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「どんな子でも見捨てなかった父」を心に、児童養護施設の問題に立ち向かう

チャイボラ設立後初めてのイベントで仲間たちと(写真提供:大山さん)

児童養護施設に暮らすこどもたちの大半は、虐待が原因で保護されていることをご存じでしょうか? 厚生労働省の発表によれば、平成30年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は約16万件。そのうちの約4万5,000人の子どもが児童養護施設や里親の元で暮らしています。児童養護施設では、約2歳から18歳までのさまざまな家庭環境で育った子どもたちが生活しています。虐待を受けて育った彼らが他人への信頼を取り戻すためには、特定の養育者、つまり施設職員による一貫した関わりが必要です。そのために必要なのは、職員の確保と定着。そのことに気づいた大山遥さんは、それまで働いていた企業を辞め、NPO法人「チャイボラ」を立ち上げました。

第2回では、大山さんが安定した職を投げ打ってまでこの活動に飛び込んだ理由、活動を続けるうえで大切にしていることなどを聞きました。

施設職員の窮状を知った1週間後、辞表を提出

現在私は、NPO「チャイボラ」の代表理事であると同時に、児童養護施設で職員としても働いています。

私は、前職であるベネッセコーポレーションでは、「こどもちゃれんじ」の担当でした。教材をもっと有効利用するためにできることはないかと考えたときに、知人が児童養護施設で働いていたことを思い出して、連絡を取ってみたんです。そのときの私は、児童養護施設にどんな子どもたちがいるのかよく理解できていなくて、「進研ゼミの教材を寄付したら喜ばれるだろう」と思い込んでいました。しかし、実際には喜ばれるどころか、全く逆の反応で強い衝撃を受けました。

知人が働く児童養護施設では、育児放棄による重度ネグレクト環境で育ちトイレで用を足す習慣もない子が入ってきても、職員ひとりが8人もの子どもの世話をする環境にあるというのです。言葉を選ばなければ、その辺でうんこやおしっこをしている子。大便を粘土だと思って遊んでいる幼児。殴り合いの喧嘩をしている中高生。「こんな場所で学びが存在できると思う? 欲しいのは物じゃなくて人」。彼女はそう言いました。

同じ子どもに関する仕事に就いている自分が何も知らなかったことに大きなショックを受けて、「まずは私にできることをしたい」と、その1週間後には辞表を提出しました。児童養護施設の切羽詰まった状況を知ってしまった以上、私には動かない理由はありませんでした。人生は一度きりですから。

就活生が検索しても探せない児童養護施設の情報

懸命に子どものたちのために働く児童養護施設の職員さんたち。オンライン施設見学会では画面越しの就活中の学生さんたちにその思いを語りました。

会社を辞めてからは、昼間は児童養護施設でのアルバイト、夜は保育士の専門学校に通うという生活が始まりました。

最初の社会的養護の授業のなかで、「児童養護施設について知っている人?」と質問されたとき、その質問に手を挙げたのはわずか4人。まして説明できる人となると……。ひとりもいませんでした。

しかし、担当の先生が元児童養護施設職員だったこともあり、半年もすると、クラスの1/3、11人の学生が社会的養護施設に就職したいと思うようになりました。しかし最終的にその11人のうち、社会的養護施設の一つである児童養護施設に就職したのは私ひとりでした。

一度はこの業界で働きたいと言っていた10人がなぜ別の道に進んでしまったのか知りたくて、150人以上の学生にヒアリングしました。そこで見えたのは、「施設に広報費、手段がないことによる情報発信不足」ということ。昨今、就職先をオンラインで検索するなんて当たり前のことです。でも、いくら探しても出てこない。だってホームページ自体がないのですから。あったとしても「いつの時代?」という代物でした。

今どきの学生が、大学の掲示板に貼ってある渋いポスターやFAXだけの受付で、エントリーすると思いますか? 興味のある学生が、どこにどんな施設があるかわからないし、やっとホームページを見つけても最終更新が1年半前。それでは、施設が学生たちと接点をもてないのは当たり前です。施設に聞くと、毎年4、5人を採用できればということなので、情報発信を工夫すれば、興味のある学生たちとつなげるかもしれないと、クラスメートと一緒にサークル活動を始めました。

人を集めるため、施設見学会を企画

チャイボラの活動の一つに施設見学会のコンサル、企画があります。(画像提供:大山さん)

当初は実習先にお願いして、施設への就職に興味のある学生と施設の子どもたちが一緒に遊べるイベントを実施することから始めました。施設の内部に入ることでより施設を知ることができますから。10人弱から始まったこの活動は、半年で、30、40人とエントリーが増えていきました。ちょうどそのころに、東京都社会福祉協議会の児童部会人材対策委員会との連携が始まり、施設見学会の企画、運営や研修会などに関わるようになりました。

この業界のエントリーは、興味がある学生が施設に電話するというスタイルでしたから、学生にとってはかなりハードルが高かったと思います。私たちが初めて自立援助ホームの見学会を企画をしたときは、1日で40人の学生を呼ぶことを約束しました。実際に参加してくれた学生は36人でしたが、やり方次第では人を集められるということをわかってもらって、それ以降、見学会のコンサルティングの依頼が増えていきました。それから1年、2018年6月25日にNPO法人「チャイボラ」としての活動がスタートしました。

一昨年末にはクラウドファンディングで資金を集めて、社会的養護総合情報サイト「チャボナビ」を立ち上げました。「チャボナビ」には、現在、東京都の2/3以上の児童養護施設が掲載されています。

これまで何回泣いたかわからないし、つらいことも悲しいこともあったけれど、それよりどうやったら施設に信頼してもらえるようになるかという気持ちの方が強かったし、そもそも私自身は切り替えが早い方ですから(笑)。でも、今はもうやりがいしかありませんね。

どんな子でも見捨てなかった父の背中を追いかける

児童養護施設に関心のある学生と児童との交流イベント(写真提供:大山さん)

亡くなった父は、私が生まれる前から塾を経営していました。他の塾で断られたような、今でいう発達障がいや知的障がいの子も断ることなく受け入れていました。

父のところに来ていたある男の子の話です。いわゆる高学歴のご両親はその子に学習障がいがあることを認められず、「勉強ができない」と手をあげることがたびたびあったそうです。その子になんらかの障がいがあると感じていた父は、自ら病院に連れていき、その結果、彼に知的障がいがあることがわかりました。それまで「自分たちの育て方が悪い」「子どもの努力が足りない」と思っていたご両親は、診断書を見て初めて子どもの障がいを理解して、それからは手をあげなくなったと聞いています。

父はどんな子も決して見捨てませんでした。親とうまくいかなくてうちにずっと住んでいるような子もいたし、暴走族と喧嘩をして捕まった子を警察に迎えに行ったり、月謝の払えない子を無償で見たり……。私はそういう父の姿を生まれたときからずっと見ていたため、知らず知らずにその影響を受けていたかもしれません。高3まで無償で父が見続けた男の子が今では会社を経営するようになって、「あのとき大山先生がいなかったら、今の僕はいないよ」と、クラウドファンディングにも協力してくれました。

自分の子育てに自信をもてないのは、子どもへの愛情があるから

育児をするなかで、仮に「子育てに疲れた」「子育て向いてないんじゃないか」「子どもとの関わりが間違っているんじゃないか」「虐待の一歩手前にいるんじゃないか」など、そんな思いがあったとしても、そう思えるということは、子どもに対する愛情が強いからこそ生まれてくる感情だと私は思っています。だからそういう不安を感じたときは、それだけ自分が子どもに対して愛情をもっていると自信をもってほしいです。

<大山遥さんプロフィール>
1985/5 新潟県上越市生まれ
2005/4 東京海洋大学海洋科学部海洋生物資源学科入学
2009/4 (株)ベネッセコーポレーション こどもちゃれんじマーケティング部入社
2016/1 (株)ベネッセコーポレーション こどもちゃれんじマーケティング部退職 
2016/4 日本児童教育専門学校入学
2016/5 都内児童養護施設にてアルバイトとして勤務開始      
2017/2 専門学校のクラスメイトと共に、任意団体チャイボラ設立
2017/6 児童養護施設 エスオーエスこどもの村で学生と施設を繋ぐイベントをスタート
2017/8 東京都社会福祉協議会児童部会人材対策委員会との連携スタート
2018/6 NPO法人 チャイボラ設立

取材・文 米谷美恵

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