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NICUを卒業しても続く不安を乗り越え、「体は小さいけれど、生きようとする力はとても強い」【小さく生まれた赤ちゃん体験談】

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小さく生まれた赤ちゃんは、家庭で過ごせるくらいになったらNICUを卒業。ママやパパとの生活が始まります。NICUを退院してからも「ほかの子と比べてまだまだ小さい」「ちゃんと追いついていけるのだろうか?」と悩みや気がかりはつきないと言います。
1458gで長男雄崇(ゆたか)くんを出産した江口玉恵さんと、三女紡(つむぎ)ちゃんを588gで出産した小松彩さんに、NICUを退院してからあとのことについて聞きました。

(江口さんと小松さんが作ったサークル「pian piano」でピクニックに行ったときのワンシーン)

初めて「ママ」と言ってくれた日のことは忘れません(小松さん)

1才10カ月ごろの紡ちゃん。「ママ」と呼んでくれるようになったころ。

――NICUを退院してからの生活で、いちばん心配だったのはどんなことでしたか。

江口さん(以下、敬称略) 初めての子育てだったので、何もかもが心配と不安の連続でした。肺が弱く、呼吸がぜーぜーしがちだったので、風邪をひかせないようにすごく気をつけました。
また、すべてがゆっくりペースだったので、離乳食を始める時期も悩みました。出産した病院の先生に相談し、修正月齢に合わせて、ゆっくり進めることにしました。
どんなことも息子のペースで進めよう、ゆっくりと大きくなるのを見守ろうと思っていましたが、お散歩のときなどに通りすがりの人から「生まれたばかりですか?」などと声をかけられると、「うちの子はやっぱり小さいんだな」と落ち込みました。声をかけてきた人に悪気はないことはわかっているんですが……。
反対に「ママも赤ちゃんも頑張ってるね」などと言われると、認められた気がしてうれしくなりました。

小松さん(以下、敬称略) 肺が未熟な状態だったので、退院後も在宅酸素が必要でした。肺が弱いせいか、泣いても声が小さいんですよ。小さい声で泣く姿を見るのが切なかったですね。
肺の機能を補うことにエネルギーを使ってしまうので、体重がなかなか増えないのがいちばんの悩みでした。1才を過ぎて免疫力が落ちたのか、肺炎になってしまい入院したこともあります。

上2人のときは育児雑誌や育児書を読んでいましたが、紡のときは読みませんでしたし、読めませんでした。書いてあることが参考にならないので、読んでもしかたがないかなと思ったし、読むと疎外感を感じてしまうし…。

酸素なしでもOKになったのは1才3カ月のとき。肺が成熟したこともあり、少しずつですが体重の増えもよくなってきて、少し安心できました。
言葉の発達がゆっくりめなのも気がかりでした。1才10カ月のときにやっと「ママ」と呼んでくれて…めちゃめちゃうれしかったです。

幼稚園に入ってからできることがぐんぐん増えていきました(江口さん)

幼稚園最後の日の雄崇くん。すっかりお兄ちゃんらしくなり、登園時は1才6カ月違いの妹、実凜(みのり)ちゃんの手をつないでくれました

――雄崇くんは3才のとき幼稚園の年少クラスに入園、紡ちゃんは1才6カ月のとき保育園に入園されたそうですが、集団生活に入るにあたって心配なことはありましたか。

江口 息子なりに大きくなっているとはいえ、同学年のお友だちの中では小さいし、すべてがゆっくりペースなので、園生活になじめるか心配でした。でも、入園当初から楽しそうに通っていたし、先生も「雄崇くんのペースでいいんですよ。大丈夫ですよ」と言ってくれたので、安心して毎日送り出していました。
まわりのお友だちに刺激されるのか、幼稚園に入ってからできることが急速に増えた気がします。運動会やお遊戯会では、お友だちと同じように走ったり踊ったりする姿を見て「こんなに大きくなったんだ」とうれしくてたまらなかったです。

小松 私は仕事をしているので、1才6カ月のとき保育園に入れました。当時まだミルクを飲んでいたのですが、保育園の先生方が娘のペースに合わせてお世話をしてくれたのでとても助かりました。
上の2人の娘も通った保育園で、通いなれた保育園だったせいもあるのですが、親以外に娘を見守ってくれる人がいると思うととても安心できました。娘も保育園が大好きで、毎日元気に通っています。

同じ境遇のママと話せる場がほしくて、小松さんとサークルを発足(江口さん)

――江口さんと小松さんは小さく生まれた赤ちゃんと家族のサークルを作られたそうですね。どのような経緯でサークルを発足したのですか。

江口 私も小松さんも佐賀県在住で、佐賀県には小さく生まれた赤ちゃんの親子サークルがありませんでした。国際母子手帳委員会事務局長の板東あけみさんが企画された「リトルベビーのお話会」に参加したとき、板東さんとお話しすることができ、「佐賀県にもサークルを作ったらどう?」と提案されたのがきっかけです。小松さんも「お話会」に参加していて、「一緒に作ろうか」ということになりました。
サークルの名前は「pian piano(ピアンピアーノ)」。イタリア語で「ゆっくりゆっくり」という意味です。「ゆっくり大きくなあれ」という願いを込め、2019年10月14日に発足しました

小松 ママだけでなく、パパやおばあちゃんが参加することもあります。また、佐賀県内の人だけでなく、県外から参加されている人もいます。
新型コロナウイルスの影響で、LINEやオンラインで近況報告をするのが現在の主な活動ですが、2020年11月には、みんなでピクニックをする「ひなたぼっこ会」を企画しました。初めての野外活動です。子どもたちがとても楽しそうだったし、ママたちにもいい息抜きの時間になったので、コロナの状況を見つつ、外でのイベントも行いたいと考えています。

――同じような境遇のママとつながることで、ママの気持ちはどのように変わりますか。

江口 小さく生まれた赤ちゃんを持つママは、子育て支援センターなど多くの赤ちゃんが集まる場に行くと、体つきや発達などをいろいろ比べてしまい、つらくなってしまうことがあります。でも、同じような境遇のママやお子さん集まる場だと、「ゆっくり大きくなればいいんだ」と感じられて、育児に前向きになれると思います。小さく生まれた赤ちゃんと家族のサークルに参加することは、ママにも子どもにもとてもメリットがあると思います。

小松 小さく生まれた赤ちゃんのママは、どうしても自分を責めがち。その気持ちに共感できて、「でもママは悪くないよ!」と言ってあげられるのは、同じ体験をしたママだからこそ。さらに、お互いの子どもの成長を喜び合い、一緒に大きくなっていける仲間がいると、「子育てって楽しい」と感じられます。

――お二人は、佐賀県の「リトルベビーハンドブック(※)」の立ち上げにもかかわっているとか。

江口 「リトルベビーハンドブック」の普及活動をされている板東さんが一緒に動いてくださって、佐賀県庁にリトルベビーハンドブック作成の要望を出しました。県庁が賛同してくれ、今年4月から配布されることになりました。

小松 これから小さく生まれた赤ちゃんを育てていくママに、多少でもエールになればと思い、先輩ママとして、江口さんと一緒に巻頭にメッセージを書かせていただきました。

――小さく生まれた赤ちゃんを育てる先輩ママとして、この記事を読んでいるママにメッセージをお願いします。

江口 小さく生まれた赤ちゃんはゆっくりゆっくり大きくなっていくので、正期産(せいきさん)で生まれていたら「できて当たり前」とスルーしていたかもしれないような小さな変化や成長も、一つ一つが大きな喜びになります。大変なことや心配なことももちろん多いけれど、その分、喜びもたくさん感じられると思っています。子どもがゆっくり大きくなるように、ママもゆっくりママになっていけばいいんじゃないかなと思います。

小松 小さく生まれた赤ちゃんは、体は小さいけれど、生きようとする力はとても強く、その力をもらってママも強くなっていけるような気がしています。頑張って大きくなっていることが日々わかるから、笑顔を見るだけで気持ちが前向きになれます。そんな存在がいることは、とても幸せなことだと思います。

お話/江口玉恵さん、小松彩さん 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部

NICUを退院してからの生活も、不安や心配もたくさんあったようですが、2人のママたちとその家族は小さく生まれた赤ちゃんの生きる力を信じ、寄り添って育ててきました。江口さんも小松さんも声をそろえて「つながることの大切さ」を言います。小さく生まれた赤ちゃんのママやパパの不安が少しでも減るように、さまざまな支援が増えていくことを願っています。


江口玉恵さん(39才)
雄崇(ゆたか)くんを、2012年2月9日に33週1458gで出産。現在9才の雄崇くんは身長125㎝・体重22㎏ぐらいに成長。車や新幹線が大好きな小学3年生。


小松彩さん(39才)
紡(つむぎ)ちゃんを2018年11月1日に26週1日588gで出産。現在2才3カ月の紡ちゃんは身長81㎝・体重9㎏ぐらいに成長。アンパンマンが大好きです。



※1500g以下で生まれた赤ちゃんの家庭向けの、母子健康手帳のサブブック。県や市が独自に発行するもので、現在、静岡県、名古屋市(愛知県)、川口市(埼玉県)、福岡県、岐阜県、印西市(千葉県)、苫小牧市(北海道)で配布されており、佐賀県は4月から配布予定。また、広島県ほか複数の自治体が作成中で、2021年度に配布される予定です。

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