コロナ禍の親のストレスを子どもに伝えないために、対話と共感を【専門医】
コロナ禍における生活の変化は、子どもだけでなく、大人にも大きな不安やストレスを与えています。その不安が、子どもに伝わってしまっているのではないかと心配になることもあるかもしれません。
実際子どもたちは、親の不安やストレスを敏感に感じ取っているようです。感染防止と日常生活を両立させ、子どもに悪影響を与えないために、親自身はどんなことに気をつけるべきでしょうか。国立成育医療研究センター 心の診療部 診療部長の田中恭子先生に聞きました。
子どもは親の不安やストレスを、五感で「取り込む」ことも
田中先生によると、2歳以下の小さな子どもでも、親が抱える不安やストレスを感じ取り、それが子どもにも影響することもあるそうです。
「子どもが社会的な現象を理解できるようになるのは3歳から4歳ごろといわれます。一方、それ以前の0歳から2歳ごろまでは、一番の愛着対象である両親から心理的な『取り込み』が行われています。目や耳などを使って、五感で親の感情を感じ取っているのです。そのときに親の過度な不安やストレスを子どもが感じ取り、子ども自身へのストレスとして投影され、ミルクを飲まない、ものすごく泣きじゃくって癇癪(かんしゃく)を起こす、なかなか寝ない、落ち着きがなくなるといった、身体面での症状が現れることがあります」(田中先生)
こういったことを回避するには、親子の適切なコミュニケーションが欠かせません。やわらかな表情や声かけ、スキンシップなどを増やせば、取り込みがプラスに働くことが期待できるでしょう。
ただ、多くの保育園・幼稚園などでは、大人がマスクをしながら対応しています。顔が半分隠れてしまう分、子どもに表情で伝えられることも少なくなってしまいますが、影響はないのでしょうか。
「マスクで全体の表情を見せられなくても、アイコンタクトはできます。また、子どもは耳や肌でも感じ取っていることも多いので、大人のほうからより抑揚のある声で言葉をかけるなど、工夫をするといいと思います」(田中先生)
一貫性のある対応で安心感を生み出す
言葉を話せるようになってからも、子どもは大人の言動や行動をよく見ています。注意したいのは、一貫性のない対応。これにより子どもに混乱が生じ、ストレスや不安が生じてしまうことがあるのだそうです。では「一貫性のない対応」とは、どんな対応をいうのでしょうか?
「子どもなりに頑張って、ママやパパのお手伝いをしたとします。同じことをして、前にすごくほめられたこともあるのに、今回はなぜかすごく怒られてしまった。そういったことがあると、子どもはとても混乱してしまうので注意が必要です」(田中先生)
しかしそういった一貫性のなさは、本人は気づきにくいもの。一貫性を保つには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
「夫婦で育児の方向性をある程度一致させてみてはどうでしょうか。たとえば『これはダメ』という基準を夫婦で決めておき、しつけに関して一貫性のある対応ができるように話し合っておくのです」(田中先生)
夫婦で基準を決めておけば、互いにチェック機能を働かせることもできそうです。ただ、どんなに気をつけていても、突発的に一貫性のない言動や行動をしてしまうこともあるはず。そんな場合は、どう対処すべきでしょうか。
「もちろん親も人間ですので、だれでも感情的になることはあります。自分が感情的に怒ってしまっても、自身を責めずに、『さっきはイライラしてごめんね』などと、自分なりの解釈を子どもと共有するといいと思います。親自身が『それなりにうまくやれているよね』という肯定的な育児感を持つことは、とても大事です」(田中先生)
お話・監修/田中恭子先生 取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部
子どもの不安やストレスをコントロールするには、まずは親自身の不安やストレスをコントロールしていく必要がありそうです。でもそれは、一人ではなかなか難しいこと。夫婦で話し合ったり、子どもの話を聞いたりしながら、コントロールできることを増やしていきましょう。
田中恭子(たなかきょうこ)先生
Profile
医師。国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部児童・思春期リエゾン診療科診療部長。小児科学会専門医、子どものこころ専門医、日本臨床心理士、英国ホスピタルスペシャリストなど国内外のさまざまな資格を持つ。専門はコンサルテーション・リエゾン、小児心身症、発達心理学。
参考/国立成育医療研究センター「コロナ×こども本部」