小さく生まれた赤ちゃんのママの気持ちに寄り添った、リトルベビーハンドブックって?
1500g以下で生まれた赤ちゃんのママやパパに、母子健康手帳のサブブックとして使ってほしいと考えて作られた、「リトルベビーハンドブック」というものを知っていますか。県や市が独自に作成しているものですが、配布する県や市が少しずつ増えてきています。リトルベビーハンドブックの広がりを支援している、国際母子手帳委員会事務局長の板東あけみさんに話を聞きました。
母子健康手帳の質問に「いいえ」しか書けず落ち込んでしまうママが多い
厚生労働省の人口動態統計によると、2018年に生まれた赤ちゃんは91万8400人。そのうち、生まれたときの体重が2500g未満の赤ちゃんは8万6269人(9.4%)、1500g未満の赤ちゃんは6742人(0.7%)でした。この割合はここ数年だいたい同じくらいです。医療が進歩したことで、小さな赤ちゃんも、無事に生まれ、育つようになってきています。
でも、「小さく生まれた赤ちゃんのママやパパは不安の連続で、母子健康手帳に赤ちゃんのことを記入する場面でもつらい思いをすることが多い」と板東さんは言います。
――母子健康手帳は赤ちゃんの発育・発達などを記録する大切なものですが、小さく生まれた赤ちゃんのことには、あまり配慮されていないということでしょうか。
板東さん(以下、敬称略) NICUでたくさんのチューブにつながれたわが子を見ているママやパパは、「こんな小さなわが子を育てていけるのか…」と不安でいっぱいになっています。とくにママは、「小さく生まれたのは私のせい…」と自分を責めがちです。そして、その後何年間も赤ちゃんの身長・体重の増加や、ちょっとした変化に一喜一憂してしまうものです。
しかも、母子健康手帳に記載されている発育曲線は体重が1㎏、身長が40㎝から始まっているので、それより小さい赤ちゃんは記入する目盛りがありません。そんなグラフを見て、「うちの子は国から認めてもらえないの?」と、落ち込んでしまうママやパパがおられます。
また、月齢ごとの発達に対する質問は、「はい」「いいえ」で記入する形式のため、修正月齢で考えても「いいえ」になることもあり、記録することで、心配になってしまう人が多いのです。
「ママを元気にしたい」という思いにあふれるリトルベビーハンドブック
――母子健康手帳が対応していない部分をフォローするために、「リトルベビーハンドブック」が誕生したわけですね。最初に作ったのは、小さな赤ちゃんを持つママやパパのサークルだったとか。
板東 静岡県の小さく生まれた赤ちゃんを持つ親のサークル「ポコアポコ」が、「ママが記入したくなるハンドブックを作りたい」という思いから、2011年に「リトルベビーハンドブック」を作成されました。
当時、私は静岡県立こども病院の新生児集中管理室のドクターと知り合いで、そのご縁で、「ポコアポコ」の代表の方をご紹介いただき、「リトルベビーハンドブック」を1冊いただくことができました。静岡から京都の自宅に帰る新幹線の中で読んだのですが、人目をはばからず涙が止まりませんでした。小さく生まれた赤ちゃんを持つママのつらさに寄り添い、心を癒やすことを第一に考え、とてもていねいに作られていると感じたからです。
当事者ならではの視点が満載の「リトルベビーハンドブック」は、赤ちゃんのこまかい発達のステップを記載できるようになっていて、それがとてもやさしいフレーズで表現されています。また巻頭言やページ下には、小さく生まれた赤ちゃんを持つ先輩ママからの体験談やひと言アドバイスが書いてあります。
「何もかも前向きに明るく考えられるように強いママにしてくれたのは小さな小さな娘です」など、不安でいっぱいのママを前向きにしたいという思いが、痛いほど伝わってきました。国際母子手帳委員会は「誰一人とりのこさない」ということを大切に活動しています。だから、「このハンドブックを広めることを自分の仕事にしよう」と決めました。
――2016年に板東さんが中心になって、「静岡県庁へ県版を作るためのお願いのつどい」を企画され、2018年に県版の「しずおかリトルベビーハンドブック」が発行されました。静岡県以外の県でも、小さく生まれた赤ちゃんのためのサブブックを作る動きは広がっていますか。
板東 「しずおかリトルベビーハンドブック」の取り組みが、2018年に厚生労働大臣賞最優秀賞を受賞されました。静岡県は、2018年に日本語版の現物を、2020年に日本語訳つきの7外国語版の現物をセットで、日本のすべての県庁の担当部署に送付されました。このような行政間の協力もあって、2019年度には名古屋市、埼玉県内の川口市、2020年度には福岡県、岐阜県、千葉県内の印西市、北海道内の苫小牧市がすでに配布されています。現在、広島県、佐賀県ほか複数の自治体が作成中で、2021年度に配布される予定です。その後も作成する県や市が広がっていくと思われますし、不安を抱えながらも懸命に小さな赤ちゃんを育てておられるご家族のために、私も活動を続けていくつもりです。
「ほしい」と感じたら、自治体に要望を出してほしい
――静岡県では、日本語以外に7つの言語にも対応しているのですね。
板東 静岡県は、日本語に不慣れな外国から来られたママやパパでも安心して小さな赤ちゃんを育てられるようにと、静岡県内に住んでいる外国人が多く使う母国語を調べ、7言語(英語・スペイン語・ポルトガル語・中国語・韓国語・ベトナム語・フィリピン語)の日本語訳つきの外国語版を出されました。この7外国語版は、海外の政府機関などに、「リトルベビーハンドブック」の紹介をするときにも非常に役立っています。
――静岡県は、小さく生まれた赤ちゃんとその両親に寄り添っていることがよくわかります。静岡県以外に住んでいるママやパパから見たら、とてもうらやましいことではないでしょうか。
板東 「しずおかリトルベビーハンドブック」の日本語版と7外国語版の電子ブック版がウェブにアップされているので、県外に住んでいる人も全ページ見ることができます。名古屋市、川口市、福岡県、岐阜県のものも各サイトにデータがアップされていて全ページ閲覧できます。小さく生まれた赤ちゃんがいるママやパパで関心のある方は、ぜひごらんになってください。
そして、「こんなハンドブックがほしい」と感じたら、ぜひ担当の保健師さんにお願いをされたり、市や県に連絡を取って要望をお伝えください。静岡県は、「県や市の担当者から申請書を出していただければ、リトルベビーハンドブックの情報を無料で提供します」と言ってくださっていますよ。
一人で抱え込まず、同じ境遇のママと話をする機会を持って
――コロナ禍の今は育児相談をできる機会が減っているため、小さく生まれた赤ちゃんを持つママは、とくに不安な日々を過ごしていると思います。このような状況で前向きに育児をするには、どうすればいいでしょうか。
板東 まずはかかりつけの医師や、産前産後サポートの助産師さん、担当の保健師さんに相談にのっていただくのが第1だと思います。また、同じように小さく生まれた赤ちゃんを持つママやサークルを、子育て世代包括支援センターなどで紹介してもらったりして、オンラインであっても話をすると、気持ちがとても楽になると思います。小さな赤ちゃんを産んで育ててこられたママとは思いが共有できるし、何よりの安心材料になります。お住まいの地域やほかの地域に、小さく生まれた赤ちゃんを持つ親のサークルがないかインターネットで探したり、リトルベビーハンドブックに掲載されているサークルに連絡してみたりするのも手。今はオンラインで交流会を開催することも増えてきているので、どこに住んでいてもきっと歓迎していただけますよ。勇気を出して連絡してみてくださいね。
――リトルベビーハンドブックにわが子の成長を書き込むことでも、気持ちが上向きになるでしょうか。
板東 リトルベビーハンドブックには、赤ちゃんの小さな発見を見つけるヒントが詰まっていて、「できた喜び」をたくさん感じることができます。「この子はこんなにも成長している」と実感できれば、子育てに自信が持てるようになりますよね。
小さく生まれた赤ちゃんを育てるのは、たしかに大変なこと。不安や心配がたくさんあると思います。でもあなたはひとりぼっちではありません。まわりには支えてくれる人がたくさんいます。悩みや不安を話せる仲間を作りましょう。
そして日々成長する赤ちゃんの力を信じ、赤ちゃんと共に過ごす時間を慈しんでほしいと思います。
お話・監修/板東あけみさん 取材・文・写真/東裕美、ひよこクラブ編集部
リトルベビーハンドブックは小さく生まれた赤ちゃんとママやパパを応援するために生まれたもの。お住まいの地域で発行していない場合は、「こんなハンドブックを作ってほしい」と希望を出してみませんか。
板東あけみさん(ばんどうあけみ )
Profile
国際母子手帳委員会事務局長。29年間京都市で主に支援学級の教員を務めたあと、51歳のとき大阪大学大学院で国際協力を学ぶ。とくに母子健康手帳の認知を重視し、海外の母子健康手帳開発に協力。静岡県の小さな赤ちゃんを持つ家族の会「ポコアポコ」が作成した「リトルベビーハンドブック」に感銘を受けたことをきっかけに、各地のリトルベビーハンドブック作成のための支援を行う。
5つの自治体が制作した、「小さく生まれた赤ちゃん」用の母子健康手帳のサブブック