【コロナ】川崎病は「もともと人種の違いが出る」病気、あまり心配しないでと専門医
欧米で新型コロナウイルスに感染した子どもに、川崎病に似た症状が現れた例が報告されました。そのため、「子どもは呼吸器症状以外の症状も出るの?」と不安を感じているママ・パパは多いと思います。「ひよこクラブ」では、多くの子どもの川崎病の治療を行ってきた東京都立小児総合医療センター副院長の三浦大先生に、新型コロナウイルスの感染によって現れる循環器系症状について、2020年6月7日時点でわかっていること、気をつけたいことを聞きました。
子どもが新型コロナに感染しても、循環器症状はあまり心配しないで
――新型コロナウイルスは、飛沫感染や接触感染によってのどなどの粘膜に付着し、発熱、せき、肺炎といった呼吸器症状が出ると理解していました。症状はそれだけではないのでしょうか。
三浦先生(以下敬称略) たしかに呼吸器症状がいちばん多いのですが、実はそれ以外にもさまざまな症状が報告されています。
欧米では、全身の血管に炎症が起こる循環器系疾患の川崎病に似た症状が、子どもに多数報告されており、発熱、発疹、目の充血、腹痛、嘔吐などが見られています。川崎病の重症タイプの「川崎病ショック症候群(KDSS)」かもしれません。
ただし、日本で新型コロナウイルスに感染した子どもはいずれも軽症です。日本川崎病学会の調査によると、今年2月~4月に川崎病に似た重症例や、新型コロナウイルスの感染と川崎病の合併例は報告されていません。
お子さんが新型コロナウイルスに感染したとき、循環器症状が出る可能性はないとは言い切れませんが、川崎病との合併を過剰に心配する必要はなさそうです。
ウイルスへの過剰な免疫反応が血管にダメージを与える!?
――子どもが新型コロナウイルスに感染したとき、川崎病を合併する可能性は低そうで安心しました。大人の場合はどうでしょうか。
三浦 大人に関しては、呼吸器症状以外に、血栓症(脳梗塞、心筋梗塞、肺血栓など)、肝臓・腎臓障害といった循環器系の症状が報告されています。
イタリアの研究チームの報告では、入院患者362人のうち7.7%が血栓で血管が詰まる病気を発症していたそうです。
国内でも、基礎疾患のない50代男性患者に肺血栓ができた例が報告されていますが、患者全体に占める割合は不明です。
――新型コロナウイルスに感染することで、川崎病のような症状や血栓症といった血管にかかわる病気を合併する理由はわかっていますか。
三浦 現時点では不明です。でも、新型コロナウイルスと闘うために免疫系が活発になりすぎて、過剰な免疫反応を起こした「サイトカインストーム」が、血管にダメージを与え、血管にかかわる病気を併発するのではないかと指摘されています。
――新型コロナウイルスのニュースなどで、「サイトカインストーム」という単語を聞くことが増えました。どのようなものですか。
三浦 「サイトカイン」は感染症などにかかったとき、血管内皮細胞(血管の内側を覆う細胞)などの細胞から分泌されるたんぱく質で、ウイルス・細菌などから体を守る役割があります。
本来は体にいい働きをするものですが、ウイルスなどへの反応が激しすぎて、「炎症性サイトカイン」が血液中に放出されると、強い炎症反応が起こり、いろいろな臓器に大きなダメージを与えることになります。この状態が「サイトカインストーム」です。
――サイトカインストームによって重症化する人と、そうでない人がいるということですね。その違いはどこにあるのでしょうか。
三浦 感染の程度、人種、年齢、基礎疾患の有無などいろいろな原因が考えられますが、詳細は不明です。
子どもに関しては、5才未満のアジア人は典型的な川崎病になりやすいけれど、KDSSは少ない。5才以上の白人は典型的な川崎病になりにくいけれど、KDSSは多い、ということは確認されています。この傾向は,新型コロナウイルスのパンデミック以前から現れています。
本来はその病気にかかりにくいはずの人が、かかってしまうと重症化しやすいのです。私はこの現象を、“高い堤防を越えて起こる洪水ほど災害が激しい”という持論で説明しています。人種の相違は今なおミステリーが多いんですよ。
――新型コロナウイルスと血管にかかわる病気との関係がわからない今、どのようなことに気をつければいいでしょうか。
三浦 親子ともに健康的な生活を送って、丈夫な体を作るしかないと思います。規則正しい生活、バランスのいい食事、適度な運動を心がけてください。お子さんは予防接種をスケジュール通り受け、ほかの感染症にかからないようにすることも重要です。
万一、お子さんが新型コロナウイルスに感染した場合は,発症中はもちろん、回復期にも川崎病の症状に注意してください。
①発熱、②体に赤い発疹ができる(BCG接種部の発赤を含む)、③唇が赤くなり、舌がいちご状にブツブツになる、④白目が充血する、⑤手足が赤く腫れ、解熱後に指先の皮がむける、⑥首のリンパ節が腫れる。この6つが川崎病の特徴的な症状です。
「回復期にも」が重要です。数カ月間程度はお子さんの様子をよく観察し、症状が見られたら、すぐに受診してください。川崎病は早期に治療を行えば、後遺症が残るのを抑えることが可能です。
お話・監修/三浦大先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
新型コロナウイルスはまだまだわかっていないことが多いです。そのため何かと
心配になりますが、子どもの様子の変化に気づけるのはいつも身近にいるママや
パパです。子どもが発熱したときなどは適切な対応ができるように心がけましょう。
三浦 大先生
Profile
東京都立小児総合医療センター副院長 専門分野は先天性疾患、川崎病。川崎病の診断・治療・予後の注意点、発見のエピソードを巡る小説など、川崎病のすべてを一般の方にわかりやすく解説した著書『川崎病 増え続ける謎の小児疾患』(弘文堂)が好評。