまざまな要素が影響していると考えられるので、声かけだけを切り取って、それがどう影響しているかということは何とも言えません。「声かけをすればいい」という単純な話ではないので、無理して「声をかけなきゃ」と頑張るほどではないと思います。お母さんが自然体でいられることのほうが大事ではないでしょうか。

――同じく胎教として、「クラシック音楽を聴かせるといい」という話も耳にしますが、これも赤ちゃんに音楽が届いていることよりも、お母さんがリラックスしている効果のほうが大きいのでしょうか?

針生 音楽を聴かせた場合と、聴かせなかった場合を比較して調べられているわけではないのでわかりませんが、いずれにしてもお母さん自身がハッピーであることがいちばんなので、「この子のために」と自分が好きでもないことを無理して実践するよりも、自分の好きなことをしているほうがいいと思います。その一方で、常にハッピーである必要もありません。妊娠中のお母さんだって、感情の振れ幅があって当然です。「これをしたほうがいい」「これはしないほうがいい」といった情報にふりまわされて、赤ちゃんよりも大人のほうが精神的に参ってしまうこともあります。黙っていても赤ちゃんはお母さんから栄養をとっていきますし、外部の音からも守られた環境にいます。心配しすぎずに、お母さん自身が毎日を楽しめるといいですね。

お話・監修/針生悦子先生 取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部

声かけの言葉が赤ちゃんに届きにくいと聞いて、少しガッカリしたママ・パパもいるかもしれません。しかし生まれてすぐの赤ちゃんが、ほかの人の声よりもお母さんの声を好むという研究結果もあるそうです。ホッとする話ですね。スマートフォンで情報が簡単に手に入る時代になり、ママは「あれもこれもしなきゃ」となりがちですが、正しい情報ばかりとは限らないし、正しくてもすべての方法を取り入れることはできません。赤ちゃんへの声かけも、自分にとって楽しいことなら、効果がどれほどかと深く考える必要はないのかもしれません。


針生悦子先生(はりゅうえつこ)
(東京大学大学院教育学研究科教授)
Profile
専門は発達心理学、認知科学。子どもの言語獲得をテーマとした書籍や論文を執筆している。

参考文献/『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(針生悦子著・中公新書クラレ)

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