夫と2人で生きていこうと決めた矢先の妊娠…嬉しいはずなのになぜ?『コロナ禍妊娠日記』の著者インタビュー
エッセイ漫画で人気の漫画家&イラストレーターのおおがきなこさんは、夫と娘のリンダちゃん、愛犬のギーとマルと一緒に暮らしています。2021年にはじめての妊娠・出産を経験し、コロナ禍妊娠の不安な気持ちを等身大に綴った漫画がSNS で共感を呼び、このたびたまひよオンラインでも連載が始まりました。
インタビューの前編では、おおがさんが妊娠した直後のエピソードをお聞きしました。
■プロフィール /おおがきなこ
エッセイ漫画と挿絵を中心に活動している漫画家&イラストレーター。10/28に著書「コロナ禍妊娠日記」を発売。『今日のてんちょと。』『いとしのオカメ』『いとしのギー』『エミ34歳、休職させていただきます。』。
夫の年齢も考えて、ただただ焦っていた不妊治療時代
――子どもが欲しかったというおおがさん。不妊治療も経験したとのことですが。
おおがきなこ「30歳で結婚して、32歳ごろに『そろそろ真剣に考えたほうがいいかな?』と不妊治療を始めました。夫が私よりずっと年上なので、自分よりも夫の年齢を考えて。
なぜ子どもが欲しいと思ったのかがハッキリわかりません。母親になりたいというよりは、ただただ焦ったんだと思います。病院に通えば通うほど『またダメだった』の繰り返しでさらに焦りました。それで、1年ほどでつらくなって、不妊治療をやめてしまいました」
コロナ禍で心が疲れてしまい、ひと月お休みを取ったおおがさん
「親になるからって消えないよ」 1/6
ステイホームで“2人で暮らすこと”がとても心地よくなっていた
「親になるからって消えないよ」 2/6
妊娠検査薬を見て思わず「どうしよう、ムリだよ」と言ってしまった
「親になるからって消えないよ」 3/6
いつのまにか「子どもがいないほうが楽しい」になっていた
「親になるからって消えないよ」 4/6
幸せが壊れるかも…夫婦2人暮らしに満足していた
――不妊治療をやめて「2人で生きていこう」と思っていた矢先の妊娠判明。そのときの気持ちを教えてください。
おおがきなこ「不妊治療中は『子どもが欲しい』という具体的な気持ちより『なんでできないんだろう』という焦りのほうが断然強く、常にピリピリイライラしていました。それがつらくて、夫と『子どもがいなくても僕らの人生は楽しいよ』と話し合って治療をやめたんです。そしたらスッキリして、2人暮らしがとても幸せになったんです。気楽だし身軽だし。すっかり満足していたので、妊娠がわかった時は、その幸せが壊れる不安が大きかったです」
「妊娠しといてムリだなんて言っちゃいけない」
「親になるからって消えないよ」 5/6
マイペースでいられなくなるのが怖かったけれど…
「親になるからって消えないよ」 6/6
初めての妊娠・出産はコロナ禍でイレギュラーだらけ
――コロナ禍ではじめての妊娠、どんなことを不安に思いましたか?
おおがきなこ「やっぱりコロナの感染です。コロナ禍の影響でイレギュラーなことが多い妊婦生活でしたが、初産なので通常時と比べるような経験値はありませんでした。なので、健診が付き添い禁止なのも両親学級がないのもふつうに受け入れていましたがコロナ感染だけはずっと不安でした」
――ほとんど食べられない時もあるぐらいつわりがつらかったそうですね。どう乗り越えましたか?
おおがきなこ「何か食べなきゃ気持ち悪いのに、食べたら吐くし、食べなきゃ食べないで吐くし……。数ヶ月間ずーーっと漁船に乗せられていた感じですかね……。ずーーっと船酔い状態。気持ち悪すぎて過呼吸も繰り返しました。でも何か食べないといけないので、ポテトスナックやコンビニのサンドイッチばかり胃に詰め込んでいました。それすら受け付けなかった時期はアイスばかり食べていました。あと、ハムとチーズだけはなぜか食べられました。たまーにですが、好きなお店のスパイスカレーも口にできました! 時が過ぎるのをひたすら待つしかなかったです」
妊娠を即座に喜べない感情はきっと「ごくごく平凡な葛藤」
ーーQ.「妊娠が喜べなかった」と素直な気持ちを漫画にしようと思った理由はなんでしょうか?
おおがきなこ 「妊娠を即座に喜べないのは、きっと私だけじゃないと思ったからです。ごくごく平凡な毎日を送る自分に生まれた私の感情なんだから、これは、ごくごく平凡な葛藤のはずだと思いました。
こういう気持ちを抱いている人たちはきっといて、ただ言えないだけで、心にしまってるんじゃないかって。そして、こうあるべきのような幸せな演技を今もどこかで続けているんじゃないかって…。そういう人たちに『笑う演技をするのって孤独だよね』『でも私も同じだから漫画を通して話をしようよ』って気持ちを込めて、漫画にしました」
心の葛藤を思い切って漫画にした
「コロナ禍に妊娠・出産をするということ」
夫婦2人で生きていくことに居心地が良くなってきたタイミングで妊娠してしまい戸惑ってしまったというおおがさん。色んな人の気持ちを慮ることはもちろんとっても大切なことだけれど、自分の正直な気持ちに蓋をし続けるのはやめようとおおがさんは思い切って漫画に本音を綴りました。
インタビューを担当したライター自身もコロナ禍ではじめて妊娠・出産を経験して、子どもが生まれてくる楽しみよりも不安のほうが大きくて母親失格なのではととても悩みました。おおがさんの漫画を見たら「同じように悩んでいる人がいるんだ」「私だけじゃないんだ」と少し肩の荷が軽くなりました。
後編では、妊娠中や出産のエピソードを教えてもらいました。(文・清川優美)